15_SandBox_12_
「昔のプログラムの殆どは始まりと終わりがあったんだよ。」
穏やかな初老の男性は女の子にそう言って微笑んだ。
二人は小さな切り株のようなものに座っていた。気が付けばこの小さな部屋は木造であるかのように見える。
「処理が始まる。数字の1と1を足す。処理が終わる。こんな感じのことが書いてあった。」
舞台演目とはよく言ったものだね、と表情に馴染みつつある年季の皴を深める。
「終わりがあるということは、なんだか寂しいですね」
「そう、寂しいんだ。」
純粋な女の子がかつての誰かと同じ感想を持った兆しに、初老の男性は少し複雑な感情を持った。
「最初は、その足し算を何回繰り返すという形にした。「何回」の部分をいつまでも、とすることができたんだ。」
女の子は小さく頷く。聡明さの芽が見て取れる大きな澄んだ瞳で、彼の話を真剣に聞いている。
「この書式の何段階か後に現れたのが、あの無限演算だった。」
初老の男性が深緑の黒板を指差す。そこには白チョークで書かれたようにしか見えない文字と、黒板消しにしか見えない道具があった。だがすぐにその一区画が見慣れぬ図式をひとりでに描写し、この空間が遠い昔の時代を懐古再現したものであると分かる。
「記憶領域を無視できるようになった時、『 』は無限演算をいたるところにいくつも仕込んだ。」
人の名を口にしたらしき部分にノイズが入った。もう一度聞きたいが、場面空間はそれを許さない。
「終わるのが物悲しいから、と確かに彼は言ったんだ。」
女の子はゆっくりとその意味を考えてから、彼女の考えを述べるために言葉を紡ぎ始めた。
一つの命令が終わらなければ? 歩けという命令をもったものを無限に続く一本道に乗せて……。あれ? と疑問を発したのは私なのだろうか。




