リコリス・クレールスは理解できない①
冷たい刃が喉元にあたり、そのあと耐えきれないほどの熱が私の首を奪う。
落ちていく過程で、見慣れた青が私を見ていて――私は、彼に、
「リース!」
「っ!…ここ、は、」
喉がからからに乾いていてうまく声が出ない。
私は先ほど、首を切られて死んだはずだ。なのにどうして、生きている。
「よかった、気が付いたんだね」
「お、とう、様…?」
「君が階段から落ちたと聞いたときは心臓が止まると思ったよ…エリーも、すぐにこちらに来るけど、痛いところはないかい?」
「お母様も、こちらに、?」
「一人娘が階段から落ちたんだ。当たり前じゃないか」
――一人娘。
お母様とお父様がいる。
部屋を見渡せば、そこは確かに、幼いころに過ごした私の部屋だ。そして目に入った鏡に映る私の姿。
「――時が、戻って、る?」
「?どうしたんだい、リース」
「っお父様!私は、今何歳ですか!」
「え、急にどうしたんだい、」
「教えてください!」
「何歳って…」
「私の愛娘は昨日4歳の誕生日を迎えたばかりよ」
「エリー」
「おかあ、さま、」
「ああ、リース、無事でよかったわ」
そういって私を抱きしめたお母様は、記憶の中にいるお母様と同じだった。
4歳。一人娘。8歳の時に天に召されたお母様と、お母様のいない寂しさを埋めるように私を顧みなくなったお父様。
――時が戻っている。私が散ったあの日から、10年以上も。
「どう、して、」
そうつぶやいた言葉に、答えてくれる人はいない。
久しぶりにリハビリを兼ねて書いてみました。
短い話がメインで更新も遅いかもしれませんが、どうぞお付き合いくださいますようお願いいたします。