ドナドナ1
「線路は続くよどこまでも〜ってな」
俺は超絶テンションバリバリMAXで、馬車の中をヘドバンしながら、はじめてのおでかけ(領土外への)を楽しんでいる。
馬車は異世界定番らしく、魔法で衝撃吸収され、室内が安定している。そのおかげでまるで超高級車の乗り心地だ。
ただ一方、不可解なことがあった。
「母さん、バーヤ、あとどれくらいで着くの?」
「・・・わからないわね」
隣に座るバーヤ、正面に座る母さん、バーヤが様子がおかしい。
無表情で外を見つめるばかりである。
こうなったら、このイケメン超絶プリティな容姿を使って聞き出すまでだ。
目を上目遣いに、袖をひっぱり、、
「バーヤ、いつもの絵本読んでよ。バーヤの声大好きなんだよ〜」
バーヤはクワッと目を見開いた。
(……これはあざとすぎたかな)
「キリア様」
バーヤがようやく笑顔を見せた。
と思いきや、彼女の右手を見ると、ピンク色の液体が入った注射器のようなものを握られていた。
正面に座るフィオナは、その分厚い鼻を大きく鳴らし、俺を睨みつける。
「いいよ、やっちまいな。信頼度98.5%、この時点でバリオート剤を打てば、固定され抵抗できなくなる」
バーヤが俺の太ももに注射器を刺し、液体を注入する。
「〜〜〜!!」
いきなりのことで反応が遅れたが、その痛みに体をよじる。
ふとその針を刺した張本人をみると、今まで見たこともない愉悦に浸る顔をしていた。
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正面に座るフィオナは、何か体から金色のオーラを出し、筋肉で体が3倍くらいになっていた。
「暴れるんじゃねえぞ、この状態のオレは何をしでかすかわからねぇ」
この世界の母親は、雰囲気も体も口調も、変わってしまったようだ。
そしてこのあと、俺は彼女から衝撃の事実を聞かされることになる。
「お、おい、なんだこれは、世界観がまる崩れじゃねぇか!! 今までののほほんとした、そしてワクワク展開はどうした!」
あまりにも急な展開に頭を抱えるが、それをあざ笑うかのように、フィオナは俺の頭を掴み、血走った眼球でぐっと顔を近づけてきた。
「キリアちゃん、今まで言っていなかったが、リンデレーネ家はケペキ国の随一の戦闘民族、最強傭兵集団なんだよ。ケペキ国だけではない、様々な戦争・紛争地帯で数々の軍功を挙げている。いきなりなんだ、という顔をしているな、我が息子よ。貴様は全て仕組れていたのだよ。全てが。
信頼度が固定された今はもう演技する必要もない。キリアちゃん、、いいや、キリア、いいや、、哀れな小汚い豚よ。お前の男という性に未練はあるか?」
色々と全てが予想より斜め上の答えに茫然自失となる。
「質問されたら答えろ!」
フィオナ(もといこの世界の俺の母親)は俺の頬を、その丸太みたいに太くなった腕で殴る。
「ゲホッ!」
バーヤはその光景を見て、体をくねらせ、はぁはぁと吐息を立てている。
「キリア様、あなたは今まで見てきた中で最低最悪のゴミクズ。あれだけ厳選に厳選を重ねた遺伝子でもこの醜態を晒すとは。5才にもなってBランクはともかく、裏庭の動物レベルしか狩れない」
「ば、バーヤ、あれだけ5才なのに魔物を狩るだけで……すごいって言ってくれたのに」
「嘘よ。本当のことを言ったら、キリア様ショックを受けますし、何よりフィオナ様が訓練するとなったら、この計画自体丸つぶれですもの」
バーヤは俺の顔に手を当てたかと思うと、指先から鋭い爪が伸び、俺の頬を掻く。
血が顎まで垂れる。
その瞬間、命の危険を感じ、太ももがガクガクと震えた。
「計画ってなんだよ、母さん、こんなのっておかしいよ……助けてよ」
「小汚い豚よ、母さんではない。オレは父さんだ」
(だめだこいつ…完全に話が通じない)
「何が何だか分からないって顔だな、それでは全てを教えてやろう」