間違い
「どうして来てくれなかったんだ……っ! 何で、どうして! 父さんは来るって思ってたのに、父さんは約束守ってくれるっておもってたのに……!!」
そう言い、篠は部屋へと閉じこもった。
家に帰って、篠からの第一声がこれ。涙目で訴えられて、何も言えなかった。
普段滅多なことじゃ感情を出さない子だから、びっくりしたってのもある。でも、それだけじゃない。篠の最後の言葉に、深く胸を抉られたんだ。
「はあっ? なんでそうなるんだ! …ぁあクソまじかよ…っ!」
会社を抜ける直前、部下の仕事でのミスが発覚。それをほっぽり投げて行く訳にもいかず。
結局、篠の授業参観に行ってやれる事ができなかった。
そして仕事の収拾がついたのが篠の下校時間。学校にすら足を運べなかった。
篠になんて言おうか。でもアイツのことだから何言っても「別に…」で終わりそうだな…。
そんなことを考えていた矢先、篠に言われたあの言葉。
見事にぐっさりと突き刺さった。
「……なにしてんだよ俺。まずここは謝るべきだろ…」
篠の部屋へと行くがもちろん鍵はかかってるし、呼んでも返事はない。
「謝りたいんだ。頼むから出てきてくれ…」
何回か言ったが結果は変わらなかった。
「すみません、お時間取っていただいて」
「あ、いえ大丈夫です。……それより、お話というのは…?」
小学校に入学してからの4年間、篠は一度も早退をしたことがなかった。それに何かしでかして呼び出しをくらうような子でもなかった。だから部下に「部長、外線出てください。小学校からです」と言われたときは心底びっくりした。
だがその内容は想像とは全くの別件だった。
「はい…。実は、その。…篠くんの家庭環境のことで昨日少々言い争いが起きまして」
「…!」
「名前はあげませんが1人の男子児童が篠くんに言ったんです。どうして篠の所は誰もこないんだ、って。実は昨日の授業参観、篠くんのご家庭以外、保護者がいらしていたんです。それで授業終わりにそういう話になりまして。別の女子児童が篠くんの家庭環境のことを少し話してしまって……。周りから冷やかされてしまったんです。篠くん、言い返したんです。父さんは仕事が忙しいんだ、って。母さんは僕にはいないけど、僕の家族は父さんだけだから全然変じゃない、お前らだって母さんしか来てない所あるだろ、って」
そこまで話し、教師は頭を下げた。
「大変申し訳ありませんでした。私の指導が行き届かなかったばっかりに…! 今後はこのようなことがないよう努めて参りますので……」
「何故謝るんです。あなたが」
「……っえ?」
「逆によかったですよ。私どものことが知れ渡ってくれて。先生は間違っていません。子供たちも間違っていません。もちろんウチの篠も間違っていません。間違っていたのは過去の私ですよ。子供にそんな経験をさせてしまうなんて…」
「あ、の……っ」
「とにかく。この話はこれで終わりです。先生にお願いしたいのは先程ああは言いましたがあまり聞いていて気分の良い話ではないのでね…。この話題がもう子供の間に流れないようしていただきたいですね」
……そんな、ことがあったのか。
ごめんな、篠……。