リンデレーネ家について
俺が生まれてから1年が経った。
俺は色々な思い違いをしていたことを深く反省しなければならない。
とその前に、あれから色々とわかったこのリンデレーネ家の紹介をしようと思う。
リンデレーネ家は、この街にある貴族の家系らしい。その長男として俺は誕生した。
住んでいる西洋風の洋館は広く、俺、フィオナ、ばーやの3人暮らしでは持て余している。
父親はリンデレーネ家に婿として入ったのだが、酒・女・暴力の3点アンハッピーセットを持ち合わすどうしようもない輩だったらしい。今では考えられないが、当時の洋館には娼婦や愛人が複数人いて、街のゴロツキ達のたまり場にもなっていたらしい。
俺が生まれる丁度3ヶ月前、このような家庭環境では生まれてくる赤ちゃんを育てることはできないと、フィオナから離婚を申し出て、ゴロツキ・娼婦・愛人共々、家を追い出したそうな。
元々高名な冒険家として世間から有名な人だったらしいが、なぜそこまで落ちぶれたのかは謎である。というか、俺はまだしゃべれないという設定なので、聞けないし。
とリンデレーネ家の話はここで終わりだ。
次に先程の思い違いを説明しようかと思う。
「キリアちゃん、ご飯の時間ですよ〜。お母さんのおっぱい飲みまちゅよ〜」
優しい綺麗な声とともに抱きかかえられる。
そういえば俺は目が見えるようになった。そして、眼の前の母親を見つめる。
髪の色は黒で少し縮れている。鼻は丸く、顔が平べったく、あちこちにあるシワは年相応の苦労を感じさせる趣きである。
そう、どうみても前世の記憶にある「給食のおばちゃん」もしくは「売店のおばちゃん」である。
声と名前詐欺というのだろうか、騙されてしまった。
俺はしぶしぶ、そのたるんだ乳に口元を持っていき、食事をする。
「フィオナ様、最近、おっぱいの吸い方が元気なくなりましたね」
「まぁ、飲んでるのだし平気でしょ」
ふと、前世で死んだ母さんを思い出した。母さんもこんな顔してたっけ。
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「むかし〜むかし、あるところに」
いつもばーやは、寝る前に本を読んでくれる。
ちなみに、ばーやは決してババアではなかった。それどころか見た目年齢10, 20代のうら若き女性といえよう。
声が少しハスキーなせいで、年齢不詳だったのだ。
青みがかった綺麗な長髪。通った鼻筋。
そして、くぼみがはっきりとしたその妖艶なボディに、いつも顔を埋めながら本を聞く。
おそらく言語習得のための教育の一貫として読んでいるのだろうが、
何故か転生者特権なのか、俺はこの世界の言葉は生まれた時点でマスターしている。
ばーやは色んな本を読んでくれた。
特に興味深かったのが、この世界の冒険者の話だ。
やはりテンプレパターンというか、ギルドがあって、魔物がいて、ダンジョンがあって、それと戦う冒険者たちがいるようだ。
本になっている冒険者は、SSSランクの冒険者たちらしく、今までの歴史上10人しかいないらしい。
その中の初期の3人は「スリーゴット」と呼ばれ、偉業がすごすぎて本当かどうか怪しいとばーやは言っていた。伝説とは往々にしてそのようなものだ。