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26.反撃の一手

―― 6日目 2回目食事後 ――



 色々な意見を互いに出し合いながら事件の考察をしたが、なかなか答えは見つからない。

 話し合いながらニーナを部屋に残し、4人となってリビングへ戻って全員でフェンスを確認しにいったのだが、フェンスが消えているということはなかった。


 これで、グレハードさん、ソイチさん、エドリック、ウェリアさん、スレバラさん、トルネは最初から犯人ではなかったということがはっきりと分かった。

 それと同時に色々と考えていた俺にも一つ思いついたので、それをみんなに言おうと、リビングに戻って適当に椅子に座って4人で話し合いを始めた。


「犯人の疑いがかかっている俺がいうのも難なんですけど、もしかしたら犯人が分かったかもしれません」

「本当ですか……? 言い逃れでないといいんですけれどもね」

「話してみろ」


 コスターさんは相変わらずの調子で俺をまだ疑っている様子だったが、シドルツさんがそう言うので話を進めていく。


「その前にシドルツさん、強姦の線もあると考えたのは何故ですか?」

「彼女の太もも辺りに血痕がついていた。その付近には傷がなかったのにも関わらずだ。彼女は見ての通りロングスカートを履いていた。普通に殺したのであればそこに血痕はつかない。確かなことではないが、強姦の線も十分に考えられると思った」


「……なるほど。分かりました。それはひとまず置いておきます。俺主観の話で申し訳ないんですけれども、俺は本当にやってないんですよ。やってないので、他の全員にアリバイがあるということ自体が既におかしいんです。じゃあ考えられる可能性は何か? ニーナが単独で殺しに行ったという線と、今ある二人組のいずれかが共犯として行った犯行であるという線しか考えられません。ニーナが犯人だとして、このタイミングでトルネを殺すのはあり得ません。彼女達姉妹の間柄を考えると、ニーナが犯人であった場合、トルネが味方になってくれる可能性もあるからです。まだ10人以上の人間が残っている状態で味方になってくれる可能性のあるトルネを殺すのは、自分の首を締めることの他ないです。この先一人で彼女が残りの人間を殺すとなると、トルネがいたほうが絶対に有利なはずです。従って、彼女が犯人である可能性は極端に低いと考えています」


 俺の話は他3人ともしっかりと聞いてくれている。

 俺は話を続けた。


「ならば残された可能性は共犯である可能性です。二人組の両方が共犯であるならば、互いに嘘を言い合うことでアリバイは作れます。どちらにしろ、二人で殺しに行ったのであれば二人一緒にいたという証言に嘘はなくなりますが。じゃあどの組の行った犯行なのかを考えてみたのですが、普通に考えれば片方はフェンス発動者ではないので殺しに加担する必要はないです。主犯の方がそんな提案したら提案を受けた相方は100パーセント拒否するでしょうし、主犯が犯人だと考えてみんなに言いふらすことでしょう。コスターさん、シドルツさんがもし「トルネを殺しに行こう」と提案してきたらどうしますか?」

「……その場は乗った振りをして、みんなに報告しますかね。最も、そんな馬鹿な提案をシドルツさんがするとは思えませんが」


「それが普通です。でも、この中で一組だけそんな普通の反応をしない組があるんです。シドルツさん、どの組だと思います?」

「そうだな……。消去法でいけば、コーラス&サバトの組か?」


「その通りです。彼らは幼いころからの仲で、互いに非常に強い信頼関係を持っています。特にサバトさんは、コーラスさんを守ることに関しては自分の命を捨てるのもいとわない覚悟でいます。なかなかそういった態度を表に出さないので、みんなにはピンと来ないことかもしれませんが」

「頷けなくはないですね。私も彼ら二人の話を聞いたことありましたが、サバトさん、特に彼は無関心な振りをしてコーラスさんに関しては敏感に反応していると感じました。確かに、彼らが共犯であると言うならば、今回だけでなく今までの犯行にも筋が通ります」


「そうなんだ。グレハードさん、ウェリアさん、スレバラさんを殺すことが出来るのはコーラスさんしかいない。今回処刑場に彼を閉じ込めてはいましたが、彼を監視しているのはサバトさんだ。サバトさんが鍵を開ければ二人は自由に動くことが出来る。そうでなくてもサバトさんが単独で行動を行い、コーラスさんが嘘のアリバイを言えばそれで犯行は成立する」

「……あなた、たまにはまともなことを言いますね。これは決まりでしょうか」


 コスターさんはそう言ってくれるが、この人、意外と人の意見に流されやすいのかな……?

 それとも俺の説明にそれだけの説得力があったのだろうか。

 今まで俺が犯人に決まっていると言ってたのに、今はこの変わり様だ。

 俺としては味方となってくれたので嬉しい材料なんだけれども、この人大丈夫かという不安も出てきてしまう。


「ただ、強姦という線もあるのが少しひっかかります。彼らがフェンス発動者の犯人であるというならば、トルネを殺す動機はそれで十分だ。強姦なんていう余計なことをする意味が無い。もしその二人が犯人でないというのであれば、立派な動機になりそうなものですけど……」

「それだけ性欲に従順な本能丸出しの馬鹿だったということなんじゃないですかね。相手は魅力的な女性ですし」


「あれ? コスターさん、もしかしてトルネのこと気になってました?」

「は、はぁ!? そんな訳ないでしょう。私はあくまで一般論として言ったまでなんですが!」


「あれ? なんか焦ってません?」

「焦ってないですよ!? それともあなた、彼女に女性としての魅力は全くないと言ってます?」

「…………」


 まずい。

 コスターさんが変なことを言い始めるものだから、余計に突っ込んじゃったのが災いして話が変な方向に逸れようとしてる。

 リエルの視線も感じるし、墓穴を掘ったくさい。

 いいや、ここは適当にごまかしておこう。

 俺の方から話題を逸らすようなことを言っておいて申し訳ないが、話の本題はそこじゃないんだ。


「いや、それは今はどうでもいい」

「よくない」

「…………」


 リエルに突っ込まれた。

 リエルを見ると、じっと無表情で俺の方を見ていた。

 やめてくれよ。

 今トルネが魅力的かどうかなんて本当に関係ないんだ!!

 今はそんなこと話している場合じゃないでしょうに!!

 リエルもちょっと空気を読んでくれ!!


「あーはいはい。おっぱいおっきくて魅力的ですね。はいはい。そりゃ、あんなの目の前にしたら強姦もありそうですね。俺はしませんが」


 と、逆ギレっぽく言ってさっさと次の話題に移ろうとする。

 リエルの顔をちらっと見たら少しむくれているような顔をしていた。

 もしかして、リエルは妬いてくれているのか?

 ま、まぁ、今はそんなことどうでもいい。


「まぁ、あくまで可能性だがな。後で詳細に彼女の遺体を調べてみたほうがいいかもしれんな」


 と、シドルツさんは冷静に話題を流そうとするのだが。


「このド変態にやらせたらダメですね。何を始めるかわかったものではありませんよ」


 と、コスターさんがそんなことを言い始める。


「コスターさんこそトルネを魅力的だと思ってたんだろ!! っつか、この状況でそんな不謹慎なことする人だと思います俺!? 凄いショックなんですけど!! 俺そんな人じゃないですから!! ってか、その話今するのやめません? 今はあくまで犯人は誰なのかっていう話を真面目にしましょうよ!! とにかく、強姦があったにせよなかったにせよ、犯行を行えるのは彼らしかいないと思うんです! この点についてどう思いますか?」

「何か気にくわない感じですが、概ね同意しますよ。仕方なくですが」

「一理ある。ただ、証拠が欲しい」

「そうなんですよね……」


 一応二人も俺の考えに同意してくれたみたいだ。

 でも、問題はこれからなんだ。

 今のは全部俺の想像でしかないわけで、結局行き着くところは証拠になる。

 でも、そんな証拠あったらさっさと出して終わっているだろうし、今から見つけるのは簡単なことじゃない。

 それはみんな分かっているようで、それぞれ黙って考え始めてしまった。


「それぞれ身につけているものをチェックして、血痕がついているかどうかを調べてみるなんてのはどうです?」

「あなた、やっぱりぶっちぎりの馬鹿ですね。そんなに自分を犯人にして欲しいなら、そう言って下さいね」


 と、コスターさんはトルネの血がつきまくった俺の服を見ながらそう言う。

 俺としては当然俺は除いて他の人を見てみようというつもりだったのだが、普通にコスターさんもシドルツさんも服には血が付いていた。

 遺体を調べた時に付いたものだろう。


 それで思い返したけど、みんなも少なからずトルネの遺体には近づいたしな。

 今更服に血痕がついているから犯人だというのもおかしいだろう。

 今欲しいのは確たる証拠。

 犯人も手紙を出すくらい色々考えて犯行を行っているのだから、簡単に分かるような証拠なんて残してはいないだろう。

 こうなるとまた事件が闇の中へ入っていってしまう。

 でも、犯人はほぼコーラスさん&サバトさんで決まりと考えられる所までいったんだ。

 彼らの所持品から何か出てきたりしないだろうか?


「あ、そう言えば凶器って何だったんです?」


 俺は全然トルネの遺体の検証をできなかったので、殺人の状況について何も分かっていない。

 よくよく考えてみると、あれだけの魔法使いであるトルネがこう簡単に殺されるというのも何だかおかしな感じがした。


 1対1だろうが、犯人が共犯だったとして2対1だろうが、トルネだって簡単に殺されるほど弱くはないはずだ。

 戦闘になったのだとしたら犯人だって無傷じゃ済まないはずだとは思うのだが……。


「あなたが持ってたナイフでしょうね。あのナイフはエドリックさんの所持品にあったものと同じナイフです。彼の遺品から持ちだしたのでしょう」


 遺品から持ちだすチャンスなんてのは誰にだっていくらでもあるからな……。

 実際に亡くなった人が出て遺品を並べた時、使えそうな物を持ち出す人もいた。

 それだけでは誰が犯人かは分からないか。


「トルネだって黙って殺された訳じゃないんですよね? 戦闘の跡とかありましたっけ?」

「部屋にはそんな痕跡はなかったな。ただ、彼女はほとんど何も出来ずに殺されたのは間違いないかもしれん。あの場所にはオズフトの残り香がした」

「オズフトか!!」


 オズフトというのは、人が出力する魔法の威力を弱めることが出来るフィールドを作り出す魔法だ。

 それを作り出すことが出来ればその場では魔法がうまく出せなくなる為、魔法使い相手に戦う場合は重宝される魔法だ。


 自然界には自然と作られている天然の魔衰磁界と呼ばれる場所があり、そこでは魔法がうまく出せなくなるのだが、それを人為的に、擬似的に作り出す魔法と言っていい。

 オズフトは天然の魔衰磁界と違って、作り出してから時間が経つに連れてその効果は次第に弱くなって最終的には消えてなくなるという性質を持っている。

 シドルツさんの言っていた『オズフトの残り香』というのは、その場所にオズフトの魔法がかけられた痕跡があるように感じたということなのだろう。

 実際に魔法を作り出そうとすればその場所にオズフトがかかっているかどうかは分かるので、シドルツさんもトルネがやられたことにその疑問を持っていて、あの空き部屋でそれを既に試していたんだろうな。


 作るだけなら比較的簡単な部類に入る魔法で、ここに来ることが出来る程の人間ならほぼほぼ誰でも扱える魔法だ。

 俺も一応それなりのものは作れる。

 ただ、作り出す人の能力によってその効果の強さも時間も範囲も異なるので、トルネ相手なら結構強めの物を作らないといけなくなるという点を考えれば、それなりに魔法が使える人間が作ったのではないかと推測される。


 でも、それを考えてもこの状況でパッと犯人候補を外せるのは、明らかに魔法が使えないリエルくらいなものか。

 サバトさんやジェイは魔法があまり得意ではないという話は聞いているが、本気を出せばどうなるのかは分からないしな。


「それでトルネは抵抗もできずにやられちまったのか……」

「空き部屋を指定したのもその為かもな。場所を指定しておけば、予め入念にオズフトを作り出すことができる」


 なるほど。シドルツさんは本当に冷静で頼もしい。

 言ってることが全て的を射ている。

 もう、この人は全てを見透かしているんじゃないかという怖さがある程だ。

 俺もそれを見習って冷静にならないといけないと思い直した。


 凶器はエドリックのナイフ、トルネを殺した時はオズフトの魔法を掛けた……。

 コーラスさん&サバトさんなら十分に行える犯行だとは思うのだが、やはり証拠ということにはならない。

 彼ら二人だと断定できる物があればいいのだが……指紋とかか?

 いや、指紋なんて検出できるような状況ではないぞ。

 いや……待て。


 指紋のことで少し閃いたので、他の人は色々案を出していたが俺はそれについて一人でじっと考えていた。

 確かに指紋を検出したり鑑定したりするような状況にはないけれども、それを持ってブラフを張ることは出来る。

 証拠がなければこれから作り出せばいいんだ。

 段々と考えがまとまってきた。


 しばらく考え込むと一つの案が俺の中でまとまった。

 凄く良い案とは言いがたいけれども、成果は期待できそうなのでみんなに提案してみることにする。


「ちょっといいですか? 今、少し考えたんですけれども、聞いてもらってもいいすか?」


 俺がそう言うと、コスターさんもシドルツさんも話をやめて俺の方に耳を傾けてくれる。

 リエルは最初から今までほとんど無言だ。

 こういうことについては専門外なのだろうから仕方ない以前に、人前でもっと喋れるようになって自分の意見を出して欲しいものだが、今はおいておこう。


「シドルツさんが『手紙から指紋を検出できる古代魔法が見つかった』と全員に……いえ、コーラスさんとサバトさんに伝えたらどうなるでしょうか?」

「……彼らにもう逃げ場はなくなりますね。手紙を抹消しに行くでしょう」

「……なるほどな」


 コスターさんの反応もそれで正解だと思うし、シドルツさんの方は俺の意図していたことを理解してくれたみたいだ。

 俺は自分の考えた案を続けて話す。


「シドルツさんはその古代魔法の検証に入るので、手紙を持って書斎にでも入ると二人に伝える。一緒のペアであるコスターさんは疲れたので自室で寝ていると伝える。この状況で彼らが取る行動は一つしかありません。シドルツさんを殺しに行くことです」

「嘘をついてシドルツさんを囮にするということですね?」


「もちろん、実際はシドルツさんの書斎には全員が待ち構えているので、シドルツさんは安全ということになりますけれども。この案どうですか?」

「……あなたにしてはなかなか良い案だと思いますね。それなら彼らの犯行を証拠としてバッチリ掴めます」

「……他の人間にはどう説明するつもりだ?」


「犯人はコーラスさんとサバトさんと、ほぼ断定できる段階まで来ていると俺は思ってます。なので、他の人もその証拠を見るという意味で一緒に書斎で待ち受けるというのがいいかなと思ってますが……」

「…………」


 俺がそう返答すると、シドルツさんは少し考える間を置く。

 実際に俺が嘘をつくわけではないし、この作戦で一番責任がかかるのは嘘をつき、危険に晒されるシドルツさんな訳だ。

 俺が軽々しくこれ絶対いけるのでやりましょう! という訳にはいかないので、シドルツさんの応答をじっと待つことにする。


「お前達と俺達はいいとして、ルトヴェンドとオルロゼオ、クルフとジェイのコンビは白だと断定できるか? そうでないと、この作戦は失敗に終わる。それどころか、俺への信憑性が落ち、切り札として取っておいてある『フェンス発動者をおびき出す嘘』も使いにくくなる」


 そうだ。

 俺は以前シドルツさんと『フェンス発動者をおびき出す嘘をついてみる』という案を話し合ったことがある。

 結局うまい方法を見つけることができなかったので、それは切り札として十分に練ってからということで保留してあるが、ここで嘘をついてしまったら、『また嘘かもしれない』と犯人に考える余地を与えてしまうことになるんだよな。

 これも慎重にやらなくてはいけない。


「ルトヴェンドさんとオルロゼオさんは、共犯できる仲として成立するにはあまりに期間が短すぎる気がします。ルトヴェンドさんとウェリアさんなら可能性は有りましたが……。それに、トルネを殺す動機がないです。それはクルフとジェイの組でも同じことが言えますが……コスターさんはどう考えてます?」

「私はコーラスさんとサバトさんが犯人だと思ってますね。あなたでないのなら、ですが。私はド変態のあなたが強姦の為にトルネさんを殺害したという線も捨ててないのですが、その三組に対象を絞るなら、コーラスさんとサバトさんの組で間違いないとは思いますよ」


 ……この人、さっきっから本当にいちいち一言鬱陶しいんだよな。

 もしかして俺のことが好きなんじゃないのか? って思える程だ。

 おえ。気持ち悪。


「……彼らをこの作戦に巻き込まず、サバト、コーラスと同じ嘘を付いたら何かデメリットがあるか? やるなら慎重にやっていい」


 シドルツさんにそう言われて考えてみる。

 みんな一緒に二人が犯人であると確認できるのが一番だとは思うが、それ以外のデメリットは特にない。

 二人が犯人だと俺達4人が分かり、フェンスを解除することができれば十分かもしれない。

 ルトヴェンドさん達やクルフ達は、もう考えるのを放棄している節がある。

 この作戦に乗ってこないかもしれないし、結果だけ与えてやれれば十分か……?


「分かりました。ルトヴェンドさん達にも同じ嘘をつきましょう。サバトさんとコーラスさん、恐らく二人で来ると思いますが、こちらは4人いるので十分返り討ちにできますし」

「もう一点ある。その作戦では彼らの行動の幅が十分にある。普通に歩いて殺しに来るという手段以外の方法も存分に取れるということだ。出来れば余計な準備や作戦を練る隙を与えたくないので監視役を一人置きたいと思う」


「いや、監視したら行動にでなくなってしまうのでは……?」

「監視すると言っても、余計な作戦を二人に取らせないように監視するだけだ。二人の傍で寝ているだけでも、作戦会議や怪しい行動を阻害することができる。だが、二人は必ず俺を殺しに行かなくてはいけないので、処刑場の外にいるサバトが単独で殺しに行くしか取れる行動がなくなるはずだ」


 ……なるほど。

 殺しに行く方法が歩いて殺しに来る以外にもあり得る訳だもんな。

 下手すればまた毒を盛られたりシドルツさんの本に罠を仕掛けたりと、色々方法はある訳だ。

 一人監視役を置くことによって、そういった方法を相談させない効果が出てくるという訳だな。

 確かに、念には念を入れてその方がいいと思うが……。


「でも、二人に密着したら怪しまれませんか?」

「怪しまれない人間がここに一人だけいる」


 そう言ってシドルツさんは俺を見る。


「お前は今回の件では第一容疑者だ。以前話し合いで『犯罪を犯したものは疑わしくても処刑場に入れて区画整理する』といった話が出てきただろう。その流れでお前が処刑場に入ることになったとしても極自然な流れになる。今でもコーラスが律儀に処刑場に入っていてくれればな」


 シドルツさんがそう言うと、隣に座っていたリエルが俺の服をぎゅっと握ってくる。

 犯人二人組の中に放り込まれる俺を心配してくれているのだろう。

 本当にこの子、いじらしくていい子だと思った。


 この子は昔唯一頼れる存在だったセイレンと納得行かない形で死別したんだよな。

 もう二度と同じようなことは繰り返したくないと思って、俺をセイレンと被せて見てくれているのかもしれない。


「大丈夫だ。処刑場に入った俺を殺せばそこで犯人がみんなにバレることになる。今までの犯行から見て、そんな愚かな策は絶対に取ってこない」


 と、リエルに言って安心させてやった。


「じゃあ、決まりですね。シドルツさんが全員に『手紙から指紋が取れる古代魔法を見つけた』と嘘をつき、あなたが容疑者二人を監視し、余計な行動を取らせないようにする。私達三人は書斎で犯人がくるのを待ち構えている。これは今までいいようにやられてきた私達の最初で最後の反撃になりますよ!」


 そう言うコスターさんの表情が少し明るかった。

 コスターさんの言うとおり、ずっと今まで犯人のいいようにやられてきたのに、俺達は有効に反撃をすることもできずに、防衛策ばかり取ってきた。

 これが初めて犯人へのアプローチとなるんだ。

 これをうまく決めることができれば、みんなここから脱出することができるかもしれない。

 グレハードさんやトルネにいい報告が出来るかもしれない。

 そう思うと、俺も自然と胸が高鳴ってきたのだった。




 俺達の作戦は、話し合いが終わるとすぐに実行に移された。

 まず最初に俺が処刑場に入り、その後時間を開けてからシドルツさん達三人が各部屋を回って『手紙から指紋が分かる古代魔法があった』というような嘘の報告をすると言った手順になっている。

 本来ならこれからは睡眠時間として作られていた外出禁止時間の6時間に当たるのだが、今はそれぞれが別行動になってしまっていてまとまりがない為グダグダになっている。

 とは言え人間の体は正直なもので、恐らくこれからみんなは見張りと睡眠を部屋の中で交代して行うという感じになっていくのだろう。


 俺は三人に連れられて処刑場までやってきた。

 こんなグダグダな状態になっているというのに、コーラスさんは処刑場の中に入り、サバトさんはそれを見張るように外で待機していた。

 コスターさんが俺の処遇について「今回彼が犯人であるのは明らかなので、しばらくここに入ってもらいます」と二人に説明し、俺はコーラスさんと一緒に処刑場に幽閉されることとなった。

 俺は三人に言われた通りに処刑場の中に入る。

 それが終わると、三人は処刑場から去っていった。


 俺の仕事はこれから二人が怪しい行動を起こさないか見張りをしつつ、シドルツさんが嘘の報告をしに来た後は寝た振りをして二人に犯行を起こさせることだ。

 サバトさんは相変わらずずっと無言、コーラスさんは俺を疑っているようなそうでないような、とにかく元気のなさそうな様子だった。


「なんかもう良くわからないことになってきましたね……。俺はトルネを殺した犯人じゃないっていうのに……」

「……ロクさんの気持ちは分かります。僕も何一つ身に覚えがないので……」


 コーラスさんは俯き加減でそうボソリと呟いた。

 俺もコーラスさんも同じ部屋の中にいるというのに、微妙な物理的な距離感がある。

 警戒してなるべく距離を取ってしまえば変に怪しまれるから、別に変に意識することはないと思って俺はあまり遠ざかろうとも近寄ろうともしなかったのだが、コーラスさんはあまり話したくないと思っているのかそれとも俺を警戒しているのか、少し俺から距離を取った位置で座っている。

 俺の傍にはジェイお手製の剣が、コーラスさんの傍には自分の小ぶりの剣がそれぞれ手に届く所に置いてあるので、コーラスさんは警戒しているのかもしれない。


「でも、コーラスさんはここから出ようとしなかったんですか? 何か空気的にここから出ても誰も責めないような気はしますけれども……」

「みんなでそう取り決めたことですからね……。それに、こっちの方が安全だって思いました」

「……なるほど」


 自分が犯人であっても、そうしておけば怪しまれない……ということだろうか。


「このまま僕達は全員殺されてしまうのでしょうか……。もう、僕にはどうしてこんな事になったのか……」

「…………」


 そういうコーラスさんを見ても、何だか演技には思えなかった。

 ここに入った時からずっと元気なさそうな感じだったし、今もその暗い表情を変えることなく俯いている。

 でも、今までそうやって俺達を騙し続けてきたんだ。

 こんな所でボロを出すようなことがあるはずない。

 犯人は仮面の中で今笑っているはずなんだ。

 その仮面がどんな表情を作っても騙されてはいけない。


「……俺かコーラスさんが犯人……か。みんなの中ではそうなっているんでしょうね。俺達二人じゃないとしたら、犯人は一体誰なんでしょうね……。グレハードさん、ウェリアさん、スレバラさん、そしてトルネを単独で殺すなんてことできる気がしないです……」

「…………」


 コーラスさんが俯いて俺の方をあまり見てこないのを良いことに、俺は終始コーラスさんの表情を確認するように彼の顔を見ていた。

 でも、にやりとするような仕草は一切見せない。

 もしかして本当に犯人じゃないのか? なんて思って色々と考えてみるんだが、やっぱりどう考えたってコーラスさんとサバトさんの共犯説というのが一番しっくり来る……というか、それ以外の真実があったら是非教えて欲しいくらいだ。


 もう一度考えてみる。

 犯人が分からないのはグレハードさん、ウェリアさん及びスレバラさん、そしてトルネ殺しだ。

 恐らくこれらは全部同一犯。

 根拠は殺人を犯す動機がないからなんだが、やや弱い感じはする。

 でも、トルネ殺しが強姦目的だった場合でも、そこまでして強姦しよう等と思う人はいないと思う。

 この状態で人を殺してバレてしまえば、フェンス発動者の犯人だと思われるに決まっているからだ。

 衝動的なものならまだしも、これは手紙まで使って行われた計画的な犯行だ。

 そんなリスクの高いことを強姦なんていう目的でやるとは思えない。


 グレハードさんを殺せたのはクルフかコーラスさん。

 その他の人間が巧妙なトリックを使って犯行に及んだという可能性もなくはないが、今のところ全く思いつかない。

 俺にはコーラスさんかクルフがバレることを覚悟で無理を通して行った犯行としか思えない。

 コーラスさんが何故殺されなかったのかを考えれば、コーラスさんが犯人である可能性は十分にあると思う。


 ウェリアさんとスレバラさんは毒で殺されたが、犯行が可能だったとして上がっているのはコーラスさん、サバトさん、シドルツさん、そしてニーナも一応可能と言えば可能か。

 これも証拠を上げるのは難しく、結局グレハードさん殺しの容疑者と被せてコーラスさんが処刑場に幽閉されることとなった。


 そしてトルネ殺しだ。

 犯人は手紙を使って俺とトルネの名前を騙り、まんまとトルネを呼び出して殺害し、俺に罪をなすりつけようとした。

 全員アリバイがあるのだが、それは二人組がそれぞれ相手を守る道理がないという前提でだ。

 犯人が俺、もしくはニーナでない以上いずれかの二人組が嘘をついているということになる。

 それが可能なのはコーラスさんとサバトさんのペアだけなんだ。

 それ以外のペアだと『殺人を行うので協力してくれ』なんていう提案が通じるはずもない。


 完璧とは言えないが、俺の中では95%以上コーラスさんとサバトさんが犯人だと感じている。

 これ以上の真実があったとしたら、もうお手上げ状態だ。

 そのせいでこの二人が犯人であって欲しいという願望も少し含まれてしまうが、今こうして話しているコーラスさんは演技に違いないはずなんだ。


 そう思って二人の様子には騙されまいと思い返した。

 コーラスさんもサバトさんもずっと無言、俺も考え事もあったのでずっと無言の状態で暫く静かな時間が流れた。




 結構な時間が経った後、ようやく予定通りにシドルツさんとコスターさん、そしてリエルがこの処刑場の前に姿を表した。


「少しいいか?」


 シドルツさんはサバトさんにそう言って処刑場の扉を開け、中に入ってくる。

 コスターさんもリエルも、そしてサバトさんもシドルツさんに促されて部屋の中へと入ってきた。

 その場に居る全員はシドルツさんの指示で集まり、話を聞く体制に入る。


「今回の殺人の際、殺されたレイトルネとそこにいる彼……ロクに単独行動を行わせるために犯人は手紙を作成し、それを部屋の外からドアの下を通してレイトルネとロクに渡している。レイトルネが受け取った手紙は犯人によって隠滅されたようだが、ロクが受け取った手紙は今ここに証拠品として残っている」


 シドルツさんはさっき俺が渡した手紙をみんなに見せるようにそう言う。


「この手紙はロクがずっと持ち続けていて、この処刑場に入る前に俺に手渡された。俺とロク、そしてこれを作成した犯人の指紋しか付いていない状態に間違いはない。今からそれを検証しようと思う。俺が読み漁っていた古代書の中で、こういった紙類から指紋を浮き上がらせることのできる魔法があるという記述があったのを記憶している。その時は読み流し程度だったのだが、確かに今この俺でも扱えそうな魔法だと感じたのは覚えている。どの本に書かれていたのかは忘れてしまったので、今から大漁にある本の中から該当するものを探しだしてみようと思う。それが実現できればこの手紙を書いた人間がハッキリするという訳だ」


 シドルツさんが手はず通り、もっともらしい嘘をついてみんなにそう説明する。

 この説明の真意が分かっていないのはサバトさんとコーラスさんだけだ。

 それでも俺は「それは朗報です!これで俺の潔白が証明されるんですね」とか、ややわざと臭いリアクションを取ってみたりした。

 コーラスさんは今までの様子のまま俯き加減でそれを聞いており、サバトさんは聞いているのか聞いていないのか、明後日の方向を向いて黙っていた。


「そこでみんなに協力を頼んでいるのだが、三人の指紋をサンプルとして取らせてもらってもいいだろうか?両方の手の親指の血印をここに押して欲しいんだ」


 シドルツさんはそう言って、目の前に紙とナイフを俺達三人の前に差し出してくる。

 その紙にはそれぞれ名前と両親指の血印が1セットな感じで、既に8人分の指紋と名前があった。

 トルネの分も隅にあったので9人分だ。


 結構本格的に嘘をつくんだなぁと感心しながら俺は先陣を切ってナイフを取り、親指を切ってその紙に血印を押した。

 押し終えると、助手みたいなことやっているコスターさんが回復魔法で親指に流れている血を止めてくれて、ペンを渡してくれる。

 ペンを受け取って俺の名前を書き、次の二人へと順番を回した。


 コーラスさんは渋々と言った感じでナイフを手に取り、俺と同じように事を進めていく。

 最初から暗い表情だったので、このシドルツさんの提案に動揺しているかどうかまではよく分からない。


 コーラスさんが作業を終えると、コーラスさんはサバトさんに作業をするように促し、サバトさんはそのまま血印を押す作業に入った。

 意外と二人共抵抗なくやっている感じはするけれども、仮面の下ではどんな表情をしているのだろうか。

 頭の中で何か策を巡らせているのだろうか。

 俺には分からないが、この後の行動でハッキリするんだ。


 サバトさんの作業が終わると、シドルツさんはナイフをしまい、紙を大事そうに手に持った。


「協力に感謝する。これから俺は書斎で検証作業に入る。明日までには必ず終わらせ、犯人を暴くつもりでいる。お前達も余計なことはしないで大人しく検証結果を楽しみに待っていて欲しい」

「シドルツさん、徹夜ですか? なんかすみません……シドルツさんに任せっきりで……」


 またしてもわざとらしく俺はそうシドルツさんにそう言う。

 これは一応台本通りの振りで、ここからコスターさんが「手伝いたいけど無理だ」という話に持って行き、シドルツさんは書斎で一人ですということをアピールするという流れになっているはずだ。


「いや、ここから出たいのは俺も同じ。これでようやく完全なる犯人の証拠を掴めると思えば安いものだ」

「徹夜ですか……。私もお手伝いしたいんですけれども、少し疲労が……」

「いや、これは俺でしか行えない作業だ。居ても何も手伝ってもらえることはないだろう。彼女と一緒に部屋で休んでいてくれ」


 シドルツさんはリエルと一緒に部屋で大人しく休むよう、コスターさんにそう言った。

 なんかムカつくな……。

 コスターさんとリエルが二人きりで同じ部屋にいるとか、何か想像するとムカついてきたぞ。

 この人、トルネを魅力的だとか言えるくらい健康的だし、リエルもリエルであんなに可愛いし、何かあったらどう責任取ってくれんだ!?

 リエルに手を出したらぶっ飛ばすぞこのド変態野郎!!


 なんて思ったが、よく考えれば実際はシドルツさんもコスターさんもリエルも書斎で犯人を待ち構えている流れだったんだよな。

 それに何でこんなリエルの心配をするようになってしまったのか……。

 自分ではあまり認めたくないんだけどなぁ。

 子供を心配する親の気持ちということで、今は自分を納得させておこう。


「すみません、助かります。シドルツさんも気をつけて。サバトさん、しっかりこの二人を見張っていて下さいね」


 と、俺以上にわざとらしい発言をコスターさんがする。

 この人はダメだ。

 演技と料理が下手くそ過ぎる。

 もうコスターさんにあまり喋らせない方がいいと思う。

 その辺リエルは無表情だし変な口も滑らせないし、本当にいい子だなぁ。

 って今はそんなことどうでもいい。


「それでは行きましょうか。シドルツさん、よろしくお願いしますね」

「シドルツさん、頑張って俺の潔白を証明して下さい!!」


 と、わざとらしい声を俺とコスターさんがシドルツさんに掛け、シドルツさんは部屋を出て左側へ、コスターさんとリエルは部屋を出て右側へとそれぞれ歩いて行った。

 そこまで徹底してやるというのも、何だかシドルツさんらしいと言えばシドルツさんらしい。

 コスターさん発案だったらそんな所にまで気が回らないだろうな。

 そしてリエルとコスターさんが二人で並んで歩いて行く姿がやっぱりムカついた。



 三人がそれぞれ去って行くと、コーラスさんはまたさっきまで座っていた自分のポジションに戻り、サバトさんはこの部屋から出てドアを閉めて鍵を掛けた。

 その間コーラスさんもサバトさんもずっと無言だ。

 ここから俺の監視役が始まる。

 今この状態で二人の胸中は穏やかではないだろう。

 何としてでもシドルツさんの検証を止めさせなければならないんだ。

 それをどうやって殺すか二人で話し合いをしたいのだけれども、俺がいるせいでそれを話しあうことも出来ない。

 後は、俺も含めてみんなが寝静まった所でサバトさんがシドルツさんを殺しに行くしか道は残されていないんだ。


 本当に完璧な作戦だと思う。

 ここまで順調に事が進んで、俺は少し浮かれていた。

 ここを脱出したらどうしようとか、みんなと盛大に酒場で盛り上がってあの時はどう思っていたとかどう考えていたとか話し合いをしたいなとか、

 もしかしたら俺はリエルとラブロマンスな人生をこれから歩んでいくのかなとか、希望に満ち溢れた未来ばかりを想像してた。

 亡くなったグレハードさんやスレバラさん、エドリックはいいとしてウェリアさんとトルネの供養もちゃんとしてあげないといけない。

 でも、ようやくこの長い長い監禁生活が終わりを告げるんだ。

 この監視任務さえやり遂げることができれば!

 その為には何としてでも二人をびっりちばっちり監視してやらないといけない!!

 俺は浮かれた未来を想像しながらも、このまま寝るような体勢に入って二人を監視し続けた。


「これでようやく犯人がわかりますね!」

「……そうですね」


 俺がふとコーラスさんに話しかけてみるも、コーラスさんの表情は全然晴れていない。

 これで犯人が分かり、この場を出ることが出来ると分かればもう少し明るい表情を見せてもいいような気がするんだが、コーラスさんの表情は変わらず暗い。

 そうだろうそうだろう。

 これでもうあなた達はおしまいなのだから。


「コーラスさんの疑いも晴れて、ようやく脱出できるかもしれませんよ?」

「……やはり、犯人は殺してしまうしかないのでしょうか……?」

「……そうでしょうね。それしか、俺達がここを出る方法はありませんから……」


 やはりそこに話はいくんだよな。

 犯人であればなおさらだ。

 俺だってサバトさんもコーラスさんも無駄に殺したいとは思わない。

 でも、発動した犯人にはそうなってもらわないと、ここにいる全員が脱出できないんだ。

 こればっかりはしょうがないと諦めてもらうしかない。

 でも、そう考えると素直に喜べなくなってきた。


 俺だってこの二人のことは嫌いという訳では全くない。

 グレハードさん達を殺したと言えど、自分が生きる為には仕方なくやったことだ。

 結晶に触れてしまったのも偶然だろうし、落ち度があった訳では全くない。

 言わば、この人達は加害者でもあるが被害者でもあるんだ。

 そんな人達を殺そうなんていうのは、やっぱり気が引ける。

 もう人が死ぬのを見るのもこりごりなんだ。

 トルネの遺体を見た時に本当に胸が苦しくなった。

 

 短い間ではあるが、コーラスさんもサバトさんも今まで一緒に生活し、同じ釜の飯を食い、同じ苦しみを味わってきた同士なんだ。

 そんな人を殺すなんて出来るかと言われたら、何だか俺には出来ない気がしてきた。

 犯人が確定した後でも、そのことを考えると気が重くなってきてしまった。

 少し膨らんだ楽しい未来よりも、段々とそのことに気が行くようになって次第に俺も無言になってしまう。


 そして二人の様子を監視しつつも、入り口にいるサバトさんだけはしっかり視界に入るように寝る体勢を取った。


「すみません、俺も疲れたんで、少し寝ますね……。色々考えるのは、明日起きてシドルツさんが結果を出してからにします」

「はい……。おやすみなさい」


 コーラスさんにそう声を掛けてもらい、目を閉じた。

 そして耳に神経を集中させた。

 今のところ二人が動く様子は全くない。

 俺を警戒してか、二人が相談しに行くような気配も全く見られない。

 本当に物音一つしない静かな空間だ。

 このまま俺も眠ってしまいそうだが、これだけは俺の責任で頑張らなければいけないと思い、眠ってしまわないように心がける。


 このまま物音がして二人が相談を始めるようであれば、俺はその音で起きたふりをしてそれを中断させてやる。

 二人は絶対に動くはずなんだ。

 そこを見逃してはいけない。


 そう思ってかなりの時間が経過したが、なかなか二人は動かなかった。

 二人はずっと同じ所で無言で座っている。

 コーラスさんは角度的に見えない位置にいるのだが、恐らく動いてないと思う。


 それでも辛抱強く待ち続けていると、不意にサバトさんが立ち上がった。

 これはチャンスだと思い、薄目を開けてサバトさんの動きを注視する。

 すると、サバトさんは自分の近くに置いていた大ぶりの剣を持ち、立ち上がって処刑場からいなくなったのだ。


(かかった!!)

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