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16.疑惑

―― 6日目 1回目食事前 ――



 エドリックの血みどろになった死体を確認した俺は、一度みんなに報告しようと、パニックを起こすニーナを制しながらリビングへと戻った。

 リビングにはスレバラさんもオルロゼオも姿が確認でき、これでエドリックを除く全員が揃っているということになるので都合が良い。

 みんなに報告を終えると、一旦全員で確認しようということになって再びエドリックの遺体がある南通路東側の大広間へと全員を連れて移動。

 大広間へ着くと、食事前にするもんじゃないとは思ったが、その場で現場検証を行った。


 大広間は元々テーブルや椅子などが整頓されていて、半分のスペースが会議室のようにな造りになっていたのだが、今はそれがめちゃくちゃになっている。

 そこからエドリックを殺した犯人と争いがあったんじゃないかなと予想できた。

 グレハードさんの時とは違い、結構血も飛び散っている。

 これなら犯人も返り血を浴びたんじゃないかなと思って周りのメンバーを確認するも、ぱっと見る限りではそれらしい人はいない。

 エドリックの遺体はそれは見るも無残で、首、胸、足と色んな所にナイフのような物で斬られた跡や刺された跡が残っており、グレハードさんのように首こそ切断されてはいないものの、首からの出血がひどいのでそれが致命傷になったのだと思う。


 凶器は恐らくナイフ。

 エドリックの遺体の傍に数本ナイフが転がっているが、それは犯人が使ったものなのかエドリックの武器なのかは定かではない。

 遺体の傷跡を見るに剣で斬られたような痕跡はない。恐らくもっと小さいナイフのような物で斬られたんだろうと推測できた。

 冷静になってエドリックの遺体を確認するが、注目すべきは斬られた跡ではなく刺された跡だ。

 剣や槍のような大きな得物による刺し跡ではなく、恐らくナイフのような小さな物で刺された跡が、腹部や腕、更には足の甲まである。

 足にある跡に至っては足を貫通してしまっている。これで俺はピンと来てしまった。


 当たり前だが、相手と戦っている時に相手の足にナイフを手で突き刺すような器用なことが出来る人はそうはいない。

 相手が油断している時や致命傷を負って動けなくなった後に刺すというのも考えられなくはないが、普通そういう時はダメージの行かない足を刺すなんてことはしない。

 じゃあ何で足に刺した跡があるかってことなんだが、これは少し前に見た光景と同じだ。

 アングリシェイドとの戦闘時、アングリシェイドの足にナイフが突き刺さっていた場面を思い出したんだが、それと重なった。

 アングリシェイドの足とエドリックの足では大きさも強度も違うので、アングリシェイドの足は貫通してはいなかったが、そういうことなんだろう。


 犯人はリエルである可能性が非常に高い。

 彼女なら戦闘中に相手の足にナイフを投げて突き刺すことが可能だ。こんなことが出来るのはリエルしかいないんだ。

 もしかしたらリエルの戦い方を見ているシドルツさんもピンと来ているんじゃないだろうか?

 逆に犯人はリエルじゃないと仮定して、足にある刺された跡の理由を探ってみるも自然な理由はなかなか思いつかない。

 思いついたのはエドリックが憎くて憎くて取り敢えず適当に刺しまくったとか、手元が狂って足に刺さってしまったとか、割りと不自然な理由だ。

 エドリックが動ける状態で足にナイフを刺すのは極めて難しいし、動けない状態で刺したのであれば足を刺すのは無意味。

 もしかして犯人が刺したのではないとか、以前からあった傷跡なんじゃないかとかほぼあり得ないことまで想像してみるんだけれども、どれもこじつけになってしまう。


 だが、リエルがやったとすれば俺は納得できてしまうんだ。

 リエルの様子を見てみるが、今リエルは集団の後方でいつもの素知らぬ顔をして何をするという訳でもなく黙って俺達を見ている。

 心情的にはリエルを味方してやりたい所なんだけれども、こんな大事なことに私情は挟めない。

 この場で問い詰めるよりも、みんなで揃った所で冷静になってリエルには事情を聞いてみようと思った。


 他の人はリエルに誰も話しかけていないので、その辺りには気がついている様子はなさそうだ。

 普通に見ればその辺に転がっているナイフを凶器に、誰でも行える犯行だと思うだろうしな。

 というか、実際にじっくりとエドリックの遺体に触って色々探っているのは俺とコスターさんくらいなもんだ。それとシドルツさんも割りと探っているだろうか。

 他の人は興味本位で少し遺体の様子を見てみて「うわ~」ってなっているだけな感じで、触れようともしない人も少なからず居る。女性陣がその筆頭だ。

 グレハードさんの時もそうだったけれども、既に役割分担のような感じでこういうのの調査は俺やコスターさんに任されている感がある。

 ひと通り俺もコスターさんも遺体の調査を終えると、コスターさんが仕切って一旦リビングへ戻って話し合いをしようということになった。


 リビングへの移動中、俺はどうしたらいいのか本当に分からなくなっていた。

 根拠を挙げてリエルを追い詰めることはできるんだけれども、そうなるとただでさえ味方の多くなさそうなリエルが一方的に責められてしまう格好になってしまうし、俺はリエルに事情が聞いてみたいんだが、みんなの前で問い詰めてしまったらリエルは何も喋ってくれなさそうだ。

 どうにかしてリエルの言い分を聞き出せるようなうまい方法がないか考えてはみるんだが、みんなの前という条件があるだけで難易度が極端に上がってしまう。

 というか、本当にリエルが犯人なのか?

 彼女が犯人だとしたら動機は何だ? フェンス発動者だったということか?

 いや、そんなはずはない。彼女はグレハードさんの件で、エドリックがアリバイを証言している。エドリックが嘘をつく意味なんて全くないから、信憑性は非常に高いと思っているのだが……。

 もしリエルがフェンス発動した犯人だったらどうなるんだ?

 いや、フェンスを発動した犯人でなくても、エドリックを殺した犯人だったら、周りからどういう目で見られるかは想像に容易い。

 あいつは全然喋らないから、味方が全くいない。下手すれば周りに勝手にフェンスを発動した犯人だとされて、それを否定する口も開かないまま殺されてしまうかもしれない。

 本当にリエルが犯人だとしたら何がどう転んでも、マズイ方向にしかいかなさそうだが……。

 

 みんなはどう思っているんだ?

 リエルが犯人かもしれないと思っている人が発言してくれれば、それを制してリエル側に付き、彼女から事情が聞けるように話を繰り出すことができるんだが、俺が「こういった理由でリエルが犯人臭いので事情が聞きたい」なんて言い出したら、リエルは俺を敵とみなして100パーセント話をしてくれないと思う。


 あーだこーだ色々考えながらも、結局どうしていいかわからないままリビングへ着いてしまった。

 とりあえずはコスターさんがどういう風に出るのか様子を伺っていこうと思う。

 リビングに着くと例によってまずはフェンスの確認をコスターさんがしに行く。

 もしかしたらこれでフェンスが開いているかもしれないなんていう期待も少なからずあったのだが、結果は空振りだった。


 コスターさんが戻り、生存者全員がリビングに集まった所でコスターさんはグレハードさんの時と同じように先頭に立って場を仕切り始める。

「フェンスは閉じたままでした。エドリックさんは魔核結晶に触れた犯人ではなかったということです。つまり、エドリックさんを殺した犯人は魔核結晶に触れた犯人だと見て間違いないでしょう」

 ……リエルなのか?

 リエルが魔核結晶に触れた犯人?

 グレハードさん殺しもリエルの仕業だったという事になるのか?

 俺はグレハードさんとリエルと同じチームで過ごしていたけれども、そんな様子は見られなかったぞ!?

 くそっ。どうなっているのか全然わからない。


 リエルはいつもと同じ様子で、無表情で床に座って場の行方を見守ろうとしている。

 俺の想像が間違っていることに賭けたい! リエルが犯人であって欲しくない!

 私情を挟むのはタブーだと散々自分で言い聞かせておきながら、そんな思いから、この場ではしばらく黙っておこうと思ってしまった。

「まずは状況を整理したいと思います。最初に発見したのは確かあなたと……」

「……俺とニーナです。食事の準備が整った事をエドリックさんに知らせようと思って探していた所でした」

「近くに怪しい人影はなく、エドリックさんは既にあの状態で亡くなっていた。そうですね?」

「はい」

「エドリックさんが生きていたのを最後に確認したのはどなたですか? 私の方ではアングリシェイド襲撃後は生きていたと把握していますが……」

 コスターさんが周りにそう聞くと、周りのみんなは互いに顔を合わせて誰か見ていないのかと話し始める。

 俺は目を覚ましてからは全く見ていないな。

 下手するとアングリシェイド襲撃前からずっと見ていないかもしれない。

 確かアングリシェイド襲撃時には普通に集団の中に混じっていたと記憶しているが、襲撃後もコスターさんが確認しているということは、どさくさに紛れてアングリシェイドに殺されたという線はないということか。

「私リビングで見たけど……確か、ソイチさんを運んでいる時だったような……」

「俺、掃除している時に見かけた気がするよ? 例のアングリシェイドが出現した空き部屋の掃除をしている時だったかな。水を汲みに行った帰りに南通路ですれ違った気がする」

 掃除していた時に見たということであれば、クルフの今の証言が時系列的に一番新しいか。

「掃除があってから私達は確かアングリシェイドの発生源を調査していましたね。それが終わってから食事準備を経て今に至っています。食事の準備中はみんなで一緒にリビングに居ました。先にクルフさんとジェイさんがスレバラさんとオルロゼオさんを呼びに行き、ロクさんとレイニーナさんがエドリックさんを呼びに行った所でエドリックさんの遺体を発見した……。人を呼びに行った四人に先に聞きますが、それぞれ単独行動はしていませんね? ちゃんと二人で行動していたか答えて下さい」

 コスターさんが俺達のアリバイを聞いてくるので、起こったことをありのままに説明してやる。

「俺は最初一人だったが、ニーナが途中で『単独行動は危険だから』と来てくれた。調理場を出て割りとすぐの頃だ。東通路の処刑場の手前辺りだったかな? 合流してからエドリックさんの遺体を見つけるまで、ずっと二人だったな」

「レイニーナさん、ロクさんの証言に間違いはありませんか?」

「間違いないです」

「誰か、俺が調理場を出発してからニーナがそれを追いかけるまでの大体の時間が分かる人はいないか? 一応、ニーナと合流するまで単独行動していた俺がエドリックさんを殺しに行って戻ってくるだけの時間がなかったことを証明したいんだが……」

 ここまでちゃんと否定しておかないと、後々単独行動した時に殺したんだなんて言われても困るからな。

 あの時調理場には結構人がいたし、すぐにニーナが出たことくらい誰かしら見ているだろ。

 それを期待してみんなに聞いてみると、トルネがそれを証言してくれた。

「ロク君が出てから本当にすぐだったよ。間違いない。なんせ、私がニーナにロク君を追いかけるように指示したんだから」

 ……ニーナが来てくれたのはトルネの差金だったのか。

 通りで料理の中心人物が人を呼びに行くなんてことになっていた訳だ。

 いつもニーナは料理の配膳まできっちりやっていたからな。少し違和感は感じていたんだ。

「分かりました。ジェイさんとクルフさんはどうですか?」

「最初から最後までずっとジェイジェイといたぞ? 帰りはスレ様とオルっちが一緒だったけどな」

「ジェイさん、間違いありませんか?」

「間違いないっすよ。下らないシモネタに付き合わされてうんざりしてたっす」

「分かりました。四人のアリバイは完璧とは言えませんが、いいでしょう。問題はスレバラさんとオルロゼオさんです」

 完璧じゃないというのは、恐らく二人組のどっちかがグルで、俺達の方はエドリックを発見時に殺したという可能性、ジェイとクルフの方はスレバラさん達を呼びに行く前にエドリックを殺して何食わぬ顔でスレバラさん達を呼びに行った可能性があるから……ということなんだろう。

 この場合グルなんてのは意味をなさないのでその可能性は潰して貰いたかった。

 犯人は一人というのはほぼ間違いないんだからな。

 まぁ、あらゆる可能性を考えるという意味で、エドリック殺しとフェンス発動の犯人とは別だということもあり得るし、実際俺はそう信じているというか信じたい。

 エドリック殺しの犯人は恐らく……。

「スレバラさん、オルロゼオさん。私達がアングリシェイド発生源の調査をしている時からクルフさん達に呼ばれるまでの間、二人は何をしていたのか説明して下さい」

 そのコスターさんの話を受けると、オルロゼオは非常に困惑して助けを求めるようにスレバラさんの顔を見た。

 スレバラさんの表情からは以前のような勇ましさが消えているので、まだ完全に復活してはいないのだろう。

 スレバラさんの目は死んだままで、どうにも助けを求められないと悟ったのか、オルロゼオはおどおどしながらも話し始める。

「お、俺はスレバラさんの様子をずっと見ていただけで、部屋から出てない……です。スレバラさんはずっとベッドに横になったまま動いてません……。たまに俺の問いかけに答えてはくれましたが、ほとんど眠っているようで……」

「スレバラさん、本当ですか?」

「……眠っていたので分からん。オルロゼオが傍に居たのは声も聞こえたし、雰囲気で感じ取れたな……」

 スレバラさんはそうぼそぼそと、そう話した。

 見ているだけで凄い気の毒な気の落ちようだ。グレハードさんの時はこうはならなかったのだが、続けざまなのでダメージも大きかったのだろう。

 俺は一人でここに来ているから想像は難しいが、絶対に信頼できる人がいなくなり、急に一人になってしまって、他の人が信じられなくなってしまっているのかもれない。

「その証言ではスレバラさんは問題ないにしても、オルロゼオさんのアリバイは怪しいですね」

「や……やめて下さい……よ。なんで俺が……エドリックさんを殺さなきゃいけないんですか……。あなた方こそ、エドリックさんをノケモノにして、いつか殺そうと企んでいたんじゃないんですか……?」

 オルロゼオは声を震わせ、びくびくしながらもそう話す。

 何か言動も態度も怪しすぎてこいつが犯人なんじゃないかと思えてくるんだよな。

 犯人でないなら、もっと堂々と話して欲しい。

 それとも、こいつもリエルと同じようにナイフ使いで、リエルと同じ特技が使えたりしないのかな……。

 それだったらもう嬉々として足にあったナイフの刺し跡のことを話し始めたいんだけど……。


 そういえば俺はオルロゼオのパーソナルデータを全く持っていない。

 話しかけても警戒されているようで、喋ってはくれるんだがリエルのように一言で会話が終わってしまうんだ。

 オルロゼオが他人と話している時の相手は、専らグレハードさんスレバラさんソイチさんだったな。

 それ以外の人と話している場面はおろか、接触している所すら見たことがあまりない。

 一応スレバラさんから、彼はドリアース出身で、この遺跡には5人組で入ったんだが途中で魔物に襲われて逃げていたら散り散りになってしまって、一人で脱出口を探しているうちにスレバラさん達に出会ったという話は聞いている。

 また年は確か24~25だかそこいらで俺よりは年上という情報はあるのだが、何を武器にしてどういう戦い方をしているとか、そういう情報は全く聞けていない。

「スレバラさん、あなたが眠っていた時間がどれくらいか分かりますか? その間に彼がエドリックさんを殺しに行くことは可能でしょうか?」

「い……いい加減にしろよ……。エドリックさんはお前らみたいに俺をノケモノにはしなかった……。それどころか、俺をかばってくれたんだぞ……? 何でそんな人を殺さなきゃいけないんだよ……ふざけんなよ……?」

 何かオルロゼオが怒りでぷるぷる震えている。

 なんだコイツ。意外にもエドリックを仲間として認識しているようだ。

 エドリックとコイツには信頼関係みたいなのがあったのか? それとも、演技なのか?

 エドリックやオルロゼオについてはほとんどノーマークだったことが災いして、証言の信憑性を計ることが出来ない。

 少しでも二人で話している場面とかを目撃していたらまた違ってたのかもしれないが……。

「あなたには聞いてません。スレバラさん、どうでしょうか?」

「……どれだけ寝ていたのか分からんので何とも言えん」

「スレバラさん!! 俺はずっとあなたの傍にいましたよ! ずっと傍であなたの回復を待っていたのに!!」

「あなたは黙っていてくれませんか? 状況的に見て、あなたが最も怪しいんですよ。私達は調査開始から今まで、全員一緒にいて互いを確認しているんですから。調査の途中や食事の準備中に部屋を出て単独行動を始めるような人もいなかった。はっきり言い切れるのは、人を呼びに行った四人とあなたかスレバラさんの中にしか犯人がいないということです。でも、呼びに行った四人が単独行動を取っていないということなので、犯人である確率は低いでしょう。二人共急にエドリックさんを殺しに行こうという意見で一致したとはとても思えませんので。つまり、どういうことか分かりますか?」

 う~ん……。どうも、コスターさんは確認すべきアリバイを見誤っているな。

 クルフの『掃除中に見た』という証言が本当なら、厳密に言えばアリバイを調べなくてはいけないのは、掃除中からアングリシェイド発生源の調査中を経て俺達がエドリックさんを発見するまでの間だ。

 俺達が調査を始めた頃には既に死んでいたという可能性も残っている。

 俺が知りたいのは、リエルが掃除期間中にどこで何をしていたかということ。

 後、オルロゼオにナイフを扱う技術があるのかどうかも知りたい。

 それが分かれば話が繋がって犯人を導き出さえそうなものなんだけれども、とりあえずここはコスターさんの話の腰を折るのも難だし、彼が満足するまで話聞いて様子を見てみようと思う。

「ち、違う!! な、何度も言わせんな!! 俺は絶対に殺してなんかない! お前らのうちの誰かなんだろ!? 白状しろよ!! お前らはエドリックさんを煙たく思っていたが俺は違う!! 俺に生きる道を示してくれた人なんだ!! 命の恩人でもあるんだ!! そんな人を俺がどうして殺す!?」

 段々とオルロゼオが興奮してきて、今までにない様子で話し始めた。

 なんかまたこの状況でオルロゼオっていう人間の本性が徐々に表れてきた気がする。

 犯人の疑いをかけられているんだから当然といえば当然か。

 そろそろ助け舟を出してやろうかと思ったが、もう少しオルロゼオという人間を観ておきたいのでじっとしていようと思う。

 彼には何だか申し訳ないんだけれどもね。

「そう言えばあなた、アングリシェイド襲撃時にエドリックさんと一緒に戦わずして部屋に隠れていたそうですね?」

「……あ、あぁそうだ! エドリックさんが俺の命を救ってくれたんだ!! それなのにそんな人を殺す理由がどこにある!? お前らはそんなエドリックさんを卑怯者だと思っただろうな! どっちが犯人だかもう分かったんじゃないのか!? 俺は犯人を絶対に許さないぞ!! 俺がエドリックさんの仇を取ってやる!!」

 オルロゼオが珍しく感情を表に出して叫んでいる。

 こんなにもオルロゼオがエドリックを仲間だと思っていたとは驚きだ。

 他の人もこの意外なオルロゼオの態度に驚いていることだろう。

 それとも犯人だと思われたくないための演技なのか?

「……リエルさん。あなた確かエドリックさんと彼と同じチームで、行動を共にしていましたね? 彼とエドリックさんの様子はどうでしたか?」

「…………」

 そのコスターさんの質問に、リエルは俯いたまま全く反応しない。

 リエルがもし犯人ならここで自分の身を守るためにも、自分に有利な発言をしてもいいとは思うんだが、あのリエルだからな……。


 しばらく待ってもリエルからの返答はないどころか、リエルは顔すら上げなかった。

「そうだ……。こいつが犯人だ……。こいつ、エドリックさんと揉めていたのを俺は見たぞ! その恨みでエドリックさんを殺したんだ……。白状しろよこの野郎!!」

 オルロゼオがゆっくりとリエルに近づいて行って恫喝を始める。

 リエルが何も反応しないことで調子にのったのか、段々とそれもエスカレートしていって、ついに座っているリエルに対して足蹴りを始めた。

 さすがにそれは頂けないと思って、周りが止めに入る。

 もちろん俺も興奮するオルロゼオを止めに入った。

「落ち着け! 暴力はダメだ。一旦冷静になってくれ。処遇が決まるのは全部が分かってからだ。お前一人で決めることじゃない!」

 そう言っても聞かないオルロゼオをみんなで必死に抑えつける。

 サバトさんの時と違ってオルロゼオを抑えつけるのは実に容易だった。


 力でねじ伏せて少し落ち着いてきたかなと思った所で、それぞれは一旦元の場所に戻る。

 また暴れると困るので一応オルロゼオの傍にジェイが付いているが。

 それからコスターさんが場を一旦仕切りなおして話を再開させた。

「リエルさん、あなたに聞きたいことが二つあります。一つ目はオルロゼオさんとエドリックさんの関係についてです。二人はどんな関係を築いていたのか、あなた視点の感想でいいので聞かせて下さい」

「…………」

 その質問にまたしてもリエルは沈黙する。

 このリエルの沈黙癖にはさすがのコスターさんも困り果てている様子だ。

 コスターさんは仕方ないといった感じで、他の人に二人の関係がどうだったのか分かる人がいるか聞きに入った。

 しかし、輪の中から外れていたエドリックとオルロゼオの目撃証言を得ることは難しいらしく、これといった情報を得ることはできなかった。

「確かに、エドリックさんはあまり親しく人と話すような人じゃない。でも、俺にだけは話してくれたんだ! 他の誰も信用出来ないってな! お前らがぐずぐずしているうちにグレハードさんが殺されてしまった! これだけ人がいるのにまんまと殺されたんだ! そんな奴らが信用できるか!? エドリックさんは誰にも頼らずに自分の力だけでここから脱出すると言っていた! それには俺の協力が必要だと、俺だけは信じていると頼りにしてくれたんだ! 俺は俺達をノケモノにしたお前らより、エドリックさんを信じた! エドリックさんと一緒にここから脱出しようと誓い合ったんだよ!! そんな人を俺が殺したっていうのか!? お前らは能無しは何もわかっちゃいないんだ!! お前らなんかに脱出なんて出来るものか!! お前ら能無しは一生ここで暮らしていろ!!」

 ……オルロゼオが涙を流しながらそう訴えている。とても年上だと思えない態度だなこりゃ。

 隣にいるジェイが「はいはい分かった分かった」なんてあやしているのが何とも不憫だ。

 話を聞いている限り、多分こいつエドリックにいいように利用されそうになっていただけっぽい。

 話が本当ならエドリックが何の根拠もなく「オルロゼオだけを信じる」なんていうのがおかしい。誰が犯人でもおかしくない状況下で、軽々しく人を信じたなんて言えること自体が怪しさ満点なんだけれどもなぁ。

 しかも二人はそんなに頻繁に会話してたような感じではないんだろ?

 今までにたくさん俺と会話してくれたジェイやトルネ達だって、俺は完全に信じたわけじゃないし、お前を信じたなんて言える根拠はないぞ。

 まぁ、オルロゼオからしてみれば仲の良かったグレハードさんが亡くなって、味方が少なくなってそういう言葉を信じざるを得ない状況だったのかもしれない。

 そこを味方が欲しいエドリックがうまく利用した……と考えるのは、エドリックに対して失礼かな。


 ともかく、エドリックとオルロゼオにはそんな関係があったかもしれないということは頭に入れておいていいだろう。

 でもそれは所詮感情論だ。だからと言ってオルロゼオが犯人ではないと断定はできない。

「まぁいいでしょう。例えどんなに仲が良かったとしても、犯人ならそれも関係のないことです。リエルさん、二つ目の質問は、さっきオルロゼオさんがあなたがエドリックさんと揉め事を起こしたという点です。 詳しく聞かせて貰えないでしょうか?」

「…………」

 リエルは相変わらず、返答を寄越すどころか俯いたままぴくりとも動かない。

 このオルロゼオの供述についてだが、なんか引っかかるんだよな。

 リエルもエドリックも互いにこの中の無口代表格のナンバー1と2だ。

 無視がデフォルトのこの二人に何があったら衝突が起こるのか全く予想できない。

 トイレに行ってる所を見られたのかな……。

 でも、例えそんなことがあっても揉め事と認識するまで事が大きくなる気がしない。

 リエルに対して俺がやったようなちょっかいをかければリエルも怒らせて両手でドンをしてくるし、それが他から見れば揉め事に当たりそうな気がしなくもないが、エドリックがそんなことする人だとは思えない。

 オルロゼオがリエルを貶める為に嘘を行っているのか膨らませて言っているって考えるほうが自然か?


 リエルの返答を待っても一向に返ってこないのでさすがにコスターさんも呆れ気味だ。

「あなたね。そんなに黙ってたら犯人と疑われても仕方ないですよ? 何もやましいことがなければ素直に話したらどうです?」

「……別に」

 コスターさんがそう問い詰めてからしばらくすると、本当に聞き取れるかも怪しい声でそうリエルが呟いた。

 その返答にオルロゼオもご立腹だ。

「嘘をつくなよ! こいつ、エドリックさんの手を凄い勢いで振り払って、威嚇するようにエドリックさんを睨みつけていたんだ! 完全にエドリックさんに敵意を持ったような態度だった! こいつが犯人だ!」

「……リエルさん、エドリックさんとどんな会話をしたのかいい加減話して下さい。これは重要な証言なんです」

「…………」

 コスターさんがそう聞くもリエルはまた黙りこんでしまった。

 敵意を持ったような態度ねぇ……。

 リエルのその様子は何となく想像できるんだが、主観が強いな。

 俺に対しての両手でドンも、いつものリエルの無表情で目があっても、違う人が見たら敵意と取られる可能性はあるしなぁ。

 例えそんなことがあっても、急に人を殺すような子じゃないと俺は思っているんだが、実際はどうなんだろうな。

 人と関わりをあまり持とうとしないリエルなので、こういう時に味方がいないのでフォローしてくれる人もいない。

 トルネやニーナなんかも結構話しかけてはいるみたいだが、完全無視を決め込まれているそうだ。

 相手が女性とか男性とかあまり関係なくて、単に人付き合いが苦手なのか嫌いなんだろうな。


 仕方ないので、俺が話に参加して話題をさり気なく変えてみようと思う。

「ちょっといいか? その前に確認したいことが二、三あるんだ」

 俺がそう言うと、みんなの視線はリエルから俺の方へと移った。

 コスターさんもリエルからの返答がないので困っていた所らしく、呆れつつもどうぞと言ってくれた。

「まず一点目。アリバイのことについてなんだが、コスターさんは呼びに行った四人かスレバラさんかオルロゼオさんのアリバイがないとしているようだが、それは違う。最後にエドリックさんを見たのは確かクルフだったか? 掃除の時に見たと言っていたな? 掃除が終わった時に見た人間はいないのか? いないのであれば、掃除中に既に殺されていて、俺達がアングリシェイドが出現した穴の調査を開始する時には既に死んでいたというのも十分に考えられる。掃除がどういう分担で行われていたのか俺はよく分からないんだが、誰の監視もない自由な状況で行われていたのとしたら、誰でもエドリックさんを殺す機会があったということになる。この点についてはどうだろうか?」

 俺がそう話すと、コスターさんは自分の思い違いに気づいたらしく、少ししまったというような顔をしていた。

 それでも俺に対抗心を燃やすような感じで俺の話に対してツッコミを入れてくる。

「それは違いますね。エドリックさんが殺されたのは南通路東側の大広間。その周辺は私とシドルツさんが掃除を担当していました。リエルさんもいましたね。その間に大広間に入った人はいないので、掃除の時間に行われた犯行ではないということです」

「それは確かなことですか? 確か大広間には2つの入り口がありましたよね? その入口を2つともずっと監視していましたか?」

「それは……」

 こいつ、そんな適当な根拠で掃除の時間ではないと断定しようとしてやがったのか?

 そんなんじゃ真実なんて絶対に見えてこないぞ。

 単に俺に突かれたから反論したかっただけなのかもしれないが、それにしてもお粗末だ。

「シドルツさんリエルさん、大広間に人が入った様子なんてありませんでしたよね? 少なくとも私はそう感じていますが?」

「俺も見ていないな。ただ、だからと言って掃除の時間に絶対に誰も大広間へ入っていないとは言えないが……」

「…………」

「クルフ、お前がエドリックさんを確認してから掃除が終わるまでどれくらい時間があった?」

「どれくらい……。そんなのわかんねぇよ。掃除の仕上げに入ろうとしてた時だから、終わりの方なんじゃね? それを考えると掃除の時間に殺されたっつーのは怪しい気がするけど……」

「ほら!! 掃除の時間には生存が確認されているんですよ! あなたもしかして、自分のアリバイがないからと言って、無理やり掃除の時間の犯行だと錯覚させようとしてませんか? そんなことをするのは犯人だからだと思われても仕方ないんですが!?」

 コイツ本当にムカつくな。

 そんなことはどうだっていいんだよ。

 確かな筋道を辿っていかないと曖昧なまま見当違いな結論に辿りいついてちゃうだろうが。

 俺はそれを回避しようとしているだけなんだけれども、俺が間違ってるのか!?

 誰からのフォローも入らないので不安になってくるぞ。

「勘弁してくれ。クルフがエドリックさんを確認してから掃除が終わるまで五分もなかったと見ていいのか? その間にエドリックさんと犯人が大広間に入って犯行を行うというのは無理か?」

「五分以上は余裕であったよ。一、二刻くらいはあったんじゃねぇの? それから一気に水のぶっかけ祭りが始まったからな!」

 そう言ってクルフはにししと笑う。

 こいつはこいつで、いつも楽しそうな事してやがる。

 一、二時間もあれば余裕でエドリックを殺してお茶が飲める余裕まであるわ。

「じゃあ何で掃除の時間に殺されたというのは怪しいと?」

「勘……? ぶっかけ祭りが終わったらすぐリビングへ戻ったぜ? その間に殺されたっていうのはな……」

「……じゃあ、念の為に掃除の終わりの時間辺りの、みんなのアリバイを聞いてみたいんだがどうだろうか? みんなが何処にいて、どのメンバーと一緒にリビングへ戻ったのか念のため聞いてみたい」

 俺がそう言うと、各自自分は潔白ですと言わんばかりにアリバイを話し始める。


 俺は目を覚ましてからはほとんどリビングに居た。

 途中でルトヴェンドさんとウェリアさんと密会をしたが、そのことは自分の口からは伏せておいた。後からルトヴェンドさんが話したので無意味だったが。

 というか、ほとんどの人がリビングにいたようだ。

 厳密に言えば、各自掃除用具を取りに行く等して部屋から単独で出ている人もいたらしいんだが、リビングから大広間まで往復するのに相当時間がかかるし、そこまで時間を空けた人はいないということでアリバイは成立する。

 リビングに居たと他の人の確認が取れていないのはアングリシェイド発生源付近の掃除をしていたクルフ、サバトさん、コーラスさん。

 そして書斎で本を読みふけっていたシドルツさんと、それに付き添っていたコスターさん。この二人は掃除が終わるちょっと前に自然とリビングに戻ったそうだが。

 後は部屋で閉じこもっていたスレバラさん。

 ……そして何処をほっつき歩いていたのか分からないリエル。


 クルフ、サバトさん、コーラスさんは互いに確認しているので犯行を行うのは難しい。

 途中で水を汲み行く為に単独行動に出たクルフは疑問の目が向けられたが、本人はもちろん否定。

 シドルツさんとコスターさんはリエルと共に担当箇所の掃除が終わったら、二人で書斎に篭もりっきりだったらしいので犯行は難しい。

 スレバラさんは誰がどう見てもエドリックを殺しに行く元気がありそうにないので誰も疑惑の目を向けなかったのだが、リエルだけは誰もその姿を確認していなかったので、自然と疑惑の目が向けられてしまっている。


 どこに居たのかと聞いても、リエルは何も答えてくれない。

 嘘でもいいから掃除が仕上がったのかの確認の為に色々回っていたとか言えばいいのに、何にも言わない。

 それにはオルロゼオの奴も好材料だったようで、嬉々としてリエルを責め立てていた。

「待て待て。だからと言ってリエルが犯人ということじゃないだろ。クルフだってアリバイが怪しいのは一緒なんだ。あくまでその時間にリエルやクルフには犯行を行えるチャンスがあったというだけだ。俺が聞きたかったのはそこ。次に進んでも大丈夫だろうか?」

 結局俺の中でリエルの怪しさが増しただけの結果となってしまった。

 みんなに確認を取って次の話題に進める。

「二つ目の質問なんだが、オルロゼオさんにちょっと聞きたい。オルロゼオさんって、戦う力はあるんですか?」

「…………」

 これでもしナイフの扱いがリエル並に長けているということでなければ、またしてもリエルへの疑惑が上がってしまう。

 心情的にできれば彼の口からナイフの扱いがうまいという言葉を聞きたい所なんだが……。

「……侮辱しているのか?」

「いや、そんなことはない。むしろ、あなたの疑いを晴らそうとしているんだ。あなたがエドリックさんと一対一で戦って、勝てるかどうかが知りたい。どんな武器を持っているんですか? 魔法ですか?」

「エドリックさんは俺よりもはるかに強いだろうな! 俺がエドリックさんと戦っても絶対に勝てない!」

「その根拠は?」

「お前らは見てないかも知れないが、エドリックさんは速い! 俺の魔法なんかで捉えるのは難しいくらい速いからな! お前が言うとおり、俺がエドリックさんと戦っても俺が勝てるわけないんだ! だから俺は犯人なんかじゃない!!」

「…………」

 ……魔法か。

 リエルのように神のナイフさばきという線はなくなったな。それを持ってるなら今のような話にはならない。

 それとも、こいつは自分が疑われないようにナイフの事は隠しているという事はないか……?

 いや、動いている相手の足に的確にナイフを刺すなんて神業、初めて見たくらいだぞ。そんなにゴロゴロ神業使いがいてたまるか。犯人は多分こいつじゃないだろうな……。


 リエルが掃除の終わり間際に犯行を行ったと考えれば全ての辻褄はあうんだけれども、オルロゼオがリエルに敵対心もっている所で今それを言うと、こいつが発狂し兼ねない。

 だからと言ってこれで何も言わないと、また見当違いな方向へ話が進んでいってしまわないか? いや、現段階でリエルが犯人かもしれないと思っている人は結構いるだろうな。

 コスターさんもオルロゼオよりもリエルを疑い始めているかもしれない。

 エドリックはナイフのような物で殺されているのは、みんなが確認していることだし、質問にも黙秘を続けているというのは心象が悪い。

 どうしたものか。

 そんなことを考えると、不意にシドルツさんが俺に声をかけてきた。


「ロク。何か言いたいんじゃないのか?」

「…………」

 シドルツさんもリエルのナイフさばきをしっかり確認しているんだ。

 シドルツさんはきっと気がついているな。俺の質問の意図ももしかしたら勘付いているかもしれない。

 それなら今この空気でリエルが犯人だと言ったらどうなるのかも察して欲しい所なんだが……。

「まぁいい。それなら俺が言おう。遺体の足の甲にナイフで突き刺されたような跡があった。トドメとして刺すには効率の悪い箇所だ。戦闘中に刺されたと見て間違いないだろう。だが、動いている相手の足にナイフを突き刺すというのは至難の業だ。彼の話ではエドリックは素早いという話もあった。そんなことができる奴がこの中にいるか?」

 まずい。

 シドルツさんがリエルを追い詰めに入ろうとしている。

 いや、リエルが犯人なのは俺も納得なんだが、このやり方は良くない気がする。

 味方がいないのに加えて言い訳する口すら持たないリエルなんだ。下手すれば一気に話が飛んでフェンス発動者の犯人にされるということだってあり得る。

 俺も味方してやりたい所なんだけれども、彼女の言い分や真実を知れない限りこの状況じゃどうすることもできない。

 彼女がフェンス発動者の犯人だったら、徹底的にどうすることもできないけれども。

 彼女の場合、そうでないのに勝手にそうされて、否定する間もなく話が進んでしまいそうな気がするんだ。

 彼女に弁明の機会と雰囲気を与えてあげたい。

 その為には今ここで追い詰めるというのは良くない気がするんだが……。

「いないだろうな。最も、居たとしてもわざわざ手を挙げるようなことはしないと思うが。だが、俺は一人だけそういった器用なナイフ捌きが出来る人間を知っている。彼女だ」

 シドルツさんはリエルを指してそう言う。

 当のリエルはシドルツさんの方なんて見向きもせずに、ずっと無言で俯いたままだ。

「俺とロクはアングリシェイド戦の時に彼女のナイフ捌きを確認している。あの様子なら戦闘中にエドリックの足にナイフを命中させるくらい訳はない。ロク、どうだ?」

「……そうですね」

 かなり迷ったが、ここは正直に答えるしか道がない。

 俺も彼女の弁護をしてやりたいんだが、俺自身彼女が犯人かもしれないと思っているのでそれも難しい。

 どうにかリエルには喋ってもらって、俺にも弁護できる要素を出して欲しい所なんだが……。


 そのシドルツさんの話を聞いてまたオルロゼオが喚き始めたが、ジェイがなんとか取り押さえてくれた。

 そして、コスターさんが冷静にリエルに近寄って目線をリエルに合わせるように腰を落として尋問を始める。

「リエルさん。材料は揃っていますけれども、あなたがエドリックさんを殺した犯人なんですか?」

「…………」

「いい加減話をしてくれないと、犯人だと思われても仕方ないですよ? どうなんです? 話が出来ないなら、犯人だとみなして話を進めますよ? 最悪、あなた何もしないまま殺されますけれども、それでも口割らないつもりですか?」

「コスターさん!!」

 言いすぎだと思ってコスターさんを牽制した瞬間、リエルが一瞬の動作で立ち上がり、ものすごい速さでリビングの西口へと逃げていった。

「リエル!!」

「逃すかっ!!」

 それをオルロゼオが追っていこうとする。

 俺が考えていた、最も悪い方向へと話が進んでしまった。

 この状況をどうやって突破してやればいいのか、リエルはエドリックを殺したのか、リエルはフェンスを発動させた犯人なのか、もしそうだったらみんなはリエルに対してどういう処遇を取るのか。

 俺には考えることがたくさんありすぎて、パニックを起こしそうだった。

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