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恋のお話し  作者: 粘土
7/8

僕が正に癲癇持ちで、強迫性障害とハイとダウンの鬱病です。更に、物心付く前から、二人の兄に虐待されました。其の年数、十五年程。死にたくて死にたくて仕様が無かったのです。僕はどうでもイイ。でも、たった一度で好い。そんな人の心を、解ってあげて下さい。

「オレはお前を護るぞ」

 退院した日向に唐突に言った。日向は、不思議そうにしながらも、其の仕草には、嬉しさが混じっている事は見て取れる程だった。きっと、そんな事を言った人間は、手切れ金を渡した家族は基より、幾らかの苦痛を知り得る者さえでさえも、只の一人として居ないのだろう。証拠など無い。僕はそう思うのだ。何故なら、其の仕草が余りにも初々しいのだから。

 病人は兎角監視の対象となる。何故ならば、要らぬ手間を掛けずに済む様にと云う理由からだ。然し、其れは周りの人間の心身を保つ為だ。彼等は自身の人生に不具かたわの人間が居ると排除しに掛かる。姥捨て山と同じ理屈だ。役立たずは殺すに足る理由が有ると。……不座ふざけるな。命は等しく命だ。天秤に掛けなければ解らないのか? そんな筈は無い。解る筈だ。社会に生きる人間の半数は大学位出ているだろう。其れなら、差別の対象と成りつつ、然も、働き口も無く、憤りながらも、憤慨しながらも、我慢して、我慢して、生きると云う事に一所懸命なのだ。一生懸命ではない。生きる事がどれ程の苦痛であるのかを叩き付けられつつ、其れでも、生きなければと思い、だからこそ、一所に懸命なのだ。……

 風は流れる。雲も揺蕩う。波は白き水面に薄化粧をする。では、僕等はどうか?愚問だ。遥か先に夢を追う訳も無く、今を、次の一秒を未来とし、生きて居る。生きる事には苦痛、苦悶は絶えないが、一人でなければ、手を繋いで、互いの温かさを感じて歩いて行ける。そうすれば、夢も見られる。先に夢を見るなど愚の極みだ。痛い、苦しい、死にたい。人は何時だってそんな事を思う。けれども、心からそう思う人はほぼ居ない。先に挙げた三者は、単なる言い訳だ。今踏み出す一歩が、未来なのだ。例えるなら、真っ新な雪原に足跡を残す如き、だ。只、其処で、其の形に後悔する人は、確かに生きてはいない。何故なら、傷も、人生の証なのだから。そう思い、信じる僕に、彼女は言った。

「無理はしないでね」と。

 心が温まった。想いが通じたのだと思った。何故なら、最初に出逢った時とは違い、僕の事を心配している。彼女の愛が本物でなかったなら、そんな事は云わない筈だ。体が癒えれば僕の元を去るだろう。其れを、“無理をするな”と云うなら、之から先も宜しくお願いしますと云う意味だ。少なくとも、僕はそう信じた。だから、涙も流さず、「解ったよ」と、簡素に応えた。其の言葉に、彼女は微笑を洩らした。其の意味が、ありありと解る僕には、其れが却って嬉しかった。そして、想うと云う事の美しさと素晴らしさ、加えて、責任を感じた。だから、敢えて、

「嫌だ。幾らでも無理をする」

と、応えた。彼女は微笑を浮かべた侭だったが、其の双眸からは涙が流れていた。

日向と云う存在に、僕の痛みを籠めているのです。

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