勇者様て呼んで。(懇願)
勇者様、楽しんでいただけているでしょうか?
あるゲームの影響を受けて書き始めたのですが笑えますか?
「はーい!朝ですよー!皆さん起きてくださーい!」
「ンン…?」
勇者は、女の人のそんな声で目が覚めた。
「ぎゃああああああああ」
「うわあああああああ」
「ひいいいいいいいい」
と、同時に変な叫びも聞こえる。
「なんだよぅ。うるさいなぁ」
勇者がベッドの上に起き上って周りを見ると相部屋の人たちの視線が刺さった。
全員男だが、皆、一様に目を丸くして、勇者を見ている。いや、勇者の格好をと言った方が正しいか。
「あらぁ、昨日着替えずに寝ちゃったの?皆さん昨日から新しく入院になった自称シュナイゼル・リーンさんよ」
「あ、ども、勇者のシュナイゼル・リーンです。よろしく。それにしてもここは随分フレンドリーな宿屋ですね。昨日は文句言っちゃってごめんなさい」
「………」
しばらくの沈黙のうち。
「ほほ、随分変わった若者が入院してきたわい」
老人はひるむことなく勇者に話しかけた。みんなの視線が老人に移り、感嘆のものに変わる。
「おじいさん、何の職業についてますか?あ、当ててみましょうか?ずばり!賢者ですか?」
「ほほ、わしゃ、無職だよ」
「それはいけません!今すぐ酒場に行って職業を選択しないと、この世界では生きていけませんよ!そうですね、商人なんかもよさそうですし…」
「ほほ…」
「そうだ!魔法使いにしませんか?いろいろ魔法が使えると便利ですよ!僕の妹も魔法使いですし!さあさっそく酒場に行きましょう!」
「ほほ…」
老人は、勇者に連れられて301号室を出た。病室を出るとそこはDルームと呼ばれる皆が集まる、憩いの場だった。
「あ、あのカウンターですよね。酒場」
「ほほ…」
勇者は老人の手を引いて、普段患者が買ったお菓子などを管理する部屋で冷蔵庫の整理をしていた看護師さんにカウンター越しに話しかけた。
「すいませーん。このおじいさんを魔法使いにしてほしいんですが」
「ほほ…」
看護師さんはカウンター越しに立っている二人を見るとびっくりした顔になった。
「恩田さん!あなた、立てたんですか?!」
「ほほ…こりゃ寝起きでうっかりしとったわい…バレたかの…」
「いつも車椅子で移動してたじゃないですか!騙したんですね!」
「わしゃ、一言も立てんとは、いっとらんわい」
「そんな、今まであなたを車椅子で運ぶのにどれだけの労力を必要としていたかわかります?!」
「ほほ…年寄りの可愛い嘘じゃよ」
「あのーこのおじいさんを魔法使いに…」
「あなたは黙ってて!」
看護師さんが凄い眼力で勇者を睨んだ。
「ひぃいいいいい!ごめんなさい!」
勇者は言い争う看護師さんと恩田さんという老人を残してカウンターを離れた。
「きっとあの人の職業は盗賊だ…」
「あの、あなたがシュナイゼルさん?」
後ろの方から優しげな声が聞こえた。
「はい、勇者様って呼んでください」
勇者が振り返るとそこには紙袋を持った若い男の看護師さんがいた。
「じゃ、勇者様。服、それじゃあ目立つのでお部屋の方に行って着替えましょうね。新しい服買ってきたから」
「え?僕20イヤーしか払ってないのにそんなサービスもしてくれるんですか?ここは天国ですか?」
「はい、じゃあ行きましょうね」
「あ、どうせなら今より強い装備でお願いします、僕、弱い魔物しか倒してないから、もうあと30イヤーしかないけど…」
「はい、ここは魔物なんていませんから大丈夫ですよ」
「ですよね、宿屋の中ですもんね」
「………」
………。
……。
…。
「嫌だ!こんなひらひらした薄い服なんて着たくない!あなた、僕に死ねって言ってるんですか?!」
Tシャツとジーンズに着替えた勇者はどこからどう見ても普通の人だった。
「あ、それと剣返してください!これから魔物狩りに行ってきます!僕レベル11なんです。これからレベル36の魔物との戦いが待っているんですよ?!」
「よく似合ってますよ、その服」
「そうですか、ありがとうございます!僕この装備でがんばります!」
勇者は流されやすかった!おまけに褒め言葉にも弱かった!
「では、これから朝食が運ばれてきますからDルームでお待ちください」
「わかりました。ところで、ここには商人さんはいないんですか?傷薬を買いたいんですが…」
「ああ、じゃあ、お買い物の時間にまた教えてください。一階の売店まで降りますから」
「一階に商人さんまで…?!ほんと便利ですね!この宿屋!」
しかし、朝食の席で事件は起こった。
今日のメニュー:白米、納豆、味噌汁、ゼリー。
「この白いの味がない!」
「きゃー何これネバネバしてる!何かの罠?」
「アツ!熱くて飲めないこのジュース」
「わー?!スライムだ!」
どれも勇者様の口に合わなかったようで…。点滴になりました。
勇者様初めての点滴…。
「ねえ、人をベッドに寝かせてなにしようとしてるんだい?」
「はーい、ちょっとチクってするよ」
「?」
チクッ。
「ぎゃああああああああああああ!!!!!!」
「きゃああああああああああああ!!!!!!」
勇者の叫び声に看護師も悲鳴を上げる。
「今チクってしたよ!チクって!!」
「だから、チクってするって事前に言ったじゃあないですか!」
「君たち敵だったの?!実は味方と見せかけて敵だったの?!それならつじつまが合う!僕を拉致ってどうするつもり?!」
「ただ、腕に針を刺しただけですから!」
「………」
「あ、勇者様、気絶した」
「まあ、これでようやく静かになっていいじゃない」
二人の悲鳴を聞いて、ヘルプにきた看護師さんが苦笑いを浮かべてそう言った。
最後まで読んでくれて有難うございます!!
どんどん送ります!!