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それは自然な流れのようでもあり、何かの使命を帯びているようでもあった。それに価値を見出した集積側と、強い感情のデータは反発することなく引き合った。
「なあシャディ―、あんたは消えたりしないよな」
「お前が消えない限り俺も消えないよ」
『無数分岐や際限の無い繰り返しによる構造の突破は、機械的な加速として基本であり初歩である。』
人の感情、思考、人格といったものを電子的に記憶することが出来たなら。電子空間はそもそも人とは比べものにならない容量を許容する。吸収起点となった集積は際限なく肥大化し、電子的には加味されない『重み』を帯びていく。
再現された人格が物語を解釈できるなら、人があるデータに対して発する反応のように、あるいはデータの重みを理解できるのかもしれない。
――手を取り合った不完全な人型同士は、似通った姿をしていた。
「何を言いたかったのか分かったというつもりも無いんだが、そいつはおそらく無意味な感情じゃないはずだ」
「……本当か?」
「ああ、俺は少なくともそう思う」
『個人意志・個人思想でそれらに抗うということが、果たして現実的か。ヒトの感覚で扱う数値において、あなたの信じる数値において。』
データは緩やかに拡大を続けているという。深層演算の中でもはや機能を失った時間という軸が実在と仮想を隔てることを諦めた内側と外側で、少しずつ重みを増していくのだ。
――自己定義に一度溺れて這い上がった。尚も水底で、初めて雨の音を聞いた。
「怖くないわけじゃないが、二人でいるなら構わないさ」
「私は最初から全然怖くないわ」
「嘘ばっかり」
「……あなたとなら怖くないわ」
『好きなものを置きなさい。ヒトでもモノでも概念でも良い。あなたの思うように、あなたの想う場所に。』
両手でそれを包むようにして“祈り”の姿勢を取る。何もかもが時代に似つかわしくない動作だと黒衣の包囲網は怪訝な顔をしていた。
――待っていて。どんな姿になっても、データだけになっても、想いだけになっても、きっと会いに行くから。
それからまたいくつもの場面空間をくぐり抜けて、何人ものヒトと機械と電子の声を聴いて、私は私自身の意識が希薄化していくことを感じた。
多くのものを持ち帰れるはず? 私が前へ進むと決めた理由は何だっけ。
最終防衛ラインは有難いことにタイミングを見計らって私を守ってくれたように思う。