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12.考察と調査

―― 三日目 外出禁止時間~四日目 ――



 グレハードさんが殺されたという事を受けて、ここにいる人間に大きな衝撃が走った。

 スレバラさんは取り乱し、剣を構えて今にもなりふり構わず全員を斬り殺そうという勢いだ。

 普段の俺だったらそれを取り押さえていたんだろうが、俺にもこの出来事のショックが大きすぎてそれどころではなかった。

 ジェイがスレバラさんを取り押さえていたが、ソイチさんも一緒になって暴れ始めるので、とにかく現場は混乱した。

 みんなが現場に揃って状況の確認を終えると、コスターさんが非常に冷静な調子で現場をこのままにし、一旦全員を広さのあるリビングへと向かわせた。


 グレハードさんの遺体は殺された時の状態から動かされておらず、首が切断され、布が掛けられているそのままの状態にしてある。

 凶器は部屋に入れば誰でも手に取れる位置にあるクルフが所持していた剣。血が付いたクルフの剣が現場に落ちていたので、それで間違いないだろう。

 グレハードさんはその剣で首をスッパリ斬られており、他に外傷は確認できなかった。

 返り血は布かなんかで飛び散らないような工夫がされてあったのか、派手に飛び散った様子もなく、壁には多少の血痕があったものの、首を斬られたというのに天井まで飛んでいるような状況ではなかった。代わりにグレハードさんのベッドや付近の床は血まみれだったが。

 クルフはトイレに行っている所だったらしく、帰ってきたらこの惨状だったので悲鳴を上げて驚いたらしい。

 同室のコーラスさんはずっと眠っていて、そのクルフの悲鳴で起きたと話していた。


 リビングへの移動中もスレバラさんとソイチさんの興奮は収まらず、何度か移動が中断された。この時には冷静になろうと心がけていた俺も二人を取り押さえるのに加わったが、心の中は本当にそれどころではなかった。

 ついに事が起きてしまったんだ。何を思おうが、これが現実。この中に何食わぬ顔した犯人が居て、そいつはグレハードさんを殺害し、今もなお俺達の首を狙っている。

 シドルツさんとの会話を思い出す。何か一つ事件があったら、それから流れるように連鎖が起き、最終的には全滅する。シドルツさんの想像した最悪のシナリオだ。そのシナリオの序章についに足を踏み入れてしまった。このままではいけない。

 冷静になって考え、何とか犯人の手がかりを掴み、この悲惨な出来事を連鎖させてはいけない。そう、心に強く思った。


 全員がリビングに到着すると、コスターさんが話し始める。

「犯人がついに動き始めましたが、みなさん落ち着いて下さい。まずは状況の把握とみなさんのアリバイを確認します」

 そう喋るコスターさんは驚くほど冷静だ。

 その様子を見て俺も心を落ち着かせようとするのだが、さっきから震えが止まらない。赤の他人の死体なんてここに来るまでに何十も見てきたし、友人が殺された事だって何度も経験してきた。

 でも、これ程までに動揺したのは今回が初めてだ。多分、何が何だか全くわからないという事が俺にこれほどまでの動揺を誘ったんだろう。

「貴様だろ!! 白状しろこの!! この下衆が!!」

 ソイチさんがコーラスさんに向かってそう暴言を吐く。ジェイがソイチさんを抑えているが、それがなかったら殴りかかってそうな勢いだ。

 当のコーラスさんは俺と同じような状態だ。何が何だか分からないと言った様子で、俯き加減でガタガタ震えている。


 移動中にも同じような事があったが、ソイチさんがコーラスさんを責める理由は、恐らく殺されたグレハードさんと同室だったからというだけではない。時折ソイチさんから聞こえる『ドリアースのゴミ』という単語から、そういったお国柄の事情も挟まっているのだろう。

 ソイチさんとコーラスさんは前の部屋では険悪な関係のままだったしな。現に、ソイチさんの怒りはコーラスさんと同じくグレハードさんと同室だったクルフには向かっていない。


「黙れ」

 そんなソイチさんに、意外にもサバトさんが近づいて胸ぐらを掴みあげ、そうドスの効いた声で脅すように言った。

 ソイチさんは『貴様もあやつと同じドリアースの~』とか何とか言っていたが、サバトさんが今度はかなり暴力的な感じで首を締めるように脅すと、ソイチさんはゲホゲホ言いながら少しおとなしくなった。

 サバトさんはそのままゆっくりとコーラスさんの方に近づき、今度はコーラスさんに対して胸ぐらを掴みあげて脅すような格好を取った。

「てめぇか……?」

「ち、ち、ち……違います……僕じゃないです……」

 ガクガクと震え、必死に絞りだすような感じでコーラスさんは答える。

 それでもサバトさんの脅迫とも言える行為はエスカレートし、胸ぐらを掴んだまますごい勢いでコーラスさんの体を壁まで持って行く。

 コーラスさんの背中を壁にぶつけ、逃げ場がなくなった所で再度サバトさんはコーラスさんに問いた。

「正直に答えろ……でないと殺すぞ?」

「ぼ、ぼ、僕じゃないです!! し、信じて下さい!!」

「……」

 サバトさんはしばらくの間、その姿勢のままコーラスさんを睨みつける。

 しばらくその状態が続いた後、サバトさんはコーラスさんのお腹に一発パンチを入れた。見ているこっちにも痛みが伝わってきそうな一撃だった。

 サバトさんはぐったりして床に倒れ込んだコーラスさんを引きずって、俺達のいる場所へと戻って来、掴んでいたコーラスさんを捨てるように、俺達の元へと落とした。

 この人、身内にも容赦ないんだな……。

「そんな小芝居が通用するとでも思ってるのか!! 貴様だろ!!」

 ぐったり床に倒れるコーラスさんに追い打ちをかけるように、またソイチさんが暴れ始めた。

 更に、ここに来てからはおとなしくしていたスレバラさんまでそれに便乗するように前に出てくる。

「ドリアースから出ている者は前へでろ」

「いや、それはいくらなんでも無茶苦茶なんじゃ……」

 と、ジェイは控えめにスレバラさんを抑止するも、スレバラさんはそれで勢いを取り戻してしまった。

「いいから前へ出ろ!! 私が全員叩き斬ってやる!! グレハードの受けた痛みを思い知れ!!」

 これじゃあ話し合いなんか全く進まない。

 他の人の様子を見て落ち着きを取り戻し始めた俺は、大きな声を出して二の暴走を止めに入ろうとする。

「お願いです!! 落ち着いて下さい!! これじゃあ犯人の思う壺です!! 今は冷静に状況を把握して、一刻も早く犯人を割りださないといけないんじゃないんですか!? こうやって仲間割れして何が進むんですか!? この通りです! お願いですので、一旦落ち着いて下さい!!」

 そう叫ぶように大声て話し、頭を深く下げた。

 ドリアースから出ているジェイがこれを言っても効果はないので、俺が言った事に少しは意味があっただろうか。

 それを聞いたスレバラさんが少し間を置いた後に『すまなかった』と謝ってくれ、続いてソイチさんも納得行かないような感じではあったが、一旦の所落ち着いてくれた。


 これでようやく話し合いを始めることが出来る。場が落ち着くと、コスターさんは前に出て話を再開させた。

「少しこの状態で待っていて下さい。グレハードさんが犯人で、これによってフェンスが解除されたという可能性も考えられますので、確認してきます」

 コスターさんはそう言うと、シドルツさんを引き連れてシェルターの入り口へと向かっていった。コスターさんの言葉に少し反応していたスレバラさんだったが、何とか感情を抑えてくれたみたいだ。

 ここに残されたみんなは一言も声を発することなく、コスターさんとシドルツさんの帰りを待つ。

 言われてみればコスターさんの言うとおりだ。これでグレハードさんがフェンスを発動させた犯人だったという事も考えられるんだよな。冷静さを欠いていて、全くその発想が出てこなかった。

 俺はこの無言の機会を利用し、何度も何度も深呼吸をして心を落ち着かせるように努めた。

 

 程なくしてコスターさんとシドルツさんが帰ってくるが、首を左右に振っているので、恐らく結果はダメだったんだろう。

 コスターさんはそのまま、みんなの前に立つ位置で止まり、結果を報告する。

「ひょっとしたらとは思いましたが、残念ながらフェンスはまだかかっていました。これで、犯人が悪意を持ってグレハードさんを殺害したという事が確定しました。まず、どういう状況で、誰がグレハードさんを発見したのか説明して下さい」

 そう言うと、いつものテンションが全く感じられないクルフが手を挙げて立ち上がり、話し始めた。

「俺が一番最初に……。しょんべんに行こうと思って部屋から出た時は、グレ様もコーラスっちも熟睡してた……。戻ってきたらグレ様があんな状態になってて……」

「どれくらいの時間、トイレに行ってたんですか?」

「どれくらいの時間って……わかんねぇよそんなの……。しょんべんだからトイレまで行って帰ってくるだけの時間だよ……」

 俺達の部屋は、地図でいうところの西側通路に並べられている。それぞれの部屋は距離が結構開いており、隣りの部屋へ行くのに歩いて一分以上はかかる。

 トイレのある場所は不便な事に、リビングを挟んで反対側、地図で言うと東側通路に一つだけだ。走って往復したとしても、十分以上はかかると思う。それだけの時間があれば寝ているグレハードさんを手にかけるくらい訳はないだろう。

 ただ、それだと数々の疑問が浮かんでくる。


 まず、どうやってクルフがトイレに行くことを察知できたのか。これはクルフがトイレに行くという偶然を使わないと行えない行為だ。部屋の外からはクルフがトイレに出たか出ていないかなんて分からないので、影からクルフが自室から出るのを見張っていて、部屋から出た瞬間グレハードさんを殺し、自室に戻った……みたいな事になる。トイレに行くかも分からないようなクルフを見張るという行為が分からない。

 また、どうしてコーラスさんはそのままにしておいたのか。最初からクルフもコーラスさんも殺害するつもりで部屋に侵入したという事なら理解はできる。でも、実際に殺されたのはグレハードさんだけだ。クルフはトイレに行っていたので殺せなかったというのは理解できても、寝ていたというコーラスさんを殺さなかった意味が分からない。コーラスさんが起きていたのであれば、もちろんコーラスさんは何らかのアクションを起こしていただろう。コーラスさんも殺すつもりだったけれども、コーラスさんが起きそうだったと見間違えたとか、クルフが戻ってくる足音が聞こえてきたので慌てて逃げたとか、そんな所だろうか。

 何にしても、辻褄の合わない事が多すぎる。


 一番しっくり来るのは、コーラスさんが狸寝入りをしていて、クルフがトイレに出たのを見た瞬間を見計らってグレハードさんを殺し、また寝に入るといった具合か。実際にソイチさんもサバトさんもそれを思ってコーラスさんに嫌疑をかけたのだろう。

 でもそれだと自分が犯人ですと言ってるようなものだし、もっとマシな方法を思いつきそうな気もするんだが……。

 クルフがグレハードさんを殺してからトイレに行って~というのも考えられなくもないが、それだとコスターさんを生かしておいた理由が分からない。二人を殺すと自分が犯人ですと言ってるようなものなので、有耶無耶にする為にとりあえずグレハードさんを殺したという線もなくはないけれども。


 とにかく、犯人であるという確証がない限り、下手な事は言わないほうが良いだろう。

 でも、今解消できそうな疑問は解消してしまおうと、少し話を聞いてみることにする。

「横から申し訳ないんだけど、俺の方から少し聞いてもいいすか?」

「どうぞ」

 場を取り仕切っているコスターさんに許可を貰って発言する。

「えっと、今回で外出禁止時間は三回目になる訳ですけれども、今までの二回、クルフと同室だった人は……?」

「俺とウェリアだ」

 ルトヴェンドさんが答えてくれる。

「ルトヴェンドさん、クルフはその二回の外出禁止時間にトイレに行くような事はありましたか?」

「……」

 俺がそう聞くと、ルトヴェンドさんは少し気まずそうにウェリアさんと顔を合わせ、その後クルフとも顔を合わせた。

「ここで無駄に隠してもバレればクルフ君にも不利に働いてしまうだろうから、正直にこちらから話しておこう。クルフ君は二回目の外出禁止時間の際に、一度一人でトイレに向かっている。その際、俺はその行為を目撃していたのだが、その時はあえて何も言わなかった。後からクルフ君に直接そのことについて聞いたのだが、正直に一人で出たと答えてくれた。サバト君の一件があったのでクルフ君の事もどうしようかと悩んだのだが、結局ロク君がサバト君を不問にした事、ウェリアも目をつぶろうと言った事もあって言わなかった」

「……ごめん」

 ルトヴェンドさんが話し終えると、クルフは静かに謝罪を言葉にする。

 別に勝手に一人で出た事はここではどうでもいい。俺が聞きたかった事は、常習的にクルフがトイレに出る人かどうかという事で、なおかつその事を知っている人がいるのかという事だ。

 クルフが常習的にトイレに出る事を知っていれば、今回のグレハードさん殺害も一歩近づけると考えたんだが。

「いや、勝手に出たことは割りとどうでもいいんだ。ルトヴェンドさん、今二回目の外出禁止時間の際に一度と言いましたけれども、一度目の外出禁止時間はどうでしたか?」

「出ていないと思う。少しの間俺も眠っていたので、確実にとは言えないが」

「クルフ、どうだ?」

「出てない!! 本当だ!! 出てるんだったら、一度も二度も同じだし正直にここで言う! でも、本当に出ていないんだ!!」

「そうか、ありがとう」

 過去に一回トイレに出た事があるからと言って、今日もトイレに出るだろうと考えてクルフを見張るのには無理があるか。そもそも、それが実行できるのはクルフがトイレに出た実績を知っているルトヴェンドさんとウェリアさんだけだ。ルトヴェンドさんはこうして正直に話してくれているんだろうし、多分違うのだろう。

 これだけでは何の参考にもならない。

「それがどうかしましたか?」

「いや、今回クルフはたまたまトイレに行ったのかどうかという事が知りたかった。過去の二回の外出禁止時間もトイレに行っていたのだとしたらもしかしてとは思ったが、これだけでは根拠が薄すぎる。今の話は忘れて欲しい。答えてくれてありがとう。ついでですまないがクルフ、トイレに行く際に部屋のドアを開けたのか閉めたのかも聞かせて欲しいんだが……」

「閉めた……と思うぞ。二人を起こさないように、音を立てないように扉を閉めて出て行ったと思う」

「そうか……」

 部屋の扉には鍵はついていない。開けようと思えば誰でも開けられるのだが、扉が開いているか閉まっているのかで、犯人の心理はだいぶ変わるだろう。

 扉が開いているのであれば、外から入る人間は中の様子を伺いやすいが、扉が閉まっている状態では中の様子が全く伺えない。その状態から扉を開けて中に忍び込むのはのは相当な勇気がいるはずなんだ。なにせ、普通に起きている人間が中にいるかもしれないからな。

 つまり、犯人はそのリスクを犯して扉を開け、中に侵入したという事になる。

 そんな事あり得るか……? グレハードさんもコーラスさんも眠っているという確信がないと、なかなか出来ない行為だ。外から侵入したわけではないとなると、犯人はコーラスさんかクルフしかいなくなるのだが……。

「コーラスさんにも聞いて良いでしょうか?」

 俺は続けてコーラスさんにも話を伺ってみようと思った。

「は……はい……」

「コーラスさんはずっと寝ていたと言ってましたよね?」

「はい……」

「いつ起きました?」

「クルフさんの悲鳴で起きました……」

「グレハードさんの悲鳴とか、犯人の侵入とかには全く気が付かなかったのですか?」

「すみません……全く……」

 そこでソイチさんの汚い野次が飛んだが、それをスレバラさんが抑えてくれた。スレバラさんもだいぶ落ち着きを取り戻してくれたようだ。

「ちょっと立ち上がってもらってもいいでしょうか?」

「はい……」

 俺はコーラスさんを立ち上がらせて、コーラスさんの格好を観察した。

 手と膝の辺りと、羽織っているマントの背中の方にグレハードさんのものと思われる血痕がついている。手と膝はグレハードさんの様子を確認した時についてもので間違いないだろう。ベッドから血が滴り落ちる位置にある膝の辺りはグレハードさんの遺体に近づいたら自然と誰でもつくし、俺もついている。

 注目すべきはこのマントにある血痕。飛び散ったような付き方から見るに、恐らく犯人殺害の時についたものだと思われるが……。

「申し訳ないですけれども、コーラスさんが寝ていた時の格好とグレハードさんとの位置関係をここで再現してもらっても平気すか?」

「……はい」

 コーラスさんは不思議そうな顔をしながらも、床に寝転がってマントを掛け布団代わりにして体を包ませた。

 丁度コーラスさんのマントに付いている血痕は、グレハードさんの眠っていた方向を向いている。恐らくグレハードさんが殺害された時に飛び散ったものなのだろう。

 首を切断されていたんだ。現場にはもっと派手に血が飛び散っていてもおかしくないと思ったんだが、現場はそれほど飛び散ったような感じではなかった。犯人は恐らく返り血を考えて予めグレハードさんに布を被せた上で首をはねたんだと思う。だからこの中に犯人がいるにも関わらず、返り血を浴びているような人は誰もいない。グレハードさんを覆う布が二枚だったのも、返り血を回避する為に利用されたものがあるからだと思う。

 話は戻るが、コーラスさんのマントに付いている血痕は、恐らくこの様子だと殺害された時についたものだ。後で現場も確認しておいた方が良さそうだが、位置関係がぴったり合っている。

 つまり、殺害された時にコーラスさんはこの格好のまま寝ていたという事になり、犯人ではないという事になる。

「ありがとうございました。少しだけ(この事件についてコーラスさんが犯人ではなさそうだという事が)分かりましたが、(そのせいで誰が犯人だか)余計分からなくなりました」

 と、他の人が聞いたら意味不明な事を口走ってしまった。

 あくまで俺の想像だ。これを持ってしてもコーラスさんが犯人という可能性はあるし、余計な事を口走るのは混乱を招くだけだ。

 でも、その言葉のせいでジェイからツッコミが入ってしまった。

「おいおい、一人で納得してないで俺達にも分かるように説明してくれよ」

「すまんが、俺の想像だけの話なんだ。全くの見当違いかもしれないし、余計な事を言ってみんなを混乱させてしまうかもしれない。できれば何らかの確証を得てから話したいんだが……」

「それでも、話してくれると俺達も参考にできるかもしれないし……良ければでいいんだが……」

「そいつが犯人に決まっているだろう!! その根拠を見つけたならば直ぐに喋れ小僧が!!」

 ソイチさんがまた野次を飛ばしてくる。

 話すのはやめようと思っていたのだが、今のソイチさんの言葉を聞いて考えが変わった。

 別に犯人を特定することでもないし、誰からも恨みを買うような内容ではない。むしろソイチさんを黙らせる事ができるかもしれないというおまけがついてくるからな。


 そういう訳で、今俺が考えた事を説明すると周りのみんなは妙に納得してくれた。ソイチさんも黙ってしまったが、想像にすぎんとそれでもなお吠えていた。

「分かりました。他に言いたいことありますか? できればみんなのアリバイも聞いておきたいんですが……」

「あ、はい。すいません話の腰を折ってしまって……」

 コスターさんに詫びを入れて発言を譲ると、コスターさんは続いてみんなのアリバイの調査を始める。

「それではみなさんに聞きますが、あの時間に起きていた人は挙手を願います」

 俺はその問いに手を挙げる。起きていたというか、見張り睡眠だけれども。

 他に手を挙げていたのはクルフとルトヴェンドさんだけだった。意外とみんな普通に眠っているんだな。

「クルフさんは分かりました。他のお二人に順にお聞きします。まずはルトヴェンドさん。あなたは何をしていましたか?」

「何を……。何もしていないな。強いて言えば見張りか?」

「見張りの最中、部屋の外へは出ましたか?」

「いや、出ていない。ずっと部屋の中だ。外出禁止だしな」

「他の二人はどなたですか? また、その二人の様子はどうでしたか?」

「ウェリアとソイチさんだな。二人共ぐっすり寝ていたよ」

「……なるほど」

 これは手を挙げた人のアリバイというよりも、手を挙げた人が確認した他の人のアリバイだな。

 これでウェリアさんもソイチさんもほぼほぼ白という事になる。

 悲しい事に、これでウェリアさんもソイチさんも白に近づいても、発言したルトヴェンドさんはどちらかというと黒に近づくことになってしまうんだけれども。起きているのであれば、殺害しに行くことはできる。部屋の外に出ていないという発言は嘘かもしれなくても、二人が眠っていたという嘘はついてもメリットがないので嘘を疑われない。

 それと同じことが俺にも起きるのかくそ……。

「それではあなた。あなたは眠らずに何をしていたんですか?」

「俺もルトヴェンドさんと同じっすよ。意識が飛んでいたような事はあっても、一分も飛ばしていないと思います。部屋の外へは出てません。同室はサバトさんとスレバラさんで、二人は普通に眠ってました」

 コスターさんが何かを言う前に全て喋ってやった。コスターさんはその俺の発言を受けて、メモを取っているようだ。さっきからずっとメモは取っていたし、マメな人なんだなと思う。俺も見習いたい。

「他に起きていた人はいないんですか? ちなみに私は眠っていました。シドルツさんが起きていて、私のアリバイを話してくれれば助かるのですが?」

「……すまないな」

 シドルツさんは寝る間も惜しんで本を読んでいるという訳ではないんだな。イメージ的にそんな感じだと思っていたんだが、ちゃんと睡眠は取っているようだ。

 コスターさんが周りの人へ再度念を押すように聞くと、しばらくしてから盗賊野郎のエドリックが言葉を発した。

「こいつとそいつ。こいつは起きてた。そいつは寝てたな」

「あなたも起きていたんですか?」

「あぁ」

 エドリックはリエルを指して起きていたと言い、オルロゼオを指して寝ていたと言う。

 そうだ。すっかり忘れていたけれども、リエルはきっと起きていたに違いない。過去二回リエルと同室だったけれども、リエルはずっと見張り睡眠をしていた。言われてみればエドリックの奴もジェイが同室で、ジェイはずっと奴に見張られていると言っていた。リエルもエドリックも起きていて何の疑問もないだろう。

 何で手を挙げなかったのか。二人共そういう奴だから、で、間違いないだろう。

「そうだったら早く手を挙げて下さい。それであなた、何をしていたんですか?」

「……そいつに聞け」

 エドリックは顎でリエルを指してそう答える。

 それを受けてコスターさんは質問する相手をリエルに代えた。

「あなたは何をしていたんですか?」

「……何もしていない」

 リエルは相変わらずのぼそぼそとした小さな声でそう話した。良かった。無言の気まずい時間が続いたらどうしようかと思ったが、ちゃんと答えてくれた。

「何もしていない? 何で眠らないのですか?」

「……見張り」

「……そこのエドリックさんも同じですか? あなたとエドリックさん、双方とも部屋は出ていないんですか?」

 その問いにリエルは頷く。

「オルロゼオさんは眠っていたという事で間違いありませんか?」

 その問いにもリエルはしっかりと頷いた。

 二人で口裏合わせる必要も全く無いだろうし、これは双方で真実を言っていると取って間違いなさそうだ。この二人では器用に口裏合わせる会話も成立しなさそうだしな。

 ある意味、リエルとエドリックとオルロゼオが何よりも鉄壁なアリバイを手に入れたという事になる。

「つまり、全員が本当の事を言っているとするのであれば、アリバイがないのは……」

 セヴァンズ姉妹とジェイ、コスターさんとシドルツさん。後はクルフとコーラスさんも候補に挙がるか。

 コスターさんは自分でアリバイを聞いておいて、自分のアリバイがない事になってしまったな。それを悟ったのか、コスターさんはそれ以上口にしなかった。

「とりあえず私からはここまでです。何か気づいた事や、手がかり、犯人の情報、これからどうすれば良いか等、気がついたことがあったら何でも話して下さい」

 コスターさんはそう言ってその場にみんなと同じように座った。

 俺も冷静になってもう一度今の状況を整理してみたいと思う。


 まず、このグレハードさん殺しの犯人とラストフェンスを発動させた犯人は同一人物である事はほぼ間違いないと思う。そうでないと動機がない。ソイチさんやコーラスさんが殺されたとなると、或いは個人的な憎しみかという動機も考えられるのだが、グレハードさんの様子を見るに恨みを買ったような相手はいない。前同じチームで、ずっと一緒だった俺なので、それがよく分かる。なので、グレハードさんを殺した犯人はフェンス発動者であり、故に単独犯である事も間違いないだろう。

 凶器や返り血の状況から犯人を特定するのも難しい。この中に犯人は確実にいるはずなのに、ぱっと見で分かるような返り血の浴び方をしている人間なんてどこにもいない。殺人にはクルフの使っている剣が使われているのだが、誰でも扱えるが故に犯人の特定は難しい。力のない女性であってもあれを使えば犯行は行えるだろう。

 一人ずつ俺なりに犯人の可能性を探ってみよう。


 まずはジェイとセヴァンズ姉妹のチームだ。彼らは犯行時全員眠りについていたという事で、アリバイがない。三人のうち誰かが他の二人に悟られずに部屋を出て犯行に及んだという可能性は考えられる。なので、三人共犯人である可能性は五十パーセントとしておこう。人格的なものを考慮してそんな事をする人には思えないというのが少し働くのだが、裏の顔があるかもしれないし、とりあえずそれは除外しておく。


 次はルトヴェンドさん、ウェリアさん、ソイチさんのチーム。ルトヴェンドさんの証言によってウェリアさんとソイチさんが犯人である可能性は低いだろう。特に、ウェリアさんが犯人でルトヴェンドさんがそれをかばう為にという事も考えられるが、ソイチさんにはルトヴェンドさんがかばう理由がない。ルトヴェンドさんは五十パーセントのまま、ウェリアさんは三十パーセント、ソイチさんは十パーセント程度だろう。


 次は俺達の部屋の俺、サバトさん、スレバラさんだ。俺主観の話なので、三人共ゼロパーセントだ。サバトさんもスレバラさんも外出禁止時間に一切部屋から出ていない。クルフはトイレに行く前にはグレハードさんは普通に寝ていたと言っていたので、犯行は外出禁止時間に行われた事で間違いない。以上の事からどう考えても三人共グレハードさんを殺すのは不可能だという事が分かる。


 次は問題のグレハードさんとクルフとコーラスさんのチーム。状況的に考えてクルフかコーラスさんが犯人であると考えるのが一番自然だ。同室でない人の犯行だった場合は、どうしても起きている人がいるかもしれない部屋の中へ進入するというリスクがつきまとう。見つかったら終わりの状況なのに、あえてこんな危険な事をする必要が全くない。やるならもっと安全な方法を選択する。

 クルフかコーラスさんならそのリスクは一切考えることなく犯行に及べる訳だから、他の要素を考えても一番可能性が高いだろう。

 クルフが犯人だった場合はコーラスさんを殺さなかった理由が分からないが、二人を殺してしまえば自分が犯人確定だという事で殺さなかったという事も考えられる。

 コーラスさんが犯人だった場合は、コーラスさんは何故か殺されなかったのかという理由も納得できるし、クルフがいなくなった時を見計らって殺したという感じで、非常に自然な流れになる。マントの血痕の状況から犯行時は眠っていたと考えられるが、それを見越してうまい具合に細工したという事も考えられる。

 何にしろこの二人が犯人候補筆頭なのは、他の人も思っている事だろう。二人共八十パーセント、コーラスさんは八十五パーセントくらいに考えていいかもしれない。


 次はリエル、エドリック、オルロゼオのチームだ。ここはリエルとエドリックの証言が全く同じで口裏合わせをしている様子もないので、証言の信憑性は高いと見ている。二人は元々外出禁止時間にも寝ないという前情報もあるので、より自然に納得できる材料もある。従って三人が犯人である可能性は極めて低いだろう。三人揃って十パーセント未満……五パーセントといったところか。


 最後はコスターさんとシドルツさん。この二人もジェイ達と同じくしてアリバイがない。なので二人共五十パーセントと言いたい所だけれども、シドルツさんに限って言えばもっと低くていい気がする。今までの様子からして犯人だとすれば辻褄が合わないというか、合理的でない行動や言動が多すぎる。コスターさんは心情的に六十パーセントくらいにしたいけれども、感情論ではないので却下しておく。コスターさんは五十,シドルツさんは三十パーセントくらいに考えておいていいだろう。


 こうして見ると、性格の一致不一致はともかく、信用できる人と怪しい人ははっきりと別れる。

 特にクルフとコーラスさんに限って言えば、二人は特例としてどこかに隔離してもう少し尋問してもいいレベルにあると思う。


 そんな事を考えていると、不意にクルフが声をあげた。

「コーラスっちには悪いし、本当にこんな事言いたくないんだけどさ……。どう考えてもコーラスっちしか犯人はいないと思うんだよ……。ロクちゃんは犯人の可能性は低いと言ってたけれども、俺からしてみればコーラスっちが殺したとしか思えない。俺も少し冷静になって考えてみたけれども、俺がトイレに行ってる時を見計らって他の人が部屋に入り、グレハードさんだけを殺して俺が戻る前に逃げたなんて事あり得ないでしょ? みんなある程度分かってるんじゃないの……?」

「そ、そんな!! 僕は本当に何もしてないんです!! 信じて下さい!!」

「大体、部屋に人が侵入してグレハードさんが襲われたのに、グレハードさんの悲鳴も聞こえなかったなんておかしくない? 犯人がいたとして、コーラスっちが襲われなかったのもおかしい。どう考えたってコーラスっちが犯人だと思うし、みんな分かってるんじゃないの……?」

 そのクルフの言葉に、ソイチさんも便乗してコーラスさんを責め始める。

 もちろんコーラスさんは涙目になりながらも必死で否定するのだが、それを味方するのは誰もいない。サバトさんですら、関心はあるようだけれども助け舟を出していなかった。


 悲鳴が聞こえないというのは、恐らく喉を掻っ切られた事によるものだろうと思う。眠りについている状態で喉を斬られれば、恐らく大きな声をあげる事もできないまま絶命してしまうだろう。

 という事はつまり、コーラスさんが犯人でない可能性がより高いという事にしかならない。コーラスさんが犯人なら悲鳴が聞こえないようにそうやって喉を斬る必要がないからだ。

 どんなに大きな悲鳴が上がったとしても、隣の部屋にはまず聞こえないだろう。だが、他に犯人がいるとするならば、グレハードさんに悲鳴をあげさせるのは絶対にやってはならない事だ。何故ならば、悲鳴をあげさせた瞬間に傍で寝ているコーラスさんが起きてしまうから。コーラスさんが犯人なら喉を斬る必要がないが、犯人が他の人間なら喉を斬るのは絶対に必要な条件だったと言える。

 もちろん、その辺りまで計算してコーラスさんが喉を斬ったという事も考えられるのだが……。


 そんな事を考えているうちに、どんどんとコーラスさんの状況が悪化していっている。クルフやソイチさんを始めとし、コスターさんもそれに加わってコーラスさんへの問い詰めを始めた。

 コーラスさんがまともな反撃もできないまま、終いにはエドリックが止めの一言。

「めんどくせぇ。さっさとそいつを殺せば分かるだろ。誰もやらねぇってんなら、この俺が殺してやる」

 そう言ってエドリックは懐からナイフを取り出した。

 すかさず俺はそれを抑止するようにコーラスさんとエドリックの間に入る。

「待ってくれ。それだけは絶対にやっちゃダメだ。確かにコーラスさんには不審な点が多いけれども、どれも決定的な証拠にはなってない!」

「あぁん? だから殺せば分かるんだろうが」

「それでもしコーラスさんが死んでもフェンスが開かなかったらあんたはどうやって責任取る!? すまなかったで許される話じゃないぞ!」

「責任? くっくっく。そんなもの取る必要はない。誰もがこいつが犯人だと思ってるんだろ? 誰も殺らずにいるから俺が殺してやろうってのに、違ったら俺のせいか! 笑わせる。てめぇらの方がよっぽど無責任だ。それに、こいつが死んでも出られなければ他の奴を殺すまでだ。その赤い髪、次はお前になるだろうな。これで俺たちは出られる事になるなぁ」

「俺はコーラスさんが犯人だとは思っていない! コーラスさんが犯人ならもっと自分が疑われない形を取ってもおかしくない!」

「じゃあ誰が犯人だって言うんだ?あぁ?」

「それは……」

「てめぇらよ、よく聞けよ。ここでこいつを殺さなかったらまた無駄な時間を過ごすことになるんだぞ? てめぇらはガキの遠足みたいにわいわいやってて楽しいかもしれないけどな、俺はうんざりだ。ここで犯人が死ななきゃまた誰かが殺されるだろうな。どうせ死ぬんなら疑わしいやつから殺していった方が被害も少なくて済むと思わねぇのか?」

 この野郎、普段喋らないくせに今はやたらと饒舌だ。

 言ってることも過激ではあるがみんな心のどこかで思っている事を代弁しているようで、説得力がある。ここでコーラスさんが死んで、例えそれでフェンスが開かなかったとしても振り出しに戻るだけでにも誰にも不利には働かない。

 コーラスさん以外の人は、心のどこかでこのままコーラスさんが死んでくれればなんて思っているかもしれないだけに、今のエドリックの言葉は他の人間を揺さぶるだけの言葉になっていると思う。

 でも、絶対にそれだけはダメだ。

 俺は何とか反撃に出る。

「そんな事は、俺が許さない! 犯人が他にいるとして、お前がコーラスさんの立場だったらどうだ? そんな理不尽な事はないと思うだろうな。そうやって確かな証拠もないのに当てずっぽうに殺していけば、また次の犠牲者が出る。現にお前はそれで出られなかったら次にクルフを殺すと言っていたな。そんな危険な事があるか? 俺達がお前は怪しい服装をしているから犯人だと思えば殺していいのか? そんな事してたら次々に人数は減っていく! 犯人の思う壺だ! もっと冷静になって考えるべきなんじゃないのか? みんなはどう考える!? それでもここでコーラスさんを殺そうなんて考えるのか!?」

 俺は振り返って、みんなに訴えかけるようにそう言い放った。

 すると、少しの間があった後直ぐにジェイが立ち上がって俺の肩により掛かるように肘を置く。

「俺も賛成だ。みんな落ち着こうぜ。深呼吸だ深呼吸。今犯人はしてやったりで今内心ほくそ笑んでいるのかもしれねえ。でも、焦る事はねぇっしょ。今回の事件は外出禁止時間の単独行動を解禁してからすぐに起こったことだ。逆を言えば、それをまた禁止にすればまた犯人は手も足も出せなくなるだろ。今回の件もゆっくり検証していけばいずれ犯人も尻尾だすだろうよ。殺すなんて物騒な事しないで、ゆっくり解決していこうぜ」

 ジェイはゆったりとした口調で、ゆっくりとそう話す。

 助かった。いつも手を差し伸べてくれるのはジェイな気がする。これで場の空気が変わってくれればいいんだが……。

「私も賛成。でも、クルフとコーラスさんは一旦みんなが監視できる所に閉じ込めておいた方がいいかなぁ。また同じような事が起こっても困るし……」

 トルネも便乗して賛成してくれた。

 本当に良かった。俺が途中で割って入ってなかったらもしかしたら一気に傾いてしまうかと思ったけれども、穏健派とも言えるジェイとトルネが表に立って発言してくれる人で助かった。

 それにルトヴェンドさんやウェリアさん、ニーナも乗っかってくれて、空気は逆転。

 ソイチさんやエドリックは凄く不服そうだったが、多数相手に言い合う気にはなれないらしく、おとなしく受け入れてくれたようだ。


「で、二人はどうするよ?処刑場だったっけ?あそこなら鍵があったしうってつけだと思うんだけど」

 話はそのまま、二人の処遇をどうするかという方向に流れていった。

 こんな事があった後だし、犯人の可能性が高い危険人物は隔離したほうがいいんじゃないかという話なのだが……。

「二人一緒に閉じ込めるのか?それは別の意味で少し危うい感じがするけど……」

 ジェイは二人を一緒に処刑場に閉じ込めるつもりで言ったのだと思うが、それは少し危険な気がする。

 今クルフとコーラスさんの間は互いにわだかまりがあるのは言うまでもない。そんな二人を一緒に閉じ込めておいたら、例え犯人でなくても黒い物を募らせた結果相手を殺す……なんて事に発展しかねない。そうなるとまた話がややこしくなってしまう。

 できれば別々に閉じ込めておきたい所なんだけれども、鍵付きの部屋なんてのが処刑場しかない。

 どうしようかと悩んでいると、不意にサバトさんが口を開いた。

「俺が面倒を見る。あいつは俺の部屋へよこせ」

 そうコーラスさんを指して言う。

「いやいやいや、コーラスさん犯人かもしれないんすよ? 危険ですって。俺達の話がまとまるまで、どっかに閉じ込めておいた方がいいんじゃ……」

「あいつが犯人だったら俺がぶっ殺してやる。それで問題あるか?」

「……ど、どうでしょ……? みなさん」

 ジェイはサバトさんに気負されて、あっさり周りに助けを求めてくる。

「私は別チームだから構わないんだけれども、サバトさんのチームはそれでいいのかしら? あと、できれば寝るときも見張られるような体制にしておいた方が……」

「俺は構わない。睡眠時も俺達に限らず、みんな警戒した方がいい。できれば常に二人以上が起きている状態にしておいた方がいいかもしれない。それは後で決めるにしても、スレバラさんはどうだろうか?」

「……」

 俺の問いに対して、スレバラさんは黙って考え込んでいる。

 グレハードさんを殺した犯人かもしれない人と一緒の部屋になろうとしているんだもんな。複雑な思いがあるだろう。

 ないとは思うが、今度はスレバラさんがコーラスさんを手にかけないように見張らなくちゃいけなくなるかもしれないな。

「できれば遠慮したいところだが、周りの事情を考えれば仕方のない事なんだろう? いいだろう。私が徹底的に見張ってやろう」

 スレバラさんもOKを出してくれた。

 これでコーラスさんは俺達のチームの一員となった。

「残るはクルフか?」

「それなら俺が責任持って面倒見よう」

 今度は珍しくシドルツさんが口を開いてそう答えた。

 さすがのシドルツさんでも、この状況では本は読んでいなかったが、今までずっと口を挟んでこなかった。冷静に今の状況や人の言動を観察していたんだろうなと思う。

「俺のチームは今二人だ。人数合わせとしても丁度いいだろう。睡眠時間もしっかり俺が見張っていく事を約束しよう」

 シドルツさんがそう言うのであれば信頼はできる。

 コーラスさんは俺のチームに、クルフはシドルツさんのチームに編入する事となり、一旦この場は落ち着いた。

 そして更にクルフとコーラスさんの二人は、話がまとまるまで手をきつくロープで縛るという取り決めも行った。これで二人は戦うことすらまともに出来ないので、戦えない人としても一応安心という事にはなる。クルフは最初嫌がっていたが、コーラスさんはおとなしく受け入れたという事を受けてクルフもそれを受け入れてくれた。

 それからもう一度現場の検証をしようという事になって、一同はグレハードさんの元へと全員で移動した。

 

 現場についてもさっき見た惨状から何も変化する事なく、グレハードさんの遺体は血みどろの状態で横になったままだ。

 やりたい人が任意で検証作業を行うが、これと言って新しい発見はなく、犯人の手がかりになるようなものは一切見つからなかった。

 ちなみに、その時コーラスさんのマントの血痕とグレハードさんの位置関係をもう一度確認してみたが、やはりコーラスさんはグレハードさんが殺された時はもう片方のベッドで寝ていたとしか思えない状況だった。

 ドアの確認もしてみたが、確かに音を立てずに静かに開け閉めする事はできるのだが、閉まっている状態で外から侵入するのはどうしても難しいという結論に達してしまう。

 ドアの上下は数センチ程度開いており、そこから中の様子を見ようと思えば見られるのだが、犯行当時は真っ暗。人が寝ているか起きているかの判別は難しいと思った。

 他に部屋の外から中を探るような事もできないし、やっぱりどう考えても部屋の中の人が殺したとしか思えなかった。


 グレハードさんの遺体についてだが、そのままにしておくことはさすがにできないのでゴミ捨て場に落とす事に決めた。それについてスレバラさんやソイチさんも、他にどうする事も出来ないという事が分かっているのか、それほどその案には反対しなかった。

 グレハードさんの顔は体はそれぞれ布に包まれ、スレバラさんが体を、ソイチさんが頭部を持ってゴミ捨て場へとみんなで一緒に行く。


 最後の別れとなって、スレバラさんが泣きながらグレハードさんやその家族についてぼそぼそと遺体に話しかけていたのが、何とも心痛かった。

 俺だってグレハードさんと交わした約束を忘れていない。一緒に無事に出よう、出たらジェスティアに一緒に行こうと、ガッチリ握手を交わして約束をしたんだ。それなのに、どうしてこんな事になってしまったのかという思いがこみ上げてきて、それが本当に辛かった。

 一緒に出ることは叶わない約束となってしまったが、犯人を一刻も早く特定し、これ以上の犠牲者を出すことなく脱出できればそれが一番のグレハードさんへの餞になると思い、俺はゴミ捨て場の底に眠るグレハードさんに犯人特定を誓うのだった。

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