13 異世界入国審査
彼女は、ある日突然異世界の現代日本に迷い込んじゃった一般人の三反崎。
感染予防の隔離入院期間が終わって、正式に入国の手続きに入る。
私たちは病院のあるメガフロートから長い長い連絡橋を渡って本土に向かう。
遠目からは完全に未来の街。空中をびゅんびゅん車が飛び交ってるように見えるけど、あれ、透明な高架道路を自動運転車が移動してるだけなのよね。
タネ明かしされても十分に未来的な風景で好き。
「ひゃっふ~、お菓子パーティーだぜ~。あ、賞味期限切れると勿体ないからね~、食べてくれると助かる」
鈴木さんのベースにあったお菓子のお相伴にあずかりつつ警察車両と鈴木さんのベースは町に向かっていく。
この社会ではお菓子が食べきれなくてゴミになっても燃料として再生されて利用されるとはいえ、もったいないお化けの出る余地は、まだ若干あるらしい……
ものすごく見晴らしがいいここは上空100m近い、町の専用高架道の最上階付近。
そうしてついたビルではなんと、ビルの屋上に自動運転車の駐車場がある、駐車場っていうよりバスターミナルの停留所っぽい。高層ビルのてっぺんなので結構ドキドキする。
でも、東京のど真ん中だとかなり専用高架道が高い所まで来ているらしい…平均200m、東京の有名なビルのほとんどが埋まる。
あっちにはスーツを着た一団、その向こうには知らない言語で話しながら歩く家族連れっぽい人達。
国際色豊かなここは、日本の入国管理局の一施設。
私は、パトカーから降りてきたのが原因だろう、何かチラチラ見られてる……そうだよね!お巡りさん同伴って迷子か犯罪者かって感じだもんねぇぇ!迷子です!!
手続きは至ってスムーズでした。
事前に必要書類等は準備されていたらしく、窓口で音山さんに取り次いでもらうと、小部屋で説明を聞きながら書類にサラサラッと書き込んで終了。
……やっぱこの世界、現代の皮被ってるスキルツリー制異世界転移ものじゃない?入国と住民登録手続き楽勝過ぎない?冒険者ギルドの手続き並じゃない?めっちゃ助かる。
ちなみに音山さんと鈴木さんは手続きが終わるまでロビーで待っててくれている。
と、調子に乗って書いていたらよく分からない表記に当たったぞ。
「本名、三反崎 ……仮名?」
仮名の欄でかくない?本名欄の下に仮名ってある……っていうか本名のフリガナもう振ったよね?じゃあこの仮名は……何?
思わず担当者の渡瀬さんに聞いてみたら
「あだ名、ペンネーム、ハンドルネーム……本名とは別に普段名乗る名前、ですね。
勿論普段はこちらに登録する名前とは別の名前をいくら名乗っても構いませんが、怪我や事故などの時に本人照会が速くなりますので日常ではなるべくこちらの仮名を名乗っていただきたいと思います」
と、渡瀬さんが告げる衝撃の事実!
え!?もしかして、この世界の皆!普段真名隠して生きてんの!?
何でも自動運転車によって個人の行動範囲が日本全国に広がっている今、当人が悪くないケースでも何かトラブルがあったときに逆恨みで追跡されたりするとめんどくさかろう、と。本名とは別に役所や手続き、就活で使えて、何かあったらすぐに変えられる名前を登録できるそうだ。
登録された本名とは紐付けされているので、本名が必要になるのは名前を変える時とか非常事態……犯罪歴が付く時とかぐらい。
人によってはペンネームにしたり昇進祝いに名前を変えたりという事もたまにあるとの事。仮名に関してはけっこう奇抜な名前もOKで、ほいほい変えられるようだ。
「じゃあ三崎 光でいいや」
…音から灯台を連想するな…。とりあえず本名縮めて、って感じだ。最初だし適当に無難でいいよね。
私、この仮名ってやつの社会的認識に関してもよく分かってないんだよ。慣れたらそのうちふざけた名前にするかもしれない。
「では、これで登録させていただきます。
病院での計測結果から個人用の鎧兜が出来ておりますのでサイズの確認をお願いします」
あー、例のヘルメット、オーダーメイドだったんだね、そういえば頭の大きさとか必要とか言われた気がする。
異世界人は本人確認をしようにも本人の情報が少ないため、シンデレラのガラスの靴じゃないけど手続きで身体データをいくつか利用する。らしい。
例の猫本さん音山さんが被ってたヘルメット。正式名称は鎧兜。
パッと見はマネキンに着けたヘッドホンといった形。男性とも女性ともとれる長さの黒髪のかつら状態。顔面部には透明で前方に凸の曲板。
大体かつらを被せたフルフェイスヘルメットみたいな形と思ってもらえれば。
視界を妨げないような目元の広い透明なカバー。
鼻と口元はシュノーケルみたいに覆われてるように見えるけど、これ、被ったままで口元をパカッて下に開けられる。口元を覆っているパーツを首の位置まで下げられるようになっている。ご飯の時とか便利そう。
一応バイクに乗る時の安全基準に適合していて速度の速い乗り物やコンタクトスポーツの利用を想定されている、らしい。
「この口と鼻を覆う窪みには専用の吸着缶が装着できます」
ガスマスクっぽいと思ってたらガスマスクだった。
「レジンなどの有機物を扱う際や粉塵の出る作業の際、毒ガスなどが発生した際、化学兵器が使われた際は、速やかに活用してください」
毒ガスが発生した際、化学兵器が使われた際って何……?
まぁ、そういう時にも使えますって事なんだろうけど……。
耳の横のスペースには専用の機械をはめ込んで機能を拡張できるらしい。
小型のコンピューターとか通信機とか投影装置とかを組み合わせてVRゴーグルみたいな使い方とかもできるみたい。
鎧兜カメラっていう、音山さん猫本さんがオペレーターさんと通信するのとかに使ってたやつはここに入れるみたいだ。
熱中症予防や凍傷防止に冷やしたり温めたりできる機能の携帯カイロ、携帯クーラーみたいな機能もあると言われた。
万能だなこのヘルメット。
説明の途中、答えたくない質問には答えなくても構いません。という前置きの後に元の世界の事を色々聞かれた。
いや、答えちゃいけないみたいな感じはないです。むしろ元の世界の事を愚痴らせてください。
いろいろ話した感じだと、元の世界とこっちの世界とはほとんど同じ歴史をたどってる。西暦2000年あたりで大きく別れているようだ。
あと、翻訳補助語で多様な情報を手に入れやすいからだろうか?若干だけれど、こっちの世界の方が技術の発達が早い感じがする。
日本の主な出来事の年表を見せられて、何か違う事はありますか?と聞かれたが、災害とかはほとんど同じ、年表にあるのは一度は歴史とかニュースとかでみた大きな事件や災害や出来事。
まぁ事件や災害でもほとんどは正確な年月日を覚えてるわけじゃないから数年単位でずれてても分かんないんだけど。
ざーっと歴史はほとんど同じ、だと思う。
ただ、他の出来事は全て一度は聞いたことのある事件や災害だったけど、2002年の流通飢饉というのだけは名前も聞いた事が無い、多分向こうの世界では報道されてなかっただけで外国の事件とかかな?この世界、かなりグローバル化してるっぽいし。
この流通飢饉というのだけは聞いたことないですと言ったら、渡瀬さんは少し驚いた顔をして「そうですか……」と言ったきりだった。
その後も色々と親切にこちらの制度を教えてもらいつつ色んな質問を受ける。
元の世界の持ち物について。
個人情報の塊だから欲しいとは言わないけど、せめて差支えない範囲で記録させてほしいと言われたので色々実演する事になった。
スマホのほとんどの機能は使えなかったけど、カメラは実演できたしメールとか電話とかインターネットへのアクセスの操作はやってみせたりできた。当然繋がらなかったけどね。
繋がらなかったものの、ネットの画像は一部スクショ撮っててよかった。こっちにあるSNSとはだいぶ違うらしく、貴重な資料として感謝された。
あと通貨がこっちと違ったり……なので情報提供料の一部として両替してもらったりした。多分結構高額だと思う。
「というわけで、三崎 光になりました」
冒険者ギルドカード……じゃなかった個人情報カードと私本を、二人で待っていてくれた鈴木さんと音山さんに見せる。
私本、そう、最初の時に音山さんが持ってないの!?って憤慨してたやつ。
あの時、音山さんは私が私本もベースも知らないと聞いて、すわ不法入国者か、それとも何かの手違いで福祉の受けられなかった子かと随分焦っていたらしい。
オペレーターさんが説得してくれたおかげで落ち着きを取り戻して話を聞いてくれたのだそうだ。
「三崎さん、個人情報カードや私本などの利用方法の説明は受けましたか?」
音山さんにそう言われて確認する。
元の世界とは違う仕様で混乱する事もあるだろうけど、そのうち慣れるだろう。
もらったのは4つ。
個人用鎧兜。
例のヘルメットです。
個人情報カード。
市役所とかで手続きしたりするのに必要。
うん、大体冒険者のギルドカードって事でいいと思う。
私本。
仕様がめんどい携帯端末。個人情報も入っている。
個人情報の中には国家知識検定の成績とか入っててグラフ表示とか数字表示とか色々できるので、ステータスオープン!感が無いわけでもない。
しかし、現在私の個人情報は病院で測ってもらった健康状態とか身長体重、体の各サイズぐらいしかデータが無い。ちなみにチート能力は無い。
収入の確認や国家知識検定の受験、成績の確認、といった事は個人情報カードと、この私本を使う。個人情報が入ってるのでくれぐれも人には見せない事、との事。
JPキャッシュカード。
一人に一枚渡される特別なキャッシュカード。
これに紐付けされる形で、子プリカというプリペイドカードに金額を振り分ける事でお財布感覚で好きな金額を持ち歩くことができる。
ネット決済も子プリカ一本、子プリカは複数作れるので趣味に仕事にと使い分け可能。
ちなみに会社用の法人キャッシュカードと子プリカのセットもあるらしく、決算がめっちゃ楽。とのこと。
現在の日本国内の取引は現金と子プリカの半々ぐらいのようだ。
これらを落とした、無くしたといったトラブルがあったら市役所に行けば大体何とかしてもらえるらしい。
「大丈夫そうだね~。じゃあ次は~、いよいよベースもらいに行こうか」
お別れはいよいよ近づいてくる。




