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17 異世界センチメンタル

「三崎さん、自分の私本にさ~、病院で測ってもらったサイズ載ってるでしょ。あれの数字入れれば体に合ったサイズがある場所みつかるよ」

 私本には本当に個人情報なら大体なんでも入っている。便利だし鍵かかってるとはいえ、絶対落としたくないな。


 私は終電から何故かパラレルワールドの日本に異世界転移してしまった一般人。三崎みさき ひかる

 着の身着のままやってきたので、日用品を買い集めてる所。


「服はとりあえず動きやすさ優先の方が良いですね。

 向こうの世界で事務職に精通していても、こちらで仕事をするには資格も取り直しになってしまうでしょうから、資格が取れるまでは基本職をする前提の方が良いと思います」

 基本職ってお野菜収穫するお仕事ですよね?


 音山さんの助言をもとに服はジャージと運動靴を選んで着たきり雀脱出。

 いいんだ、裸一貫とはよく言ったもの、おしゃれするために俺はここから成りあがる。こっちの世界には向こうでいつも使ってた化粧品とか石鹸とかあるかな?


「ええ、パッケージや商品名が変わっている可能性はあると思います。商品開発には大抵相応の経緯がありますのでメーカーまで違うというのは考えづらいですが」

 猫本さんの助言に従って探したところ、大体みつけた。中にはパッケージが違って最初気づかなかったのもあったよ。


 あとは保存食をある程度買っておけばこっちの世界の厚い社会保障のお陰でとりあえず何日か保つはず。


「パウチの柔らか煮やフリーズドライばっかりだとシャキシャキした生野菜が恋しくなるのだよ~、何日もつかなふっふっふ」

 とか言いながら鈴木さんが自分用にネギを買っていた。納豆にかけるらしい。

 あと欲しいものは……


「あ」


 ここは向こうの世界で小さい頃から通ってたスーパー。

 憧れてたペットショップが目に入った。一人暮らしを始めていつか生活が安定したらペットを飼おうと思ってたんだ。まだまだ先は長そうだけど。


 私の視線の先に気付いたのか、鈴木さんが声をかけてくる。

「三崎さんって~猫派?犬派?」

「飼いたいと思ってたのは犬かな」


「ああ、生き物を飼うには通信検定と教習が必要なので頑張ってくださいね」

 猫本さんの助言。確かにそういうの必要だろうけど、ペットの居る生活への道は長そうだな……と、ちょっとへこむ。


 あとはこのまま帰るだけ……でも。


「少し遠回りしてもいいですか?」

「ついてってい~い?」

「ちょっと歩くだけだけど」


 そう、私の実家はどうなっているのか。建物を見つけても誰が住んでるかなんて確かめる度胸もない。でも……


 道を歩く、私の家まであと100mぐらい…50mぐらい…街並みは向こうの世界と全く変わらなかった。なくなったはずの建物すら残っている。

 表札をちょっと確認するだけでいい……表札が三反崎なら、もしかしたら幸せな生活があったのかもって思える……。


 不意に目の前で私の家に中学生ぐらいの男の子が入っていった。


「ただいまー」

「おかえりー」


 思わず玄関を見る。



 知らない人だった。


 私でもない、お父さんお母さんでもない、知らない人。よく見れば玄関の装いも、車もうちの家じゃない。よく似た家に住んでる知らない人達だ。


 顔を向けたのは一瞬で、普通に歩く、歩いてたつもりだった。

 分かってた。でもこれだけ街並みが昔のままなら、って、どこかで思ってた。


「あの……何故かはわかりませんが、こちらに来たパラレルワールドの人と同一の人物がこちらの世界で確認されたことはないんです。

 細かい歴史が変わっているらしく、似たような歴史を辿っても活躍した主要な人物が違ったりとか……早目に言うべきだったかもしれません。」


「……そうなんですね……」


 猫本さんの言葉に、切ないけど、どこか吹っ切れた気がした。ここは……私の居たのとは別の世界だ。


 そうして戻った専用高架道。

「荷物置いたらさ~もう一軒ついて来てほしいところがあるんだ~」

 鈴木さんの言葉に、このまま一人でいるのは苦しくて頷いた。


「わぁ、ふわふわちゃんですね~」

 猫本さんのコメントがかわいい。ここは様々なわんこと触れ合えるドッグカフェ。

 お値段もリーズナブルで癒される。好きな子に貢ぐこともできる。音山さんは早速ヨークシャーテリアにジャーキーをあげていた。


「ああ、ここは公営なんですよ」

 ハスキー犬に埋もれながら猫本さんが言う。……ドッグカフェを公営にするぐらいこっちの世界の人達は癒しを求めてるの?簡単にペットが飼えないからだろうか?

「いえ、昔は保健所で安楽死させられてた子たちが、自動運転車の犬カフェ、猫カフェなどでお仕事してるんです。

 このシステムが導入されてから殺処分数は0。獣医さんの働き口にもなってるんですよ」


 猫本さんの説明で理解した。ああ、そういう事か……自動運転車は便利だな……


「散歩がてら、わんわんパトロールとして警廻隊と一緒に地域のパトロールを行ったり、猫はキャットセラピーが行われたりするんですよ」

 音山さんも説明を続ける。社会の役に立ってるんだね~、いいなぁ……。


「この世界にはね~、行き場がないなんて事ないよ。絶対必要としてくれるから、大丈夫」

 鈴木さんの言葉にちょっとほろっときた私の頬を、近くに居たラブラドールの子が舐めてくれた。



「ありがとう鈴木さん。すごく楽しかった」

「そう言ってもらえてよかったよ~。また遊んでね」

 猫本さん、音山さんとも挨拶して。4人は銘々個人のベースに乗り込んでいく。

 すごく楽しかったこっちの世界の誕生日。また他の人にも同じ事が出来るといいな。


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