16 異世界地元のスーパーマーケット
私は終電で寝てたら何故か異世界に来ちゃった三崎 光。
ここはパラレルワールドの日本、横浜。店頭には文字化けしたような日本語が並んでいる。
でも病院で一か月勉強していた私には分かる!
これ、外国の人が翻訳補助語使って変な看板ができちゃったんだね……。多分適当な翻訳サイトで出てきた単語をそのまま使ったんだと思う。
異世界に来て最初に見たのがこの光景だったら、鈴木さんの言ってたように『文字化けみたいな異世界に迷い込んだ系都市伝説』を思い出して逃げ惑ってた可能性ある。
横浜は海外の人多いから日本人っぽい顔立ちでも知らない言葉喋ってる人に会う可能性、十分あり得る。
「三崎さ~ん」
「鈴木さん!」
うっかり待ち合わせの喫茶店を見逃したらしい。こじんまりとした平屋建てでテラスのあるお店だ。
猫本さんと音山さんも既に来ている。三人とも普段着でテラスに座っていた。
このお洒落な小さいカフェも自動運転車というから驚き。
「ありがとう、こっちのお店全然わからなくて」
「あはは~、私も環内のお店はすぐ移動しちゃうからほとんど分かんな~い。
何か好きな物頼んで~、三崎さんのえーとなんだろ、こっちの世界の誕生日?祝い?」
ちょっとじわっときた……誕生日とか、もう祝う歳じゃないって……
「わたし……今日が誕生日でいいや……」
「そうしてそうして~、何のお祝いか分かりづらいから~」
みんなの誕生日も一緒に祝えたらいいな……
話を聞いてて異世界日本とのカルチャーショックには慣れたつもりだったけど……街中に来てみて意外だった事もいっぱいある、例えば街を歩いてる人達。
皆あの一見ヘッドホンみたいなフルフェイスヘルメット、鎧兜をかなり普段使いしている。
ヘルメットの後頭部に植わってる髪は好きな色にできるんだって、引っかかると危ないから髪の長さはある程度制限されちゃうらしいけど、道理で街中にピンクとか緑とか奇抜な髪の色の人が多いわけだよ。
「鎧兜だけじゃありませんよ。あの人とか、中に鎧装着てます」
音山さんのコメントにえ?どこ?って思って見たけど分からなかった。
「はい、筋肉の衰えや麻痺、不随意運動、欠損などのある人でも、鎧装、つまりパワーアシストスーツを装着して歩いているんですよ。実は最近は車椅子の方が希少です」
猫本さんによると、他の人と見分けがつかない感じでその辺を歩いているらしい。
「パワードスーツ着てると走る時も疲れにくいしね~」
とは鈴木さんの言。
「パワードスーツで公道を全力疾走した場合、速度によっては取り締まりの対象になりますのでご注意ください」
とは音山さんの言だ。
そして異世界日本の意外な所その2、このお店もなんだけど、喫煙可だ。
毎月健康診断とか健康に気を遣ってるとなると、喫煙とか真っ先に叩かれそうだし、実際禁煙は推奨はされてるらしいけど、街中にはこうして普通に喫煙席がある。
この喫煙席が、でかい。
透明なカバーで座席周囲の手の届く範囲、約半径1mを覆われた座席が文字通りの喫煙席。
何て言うか……バリアー?
喫茶店の中にでかすぎる昭和のパーマの機械が設置されてるとか、そんな感じ……。座ってるおじさんの周囲が完全にドーム状の透明なカバーでガードされている……。
煙は透明なカバー内に留まり、席に付いている換気口に吸い込まれて行く。
そこでフィルターを通し、臭いや有害物質を除去して外に排気されるそうだ。
この席を利用するのに500円かかる。制限時間は2時間。
めんどくさいし目立つしお金かかるし、私が喫煙者だったらめげて禁煙しそうだな。
軽食も食べ終わるころ、鈴木さんから提案があった。
「実は専用高架道ってあんまり土地とらないからさ~、地上階はほとんど変わってなかったりするんだ。
古い建物の補強工事や修理も簡単になったし~、三崎さんの話だと数十年前までは似たような世界だったっぽいし~。三崎さんの地元に行けば知ってるお店いっぱいあるんじゃないかな」
鈴木さんの提案で、私の地元に行ってみる事にした。ここからそんなに遠くないし。
でも、私の知っている街がどれくらい違っているのか、ちょっとだけ怖い。
地元を出て一人暮らしを始めて数年。
私は昔懐かしい自分の街を近未来的な透明な巨大建造物から見下ろす、というギャップを抱えながら専用高架道から下に降りる手段を模索していた。
この階段、超急なんですけど。
「改めて見ると、専用高架道って随分高い所を走ってるんですね」
ここは専用高架道の一番下の階だが、随分高く感じる。
「地盤の強さなどにも寄りますが、基本的には地上の通行を妨げないように20mぐらいの高さをみてますね」
音山さんの返答で思いのほか高いのを思い知る。
日照の為に透明になっている専用高架道でも、人が歩くところの床は不透明だ。
あまり視界や日照が悪いと下の住民の人に怒られてしまうから本当は透明な方が良いのだが、誰だって透明な道を歩くのは怖い。スカートだとパンツ丸見えだしね。
床の素材は不透明であっても、障子のように光を通すようにして、当たった光を下に拡散する工夫がされているらしい。
「お~い三崎さ~ん。こっちだよ~」
皆は広い大きなベンチの前に居た。このベンチ、丸っこくて風よけと屋根までついている。強いて言うなら観覧車のゴンドラが道端に置いてあるような……。おしゃれなんだけど……そこに手間かけるならもっとエスカレーターをあちこちにおいて欲しかった……
「行きたいお店さ~、どこ?」
ベンチ内に入ると壁に地図が出ていた、なるほど便利かもしれないけど、ベンチに手間をかけるならエスカレーターを以下略。
「昔よく通ってたお店があるの、ここにあるかは分からないけど……あっち……」
地図の大雑把な場所を指すと。
「じゃあそこ行ってみようか~」
ばたん。
え、このベンチ、ドア閉まるの?と思う間に景色が横滑りしていく。あ、これ動くやつだ。よく見たらこのベンチのあるところ一段へこんでるもん、小型の自動運転車だこれ。
そしてそのまま、さっき見ていた超急な階段の横の、これまた急なスロープにジェットコースター宜しくフリーフォール!!
とはならなかった、カタツムリみたいにゆっくりゆっくり下っていく、これは……ジェットコースターというよりこれは……何だろ?
中のベンチを水平に保つ構造があるらしく、断崖の様な坂道なのに私たちの体はほとんど傾いていない。
帰りは急な階段上らないといけないのかなぁと思っていたら下から上がってくる同じベンチ型の移動装置とすれ違った。……そうですよね、上から降りてばっかりなわけないですよね。エスカレーター+エレベーターって感じだなぁ、これ。
エレベーターと違って複数の籠が一度に降りたり登ったりできるから混雑が少なそう……ロープウェイ、そう、ロープウェイに近いかも?超短距離のロープウェイ?自動運転車だけど。
「この籠|(?)広いですよね?」
この地元にそんなに大量に人が行き来するだろうか?
「担架や乳母車、車椅子などが乗せられる大きさになっているんです。利用者が多い場所は立ち乗り用の籠も大量に止まっている事もありますが」
そうか、担架とかが利用できるように大型の籠なんだ……そういうの考えてなかったな。
そして地上に着いた。何事もない、見慣れた街を歩き始める。
近未来から急に地元に帰ってきたような違和感を抱えながら。




