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亜衣編3闘病

「離せ――――!!」

朝食を食べているとそんな亜衣ちゃん、もとい、姫衣ちゃんの声が聞こえる。

姫衣ちゃんは例によってご飯は点滴だった。

昨日から一日たって薬は抜けたものの、姫衣ちゃんは朝からわめいている。

と、その時Dルームのつけっぱなしのテレビからニュースの声が耳に入る。

テレビに目を向けると亜衣ちゃんの叔父が麻薬取締法違反の容疑者として映っていた。

どうやら、無事、捕まったらしい。

さて、後は亜衣ちゃんなんだが……。


食後、勇者は亜衣ちゃんの部屋にお邪魔することにした。

「離せ、離せ離せ!!」

「姫衣ちゃん」

「あの薬を頂戴!!魔法の薬!!飲んだら気分がよくなる!!あれ!!ちょうだい!!」

勇者はそっと姫衣の手を握っていた。

「なんでだよ!なんでボクが亜衣の身代わりにならなくちゃいけないんだ!苦しいよ!あの薬がないと苦しい!!亜衣、出てこい!!」

それは、普段のあの冷静な姫衣らしくない言葉だった。

「やだ!!やだ!!怖い!こわいよ!!来るな!!来るな――――!!」

とうとう姫衣は幻覚を見始めた。

勇者は姫衣ちゃんの意識を繋ぎ止めるためにずっと手を握っていた。

「どうして、ボクを置いて死んでしまったの?パパ、ママ!!ひどいよ!ひどすぎるよ!!

叔父さん怖いよ!!迎えに来て!!ママ!!」

その次の日も。次の日も。姫衣が正気を取り戻すまでずっと――――。

時々、勇者が、食事などで離れた時、姫衣ちゃんが何かを求めて手の指を動かすことがある。戻ってきた勇者はそれを見て再びその手をぎゅっと握った。

「……姫衣ちゃん、僕はここにいるからね」

「……あ、……う……」

姫衣ちゃんはそうすると勇者の手を強く握り返した。

看護師が薬を抜くには、二週間かけなければいけない、と言っていた。

そして、二週間がたったころだろうか。

奇声を上げたりベッドの上で暴れたりしなくなり、姫衣が突然大人しくなった。薬が抜けたのだ。辛い生活は終わった、のか……?

ためしに話しかけてみる。

「姫衣ちゃん」

「……お前か。悪いけどこれ解いてくんない?おかげで亜衣が危機感だいちゃって出てきてくれないんだ。あれに、あの時に似てるから」

「あの時?」

「こんなこと、言っても信じてもらえるかわからないけど、実は亜衣の両親は十年前に亡くなってるんだ。それで、母方の叔父の家で暮らすようになったんだけど暴力と薬物付け……にされていたんだ。危機を感じた亜衣はボクを生み出し、現実逃避をした。それで、辛い時にボクにバトンをタッチした。亜衣を変に思った学校は亜衣のことを調べ、暴力を受けていることが発覚した。しかも、人格まで未成熟だと判断され、この精神病院に入院することになったんだ。それに抗議した叔父は裁判まで起こして亜衣を取り戻そうとしたけどそれは失敗……。で、時々こうして亜衣を無理やり連れ戻しに来ているってわけ。そのたび麻薬で意識を混濁させ自分の良いように操ろうとした。……信じてくれるかな?」

「ああ、信じるよ」

そこで姫衣は、安堵の表情を浮かべた。

「よかった。信じてくれて。実は今まで誰にも信じてもらえなかったんだ。ボクの存在」

「どうして?」

自嘲気味に笑うと姫衣は眉をひそめて語りだした。

「聞いてくれる?ボクの初めての記憶……」

最初、目を開けると暗闇だった。

何?ここはどこ?ボクは……。

その時、窓から入った月明かりが部屋を照らした。

「!!!」

ボクは息をのんだ。

ボクは柱にグルグル巻きにされて身動きの取れない状況だった。

部屋に男が入ってきた。

「……どうだ?少しは吸う気になったか」

僕は何のことかわからなくて首を傾げた。

「魔法の薬だよ。吸えばいつでも天国に行ける。ママにも会えるぞ」

ボクは激しく首を振った。

暫く、怖くて、目をつむっていた。

もう部屋にあの男はいなかった。

そこでボクは意識を失った。


次目を覚ますと、また同じことが……。

でも違ったのは気分がふわふわしているということ。

意識もあいまいで感覚も鈍い。

ボクは目を閉じた。

どれくらい経っただろうか。

扉の音。

そのままボクは気を失った。

毎晩毎晩ボクは柱に縛られていた。

いつも気を失って気がついたら夜なのだ。夜にしか表に出られないから誰にも気づいてもらえない。相談もできない。

頭がおかしくなってしまったのではないかという不安。


「ねぇ、辛いことを忘れるために作られたボクは、幸せになってもいいの、かな?」

勇者は無言で頷いた。

「ボクの幸せは……うっ」

突然姫衣ちゃんが口元を手で押さえた。

「姫衣ちゃん?!」

「大丈夫、ボク、自分が女だと意識すると吐き気がするんだ。何もできない非力な女。これもおじさんの受け売りだけど」

「姫衣ちゃんは無力なんかじゃないよ!!ずっと亜衣ちゃんを守ってきたじゃあないか」

「亜衣とボクどっちが好き?」

「……どっちも好きだよ。姫衣ちゃんも亜衣ちゃんの中から生まれた同じ亜衣ちゃんだから」

「ねえ、亜衣にまだキスしてないよね」

「ん?そうだけど……」

「じゃあ、キス、して……」

「え?」

「だめ……?初めてなんだ。誰かとキスをするの……ボクのファーストキス、奪って……」

「いや、ダメじゃないけど。こういうこと僕も初めてで……」

「ボクじゃダメ?」

「い、いや。むしろ姫衣ちゃんならっていうか……」

そこで勇者は初めて自分の気持ちを知った。今まで積極的に亜衣ちゃんのことを知ろうとしていたのは姫衣に惹かれていたからだと……。胸が高鳴った。

「だったら、ボクのお願い、聞いて……」

そう言うと姫衣はゆっくりと目を閉じた。勇者は姫衣の唇にそっと触れるだけのキスをした。

「ふふ、いつも一緒にいてくれたね、ありがとう……」

そして、姫衣は意識を失った。



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