26_DanceBox_03
赤と銀を基調とした装飾の大きな扉。横一文字の取っ手には木の部品が使われていたが、扉本体は金質属の芯に布調の素材を纏わせてでできていた。何らかのモチーフは読み取れないが、銀色の複雑曲線が葉の葉脈を大まかに模したように繊細に描かれている。それがこの空間へ向けたものだったのかどうかはともかく、漠然とした意匠を感じた。
扉は力を伝えたと思ってから再度かなりの体重をかけてやっと動いた。
扉の向こうには本当に扉がもう一枚あった。しかも次の扉まで少し距離があり、小さな部屋が一つできている。奥の扉は今やっと開けた大きな扉よりもかなり小さく、その横には四角いボードに目立つ文字で『入ってきたドアを閉めてからこのドアを開けること』と書かれていた。小さな部屋には他に何も無いので、ふと床の色が目に留まる。喫茶空間の床は木目調のブラウンだった。この小さな部屋の床は見ていると落ち着くような薄い青緑色をしている。壁はどちらもおなじアイボリー。何もないこの小さな部屋はささやかながら心の準備をさせるかのようだ。
押して開けた両開きの重いドアの半分をそっと閉めた。そういう造りになっているのか閉める際はそれほど力が要らない。
ぴたりと音が止まった。見た目を裏切らない高い遮音性の扉が小さな部屋をあまりにも無音にしたので、思わずつま先で床を叩き音を確かめる。
さて、と。ケイコが私を引っかけようとした方にコイン一枚を賭けていたのに、と考えているから少しは余裕があるようだ。ボードの文字を再度認識しながら奥のドアへと向かう。入ってきたドアを閉めてからこのドアを開けること。かなりお手本に近い字体だったが、よく見ると筆跡がある。手書きの文字だ。誰が書いたのだろうというところまで考えて、二枚目のドアに手をかけた。