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恋のお話し  作者: 粘土
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 結局、佐々木ヒナタは、直ぐ様引っ越して来た。実際に彼女の云う通りになった訳だが、一応覚悟はしていたのでなんとでもなるさと高を括った。然し、直ぐに、おかしな事に気が付いた。彼女の荷物は段ボール三箱しか無かった。然も、僕が見る限り、学生として必要な物しか無かった。何か趣味など無いのか、とは、訊けなかった。三箱と云うのは余りにも少な過ぎたからである。きっと、何か事情が有るに違いないと思った僕は、其の事には一切触れず、荷物ごと彼女を受け入れた。どんな事にも色々な事情が有り、其れを知るのは何時も決まって、後の事に成るのだが、今は語らない。詰まり、彼女にも事情が有ったのだ。今、語らないのは、引っ越して来た日になってやっと気付いたからである。彼女は……。

「秀ちゃ~ん。荷物の整理終わったから御昼にしようよ~」

 ほんの少しだけ、物思いに耽っていた僕は不意に掛けられた言葉にビックリした。

「いきなり声を掛けるんじゃない!」と思わず怒鳴ってしまった。然し、其処で気が付いた。

「ご、ごめんなさい。脅かす積りじゃなかったんだよ」

 まるで彼女の印象とは真逆の対応に、これは、何か有るな、と、そう思った。そして、謝る彼女が気の毒で、ならなかった。

「いや、オレも怒鳴ったりして悪かったよ」と、直ぐ様詫びた。僕の選んだ社会学部。其れが、彼女の奥底を覗かせた。

「ごめんなさい」と、再び詫びる彼女に、間違い無いと、確信を持った。彼女は……。

「好いよ。何か食べよう」

 そう、優しく語り掛けると、彼女は嬉しそうに、「うん!」と云った。僕は其の時、心底良かったと思った。若し、心理学を専攻していたなら、彼女を普通に視る事は出来なかっただろう。……


 昼も済んで、すっかり片付けの終わったリビング兼、ダイニングに、僕等は二人座っていた。個人的に気に入っている、クッションを座布団代わりにして、同じく師事する、先生の著書を読んでいた。毎週の様にレポートを提出させられるからだ。僕は、不思議と安堵していた。傍に誰かが居ると云うだけで、之程違うものかと不思議に思った。彼女は一々ちょっかいを出して来ない。なのに、だ。まるで、抱擁されるかの様な気持ち良さを感じた。其れはきっと、彼女の才能なのだろうと思った。少なくとも、僕は、彼女に惹かれ始めていた。たったの一日半程で。一目惚れでは、決してない。なのに、心が和む。唐突だが、僕は百八十以上ある。勿論、身長の話だ。一方の彼女は、百五十センチも無い。まるで、凸凹だが、僕は、彼女に其れ以上の、威圧感、と云うよりも、強さを感じていた。正に今、隣に座っている彼女が、大きく視えた。“器”に射し込まれた物を感じさせない強さを持っていた。然し。其の時には、まだ、僕にはハッキリとは視えていなかった。


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