後編①
書ききれなかった!多分後一回で終わります!
「小雪ちゃん、この辺怪しいんだよね」
「んん?」
慎吾が自宅のパソコン前で感慨深げにディスプレイを軽くノックした。
「ナニナニ?『千年を駆ける恋、ってクライマックスの関ヶ原の戦いが慶長5年9月15日(西暦 1600年10月21日)なんだから千年て設定としておかしいでしょ』。
んー、これって…よくある原作批判じゃないの?」
小雪がそう言うと、慎吾は肩越しに振り返った。
「いや、コイツ海堂南の熱烈なファンな上にね、この書き込み、ヤケにその当時の背景詳しいんだ。しかも、海堂南が千代姫(徳川家光の長女)とオーバーラップするとか書き込んでるんだ。何でアレとふわふわなアレが結びつくんだよ…」
「ふわふわ?」
「あの女、『妾が男でさえあれば、征夷大将軍の座は我がものであったのに』とか言ってたらしいじゃん」
ぽん、と手を打つ。
「おお、そう言えばあのお姫、尾張藩のやたら性欲の強い旦那に嫁いで行ったんだっけか。
気位高いクセに上手く転がされてたもんな」
「上様の叔父上の息子だったよね。側室11人作った夫に4人ものほほんと孕まされたんだから単なるバカだと思うんだけどね、僕は」
辛辣ゥ〜〜とか思ったが、当時BLにハマった上様をどうにかせねば!と一念発起した春日局が態々男装の麗人まで送り込んで作った娘だからなぁ。そりゃあやる方も貰う方も力入ってたらしいし。─────ん?何か今、引っ掛かったぞ?
「映画…お花畑…千代姫…スポンサーが上様?となるとそれを忌々しく思うのは?」
「…居るね、一人」
「しかし、あの堅物が南ちゃんのファンで脅迫の黒幕?そこまでやる?」
「堅物だからこそ、ってワケじゃない?」
ピン、ときた人物は一人居た。
どうやら慎吾も同じ考えに至ったらしく、頭を抱えている。よりにもよってあの人か!
「ちゃんと網を張らないと討ち漏らすかもね。
新と根本センセ…慎吾も手伝ってくれるでしょ?」
「正体教えてやって放っておけばいいんじゃないの?」
「─────女の子を敢えて危険に晒すは忍びない」
くるり、とパソ前の椅子を回転して、こちらを向いた慎吾は真剣な顔をしていた。
「小雪ちゃん、君は今生は兄上じゃないんだよ?ちゃんとその辺、分かってる?」
立ち上がって、ポン!と押された。後ろにはベッドがあって、小鞠系女子はいとも簡単に転がった。
「ぬお!」
「…色気の無い。女の子でしょ?小雪ちゃん」
速攻覆い被さろうとした慎吾に対抗すべく、あたしは膝を腹に寄せ、丸まろうとした!
しかし、二段腹が邪魔をして呆気なくヤツに膝頭を掴まれ脚を割られた!そして【どうぞお召し上がり下さい】のポーズに!
「あれ?」
「ほら、こんな事になる。…避妊具着けるからヤってイイ?」
「良いワケ無かろうッ‼︎」
「くそ、お説教するだけのつもりだったのに、ナニこの美味そうな据え膳」
「し、処女はマグロで美味しくないよ?」
「むしろマグロは日本人、大好物だから。僕なら骨から中落ちまで絶対無駄にしないし」
中落ち、って何処よ?
「まあ、落ち着け。そして、後ろを見ろ」
あたしの言葉に慎吾が肩越しにドアの方を一瞥すると、隙間が開いていて、樹村家のご家族が鈴生りに生えていた。まるでトーテムポールの様だ。
「慎吾、無理強いは父さん感心しないぞ?」
「小雪ちゃん、同意じゃ無いならちょん切るけど、どう?」
「兄ィ、鍵ぐらい掛けとけよ…」
「ウワアア!皆んなッ僕が小雪ちゃんラブなの知ってるでしょおッ⁉︎どうして、ここ一番って時にスルーしてくれないの!」
そんなんギャーギャー言ってる隙を突いて脱出すると、外はもう暗かった。
「ふう、何だかなぁ〜」
あー、焦った!幾ら多感なJKと言えど、一気に周囲が春めき過ぎてついていけない。
大体、この事情が特殊過ぎる。
「そこに居るんだろ?又十郎。────お前もだよ」
角の植え込みから姿を現したのは、ファッション誌のモデルもかくや、と言った根本教諭だった。
「ここまで来た、って事はそっちもそっちでアタリがついたか」
「…兄者、桜咲で撮るのは明日が最後だ。明日は休んでいて家に居て欲しい。学校側と親父殿には俺から上手く言っておく」
ペンペンペンペン!と肩幅に開いた右足を鳴らす。
「過保護か。アレが出てくるとなれば、数は多いに越した事ァ無いだろ?」
根本センセは一気に距離を詰めると、あたしをヒョイと担ぎ上げた!
「ふぬッ!」
「色気が無いにも程がある、小雪」
流石兄弟、同じ様な発言をしたかと思えば、ぶぉ、とその逞しい身体から色気を発してむっちりした両脚を抱き込みこちらの動きを封じると、何と‼︎尻と太腿を撫で回し始めたではないか!
「いやぁああッ!セクハラァ‼︎」
「はっはっは。そんな拳で背中パコパコ殴られても屁でもないぞ?あ〜むしろこっちがパコパコ突っ込みてえ。んー指二本ぐらいはここで慣らしてもいいかな?なあなあ、ぐちゃぐちゃに濡らしてから車で拉致ってイイ?明日、抱き潰して起きれなくても出席日数問題ないよな?」
「良いワケ無かろうッ‼︎そして、処女を抱き潰する前提とはこれいかに⁉︎」
げ、下品ここに極まる!
持ってた家の鍵で、エイッ、と腰痛の痛ツボを思いっきり刺せば、「はう!」と低音が響く。その先を逃さず、身体を捻って猫着地……しようとして横にコロコロ転がった。
「うむ、運動不足」
「言いたい事はそれだけか…?とにかく、前世の記憶だけで戦えるほどあの男は弱くない。
いざとなったら俺が出るからすっこんでろ。そして、そのお礼として女体盛りに使う生クリームでも用意しておけ」
モノスゴイ、セクハラ発言、飛び出した〜〜!
「ちょっと待て…誰を盛る気だ…?」
ニヤリ。凄いいい笑顔でセンセはあたしを見つめた。Σ(||゜Д゜)ヒィィィィ食われるゥ〜〜。
「そんな心配しないでも、この現代日本で貴方や佐々木達みたく、例え昔が何であろうと、今、剣を握って居る方が珍しいんですよ、先生」
土埃を払って立ち上がると、いつの間にか根本センセは中世の騎士の様に前に跪いている。
「頼む、小雪。…俺はたかが油断でもう貴女を失いたくないんだ」
あたしは先生の額にそっと…どでかいデコピンを放った!「痛ッ!」とか叫んでる。
そんな弟を背中にこちらはさっさと自宅の敷地に足を向けた。
「ねぇ、幹久さん。前世に拘っているのは一体『誰』なんでしょうね?」
それだけ言うと、さっさと玄関のドアをくぐった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
それで迎えた学校撮影最終日。
夕方から夜のシーンを撮っている最中にそれは起こった。
「─────先ずは照明の破壊か?」
バンバンバンッ!という音がしてライトが割られ、僅かなグラウンドを照らす学校照明だけが淡く辺りをボヤかした。
「もう来たか‼︎ッ何てタイミングだ!次は礫か直接狙って来るぞ⁉︎」
バシッバシィドカっ!
「い、痛いッ!何だ?」「ヒヤッ、逃げろ」「狙って来るぞ、いっコレ硬球⁉︎」
豪速球が何処からともなくスタッフ、監督、関係者、野次馬に次々と放られる!
阿鼻叫喚でパニックになった所に爆竹らしきものが弾け、火花と音で撹乱した。
「逃げろ!」「ここは危ない‼︎」と我先に逃げ出す人々の中に主要キャストが居ない。
煙の漂うグラウンドの中心に居るのは飛んで来た硬球をバトン一本で叩き落とした制服のJKだった。
「新、慎吾。南ちゃん連れて逃げて〜〜」
JKは事もあろうに主演女優を差し置いて、咄嗟に駆け寄った3人の男達に守られていた。
衝撃に痺れる腕を揉みながらそう言うと、噛み付きそうな表情の二人を改めて一瞥する。
「過去が何であれ、今の佐々木達や幹久さんの様に剣を振っちゃあいねぇだろうが、お前らは。だが、二人も居るなら誰が相手だろうと女一人守るくらい造作も無いだろ?」
「馬鹿!俺がここに居るのはお前の為で、他の女の為じゃねー!」
「そうだ!数が居るなら加勢くらい出来る!逃げるなら小雪ちゃんも連れて行く‼︎」
語気荒く叫ぶ二人にバトンをぱしん!と肩に乗せる。
「上様、但馬守柳生宗矩、柳生新陰流4世、宮本武蔵…だ。先の二人が居ない今、ここまで役者が揃うと流石に江戸柳生の俺が出なきゃ収拾がつかねぇだろう?左門」
不敵に小雪が笑った。
それは荒木又右衛門が良く知る笑みで。
「こゆ、き」
「すまんな、又右衛門。お前が方々探し回っていた男はここに居る。────今生、っ、小鞠系残念JKだッ!」
ひゅ、と飛び込んで来た木刀をバトンを盾に弾き返す。
「あっぶねぇ!」
「新、行け‼︎そして、女子を避難させたら光の速さで戻って来やがれ!慎吾も頼んだぞ‼︎」
「小雪は俺に任せとけー樫木&樹村〜〜」
数人の人影、退路を素早く見遣って、後方で南ちゃんを守りながら竹刀を振るう佐々木にアイコンタクトを送る。
宮本が走り出した慎吾達に向けて南ちゃんをぐい、と押し出した。新がサッカー仕込みの蹴りを繰り出して得物を奪い取ると、青褪めた南ちゃんを守って退避して行く。
さてと、と周りを見ればさっきの乱闘の余波か一本の木刀が落ちている。
蹴り上げて背後に「武蔵ッ!」と投げれば、
「応!」
と、応じて二刀を構える────佐々木さん。
「あれ?」
「よそ見は危ないぞ?小雪」
根本センセが一瞬ほうけたあたしのフォローをしてくれる。だが、それどころじゃない!あれれ、あの太刀筋は…。
「佐々木!─────お前が『宮本武蔵』か⁉︎」
「うん、小雪ちゃん大当たり」
二刀で戦うその背中を守るは…『宮本武蔵』ならぬ、
「そう。俺が『佐々木小次郎』さ」
素早いウインク後に瞳が剣豪の鋭さを増す。
「紛らわしいわ───────ッ‼︎」
打ち掛かってきた相手にどん!と踏み込んで「速 死 、打太刀ッ」バトンを大きく振り上げて上より強く打ちかける。
そしてその下へ左足を踏み入れ、打ち下す木刀を、バトンの中頃を左の手にて受け留めて、そのまま相手の右の方へ外しかけ、左の肘を延ばし外さぬよう突いた。根本センセの「お前ら、何高だぁッ!」と言うヤンキー的な?教育指導的な?叫びと折檻の隙間を縫い、あたしは速死一大乱一小手しぼり一三拍子一高 乱と惜しげも無くそれを繰り出して斬り込んで行った。
「──────やめいッ‼︎」
若々しい一喝と共に、ザッと引く手勢。
「何と忌々しい…江戸柳生が」
「ウンるさいわーッ!いい歳して、女の子に乱暴しちゃいけないって教わらなかったの⁉︎
尾張柳生の名が泣くわよ?家康の九男坊、徳川義直殿!」
あたしが叫んだ先に上様の弟、尾張徳川家と呼ばれる尾張藩主、徳川義直が転生体となって底光りする眼差しを此方に向けて仁王立ちしていた。