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前編

小雪のお話が書きたくなってごめんなさい。お風呂嫌いのあの人も出て来ます。

短編で収まらなかったので一応、前・中・後編で終わらせるつもりです。

 

「─────斬釘截鉄ざんていせってつ、その身に食らってみるか」


 数人の男達が静かな中庭を席巻していた。その中心で岩をも分断する構えを静かに取ると、あたしは十兵衛杖と呼ばれた仕込み杖を…もとい、学祭のチアリーディングで使われたのだろうバトンを肩にたん!と叩いた。






 館山たてやま小雪こゆき(17)─────前世の名を柳生三厳という。通称、柳生十兵衛の生まれ変わりであった。



 ────詳しくは『転生剣豪はちょっぴり小太り』をお読み下さい。



 発端はソワソワしていた学校の雰囲気だった。


「ねぇ、こゆ〜知ってる?佐々ささき啓太けいたが明日からうちの学校、ロケで使うんだって!」


 興奮したカオのマリちゃんこと友達の小野田真里子が飛び上がらんばかりにはしゃいでいた。


「─────ささ…き?」

「このお婆ちゃんがッ!【佐々木啓太】‼︎ホラ、『ちょっと奇妙な冒険』とか『愛海』とかに出てたでしょ?さーらーにー‼︎準主役で『五月は君の真実ほんとう』の【宮本みやもと武蔵むさし】も来るんだよ⁉︎ちったぁ幻想レーベル以外のメディアにも興味持てぇ〜!」


 ちょ、考えた。

『ちょっと奇妙な冒険』は少年漫画、『愛海』はネット小説の映像化作品だ。後作はざっとあらすじしか知らないが、前者はロングセラーで何代も続いている人気作品だ。『五月は君の真実ほんとうは囲碁の話だっけか。

 そう言えば、何方もテレビでCMを派手に打っていた気がする。


「お笑いの番組に映画の番宣で出てたライダー畑の俳優ひとか」

「まあ、それだけ覚えていれば上等だね。小雪ちゃんのイケメン俳優認知度低いからなぁ」


 幼馴染の樹村きむら慎吾しんごが苦笑する。因みにもう一人の幼馴染、 樫木かしきあらたは早弁中である。朝飯ちゃんと食ってこい、朝メシを!


「それにしても【佐々木】に【宮本】ねぇ…」


 宮本なんかまんま下の名は【武蔵】だ。

 佐々木、宮本揃い踏みとなれば、いい予感なんてする筈も無い。


 まあ、基本エキストラとか入れて早朝ロケとかするんだろう。

 本業のこちらと被る事も滅多に無いだろうが。


 まあ、心配し過ぎというものだろーな。

 ひょーさん(兵庫助・柳生厳利・十兵衛の従兄弟)も名古屋城の城下町でやっと会ったんだぞーって興奮してたくらいだもんな。

 親父様も彼も関ヶ原の合戦に出てないから面識ないだろうし。案ずるより産むが易し、て言うしな!

 でも、産むのは怖いわ〜処女には未知だわ〜。


 そんな事を窓から外見てぼーっと考えていたら、正門に数台の車で乗り付ける一団が居た。


 数人のテレビスタッフらしき人達の後に、ミョーにキラキラしい二人の人物が校庭に現れた。


「─────桜咲高校の皆さん、こーんにーちは〜ッ!」


 黒髪・長身の何処か飄々とした雰囲気の爽やかな青年が声を張り上げている!


「きゃああああッ‼︎あれ、あれ!佐々木啓太じゃー!うそっ、ウソ明日からじゃなかったのォォオオ〜〜っ!」


 マリちゃんと窓に鈴なりに生えた女生徒達が声を張り上げる。きゃあ→ぎゃあ!に変化しだした。五月蝿い!


 もう一人はチャラい茶髪で顔も現代風な甘さを含んだ顔立ちだ。しかし、スタイルはいい。

 じゃあ、こちらが『宮本武蔵』?

 随分とイメージが違うな…。

 あたしの中では佐々木が『動』なら宮本は『静』だ。見た目と雰囲気的には逆だろうに。

 二人の後ろから数人が付いて来るが、実業家っぽい雰囲気のダンディに付き添っている人物に見覚えのあるヤツが従っている…。


「何故───親父様が…」

「それはなー、今度のドラマのスポンサーが小雪の親父さんの会社だ・か・ら」


 真後ろに気配を感じたあたしは素早く右側に足を伸ばし、逃げようとしたトコをミキちゃん先生に捕獲された。


【右足】の膝裏をぐいー!と上に。


「イテテーてっ!ヤメろセクハラ教師‼︎小デブボディに喧嘩売ってんの⁉︎」

「硬いな、兄者。これはいっちょ、俺と激しいスポーツを定期的に行うべきでは?

 なぁに、連休にちょいと籠もればダイエットにもなるし、何処もかしこも柔らかくほぐしきってやるよ」



 エロトーンボイスでエライ事(監禁・陵辱・抱き潰し)囁くッ!



 幸いにも周りが騒がしくて注目されていないから良いものの!いや、良くない!

 しーかーも、この背中に纏わりつくエロテロリスト、根本ねもと幹久みきひさ数学教諭(23)は前世の名を柳生宗冬むねふゆといい、あたしの前世柳生三厳(みつよし)の同腹の弟なのであった。そして、本人の知らぬ処で兄へのストーカー行為をしていたという悍ましい過去生を持つ。


 ちなみに幼馴染①樫木かしきあらたは弟子で友人の荒木又右衛門。

 幼馴染②樹村きむら慎吾しんごに至っては異母弟柳生友矩(とものり)←こちらも無類のツンデレ・兄好き。


 何やら一気に関係者の記憶が蘇ってきて、世間、狭ッ!と思わずにはいられなかった。



 凄まじい歓声の中、面倒な事にならなければイイなぁとキラキラした芸能人一派を窓から見下ろせば、佐々木ナンチャラが不意にこちらに顔を向けた。

 一瞬、鋭い一瞥が飛んだ気がした。









所謂いわゆる下見と番宣、というヤツかね?」


 彼らが主演のドラマは何でもタイムスリップものらしい。

 普通の男子高校生達が学校の七不思議を探索中、何故か江戸時代よりにもよってにヒロインと共に飛ばされてしまう。


 そこは関ヶ原前の世界で、現代知識を活かした三人が転移先の城の人々に気に入られ、とんとん拍子に出世していく。

 ヒロインも二人の同級生と城主の息子とに取り合われたりと忙しいらしい。


「まったく…『俺達』じゃないんだから、過去に行けたからって直ぐ生活出来るかよ。御都合主義満載だぜ」


 お昼休み、新は購買で買ってきたパンに勢い良く齧り付きながらボヤいた。


「樫木…あんたまだ荒木ナンチャラの転生とかほざいてんの?高校生なのに厨二病なの?そんなんだからモテないんだよ。顔は良いのに」

「う、うるせぇ小野田!俺はナンチャラじゃねー!歴とした荒木又右衛門だ‼︎お前も『徳川の影』ぐらい見たらどーだ‼︎恋愛漫画ばっか読んでるとバカになるぞッ!」

「あんた────今、全国の乙女を敵に回したわね…」


 マリちゃんのバックに荒野が見えた。新が怯えている。さもありなん。一応顔だけでも褒められたんだから、ヨシとしとけば良かったのにな!


 あたしはコメカミを揉んで頭痛を逃し、手にしたチョコを…





 チョコ?





 箱の先にそれを手渡す『僕の小雪ちゃんをむっちり小鞠系女子にしよう』の会長・慎吾が。


「お、おのれナチュラルにあたしを太らせようとしやがったな慎吾さもん

「イイじゃん、理想は70キロオーバーだよ。それくらいならウエイトリフティングで鍛えるよ、僕」

「何故に重量許容する方向で…?ヤメろ、あたしには新婚旅行で行ったイタリアで新郎を差し置いてナイスガイに軟派されるという遠大な計画があるとゆーのに!」

「捨てて‼︎そんな腐った乙女の夢ッ‼︎」


 ばかやろう!外国に行きさえすれば、小太りなんざ肥滿の内に入らないパラダイス!

 ああ!アメリカとかイイよね!でも、トクホのコーラが無いと物凄い結末を迎えそうでコワイ。は?英語力てナニ?懐かしの水前寺キヨコ365歩のバラードで散歩進んで二歩バックツースキップの成績を誇るあたしに嫌みたらしい視線を向けないで慎吾!


「とにかく、小雪。ここにはお前に告ってるオトコが二人も居るんだから、ゲーノー人なんかに浮かれてんじゃねぇぞ?」


 新がマリちゃんの前なのにいらん事言った!


「…何それ、聞いてないんですけど?」


 案の定、マリちゃんが食いついた。コワイ!アレはサメの目だ!


「…なんか幼馴染って近過ぎて実感湧かなくて…」


 マリちゃんは二人を残念な目で見やり。徐に『…わかる』とだけ呟いた。








 さて、すっぱり忘れていたが、あたしは『なんちゃって剣道部マネージャー』でした…。

 放課後、剣道場に呼び出されたんでナニかと思えば、エキストラで参加しろ、と。


「─────イヤじゃよ、親父様」

「一刀両断すんな、三厳。父は社畜なのだ。そして、その給料の恩恵を預かっているのが娘のお前」


 コソコソと隅っこで親子の会話を交わしていると、この事を知らなかったらしい根本先生が背後に忍び寄っていた。


「親父殿、お久しゅう。今生では初めまして、ですな。剣道部顧問根本(ねもと)幹久みきひさです」

「ああ、先生初めま…ま、又十郎か…っ!」

「そうです。こちら前世は噂の兄ストーカー柳生宗冬(むねふゆ)さんです。そういや、今思い出したけど、お前と呑んでてニ・三回昏倒したぞ?何ぞ酒にクスリ混ぜやがったな?又十郎。それに朝、起きたらふんどしはだけてたけどナニしやがったッ⁉︎」

「…………ナニも?」

「…その不自然な間と語尾にくっついた疑問符はなんじゃあ⁉︎」

「それより親父殿、アレ、ひょっとしなくても上様ですよね?兄上の出奔の経緯、貴方知っててどーして態々娘の身を危険に晒そうとしてるんです?」


 小声でブーブー言い合っていると、監督からセクハラ顧問が呼ばれ、言い争いを一時中断せざるを得ず、これまたにじり寄って来た社長に気づくのが遅れた。


「君が館山たてやまの娘さんの小雪ちゃんだね?」

「ひいっ!」


 後ろからがっしりと両肩を掴まれ、くるりと後ろを向かされた。

 斎藤さいとう亮平りょうへい。父の会社社長。正統派俺様フェロモン系親父で38歳とまだお若い。

 実はこの人、時の征夷大将軍徳川家光様である。


 鷹が獲物を狙うかの如くギラギラとナニかが滾る視線を向けられて、イタッ!って感じィ。


「知ってるでしょうけど、俺はお父さんの会社の社長で斎藤亮平。勿論独身だ。普段からお父さんには大変良くしてあげているんだよ〜。但馬守て呼ばれていた昔からね〜」

「ハジメマシテ、シャッチョさん。ワタシ、コユキある。シャッチョさん、【徳川の影】見過ぎアルね〜。そのボクサーパンツ、六尺褌に履き替えてから出直すアルー」


 あたしが緊張のあまり片言で返すのを見て、親父様がアワアワと慌てていた。


「うーん、君は『誰』かな〜〜?」

「…タダのむっちり小鞠系JKでござる。オジサマ、後で佐々木・宮本のサイン下さい!」


 自分や配下が転生したからといって、その『息子』まで蘇ったとはご都合主義にも程がある、ってもんだ!まあ!実際にそうなんだけど‼︎偶々!


 あたしは無邪気なJKよ?ほらほら見て見て。



「─────十兵衛か」

「アイヤー!ここにも『徳川の影』カブレがイタヨ!おーい、ヤマダ君〜〜手裏剣いっちょーッ‼︎」



 上様があっさりと断じた。


 ひゃああああおあ!何なん?今の会話と仕草の何処に『柳生十兵衛』らしさあったん?逃げてえ!でも、体術使ったら、確定されちまう!


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