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04.探索と交流 その1

 俺達17人は3人チームを5つ、2人チームを1つ作り、それを犯人の殺人に対する防御策とした。

 俺はやたらガタイのいいおっさん戦士と、それとは真逆な感じのチビでひょろひょろな美形の少年……じゃないな。少女と一緒のチームになることとなった。


 今この場はそのチームのメンバーで固まり、それぞれ自己紹介なんかをしている状況だ。

 その中で今後伝達を迅速に行えるようにチームリーダーを決めていこうという、全体の流れだ。

 俺達もその全体の流れにのって三人で固まって自己紹介を始めた。


「俺はグレハードという。ここへはスレバラという女戦士とソイチという男と共に来た。途中であそこにいるオルロゼオって奴と合流したから、ここへは四人できたということになるんだが。こんな状況になってしまって大変かもしれんが、ここはひとつみんなで協力して脱出しようではないか。よろしく頼む」


 そう言ってグレハードと名乗った大柄な男は俺に握手を求めてきた。

 俺はその大きな手を取ってしっかりと握手を交わす。


 三人組の名前は、このおっさんがグレハードで、強そうな女戦士はスレバラ、話の腰折り太郎さんはソイチ。

 そんでもって、ちびの美形さんと同じくらい細いきょろきょろしてた人はオルロゼオ……。

 うん、覚えきれない。

 なんとか名前と特徴を結びつけて記憶していこう。


 グレハードさんは190はあろうかという巨体をしており、結構しっかりとした鎧を身につけている。

 短髪髭面のおっさんだけれども、あのサバトさんとは違って割りと気さくな印象を受けた。

 あまり協調性のないタイプには見えなかったのでこの人とは問題なくやっていけそうだ。


 ただ、問題なのがもう一人の方。

 ちびの美形さんはグレハードさんが俺と同じように握手を求めても、知らんぷりしている。

 その美形さんの様子にグレハードさんも困惑気味だ。


「のう坊主。これからしばらくは三人じゃ。嫌かもしれんが、互いに協力していこうではないか。そんなフードなんて被っていたら他のみんなも怪しむ。顔をしっかり合わせて、協力する意志を見せてくれんか?」


 グレハードさんは美形さんに差し出した手を一旦引いて、そう困り顔で言う。

 坊主と言ってるが、多分その人は女の子っすよグレハードさん。

 この人の顔はフードしてて見えない。

 体は深い緑のマントで覆われており、ちらっと見える下半身からは七分丈程度のパンツを履いている様子。

 胸の膨らみなんてのも全くないので、男だと思っても仕方ないかもしれないけれども、俺が聞いたこいつの声は確かに女の声だった。


 美形さんはそうグレハードさんに言われて暫く無言のまま動かなかったが、俺が「フード取らないと犯人扱いしてしまうぞ?」なんて少しふざけ気味に言ったら、仕方なくと言ったような感じでフードは外した。

 フードを外すとあら不思議。そこ色白で整った顔立ちをした女の子がいましたとさ。

 それにはグレハードさんも驚いているようだった。


「おぉ、こりゃすまんかった。おなごだったか。名前を聞かせてくれるか?」

「……リエル」


 グレハードさんの問いに、美形さんはそう小さく答えた。

 恥ずかしがっているのか何なのか、そう答えている時も全然違う方向を向いていた。

 せっかく名前が聞けたので、俺は無理やりリエルと名乗った少女の手を取って握手をする。


「よろしくな、リエル」

「…………」


 リエルは俺の手を取って一瞬俺と顔を合わせるも、すぐにそっぽ向いて手を離す。

 手を握ってみて分かったけど、本当にか細い。

 本当にどうやってこの魔物だらけの1層2層をくぐり抜けて来たのか不思議でならないほどの細さだ。

 ここまで来られたということは、その辺を歩いている適当な傭兵よりも格段に強いということになるのだが、彼女の手を取ってみる限りではにわかには信じ難い話だ。グレハードさんの手は納得のごつさをしていたけれども。

 きっとこう見えて彼女は凄い魔法が使える魔法使いかなんかなんだろう。


 リエルの自己紹介も0.5秒で終わった所で、次は俺の番だと俺も自己紹介を始める。


「俺はロクです。ロク=セイウェル。普段は傭兵をやって稼いでます。俺も出来ることがあれば何でも協力するつもりなので、よろしくお願いします」


 そう言ってグレハードさんと再び握手をした。

 リエルの方は握手以前にこっちを向いてすらいなかったので、さっき握手したからいいかと放っておいた。


「とりあえずリーダーだけ決めて、リーダーは一旦集合って流れになってますよね……。どうします?リーダー。俺としては年長者であるグレハードさんにお願いしたい所なのですが……」


 そう言ってリエルとグレハードさんを見る。

 リエルは明らかに俺より年下だと思う。

 下手すりゃ15とか言われても信じられるような顔と身長をしている。

 一方グレハードさんは40前後かなぁくらいの顔つきをしているのが分かるので、この三人の中では誰が見たってグレハードさんが年長者だと分かるだろう。


 そう言われたグレハードさんは「ぬぅ……」と少し考えるが、年長者であるということも、故にリーダーを任される立場であるということも飲み込んでくれているようだ。


「リエルは俺がリーダーということで構わないのか?」

「……いい」


 リエルはグレハードさんの問いに無駄を一切省いたとても簡潔な回答をしていた。

 そういうことなので、グレハードさんも仕方ないといった感じでリーダーを引き受けてくれた。

 他の組は既にリーダーも決まってリーダー同士集まっている様子だったので、グレハードさんもその流れに乗って俺達の傍から一旦離れ、各チームのリーダーが集まっている所へと向かった。




 グレハードさんがこの場からいなくなり、残ったのは俺とリエルだけになったのだが、この子はこの子でめちゃくちゃ取っ付きにくいので少々気まずい。

 話をしてくれるかどうかは分からないが、とりあえず適当な話題を振ってこの気まずい空間をごまかそうと考えた。


「何か大変なことになっちゃったよな……犯人誰なんだろうな」

「私は犯人じゃない」


 予想に反して俺の言葉に反応し、まともに言葉を発してくれた。

 俺はそのまま会話が盛り上がればいいなんて思いつつ話を続ける。


「あぁ、悪い。あんたを犯人と疑って言った訳じゃないんだ。俺も犯人の疑いがある一人だしな。でも犯人を捕まえないと俺もあんたもここから出られないのは同じなんだ。だから互いに協力しあって犯人見つけて、さっさとここから出ようぜ」

「…………」


 今度は無視された。

 協力する気があるのかないのか。


 俺としては多少ゴマすりのようなことをしてでもここにいるみんなとは仲良くなっておきたい。

 信頼を得ることができれば俺の話も通りやすくなるだろう。

 どう考えても仲良くなれなさそうな輩が多少混じっているが、この状況下で周りから悪く思われるのは絶対に避けたい。

 この子の場合、今は色んな出来事があって混乱しているのかもしれない。

 この先犯人に殺されるのかもしれないし、自分がここから無事に脱出できるのかどうかの不安もあるだろう。

 だから、その気持ちの整理がつくまでしばらくそっとしておいてやる方がいいのかもしれない。


「大丈夫だ。今はみんな同じ気持ちだ。俺も不安で今にもちびりそうなもんだ。でも、あんたも含めて、ここに来られた実力者がこれだけいるんだ。みんなでじっくり考えればきっと出られる。それまでは俺はあんたを守るし、あのリーダーのおっさん……グレハードさんも守る。だから、あんたも俺を守ってくれよな」


 そう、適当に勇気づけるつもりで言ってみた。

 すると、リエルは顔を横にふっと動かして、赤い瞳を一瞬俺の方に向けてきた。

 目つきが鋭いので睨まれたのかと思ったが、俺の話に同意してくれたものだと勝手に思い込んでおく。

 それからも適当な言葉を掛けて会話を弾ませようとしたが、全然反応してくれなかったので黙ってグレハードさんの帰りを待つことにした。




 暫く俺と彼女の間に無言の間が続くと、グレハードさんは俺達のいる所へと戻ってくる。


「部屋が決まった。場所はシェルター内の地図が貼りだされているのでそこで確認してくれ」


 そう言っておっさんは今シドルツさん達が集まっている所を指さす。

 俺もこのシェルターの構造は全く理解できていないので、後で地図はしっかり確認しておく必要がありそうだ。


「飯の時は当番が呼びに来るそうで、それ以外は基本的に自由行動だそうだ。飯は作って貰えるが、それを食べるかどうかは任意。だが、作って貰った物を食べる食べないに関わらず、食事の時は必ずこのリビングに集まることはルールとして義務付けられているからな。後、チーム内で必ず同じ部屋にいるようにと、何度も何度も念を押されたよ」


 単独行動するという事は、一人でいる所を犯人に殺されてしまう可能性があると同時に、単独で行動して人を殺しに行った犯人だと思われてしまう可能性もあるもんな。

 逆にチームで行動して、常に誰かに監視してもらえれば、他の人に守られながらも自分は犯人ではないとアピールできるという訳だ。

 俺もここはちゃんとルールに則ってチーム行動を厳守していきたい。


「了解しました、後は犯人がボロを出してくれるのをひたすら待ち続けるって所っすかね……」

「そうだな……俺には犯人が誰かなんてさっぱり分からん。他の人が犯人を捕まえるのを気を長く持って待つしかできんな。でも、最初に言っておくが俺も他三人も犯人ではないぞ。ここに入ってからは四人で行動を共にしていたが、そんな物を見た奴はいないと言っていた」

「なるほど……」


 正直それでは何の証拠にもならないのだが、今の段階で変に突っ込んで嫌な印象を持たれたくはないので、とりあえずの所はそれで飲み込んでおいた。

 今焦って突っ込んでいく必要は何もない。これからの会話で辻褄が合わないことがあったら、すっとぼけた感じで突っ込んでやれば良いと思う。


「ロクと言ったな。ロクはあのなんとかっていうのに心当たりはないか?」

「俺もさっぱりですよ。ここに入ってからは魔物もいなそうだし、疲れたんで安全な所を見つけて割と直ぐ眠りに入ったです。したら、コーラスさんという人に叩き起こされてここに連れて来られ、来たらなんか人が一杯集まっててっていう感じで……」


 若干嘘を混ぜてしまった。

 正確に言えば、何でか分からないけど寝ていたが正解だ。

 でも、あそこの部屋で寝るまでに他の部屋を物色した記憶なんて全くないし、道具袋の中身も確認したが俺の記憶に無いものは入ってなかった。

 最も、例の魔核結晶っつうのは台座から外したら消え失せるという話なのだが。

 記憶が無いなんて言ったら、まず真っ先に疑われるだろう。

 なので、いつボロが出るか分からない嘘を付くのは得策ではないのだが、ここだけはなんとかそういうことにして辻褄を合わせておいた。

 何度も思い返しているが、本当は俺が犯人で、その記憶がすっぽり抜け落ちているなんてことないよな……。


 一応記憶を整理しているんだが、このシェルターに入った事は覚えている。

 中を探索したのも覚えている。

 入り口と今いるリビングは繋がっているので、建物の構造上絶対に通っているはずだ。

 ここを通って長い通路を渡り、途中で確か部屋があったかな?

 そこには大したものがなくてちょっと見てスルーして、次に入った部屋が多分俺が寝ていたあの部屋で多分間違いないと思う。

 その辺りはなんとか記憶がある。


 でも、あの部屋で何が起きて俺があそこで寝ていたのかが全く思い出せない。

 もしかしたら、あの部屋を出て倉庫に行って魔核結晶を手にとって、その結晶が消えたのに驚いて、また元の部屋に戻って睡眠を取る……なんて行動を起こしたかもしれない。


 でも、何度考えてもそこの記憶だけすっぱり抜け落ちるなんてのはあり得ない。

 万が一『魔核結晶を使用した者は、その前後の記憶がなくなって倒れる』なんてルールが存在したとしても、あの部屋に戻ってきている説明がつかない。

 忘れ物を取りに来たとかだとしても、記憶を失って倒れるタイミングが絶妙すぎて信じがたい。

 だったらあの部屋で何かあって倒れた……と考える方がよっぽど自然だ。催眠の罠とかね。


 ということなので、俺が犯人である可能性というのはとりあえず考えないでおくことにした。

 もしかして魔核結晶に関する新しいルールなんてのが出てきて、段々自分が犯人だと思えるような状況になってくるかもしれない。その時はその時だ。

 今は『疲れて寝ていたからあの場所にいた』ということにしておいて、コーラスさんもサバトも納得してくれると思う。


「リエルはどうだ?」

「…………」


 リエルにも話をふってみる。

 相変わらずうつむき加減のままだったけど、首をふるふると振って応えてくれた。

 こういうので良いから意思表示があると非常に助かる。

 今の段階では、俺の中ではここにいる全員が横一線で犯人の確率は50パーセントといった所だ。

 確率としては17分の1なので、ほとんどの人が嘘をついている訳ではないんだろう。

 リエルだってグレハードさんだって、実に95パーセント程度の確率で本当のことを言っているはずだ。

 この中から嘘を言っている人を一人だけ見抜くのなんて、相当難しい気がする。


 この二人以外の話も聞いてみたいところだったのだが、他のチームはチーム内で俺達と同じように話している様子だ。

 だからと言ってこのままじっとしていてもしょうがない。

 とりあえずシェルターがどういう構造になっていて、魔核結晶があった現場はどんな感じなのか確認しておきたいと思った。

 だが、単独行動はここではご法度だ。なので、グレハードさんとリエルに伺いを立ててみることにする。


「とりあえず現場に行ってみたいんだけど、一緒に来てくれますか?」

「俺は構わんが……リエルはどうだ?」

「…………」


 リエルも黙って頷いてくれたので、これからの自由行動は三人一緒にシェルター内の探索をしてみることにした。



 まずは自分たちの部屋を確認する意味でも、リビングの中央奥に貼りだされている地図を確認する。

 これは今後もかなり重要になってくるはずなので、しっかりメモして書き留めて携帯することにしたい。

 何せ、このシェルター内は通路の長さから察するに相当広いと予測できる。

 一つ一つの通路があれだけの長さなので、全体は普通の民家程度の広さの騒ぎではない。

 下手すれば城一個分くらいの広さがあるような気がする。

 故にもし二人とはぐれて迷ってしまったらそれまで、犯人から撲殺エンドが用意されることとなる。

 犯人から撲殺でないにしろ、独りで歩いていたら他の人間だって不審に思うだろうし、他の人からもマークされ兼ねない。


 実際に貼りだされている地図を見ると、概念的ではあるが、結構綺麗に図が作られていた。

 見た感じ、このシェルターは遺跡の中の洞窟と言えど、しっかりとした建物の構造になっているようだ。

 このシェルター全体は長方形のような形で書かれており、今いるリビングは長方形の上辺に位置してあった。


 まず、入り口が一番北にあり、そのすぐ下にこのリビングがある。

 リビングからはさらに東、南、西に続く道が存在し、それぞれの通路は最終的に南から出た通路に合流するような循環型の造りになっている。

 つまり、東から出て行くと、途中いくつか分かれ道はあるものの、円を時計回りに描くような感じで最終的に西の出口に戻ってこのリビングにたどり着く……といった感じである。


 地図の東側通路、長方形の右の辺には調理場とか『食料庫?』とか『処刑場?』なんて物騒な文字も見える。


 地図の南側通路、長方形の下の辺には大広間が2つと『王室?』と『書斎?』と『空き部屋』が書かれている。ここの『倉庫?』の部屋には『魔核結晶』と強調して書かれていた。ここで犯人は魔核結晶を台座から取り外したと考えていいだろう。

 ちなみにこのリビングから南に出て、中央通路と書かれている道を真っ直ぐ下に行くと丁度南側通路の中央辺りにでて、そこが『王室?』と書かれている場所なのだが、そこが俺の寝ていた場所だと思う。言われてみれば確かに、作りが王室のように豪華だったような気がする。


 地図の西側は部屋がいくつも並んでおり、そこに番号がふられている。

 ここが俺たちの寝室となる所なんだろう。

 グレハードさんから、ここの1番と番号がふられている部屋が俺たちの部屋だと教えてくれた。

 このリビングを西側に出てすぐの部屋だ。

 地図上ですぐと言っても、ここの通路は結構歩くイメージなんだけれども。


 ひと通り地図を確認しメモにしっかり書き留めた所で、一旦部屋に入って荷物を降ろそうということになった。

 とは言っても、何故か異様に二人は身軽だ。

 グレハードさんは戦いに来たのか、自分の武器……結構な大きさの剣だけしか持っていないように見える。

 リエルに至っては武器すら持ってない。

 完全に手ぶらだ。


 普通こういった探索目的で来る場所には大きさは大小あれど、道具袋を持ってくるもんだ。

 俺は現にでっかい道具袋一つ肩にかけるように常に持ち歩いているし、腰回りにも小物入れを何個か備え付けている。

 まさか魔物駆除しに来たわけではないだろうし、手に入れたアイテムはどうしているんだろうか。


 それはとりあえず置いておき、三人はまとまって自分たちの部屋に向かう事になったので、適当に道中その辺りの疑問をぶつけてみたいと思う。



 リビングを出て通路に入ってみると、やっぱり凄く暗い。

 このままでは何も見えないので、やはり炎の魔法を使って明かりを自分で灯そうと思った所で、先にグレハードさんが腰に巻いている道具袋から何かアイテムを取り出した。

 それが結構な明かりとなって、辺りを明るく照らしてくれる。


「何すかそれ!?」

「あぁ、緑光石を加工して作られたちょっと特殊なアイテムだな。ほれ」


 グレハードさんがその光る謎アイテムを手渡してくれる。

 それは手のひらに収まる程度のボトル状のアイテムで、小さいながらも相当明るい。

 本体にはスイッチみたいなでっぱりがついており、それを押すと明かりが消える。


「ほほ~……面白いアイテムっすね」

「つけっぱなしにしていても1日くらいは持つはずだ。ちょっと特殊ルートで調達しているものだから、今は出回っているものではないが、そのうち普及されていくかもしれんな」


 松明や手に持って歩く照明器具は結局炎の魔法を元に明かりを照らしているので、炎の魔法か炎を起こす物がないと使えない上に、ちょっとしたアクシデントで消えてしまうこともしばしばなんだが、これはこのスイッチさえ押せば松明なんかよりもずっと明るく周囲を照らしてくれる。

 光に若干緑色を帯びているのがまた少しおしゃれだ。

 知らない地に遠路はるばるやってくるというのは、こういう新しい発見もあるので面白い。

 ここで色んな人と仲良くなって、もっと色んな事を知ることができたら面白そうだ。


「そういえば、グレハードさんもリエルも荷物ってそれだけなんすか?」


 アイテムをグレハードさんに返し、さっきふと思った疑問を投げかけてみる。


「ん? あぁ。大抵の物はソイチに持たせている。途中で魔物に追われていくつか置いてきてしまったが」


 そう言ってグレハードさんは苦笑いする。

 なるほど。

 戦闘要員と荷物要因に分けて行動していた訳ね。

 戦えない人が魔物のいる場所に採集に行ったりする時に、よくある形だ。

 俺が普段請け負っている依頼にもそういった採掘や採集を行う人の護衛なんていうのもよくあるんだが、きっとグレハードさんもそういう事でソイチさんに付いてここまで来たのかもしれない。

 まぁ、俺の請け負っている依頼はほとんどが護衛と荷物持ちの兼業なんだけれども。


「っつーことは、グレハードさんはソイチさんの護衛任務か何かでここに来たんすか?」

「ん~……。まぁ、そんな所か」

「って事は、グレハードさんも傭兵稼業を?」

「傭兵稼業?」

「あ、ほら。酒場に行って依頼もらって、それをこなして金を貰っている……。主に魔物退治とか護衛任務とか……なんか地域によって呼び方が違ったりするのかな?」

「あぁ……。まぁ、そんな所か?」

「はぁ……」


 なんだこのはっきりしない回答は。

 この事件の犯人とは関係ないんだろうけど、なんかちょっと気になる。

 俺が遠方から来た人間だから、こことは全然生活様式が違うとかなのかな。


「そう言えばリエルの荷物は?」

「ない」


 と、顔を合わせる事もなくそっけなく返されてしまった。


「そんなバカなことあるか。見つけたアイテムとかはどうしてるんだ? っつーか、それ以前に武器も持ってないように見えるんだけど!?」


 と、返事を口に出してくれたので、調子にのって色々問いかけてみると、急に俺の喉元にナイフが出現した。


「!!!」

「…………」

「す、すいません……」


 一瞬の出来事だったので、何が起こったのか一瞬理解できなかった。

 リエルが俺の喉元にナイフを突きつけてきたのだ。

 リエルは深緑のマントを羽織っているのだが、その中からナイフを取り出して一気に俺の喉元へ。


 これは多分投げる為のナイフだ。

 マントの中ではちゃんと武装している訳ね。

 そして、使ってる武器が投げナイフと……。

 投げナイフのみでここまで来られるとも思えないので、恐らくそれは補助用のアイテムで、他にも隠し持っている武器があったり魔法が使えたりするんだろうけれども。


「おいリエル。それは駄目だ。俺達は仲間同士だったはずだ。ロクが犯人だというなら止めはしないが、犯人だと決まるまでは同士討ちをしてはいかん」


 と、グレハードさんが助け舟を出してくれたところで、ようやくリエルも突きつけてきたナイフをマントの中にしまってくれた。


 しかしこの子恐ろしいな。

 ちょっと話しかけただけだったのに、危うく殺されかけたぞ。

 あんまり詮索するなということなんだろうか。

 そんなことしたら犯人だと疑ってくれと言ってるようなものだと思うんだが……。

 もうあまり話しかけないようにしようか……。


1.こんな危ないやつもう二度と話しかけない

2.時を見計らってもう一度謝ろう

3.むしろもっとちょっかいかけてやる


(3だ)

 自分の中で勝手に選択肢を作って、実行してみる。

 心のなかで、こんなちっこい奴に負けるはずないとか、所詮女だとか、美人の鉄仮面が崩れる所が見てみたいとか、そんな変なことを思っていたのかもしれない。

 何故かまたちょっかいかけてみたくなった。


 無言で三人すたすた歩いている時を見計らって、リエルの脇腹辺りを人差し指でちょんと押してやる。

 すると、物凄いスピードで俺に向かって投げナイフが飛んできた。思わず俺は悲鳴を上げてしまう。


「ぎゃーー!!!」


 俺が人差し指でリエルの脇腹辺りを押してからナイフが飛んでくるまで、まるでリエルの動作が見えなかった。

 本当に信じられない反射速度だ。ナイフは俺の目の前をかすめて、壁に突き刺さった。

 それを見ていたグレハードさんは目を丸くして驚いている。


「どうした? 何か出たか!?」

「リ、リエルが急に俺を攻撃してきたんすよ!!」

「違う」

「リエル!さっき俺達は仲間同士だと言ったはずだが?」

「…………」


 ちょっと間があった後、リエルは無言で壁に突き刺さったナイフを抜き、そのナイフで俺のことを指して静かにこう言う。


「こいつのせい。次やったら殺すから」

「ひぃ!! すいませんした!!」


 表情も声も全然変わらない様子だったが、雰囲気が明らかに怒った感じだった。

 思わず俺は頭を下げて謝る。


「ロク……何かしたのか?」

「まぁ……ちょっと場の空気を和まそうとして……ね」

「それは良いが、彼女のことも考えてやってくれよ。そういう気分ではないんだろうに」

「以後気をつけます……」


 なんかノリがクルフみたいになってしまった。

 どういう訳か、元気なさそうな奴を見ると脇腹ちょんをやってみたくなっちまうのは、俺の悪い癖だ。

 大抵の人は「何やってんだよ!!」となって一旦元気になってくれたりするんだけど、一部の人……特に女はマジギレ率が高く、ボコボコに殴られたりセクハラだと吊るしあげられたりする。

 そんな経験が何度もあるのに、何でかやりたくなってしまう。

 俺も反省しないといけない。

 でも、終始無視しきっきりのリエルも、こうやれば一応コミュニケーションは取ってくれるんだということを学習できた。どうにもならなくなった時の手段として考えておこう。



 そうこうしているうちに、俺達の取り敢えずの寝床となる部屋についた。

 ちなみに、あれ以降会話が弾む訳もなく、最悪な空気のままここに直進してきた。

 リエルに至っては本当に一言もしゃべってくれなくなってしまった。


 で、その部屋を見てみるんだが、とにかく埃臭い。

 広さはそれなりにあって、ベッドと思わしき埃の山も2つ程確認できるのだが、今の段階ではとても寝れたような場所じゃない。

 ここを寝床とするには、まずは掃除から始めないといけなさそうだ。

 他に見当たるものは 武器が置けるようなラックや鎧が置けるようなラック、小物がしまえそうな棚、そしてテーブル一つにそれを囲うように置かれている椅子が4つ。

 全部埃まみれで、現状では全く使い物にならなさそうなのがポイントだ。

 それを見るなり、三人は呆然と入り口で立ち尽くしてしまう。


「グレハードさん、鎧重そうですし、相当疲れてますよね……? 寝てみます?」

「……いや、寝てみないな……」

「リエルはどうだ? ……ほら、レディーファーストだ。思う存分ベッドにダイブしていいぞ」

「……埃まみれで使えない」


 無視されるかと思ったけど、リエルからも至極真っ当な返事が返ってきた。


「これはしっかり掃除するしかなさそうだな……」

「そうっすね……」

「…………」


 とりあえず三人は荷物を起き、この部屋にある物を適当に見て回る。

 ベッドには以前枕だったと思われる朽ち果てた物体Xやら、以前は掛布団だったと思われるずるずるになった物体Yなんかが置かれていたが、もちろんこのまま使うことはできなさそうだ。

 ラックも棚も色々調べてみたけれども、中身は本当にすっからかんで、もしかしたら既に物色された後なのかもしれないと思えてきた。

 人が触りそうな所にはところどころ不自然に埃がついてない所があったりしたしな。

 掃除は少し手間がかかりそうだと思ったので、俺たちは身軽になった所でとりあえず旦シェルター内を一周してみることにする。




「……どうしたロク?」

「いや、ドアには鍵がついてないんだなぁ……と思って」

「確かに……」


 部屋を出る時にドアを確認してみるんだが、鍵のようなものは存在しない。

 もし各部屋に鍵がついていて、寝るときは鍵を掛けることを全員徹底すれば、夜な夜な犯人に侵入されて殺されるなんて事は防げるだろうにと思ったが、ないものは仕方がない。

 この状態では、夜な夜な犯人が部屋に入ってきて、かたっぱしから16人全員殺されるなんてことも、非現実的ではあるけれども、可能といえば可能だ。

 隣の部屋もすぐ近くにある訳ではなかったので、悲鳴を上げた所で他の部屋の人間に伝えるようなことはできないだろう。

 つまり、寝ている時は全員ほぼ無防備な状態になっていると言える。

 でも、チーム内で誰かが動いたらすぐ分かるし、そうならないようにチームを作った訳なんだよな。


 とにかく、嫌でもこの環境の元で生活していかなくてはならないので、いくらチームを作ったと言えどなんらかの対応策は考えておいた方が良さそうだ。

 とは言ってもパッと思いつく対策なんて、睡眠を三人交代で取るくらいしか思いつかないが。




 リビングの西口から出て、一本道をまっすぐ行くと一番最初に俺達の部屋にたどり着く。

 俺達の部屋から南に歩いて行けば他のチームの部屋を全部見回る事ができる他、そのまま南に突っ切って、反時計回りな具合に回っていけばシェルター内を一周しつつリビングの東口に戻ることができるので、その経路を辿ってシェルター内を把握していくことにする。


 少し歩くと俺達の部屋と同じようなドアを見つけた。

 地図通りならばここは『コスター・サバト・オルロゼオの部屋』となっているのだが、サバトは分かるにしてもコスターもオルロゼオも誰だか分からん。

 確かあのオールバックの馬鹿野郎がサバトと一緒のチームな気がしたので、そいつがコスターかオルロゼオだ。

 あれ?

 オルロゼオってグレハードさんの仲間の中の一人の誰かだっけか?

 人の名前と顔を覚えるのは苦手という訳ではないのだが、こうも人数が多いと混乱してしまう。

 まぁ、実物見てみれば分かるだろう。


 そう思ってとりあえず挨拶がてら、顔を合わせようとドアをノックする。

 が、返事は返ってこなかった。仕方ないので勝手に開けさせてもらった。


「……誰もないか」


 内装は俺らとほぼ同じ造りになっていた。

 埃具合まで一緒だ。


「言い忘れたが、他人の部屋にあるものは手にかけたら処罰の対象になるからな。各人の部屋以外のものは早い者勝ちだが、各組の部屋にあるものは手出ししてはいかんというルールになっている。元々そこにあったものも含めてだ」

「了解っす」


 グレハードさんにそう注意を促される。

 まぁ、誰もいないなら用はない。さっさと次の部屋に行くことにしよう。




 さらに5~6個部屋を通過し、全ての部屋を覗いてみたけれども結局誰とも出会うことはなかった。

 全部の部屋が俺達の部屋と同じように埃まみれで、まだ荷物も置かれていなかった所を見ると、まだ誰も自分たちの部屋には来ていないのだろう。

 確かに、俺達が一番早くリビングを出て行ったような気がする。


 そのまま誰とも合うことなく、南へ進んだ通路はT字路に突き当たった。

 地図を確認すれば、ここを少し左に行けば西側大広間で、右へ行けば空き部屋だ。

 とりあえず全部の部屋を回ってみたかったので、洞窟右手の法則よろしく、右側にある空き部屋から見て回ることにする。


 ちなみに、洞窟右手の法則というのは俺が勝手に作った法則で、入り口がひとつの洞窟内の全てを探索したい時は、入ってすぐ右手を壁を延々辿っていけば迷うことなく洞窟内を回れるといった法則だ。

 確か既にそれに似たようなことを見つけている人がいたが、俺の中では勝手にそう呼んでいる。

 もちろん、その法則で全て完璧に洞窟内を回りきれる訳ではないが、地図を見る限りだと割りと単純な構造をしていたのでその右手の法則に則って進んでいくこととする。


 T字路を右に行くと割りとすぐに部屋のドアを見つけた。

 ドアを開けて中を覗いてみるも、何の変哲もない俺達の部屋と同じ作りの空き部屋だった。

 何も面白いことはなかったので、すぐに次に行くことにする。


 次は西側大広間だ。

 中を覗いてみると、確かに俺達の部屋よりも大分広い部屋がそこにはあった。

 なんだか会議室のような感じで、テーブルと椅子が並べられていた。

 テーブルやら椅子やらが並べられているスペースの他にも、何も置かれていないスペースがあり、ここでなら全員が雑魚寝できそうな感じだ。

 そういえば話し合いの中で寝る時は全員一緒の方が安全だなんて案も出ていたが、女性もいるし、それは抵抗あるって感じで却下されていたな。

 テーブルや椅子の他にもラックや飾り付けなんかがあり、細かく調べてみるのもいいかなと思ったんだけれども、とにかく広いこのシェルター内を全部屋丹念に調べあげたら日が暮れてしまうし、グレハードさんもリエルもそれほど興味なさそうだったので、ザッと部屋の中を見渡すだけで次へ行くことにする。


 今いる南通路を西から東へ向かって直進していくと、西側大広間の次は『王室?』と地図に書かれている場所についた。

 ここは俺が眠っていた部屋だ。

 中に入って様子を確認してみるんだが、確かに王室にふさわしい感じで俺達の部屋とは少し違った。少し広い感じがするし、ベッドの大きさも違う。

 面白そうなアイテムも結構転がっているんだけれども、今はそれをパクっていく道具袋がない。

 確か自分の部屋以外にあるものは、早い者勝ちで自分の所有物にしてもOKというルールが作られたはずだ。

 今ここにある物を持ち帰っても別に問題はないということになるのだが、今この状況でアイテムを持ち帰るというのもなぁ……。

 それよりも先に、まず自分たちがここから脱出することを考えないといけない。

 それに、これだけのアイテムを持って帰ろうとしても、かさばって帰り道で捨てていくことになりそうだ。

 また、持ち帰るアイテムなら既に結構道具袋に入っている訳だし、とりあえずの所はいいかなと思ってその部屋から何か持ちだそうとする手を止めた。


 実際にグレハードさんもリエルも、アイテムには一切手を付けていなかった。

 この遺跡に潜り込んだ以上はこういった珍しいアイテムが目的なんだろうけれども、二人共今はそれどころではないとわきまえているのだろう。

 そういう事で、別に隅々まで見る必要もなくこんな部屋かと確認できたら次へ向かうこととする。


 王室を出ると前と左右に道が出ているんだが、前を進むとリビングにたどり着くんだな。

 ここはコーラスさんと一緒に通った道なはずだ。左へ行くと元の道に戻ってしまうから、右へと進んでいく。

 俺の強引な要望のせいで結構な距離を二人にも歩かせてしまっているが、二人とも文句の一つも言わずについてきてくれている。


「なんか俺のわがままで付きあわせてしまってすんません」

「いや、何かあった時の為に確認しておいた方がいいだろう。正直なことを言うと、実はみんなが集まる前に他にシェルター内に人が居ないか確認するため、俺は既に一周してるんだけどな」

「あ、そうなんすか!? 申し訳ない」

「いや、構わない。どのみち三人で行動しなければいけないというルールなんだから。な? リエル」

「…………」


 リエルも静かに頷いてくれた。

 リーダーが人の良さそうな人で本当に良かった。

 俺としてもやりやすい。

 ということなんで、少しばかり申し訳ないと思いつつも、探索を続けていくこととする。


 王室の次に来たのが東側大広間だったが、ここもさっきの西側大広間とほぼ同じような造りになっていたので、さらっと中身だけ覗いて次の部屋へと向かう。

 次は例の魔核結晶があった額縁のある『倉庫?』と書かれた場所だ。

 中に入ってみると、人がすでに居た。コーラスさんと話の腰折り太郎さん……名前は確か……。


「お、ソイチか」

「ん? おぉ、グレハードか」


 ソイチだ。

 コーラスさんとソイチさんだけは二人チームになったんだよな。

 そのソイチさんがでっかい袋の中に、ここにある物を次から次へと放り込んでいた。


「安心しろグレハード。面白そうな物は大方確保しておいた。ただ、持ちきれんわい。お前、予備の道具袋はもっておらんかったか?」

「それだけの荷物を持ち帰る気なのか? お前、来る途中にどれだけ荷物を捨てたのか覚えているのか?」

「これ全部持ち帰るわけではないわ。後でゆっくり精査して、持ち帰るものは選ぶ! ほれ、お前も早く手伝わんか!」

「だ、ダメですよソイチさん!! 本は一度シドルツさんに見てもらう事になっているんですから!!」


 暴走するソイチさんをコーラスさんが呆れながらも止めていた。

 なんつーか、このソイチって人、欲の固まりみたいなおっさんだ。

 そう言えば話し合いの時も結構自己中心的な提案して顰蹙買っていたな。

 その時は隣にいた女戦士さんがそれを制していたけれども、それがなくなって抑圧されたものが解放されたみたいになっている。

 コーラスさんにその女戦士さんの役割を任せるには少し荷が重いかもしれない。


 グレハードさんはやれやれといった感じで、ソイチさんに言われた通りこの倉庫内にあるものを適当に物色し始めた。

 倉庫にある物を物色する人が二人に増え、傍に居たコーラスさんも、呆れたような感じになってしまった。


「大変そうすね……」

「あははは……。僕は全然大丈夫なのですけれども、サバトさんがみなさんととうまくやっているか心配で……」

「あの人も色々大変そうっすもんね……」

「良い人なのですが、誤解されやすい人なので……。それよりも、ロクさん達はどうしてここへ?」

「一応シェルター内の見学を~と思って来たんすけど、ここって例の台座がある所なんすよね?」

「あ、そうですそうです。ほら、あそこ」


 コーラスさんが指さした先はからっぽのラックの上。

 台座と言っても分かりやすい位置にデンと構えている訳ではなく、壁の上の方にひっそりと目立たない所にあった。

 あれではただのシェルフだ。元々部屋が暗いというのもあるが、こんな状態ではいくらあそこに魔核結晶と言われる宝石のような物が置かれていても見落としてしまいそうだ。

 俺は近くに行ってそれを観察してみる。


「……なるほど」


 台座の両側には魔核結晶を固定していたと思われるくぼみが有り、ここに魔核結晶がカッチリと嵌めこまれていたんだろうなと想像できた。

 犯人はここから魔核結晶を取り出したが、その後結晶は消えたので驚いた……と。

 あれ?

 ということは、犯人は二人組以上の確率は低そうじゃないか?


 普通、そんな不可解なことが起こったら人に報告するような気がする。

 魔核結晶をこの台座から取り外したせいで例のラストフェンスが出現したという事実を知ったのは、シドルツさんに説明をもらってからだ。

 仮に二人組の片方が事前にここから魔核結晶を取り出していたのだとしたら、消えたことに驚いて相方に報告するだろう。

 報告を受けた方はシドルツさんから説明をもらった時に、相手に問い詰めるだろう。

 何せ、その人としては、取った相方が死なない限り自分は出られないのだから。

 別に報告することもないと思って、結晶が消え失せた事は華麗にスルーしたとも考えられるか……?


「どうしました?」

「あ、いや、ちょっと考え事を……」


 台座を見て色々考えていたら、コーラスさんに声を掛けられた。

 コーラスさんはサバトとの二人組だ。

 一応コーラスさんからしてみても嫌な気分になる話じゃないし、ちょっと話題をふってみよう。


「ここにその魔核結晶ってのが挟まっていたって事ですよね……?」

「恐らくは……」

「挟まっていた物を取ったら、魔核結晶は消え失せた……」

「シドルツさんがそうおっしゃってましたね……」

「コーラスさん、ここにある石を拾ったら消えた……となったら、驚きますよね?」

「驚くでしょうね……」


「そしたらサバトさんに報告します?」

「報告……? 事の大小にもよりますけれども、あまりどうでもいいことは言わない気がします。サバトさんはそういうの言われるのうっとおしいと思うと思うので……」

「物が消えたっていうのは、コーラスさん的にはどうでもいい事の中に入ります??」

「ん~……。驚くでしょうけれども、わざわざサバトさんに『消えましたよ!!』なんて言わないですかね……。あ、もしかして僕を疑ってます?」


 と、コーラスさんは少し苦笑いしながら俺にそう聞いてくる。


「いや、その逆です。普通驚いたら、相方にアクションを起こすんじゃないかなぁと思ったんですよ。その後に魔核結晶を取り出すことがラストフェンス起動のキーになっていると分かった訳ですから、シドルツさんがあの説明をした時に、相方が『そう言えばお前!!』みたいな事言い出すんじゃないかなぁと思ったんです」

「あ……なるほど。確かに、事前に同行者に報告していたら、犯人は自分が犯人であるということを同行者に知られているわけになりますもんね……」

「だから、単独で行動していなかった人は犯人じゃないのかなぁと思ったっす」

「なるほど~。でも、僕は報告しないかもと言ってしまいましたね。嘘でも報告すると言っておけばよかったかな」


 そう言ってコーラスさんはジョークっぽく笑った。

 犯人だったら動揺してもいいような所だけど、コーラスさんにその様子は感じられない。

 もうネタばらししてしまった以上、犯人かどうかの様子を探るなんてことはできないけれども、正直に答えてくれると信じて、サバトだったらどうかという話も聞いておくことにしよう。


「サバトさんだったらどうっすかね……? コーラスさんに『結晶が消えた!!』みたいなこと、言うと思います?」

「絶対報告しますと言いたいところですが、言わないでしょうね……。基本無口な方なので、あまりそういった雑談みたいな事はしてくれないんですよ……」


 と、正直にコーラスさんは答えてくれた。有り難い限りだ。

 つまり、俺の考えていたことは何の参考にもならないということだった。


「いえ、正直にありがとうございます。二人組以上は白かな~と思いましたけど、そう簡単なことではなさそうですね」

「そうですね~……。あ、でも、僕たちは白ということにしておいて下さい。証拠はありませんけれども」


 コーラスさんは本当に良い人だ。

 なんでこんな良い人があんな粗暴な人間と一緒にいるのか良くわからない。

 むしろ、良い人だからこそああいった奴がそれに甘えてくるとか、そういう感じなんだろうな。

 今後時間があったら、コーラスさんとサバトさんの関係も聞いてみよう。


「のうお前! 次の部屋行くぞ次!」

「あ、すみません! 今行きます!!」


 ソイチさんはこの部屋から物を盗り終えたのか、ぱんぱんに膨らんだ荷物を抱えてそうコーラスさんに呼びかけた。

 こいつ、本当にこの部屋にあるものほとんど持って行きやがったな。

 お陰で『倉庫?』と書かれたこの部屋が完全にすっからかんの空き室になってしまっている。


「それではロクさん、僕は失礼します。何かありましたらまたぜひ聞かせて下さいね。僕は何でも協力しますから!」


 そう言ってコーラスさんは去って行ってしまった。


 正直、コーラスさんが犯人である確率は0パーセント!!

 あんないい人が犯人のはずがない!

 と言いたい所だけれども、これは本人の素行の良さとか悪さとか関係なしに、誰もがやり得る行動なんだ。

 良い人だから犯人じゃない。

 悪い人だから犯人っぽいというのは全く通用しない。

 感情や雰囲気に流されて犯人ではないと見誤ったらダメだ。

 隙を見せれば犯人に殺されるかもしれないと、ちゃんと自覚しておかなくてはならない。

 感情論抜きで、冷徹に犯人探しをしなくてはならないと再び思い直した。


「けど、よくもまぁあれだけの物をパクっていったことで……」


 コーラスさんとソイチさんがいなくなってから、部屋が本当にガランとしてしまっている。

 あのソイチさんなんてもう、魔核結晶見つけたら一目散にぶん取るんだろうなと思う。

 感情論抜きでとか言ったけど、もうあいつが犯人でいい気がしてきた。


「……あれ?」


 と、思った所でそれとは全く逆の事を思いついてしまった。

 裏付けを取るために、グレハードさんに聞いてみたいと思う。


「どうした?」

「あ、ソイチさんっていつもあんな感じなんです? 宝の山を見つけると根こそぎもっていってしまうような……」

「まあな。あいつは結構目が利くから、価値のあるものは片っ端から持って行ってしまう。お陰で、荷物が増えて仕方ないわ」


 ソイチさんは目が利く人なのか。

 俺も直近の仕事で目の利く人と一緒になったのだが、目の利く人って珍しいもの見るとすかさず飛びつくんだよな。

 このシェルターの中にあるものは恐らく古代セディアールの物である事は間違いないだろうし、珍しい物も多いのだろう。

 実際、俺も見たことないようなアイテムをここでたくさん見てきている。

 俺も色々持って帰りたい所だけれども、残念ながらソイチさんのように厳選出来るほど目は肥えていないので、荷物も多くなってしまうし、まるまる諦めているが。

 それはいいとして、本題に入ろう。


「つまり、ソイチさんが入った部屋は空っぽになってしまう……と」

「そこまで取らせはせんよ。どうせ持ちきれないんだ。今は他の人に取られないように取り敢えずさっさと全部持って行きたいみたいなことは言ってたがな」

「…………」


 ソイチさんはかなりの量の物をこの部屋からパクっていった。

 以前にこの部屋に入っているのだとしたら、魔核結晶は当然、他の物もある程度持って行っているということになるだろう。

 それを今持っていったということは、以前この部屋に入ったことがない……?

 なんかムカつくけど、なんとなくソイチさんが犯人である可能性が低くなった気がする。


 いや、それにしても変だ。

 これだけパクれるものがあったというのに、犯人は他の物には目もくれず魔核結晶だけをパクっていこうとしたということになるのか……?

 確かに、魔核結晶はシドルツさんに見せてもらったイラストを見る限りでは綺麗な宝石のようではあったし、素人目にも高価な物だろうという予想は立てられる。

 犯人も荷物が大変だから高値で売れそうな物だけに絞ってパクっていったということなのだろうか。


 そんなことを色々考えていると、何か知らんが急にリエルに袖をくいくいと引っ張られた。


「…………」

「ん? どした?」


 リエルは自分から俺に呼びかけたくせに、いつもの調子の知らん顔でしばらく無言の間を作る。

 リエルの方から俺にアプローチしてくるのは珍しいなと思いつつ、再度「何かあったのか」と聞くと、リエルはぼそぼそと言葉を返してきた。


「地図」

「ん? 地図……はい」


 よくわからないけれども、地図を要求された。

 地図をリエルに渡すと、リエルはそれを持って一人で少し早歩きな感じでこの部屋から出ていこうとする。

 が、当然単独行動はご法度だ。俺もグレハードさんもすかさずリエルを止めに入る。


「どこ行くんだ? 単独行動はダメだぞ?」

「…………」


 それを聞いてリエルが足を一瞬ピタッと止める。


「行きたい所あるなら言ってくれれば行くけど……?」

「…………」


 俺がそう言うも、リエルは地図を少し確認した後、じっとこっちを見ているだけで何も言ってこない。

 普通に話してくれれば助かるんだけど、こういうタイプの人間はこれだから困る。

 普通にしゃべると死ぬみたいな病気にでもかかっているんじゃないのかこの人。

 また無言で見つめ合う……いや、睨まれる変な間が続いていると、急にリエルが部屋の外へダッと走りだした。


「おい!!」

「リエル!!」


 すかさず俺とグレハードさんはリエルを追うような感じで勢い良く外へと飛び出す。

 何だこの人!?

 まさかリエルが犯人で、コーラスさん達を追っているとか?


 外へ出ると通路は真っ暗なんだが、リエルはそんなの物ともせずに一直線に走っている。

 俺はさすがにこのスピードを暗闇で走れる程器用ではないので、右手に炎の魔法を作って追っているんだが、俺がほぼ全力で走っているにも関わらず、その距離が全く縮まらない。

 この人凄いぞ。

 さすがにこの深層に来られるだけのことはある。

 自分で言うのも難だが、俺だって足はかなり速いほうだ。

 最近では自分より速いと思った相手はいない。

 でもこの人は俺と同等……自分より年下っぽくて、しかも女だ。

 信じられたようなものではない。


 グレハードさんは後ろで俺とリエルの静止を呼びかけているが、その声も聞こえなくなりそうな程遠く離れている。

 本当に凄いスピードだ。

 暗闇の中で見失いそうなものだけれども、幸い道も一本道だったし、途中の扉に入ればすぐに分かるような距離感は何とか保っている。


 こんなに道が長いのかと思えるほど結構なリエルを追いかけ続けていると、ついにリエルは途中にある部屋の中へと入っていった。

 俺もリエルに続いてすかさずその中へと入ったんだが……。


「何だこの部屋……?」


 椅子みたいなのが何個か並んでいて、そこにリエルが座って……。

 それでリエルが凄い顔して俺を睨んで……。

 あれ、これまさか……。


「……はい。お疲れ様でした」


 俺は一礼してすぐ手に灯っていた炎を消し、その部屋の外へと出た。

 ここ、トイレっす。

 間違いないっす。

 暗くてよく見えなかったけど、その……『音』がしたので、分かったっす。


 本当に、本当にごめんなさい。

 だってほら、ねぇ。

 チーム行動は遵守事項だし、ほら、その……ね、あんな勢いで走られたら何事かと……。

 まぁ、故にあんな勢いで走ったんだろうけれども、その、何というか……まさかトイレがこう、個室のような感じになってないなんて思わなかったし、不可抗力というか、俺としては最善の行動を取ったに過ぎないわけなんだし……え~と……本当にごめんなさい。


 あの人だって女の子なんだ。

 人におしっこしている所なんて見られたら、もうどうしていいか分からないだろう。

 俺だってどうしていいか分からないもん。

 だから、とりあえずトイレの出口の前で、土下座の格好のまま固まっておいた。

 しばらくすると、トイレの中から足音が聞こえてくる。

 このまま背中をナイフで突き刺されそうな気がしなくもないが、誠意を持ってだ。


「…………」


 足音が俺の前で止まった。

 リエルはこの俺の土下座を見て何をどう判断するのだろうか。

 そして今、彼女はどんな表情でこの俺の綺麗な土下座を見ているのだろうか。


「…………」

「…………」


 俺はずっと地面とキスする格好のまま固まっているので、彼女がどんな表情しているか分からない。

 彼女も彼女で、何の言葉も掛けてこないし、俺の前から動く様子がない。

 恐る恐る顔を上げてみると、真っ赤に染まったリエルの顔があった。

 いつもの無表情とはちょっと違って、かなり恥ずかしそうな感じでむくれているのが分かる。

 なんかこの子、意外と可愛い所あるぞ。

 不可抗力だっていうのは理解しているから怒鳴りつけないし蹴ったりしてこないのかな……?


 とりあえず顔を起こして、立ち上がる。


「…………」

「…………」


 リエルがむくれたような顔でこっち見てる。

 俺だって何て言ったらいいのか分からない。しばらく無言で見つめ合ってしまう。

 やばいやばい、何て言えばいいんだこういう時!?


1.ごめんなさいっ!!

2.不可抗力だ!!

3.スッキリした?


(3はねぇだろ3は!!)


「す……スッキリした?」


 言っちゃったーー!!

 何選択肢間違えてんの俺!?

 これまじでやばいよ殺されるよ!?

 殺されても文句言えないよ!?

 相手はあの神速のリエル師匠だよ!?

 瞬きする前にもう死んでるかもしれないよ!?


「…………」


 ドンと両手で体を押されただけだった。

 そしてリエルはプイっと来た道の方へ向き直って、すたすたと一人で歩いて行ってしまった。

 こんなことになるなら、普通にトイレ行ってくると言えば良かったのに。

 それを言うのも恥ずかしい事なのか?

 まぁ、女の子ってそういうのあまり口に出したくないみたいな所あるしな……。

 とりあえず、わざとじゃないということと、はっきりとした謝罪の言葉を真面目に掛けておこう。

 そう思って、リエルに追いつく。


「ごめんなさい!! でもわざとじゃないんです! それはどうか理解してくれると助かります!!」

「…………」


 リエルの進路を遮るように前に出て、頭を下げて真面目に謝った。

 しばらく無言の間が続いた後、リエルはいつもと変わらない調子でぼそぼそと俺に声をかけてくれた。


「次やったら殺すから」


 慈悲深くも有り難いリエル師匠のお言葉だった。


 それから二人で無言のまま結構な距離を引き返すように歩いていくと、ようやくグレハードさんと合流することができた。

 こんなにも差がついているとは思わなかった。

 かなりのスピードだったもんな。


「ロク! リエル! 単独行動は処罰の対象になるぞ!!」


 もちろん、グレハードさんははぁはぁ言いながらもカンカンだ。

 これはごめんなさいするしかない。

 当のリエルも申し訳無さそうな顔をしてはいるが、そっぽ向いている。

 まぁ、あれほどまで言いたくなかったことを今ここで正直に「トイレに行きたかった」と言える訳ないもんな。仕方ないのいでフォローしてやるか。


「すいません。その、なんつーか、え~っと……この子、リビングに大切なもの忘れたらしくて……」

「大切なもの? それなら、三人一緒に取りに行けばよかろう」

「あ、いや、それがどうも、あのソイチさんの勢い良く物をパクってく様子を見たら凄く不安になったようで……。本当に大切なものだったみたいなんで、我を忘れてたみたいっす……」

 即興なのでかなりひどい言い訳になってしまったが、これでなんとかごまかせて欲しい!

「本当なのか?」

「……ごめんなさい」


 リエルはぼそぼそながらも、ちゃんと言葉に出して謝った。

 なんだ。

 意外と素直でいい子じゃないか。

 リエルも口に出して謝ったことだし、これはこれでもういいだろう。

 グレハードさんも許してやって欲しい。

 俺は許した。

 そしてリエルさんも俺を許してやって下さい。


「今回の事情は分かったが、これからはそういうのはなしだ! 今度相談なしに単独行動があったら、みんなの前で報告させてもらうぞ!いいな!?」

「すいませんでした……」


 グレハードさんも納得してくれたようなので、俺もしっかりと頭を下げて謝っておく。

 俺もグレハードさんの立場だったら、こいつが犯人だと疑いたくなっても仕方ないと思う。

 そういう意味では、リエルも俺も軽率な行動だったと今更ながら思う。

 今度からはリエルもトイレ行くときは恥ずかしがらずにちゃんと言って欲しい。


「あ、なんか途中にトイレあったんで、ちょっと行ってきてもいいすか?」

「あぁ。俺も行こうかな。リエルもすまないが同行してくれ」

「…………」

「っつかこれ、トイレ行くときも三人なんすかね? 結構めんどくさくないすか……?」

「ぬぅ……。その辺りは聞いていなかったな。今度集まった時にみんなに聞いてみるか」


 リエルから地図を返してもらって、トイレのある場所を確認してみる。

 これだけ広いシェルターにも関わらず、リビングの東側の通路に一つだけしかトイレはなかった。

 地図で今行ったトイレの位置は確認したけれども、もう東側通路の随分上の方まで来てしまったな。


 どうでもいいけどこれ、夜中にトイレ行きたくなったりしたら他の二人起こして同行するのか……?

 ひどいな。

 でも、そこで単独行動を許してしまうと、犯人としても「トイレ行ってくる」で簡単に単独行動が出来てしまうし、同じくトイレ行ってる奴も殺される可能性が高くなってしまう……か。

 完全にトイレ殺人になっちまう。

 トイレ行くときも徹底して三人行動にすれば、犯人の動きはほとんど封じられそうなものだけれども、それだとかなり不便な気がしてならない。

 こればっかりは他の人の意見も聞いた方が良さそうな気がする。

 俺個人としては、最初のうちしばらくは三人の方が安全なような気がするけど、賛成反対かなり微妙な所だ。


 とにかく、今回は三人で一緒にトイレに行って来ることとした。

 何だか初っ端から先が思いやられるようなイベントが起きたのだが、この先みんなとうまくやっていけるのか不安になってきたぞ。

 今のところ、犯人に殺されるようなイベントは起きていないし、雰囲気も平和と言えば平和なんだが、今犯人は何を思っているのだろうか。

 一緒にいるグレハードさんもリエルも、犯人であるという可能性を忘れてはいけないと思いつつ、俺達三人は探索を続けていった。

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