無防備な朝
窓から差し込む西日によって起こされた夕方。
時刻は午後四時、ベッドから重い体を無理やり動かして心地よい風の吹く居間に置いてある、ソファに座り込む。
昨夜は何をしていたのだろう。
テーブルにはコロナの空き瓶、両切りのラッキーストライク。
どちらも僕は買った覚えがない。
潮の匂いが記憶を蘇生させようとする。しかし、それは徒労に終わり
二日酔いの脳味噌に嫌な気分を惹起させるだけであった。
「ん、起きたの・・・」
突然、トイレから女の声が聞こえた。
彼女は僕の白いシャツだけを着た艶めかしい恰好で現れた。
「ああ、良く眠れたよ」
「そう・・・」
勿論、僕は彼女の事など何も知らない。
そして彼女も同じ事だろう。
「朝ごはん、食べる?」
「いや、まだ酒が残ってる」
いつものことだ。
ビールの飛沫に、僕はいつも夜の台本を置いては忘れる。
そしてそれは、僕の意図とは関係なしに訪れる一つの朝の形。
「そう・・・」
彼女が誰なのか、一々詮索はしない。
唯、朝にコーヒーの一杯を付き合ってくれる良い友達だ。
「じゃあ、コーヒーでもいれようね」
彼女は勝手知ったる我が家のように、僕のキッチンへと消えていった。
窓から、子供たちの笑い声が聞こえる。
窓から、燕が巣を作っているのが見える。
窓から、海の波音が僕の景色を象る。
キッチンでコーヒーを立てている彼女の背中を、ゆっくりさする。
名前は聞かない。そして彼女もまた聞こうとはしなかった。
コーヒーの香りだけが、テーブルの上で主張する。
愛のない無造作なコミュニケーション、僕はそれだけを愛していた。