あなざーわーるど
空気そのものが、薄い緑色だった
かなしみというもの自体があまり存在しない所だったような気がする
私は、天空まで伸びる高い塔から吸い込まれるかのように下界を見下ろしていた
恐怖感というものはない
丁度、日が昇り始めたくらいの刻か、東の空がうす紫と淡い桃色に染まってきた
少しだけ顔を覗かせた日の光は、石造りの塔をキラキラと照らしていた
私は、長い衣を纏った男だった
年は、三十くらいか、東の空の雲間にじっと目を懲らしている
何かがこちらに向かって飛んでくる
大きくて黒い陰 飛行機?
それは、どんどんこちらに近づいてきた
生き物だった
「ルーン」と高い声で啼いたその生き物は、家くらいの大きさはあるだろうか、長い首に、長い尾。つるんとした薄緑色の皮膚は、以前水族館で見た「白いるか」を思わせた
黒くてやさしい目をしていた
「おいで」 そう呼んだ私の声に、その生き物はゆっくりと近づいてきた
背中に広がっている葉脈のような薄い二枚の羽が波打っていた
私達を包む空気は、やさしい緑色だった
とつぜん場面が変わる
さっきの男と同じ人物なのだろうか
私の姿は、そう五十代半ばくらいだろうか、白髪交じりの男に変わっている
何かの研究をしているのだろうか、
薬品やたくさんの機材が部屋中に所せましと並べてある。
私は、何かに夢中になっている
子供のように無邪気に何かを作っている
楽しくて仕方がないのか、男は食べることも忘れて一心不乱になにかを作っている
孵卵器のようなものの中に小さなカエルのような生き物が動いていた
実験動物なのか
さっき見た うす緑色のやさしい生き物によく似ていた
また突然、場面が変わる
ものすごい轟音 天も地も張り裂けそうなくらいの爆風
地平線が紅く染まった
夕日が何十にも重なったような大きな紅い輪
地面が割れた
落ちていく私
どこかに叩き付けられた
焼けただれた手
何かがやさしく顔をなめた
くっつきかけた皮膚の間から見えた生き物
紅くやけただれた皮膚で私に覆い被さるようにして、じっとこちらを見ている
あの生き物だった
黒い目に醜い私の顔が映っていた
うす緑色だった皮膚は、私が行った度重なる実験の為に紫色に変色していた
たくさんの子供達も実験の為に殺していった
今、その実験の為に世界が終わろうとしていた
何も考えていなかった
ただただ、無邪気におもちゃで遊ぶように沢山の兵器を作り出していった
最後の瞬間
「ルーン」と啼いて、その生き物は、私を守ったまま目を閉じた
喰い殺された方が、余程ましだと思った
初めて自分がした事の意味が解った
心のままに生きることが恐ろしい
その後、私は何億という時を鉱物として生きることにした