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10 異世界基幹産業

 この世界の就活について教えてもらっている彼女は、現代日本人の三反崎(みそざき)

 ある日突然パラレルワールドの日本に居たのでこれから始まる生活のために社会勉強中だ。


「基幹産業は文字通り国の運営の基盤となる、食料、資材、燃料の生産を行っている業界ですね。

 地方自治体の運営する営業所では雇用政策もあって常に『基本職』を募集しています」


 この世界は植物を刈って多くの産業に使う構造上、常に雇用はある。

 基本職とはその中でも日雇い、飛び入りで業務をこなしその日のうちに賃金が支払われるという雇用形態だ。



 と、音山さんから説明を受ける。

 やっぱ農業かぁ……スローライフのイメージが強いけど、採算とるためにはめっちゃブラックにならざるを得ない時もあるって聞く。


「まぁ、そんなに心配そうな顔しなくても専門家が厳重に管理してくださってるのでほとんど虫は出ませんよ?

 日照や水やり等々を専門家が自動運転車の機能を使って、ほぼ自動化して管理してくれてますから」

 猫本さんはそう言うけど、一番大変な仕事ってその辺りじゃないんですか?

「え、じゃあどこで働くんですか?」


「はい、最初の主な仕事は『収穫』です」

「収穫は仕事場が例のコンテナだからね~。大型の作業機械入れられないし、人がアーマー着けて作業する方が早くてね」

 鈴木さんが横から解説してくれた。なるほど、メガフロートに来る前にすれ違ったコンテナ、あれが仕事場になるのか。

 あのコンテナの大きさも精々小屋ぐらいの大きさだったから、あれにコンバインで乗り入れるのはちょっと苦しいのかな……っていうか……アーマー!?


「もちろん雇用政策という側面もあると思いますが、人が作業する方が汎用性が高いという利点も大きいのだと思います。色々な作物を作っていますから。」

 音山さんの説明で色んな収穫物に合わせたロボットを作って配備するより人を雇った方が早いし雇用につながるというのは分かったけど

「……アーマーとは?」

 何かと戦うのか?


鎧装がいそうですね」

「外装?」

 何かの塗装もやるの?

「パワーアシストスーツだよ~、簡単な収穫で使うのは大体お散歩用買い物カートみたいなもんだよ」

 鈴木さんの説明によると、力を入れるところで動作を補助したり、きつい姿勢を補助して安定させたりしてくれるパワードスーツを着て仕事するらしい。

 パワーアシストスーツ、パワードスーツ、etc。とりあえず公的には鎧装って呼ぶらしいけど外装とかと紛らわしいのでパワードスーツとかの方が良く使うかも、とのこと。


「はい、植物コンテナによる農業は国が大きな指針や国内の流通、需要、供給状況などのリアルタイムデータを出し、地方自治体が管理しています。

 収穫物は食品、燃料、細塵結晶などにできますから、統計や調査などから現在需要の高いもの、近い将来高くなるであろうものを多く製造して運営費を回収しつつ収益を上げるのが最近の国家経営の流行ですね」

 国の経営って流行があるもんなのかな?


「……でも、食品の製造も国がやるとなると農家はどうなっているんでしょう……?」

 元の世界でも一部農作物の関税撤廃はかんべんしてくれみたいな話になってたじゃん、ただでさえ大変な農業家さんが国ぐるみのチート技術で殴られて失業の危機とかになってたらひどくない?って思うんだけど。

 社会制度でひどい目に遭った身としてはそれで失業者続出とか許せん。


「コンテナで製造した作物は、できるだけ一般の農作物の需要を奪わないように全て加工食品にされます。

 災害や飢饉に備え、常温で最低6か月以上の保存期限があるものに加工する事が流通させる最低条件です。

 また、普段使いできる事も条件ですが、これは普段から消費して新しく購入する事で常に新品の保存食を備蓄しておいてもらいたいからですね。

 災害時に利用しやすいように、調理が不要である事なども重要になります。

 そのため近年フリーズドライ技術や包装技術の進歩がめざましいです」


 一方、農場で過剰に生産された分、売れ残った分は全て適正価格で国が買い取りを行う。


「えーと、むしろそんな手厚くして大丈夫なんですか?」

 農業にも手厚いのは良い事だと思うけど手厚すぎない?国、破綻しない?


「大丈夫、とは作物の買い取りの事でしょうか?

 確かに国際競争力が低下して良くないという批判もありましたが、増産するほど収入が増える形になるのでその収入をもとに質の向上をはかる勤勉な事業者が多く、今のところ大きな問題にはなっておりません。

 また、買い取った作物も保存食化、細塵結晶化、燃料化のいずれかを行って市場へ流入する製品の量を調整する事になります。

 過剰供給が起これば市場の価格が不安定になってしまいますので」


 そうだったね、この世界には植物から大体何でも作れる化学チートがあるんだったね。国、心配なかった。


「酪農畜産関係も保存食化や燃料化はできるから買いとりしすぎて国が赤字、みたいな事にはなってないよ~」

 つまり、国が食品を作るとはいってもあくまで非常用備蓄、そのほとんどは専用高架道などの公共施設の建築や燃料を作るためのもので、今までの農業製品の需要を奪うような事を避けている、という事か。不幸になった農家さんは居ないんだね……よかった。

 当然、元の世界で問題になっていた食品ロスは0である。



 こっちの世界は調理師は勿論、自営業の商店も農業も漁業も林業もなんでも免許制。

 ちょっとした教習を受けて検定で一定の段位を取ったら合格になる簡単なものもあれば、いくつもの難しい研修や試験の合格が必要なものもある。


 その中で基本職は、就職条件が一番簡単。

 基本的な加減乗除の計算、翻訳補助語を使った日本語が理解できる程度の読解力、基本的な労働基準法の知識があれば就職できる。


「時給がね~、千円。出来高によってはボーナス」

 高くない?いやこっちの物価とか知らないけど。基本職というと最低賃金なのでは?

 医療費に月一万円とられるとはいえベースは水道光熱費タダっていうし、何か生きるのが楽そうな気もする。


 この植物コンテナ等に関する一連の事業は、この世界の日本のセーフティーネットである。

 簡単なお仕事にそこそこ高いお給料を払って社会を安定させるという方針らしい。

 全員仕事しなくなるんじゃないか、必要な人員が確保できなくなるんじゃないか、という懸念はあったが、概ね問題なく社会は動いている様だ。

 基本的に好きな仕事をしながらお金に不自由しないで生きられるようになっている。



「はい、国知の段位を増やせば、もっと就ける職業が増えますよ。色々試してみてくださいね」

 ……リアルスキルツリーかな?


「保険は導入されていませんが、多くの職場はトイレと更衣室を除き、常にプライバシーレベル1~3ですし、同レベルの鎧兜カメラの着用が義務付けられています。

 トラブル発生時にはそれらのトラブル時の映像を参考に公の機関で審議され、営業所の過失割合に応じて見舞手当てが出ます。何か変だとか嫌な目に遭ったという事があればすぐにご連絡ください」


 あ、聞きたいと思って忘れてたやつ。

「プライバシーレベルって何ですか?」

 説明でちょこちょこ耳にするけど聞きそびれていた単語だ。多分鎧兜カメラは音山さん、猫本さんが被ってたやつ。

「ああ、この世界で身を守るには重要な事です。分かりました。次はプライバシーレベルについてご説明しますね」


話聞いてばっかだなー。

でも、身を守る為って……物騒な……


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