イリヤ編1
「イリヤ、何見てるんだい?」
「……お兄ちゃんの、バカ」
いきなり罵られた、勇者は突然のことに目を白黒させた。
「異世界の人たちってどれだけ胸大きいの?」
「……へ」
「私だって、夜な夜な豊乳トレーニングに励んでいるのよ、巨乳好きのお兄ちゃんのために!!ありがとうは?」
「あ、ありがとう?」
勇者は妹の気持ちがわからなくなってきた。
しかも、何故お礼まで言わないといけないのか。
「それに、この病院に記憶操作の魔法をかけて私が入院していることにしたの。どう?すごいでしょ、お礼は?」
「はっ!私めの昨日脱ぎたての洗濯していないパンティーでございます」
勇者は妹のツボを心得ていた!
兎に角、理屈ではなくて、イリヤを喜ばせる方法を知っているのだ。
「うふふ、合格。流石お兄ちゃん!イリヤの将来の旦那様」
ん?今聞き捨てならない言葉が……。
「ねえ、イリヤ。兄妹では結婚できないよ?」
「あらいやだ、お兄ちゃん。私達本当の兄妹じゃあないじゃない」
「……血もつながっていないな……」
「ここはひとつ……」
「結婚してみるか!……ってなんでやねーん!!」
そこで、イリヤが何かノートにメモしているのが見えた。
題名を読み上げてみる。
「お兄ちゃん観察日記」
勇者は植物か!!
「イリヤ、その危なそうなノートを渡しなさい」
「いやいや、これはお兄ちゃんが持っていたら意味がない遺産なのです」
当たり前だ!!
「あら、どうしたの?2人とも」
そこで優しそうな看護師さんが話しかけてきた。
「あ、看護師さん、見て見て、兄さんったらね」
「危ない!そのノートには魅了の魔法がかかっている!!」
「あらー、良く描けてるわね。これ、シュナイゼルさんとイリヤさんでしょ?」
「はい!小さい頃はよく二人でお風呂に入っていたのですよ」
……いやー!!
「ほうら、兄さんのここもたくましいでしょ?」
きゃ―――!!
「まあ、凄い!」
一体ナニ見せてるの―――!!
「凄いでしょー兄さんの上腕二頭筋!!」
……え?
じょうわんにとうきん?
「シュナイゼルさん、今も鍛えてるの?」
「は、はあ……まあ」
「触って言いかしら?」
「ダメです!兄さんの身体はどの部分であってもイリヤのものなの」
そっとイリヤがこちらに目配せしてウインクした。
イリヤがイジメる。
その後は、イリヤもこっちの世界の物にカルチャーショックを受けていたみたいだ。
その日の夜、事態はとんでもない方へ転がっていく―――。
突然、病院が揺れ出した。
皆が夕食を食べ始めた頃である。
「な、なんだ?」
これには勇者も驚いた。
照明が消えた。
ふわりと何かが覆いかぶさる感触。
次の瞬間勇者は地面に叩きつけられていた。
暗闇。
身動きが取れない。
水滴がポタッと顔に落ちた。
鉄の味がした。
その瞬間、勇者は自分が置かれている立場を悟った。
倒壊した建物の中に埋まったのだ。
この前テレビでやっていた地震ドキュメンタリーと一緒の状況だ。
「う……」
その声で勇者は自分の上に誰かが覆いかぶさっていることに気づいた。
「イリヤ!!」
名前を呼ぶとにこりと微笑んだ。
イリヤは頭から血を流していた。
さっきの水滴は血だったんだ……。
イリヤがどさっと横に倒れた。
どうやら、上から落ちてくるものから勇者を守ったらしい。
「か、回復魔法……」
「ダメ……みたい。私は黒魔術専門だから、使えないわ」
イリヤの頭からは大量に血が流れている。
勇者は自分の服を破ってイリヤの頭に巻いた。
「あり、がとう……お兄ちゃん」
その時、瓦礫の一部が倒れてきそうになった。
勇者はそれをがっちりと両手で受け止めた。
「ふふ、やっぱりすごい……お兄ちゃんの上腕二頭筋」
イリヤが蒼白な顔で目だけ生き生きと笑っていた。
「ああ、しかし。そう何時間も支えてられないぜ」
勇者の恰好はジムで大きなダンベルを持ち上げているみたいなポーズだった。
これを落とせばイリヤも勇者も助からない。そう思えた。
「お兄ちゃん……」
イリヤが消え入りそうな声で囁いた。
「ここから、安全なところにワープするって選択肢もあるけど、お兄ちゃんはどうしたい?」
「僕は、勇者だ」
勇者の力強い言葉にイリヤは安心したようにため息をついた。
「……そういうと思ってた」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
気合い一発!勇者は瓦礫を押し上げた!!
「大丈夫ですかー?」
と、思ったら持ち上げたのは、レスキュー隊の人だった。
「生存者二名確保」
「あの、僕勇者です。見せ場持って行かないでくれますか?」
「はいはい、危ないからね。怪我してなさそうだけど君も一応病院に行くよ」
「えっ、ちょ、押さないで!!」
そして無理矢理救急車に乗せられ。
「ぎやああああああああ!!!!」
救急車で病院に搬送された。




