28_DanceBox_05
緩勾配プリンカップ型の空間を中心との距離を保ちながら少しずつ歩く。不規則な配置の階段通路は高さを維持して真っすぐに円周上を歩かせてはくれず、螺旋経路への錯覚を招くかのようだ。空間内に点在する個々の意識はその全てが中心に向けて固定されている。「皆それを見に来ている」と黒いドレスの女性が言っていた。それが目的であるのなら不思議なことではないけれど、拭い切れない何かの正体が掴めてない。立ち込めているようでもあり、逆放射状に集まる視線と中心で舞う動き沿って流動しているようでもある。
私は声をかけられそうな人を探した。皆一様に空間の中心を見ているが、没入度合いには多少の差があるはず。座って見ている人たちの視界を遮らないように注意しながら歩いていると、また私を呼び止めてくれた人がいた。
「何してるのさ」
少し髪が長めの少年。背格好や声から、私よりも少し年下であると分かる。この空間では一番若い年代だろう。一段上の通路から私に声をかけてきた。
「ちょっと話を聞きたくて、聞けそうな人を探しているの」
「変な人だな。僕で良いかい」
もちろんと答えると少年は僅かにニヤリとした。ひとまず通路一階層分の短い階段を上って彼の近くへ行く。
「どうぞ座りなよ」と少年。彼は立ったままで良いという。私は彼より視線を下げる意味で、一言断って彼の横の椅子に座った。薄暗い空間内に控えめに浮かび上がるように黒をベースに薄いオレンジ色を申し訳程度に混ぜた色の椅子は、プラスチックではない私の知らない素材でできている。主張のない手触り。冷たさはさほど感じない。
「で、何を聞きたいの?」
少年は踊り手の方を見たまま言った。
「んー……単刀直入に聞くね、あなたはあの踊りをどう思う?」
「……まず、あれに対してどんな噂が流れてるのか知ってる?」
(「あれ」という表現も気になるけれど、)
「ううん、教えてくれる?」
「あの踊りは、あれが力尽きる瞬間が最も美しくなるんだって」
「力尽きる……?」
「死ぬまで踊り続けるのさ」
「なんだか物みたいな言い方だよね……? そうだ、あの女性の名前は何ていうのかな?」
「名前は無いよ、みんな好き勝手に呼んでる」
あれは供給源の断たれた踊りなのだと少年は言った。故に踊るためのエネルギーはいつか尽き、女性はあの場で踊りを停止する。その時その瞬間の所作全てが、踊りの最期を究極の美として昇華させる、と。
「でもね、あれはアンドロイドだという意見も、僕たちの目を騙す映像だという意見もあるんだ。まず、あれがあとどのくらい踊っていられそうかって考えながら見てみなよ」
この位置は先ほどの老人のところよりも中心から遠く、身体の動きだけを見るのに丁度良い位置だった。その身体、動き、織り成す踊りが、まだ恐れすら感じる強烈な何かを秘めていると知りながら、私はまたそれに視線を重ねた。




