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11.再編と衝撃と

―― 3日目 1回目食事後 ――


 サバトさんの件についてのお陰で会議が思ったよりも長引き、みんなはそれぞれ食事に入ったのだが、食事中はその件を引きずりつつも、話は段々とチームの再編成の話題に移っていった。

 コーラスさんやコスターさんを始めとして、チーム再編成には積極的に賛成な人も多く、この食事が終わったら早速組みなおそうという流れにすぐ決まる。

 食事当番も4回を終え、残すはコーラスさんとソイチさんの番を残すだけとなったが、それはもう飛ばしてもいいという事で食事当番は免除される事になった。

 もちろん毎回食事を作っているセヴァンズ姉妹とシドルツさんのチームは、元から食事当番に割り当てられてはいなかったので飛ばしている。


 この遺跡に入って3日目の最初の食事を終えると、みんなチーム再編成を楽しみにしているのか、後片付けを手伝ったりチーム再編成の抽選方法を考えたりする人も出てきて、準備は比較的早く整った。

 全員が再びリビングに集まると、まずこれからは約束通りトイレに行くときは原則三人で一人行動も推奨しないが許容するルールに変更されるという事と、再び食事当番が一巡したらまたチームの再編成を行うという事を確認し合った。


 今度の編成方法は17個の石にAからFまで数字を書いて割り振るといった、単純な方法だ。

 セヴァンズ姉妹とルトヴェンドさん&ウェリアさんの二組は前例と同じく二人組が許容されたので、予め姉妹二人をAの石、ルトヴェンドさん&ウェリアさんをBの石を持たせておく。

 石は適当な袋の中に入れてシャッフルされ、適当な順番でそれを一人ずつ取りに行くという方法を取った。


 俺としてはこれまた結構緊張する瞬間なんだよな。チームというのは共有時間が非常に長いので、これからの生活に大きく影響するんだ。お願いだから過ごしにくそうな人と一緒のチームにはなりませんようにと願を掛けて袋から石を取り出した。

 できればAのがいいですAが。ハーレムです。Bは嫌です。ただのおじゃま虫になってしまいます。

 願を込めて引いた石にはCの文字が書かれていた。このままだと誰と一緒なんだか分からないので、取り敢えず全員が石を引き終わるまで落ち着いて待つことにする。


 ひと通り全員が石を引き終わると、Aはここ、Bはここ、と言った具合にそれぞれの場所に集まり始める。Cの場所に行くとそこにはスレバラさんとサバトさんの姿があった。

「お!ロクもCか?よろしくな」

「おぉ、スレバラさん!頼もしいっすよ。前回はグレハードさんと一緒だったし、ジェスティアに縁があるのかな。よろしくお願いします」

 軽くスレバラさんと挨拶を交わす。サバトさんは我関せずと言った様子でそっぽ向いていたけれども、俺は別に仲良くしたくないなんて思わない。殴られたけどな。

 一応挨拶してみようと思う。

「ども。さっきぶりっす。同じチームになりましたね。よろしくお願いします」

「……」

 そう挨拶したけれども、睨まれて舌打ちされただけだった。

「サバト、貴様は毎回食事当番を担当するという事を忘れるな。それと、何かあったらすぐまた報告するからな。私と同じチームになったからには、絶対に不正は許さんぞ」

「……」

 スレバラさんのその声にも返事は舌打ちだけだった。

 結構スレバラさんは正義の人で、前回エドリックとひやひやな関係だったとジェイから聞いているから不安だ。

 まぁ、俺としては素晴らしいチームメイトと一緒になれたとは言いがたいけれども、スレバラさんとは話せそうだし、何より二人共今まであまり接点がなかったのでこれはこれで良かったと思う。


 他のチームの様子も見てみよう。

 Aはセヴァンズ姉妹に……ジェイか……。くそ。何かにやにや嬉しそうな顔しやがって。Aは何の問題もなく平和に過ごせるだろう。

 Bはルトヴェンドさんとウェリアさんとソイチさんだな。なんかBは同じチームなのに見えない壁が見えるぞ。完全にソイチさんだけ浮いている。まぁ、ソイチさんもあの二人相手なら横暴を爆発させるような事もないだろう。コーラスさんもソイチさんと一緒じゃなくてひとまず安心だ。

 Cは俺とスレバラさんとサバトさん。前回のジェイみたいなチーム構成になっているな。どんな雰囲気だったのか後でジェイに聞いてみよう。確か寝る時はスレバラさんのいびきが凄くて、エドリックが見張り睡眠だったっけか。それに対してサバトさんは頻尿疑惑で、スレバラさんはいびきか。まぁ、大丈夫だろう。

 Dはグレハードさんとクルフとコーラスさんか。Aと同じくめちゃくちゃ無難で平和そうなチームで羨ましい。ここは何も問題ないだろう。

 Eはリエルとエドリックとオルロゼオ……?なんか大丈夫かこのチーム。最悪の掛け合わせな気がしなくもないけど。チーム同士の会話なんて、解散するまで0みたいな空気が見えてくる。挙動不審のオルロゼオはいつにも増して挙動不審だし、リエルもエドリックも「チーム編成が決まりました。だから?」みたいな感じだ。このチームはBよりひどい。チーム内に2つの壁見えない壁がある。リエルとは縁があったし、新天地でも何とか頑張って欲しいものだ。

 Fはコスターさんとシドルツさん。ここもまぁ大丈夫だろう。個人的にシドルツさんとは一緒のチームになって色々話をしてみたかっただけに、少しコスターさんが羨ましい。コスターさんは嫌なやつだけれども、彼なりに努力して積極的に脱出方法を考えているようだし、なんかうまい具合に二人が咬み合って、脱出方法を見つけてくれたりしないかなぁと期待がかかる。


 チームが決まった所で、全員は部屋移動のために自室にある荷物を取りに行く事になった。

 最後のチーム作業という事で、グレハードさんとリエルにお礼を言いながら荷物をまとめる。

「グレハードさんもリエルもお世話になりました。新チームでも頑張ってください!」

「おいおい、何を今生の別れみたいな事を。リビングに出れば直ぐに会えるではないか。ロクもあまりいたずらして迷惑をかけるなよ。リエルも、すぐにナイフを取り出したり勝手な行動をしないようにな」

「……」

 グレハードさんから子供みたいな注意を受けてしまった。

 確かにリエルにちょっかいを結構掛けてた気がするんだけど、その印象が残っちゃったかな……。半分はリエルも元気だして楽しくやろうぜ的なウェルカムの表現だったんだけどな。

 当のリエルは何の荷物の準備もしないで、ただボケっと俺とグレハードさんの方をちらちらと見ている。そういえばリエルは来た時もほとんど手ぶらだったな。本当にここまで何しに来たのか謎すぎる。

「どうしたリエル。俺と離れるのが寂しいのか?」

「……そんな訳ない!」

 リエルはちょっとむくれて俺を例によって両手で突き飛ばし、そのままこの部屋を出て行ってしまった。

 あのむくれ顔と両手でドンの可愛い抵抗が気軽に見られなくなると思うと、少し寂しい。

「ロク……そういう事を言っているんだ全く……」

「ははっ。そんなグレハードさんの小言も聞けなくなると少し寂しくなりますね」

「小言……。全くお前という奴は……。いつ犯人に殺されるかもしれないという緊張感とか、そいういものはないのか?むしろ楽しんでいるようにも見えるんだが……」

「みんな暇を重ねて空気も重くなってきましたからね……。コーラスさんの件もサバトさんの件も、そういうのが募ってなんじゃないっすかね……。言ってみれば空元気みたいなものだと思いますよ。俺だってどうしたらいいか分からないこの状況はやきもきしますもん。グレハードさんもそうじゃないんですか?」

「そうだな……。俺もお前以上にもどかしい思いを抱えているかもしれぬ。俺はお前のように頭を使って状況を打破することができん。何もせずにただお前のような男が解決策を探り当ててくれるのをただただ待っているだけだ。そんな自分が情けなくてな……」

「そんな事はないっすよ。グレハードさんのお陰で輪が保たれているもんだと俺は思ってますから。グレハードさんがいなかったらあのコスターさん、どう暴走するか分からないっすもん。みんなそれぞれ役割を全うしているから殺人も起きてないですし、これはみんなの協力の成果なんじゃないすか?」

「はは……。ロク、お主はいい男なんだな」

「やめてくださいよ、そんな気、俺にはないですから!」

「全く……。でも、お前の才も人柄も俺は気に入ったぞ。もし無事にここを出ることができたらどうだ?ジェスティアに来てみないか?俺の部隊に入れとは言わんが、色々城内を紹介してやれる事はできる。傭兵という事であれば仕事をよこすこともできるが?」

「おぉ!!」

 なんというグレハードさんのお誘い!やっぱり世の中コネだよな。

 単に王宮戦士と一緒に仕事って聞けば、偉そうな人にこき使われるというイメージが先行して正直あんまりいい感じがしないのだが、グレハードさんの紹介という事であれば杜撰な扱いは受けないだろう。

 それよりも、ジェスティア城内を案内してくれるというのは非常に興味深い。城の中なんてのは、城の関係者か客人しか基本的に入ることはできないからな。俺だって中には今まで一度も入った事がない。

 ジェスティアの騎士になれとか言われたら困るけれども、そういう申し出なら喜んで受けたい。

 セヴァンズ姉妹の店にもジェイの営む小物屋にも行ってみたいし、ここから出たら行きたい所が多くなりすぎて、ヒンデに帰るのはいつになるのか分かったものではなくなってきたが。

「ぜひぜひ!!城の中なんて滅多に入れるもんじゃないっすからね!凄い興味あったんですよ!!」

「はっはっは。俺も最初に入った時は面食らったからな。初めて入るのだとしたら色々と得るものはあるだろう」

「まじすか~!こりゃ、何が何でも脱出しなけりゃならなくなりましたね!!」

「そうだな……。無事に出ような」

「はい!絶対に!!」

 がっちりとグレハードさんと握手を交わす。

 なんかこういう約束するとコケる事が多い気はするけれども、そんな事は絶対にさせないと強く思い直した。

 こうやって脱出した時のご褒美みたいなものがあると、モチベーションも上がってくるし陰鬱な気分も消え去っていく。無事に脱出できたらここにいるみんなで酒場を貸しきって一晩飲み明かすとかも面白そうだ。

 その後もグレハードさんとそんな明るい話をしながら荷物をまとめ、挨拶をして俺も部屋から出て行った。


 新しい部屋に荷物と一緒に入ると、そこには既にスレバラさんとサバトさんが既にくつろいでいた。

 俺も荷物を降ろして整理していると、それが終わったらリビングへ出ようとスレバラさんから提案を受ける。別にここに居ても特別やる事もないし、どうせみんなリビングに集まっている事なんだろうと思ったので、荷物整理を終えると何をするという訳でもなくリビングへ移動する事となった。

 また、リビングへの移動の途中、ちょっと閃いたのでその案をシドルツさんに話してみようと思い立った。


 リビングには既に結構な人が集まっていてシドルツさんの姿も見受けられたのだが、シドルツさんはコスターさんと話し込んでいたので、その二人の話が終わってシドルツさん一人になるタイミングを見計らった。

 俺が思いついた案は、シドルツさんの協力が必要であって、なおかつあまり他の人に知られたくないものだったので仕方がない。

 それまではセヴァンズ姉妹とジェイの4人で雑談をする。

 ちなみにスレバラさんはソイチさんとグレハードさんと、サバトさんはコーラスさんと一緒にいるようだ。ルールとしては同室に同じチームが一緒にいるという事だったので、同室内で別行動していても何も問題はない。

 シドルツさんの様子をちらちらと伺いながらジェイ達との雑談を暫く楽しんでいると、ようやくシドルツさんとコスターさんの会話が終わる。

 俺はジェイ達に詫びを入れてその場から離れ、シドルツさんの所へ行った。


「シドルツさん、ちょっといいですか?」

「お前か。何だ?」

 シドルツさんはいつも本をクールに読みながらの対応だ。さっきのコスターさんとの会話でも本を読みながらだったし、今も本から目を離していない。

 通常では失礼な感じがしなくもないが、今の状況ではそんな事誰も思わないだろうし、シドルツさんなら本を読みながらでも十分に俺の話を聞いてくれそうだ。

 いきなり閃いた案を聞くのも難なので、少し雑談から入ってみることにする。

「いや、この状況どうなってんのかなって思って。さっきジェイ達とも話したんですけれども、俺たちは一体何しているんだろうなぁと思ったんですよ。このまま何をするという訳でもなく、俺達はおとなしく閉じ込められているだけで、誰がどんな方法で脱出のいとぐちを見つけるかも全く想像できないのに、それに頼るように何もしていない。誰がこの状況を進めてくれるのかなぁって……」

「それぞれが何を思っているのかは知らんが、少なくとも俺は脱出の事を半分考えている」

「半分……?」

「もう半分は、全てここにある本から学べる古代の事だな。俺はラストフェンスが解除されようともしばらくはここに腰を据えているかもしれん。ここにある全ての本が俺のものだという事ではないし、ここから出るにしても持ち帰れる本には限りがある。まずは全ての本を把握してから、持ち帰る本を厳選したい。もちろん、最終的には俺もここから出なくてはいけないので、もう半分で同時に脱出方法を考えてはいるが」

「なるほど……」

 確かに、ここにある本の量はかなり多い。

 シドルツさんは前に自分で言っていたけれども、一冊の本を解読するのに普通の本の読了の何倍もの時間がかかると言っていた。まだまだ自分の目的を達成するのに時間がかかるので、今は閉じ込められていようがいまいがやりたい事が山積みだということなんだな。

「でも、早い所犯人を見つけてしまわないと、シドルツさんも不安なんじゃ?」

「……確かにな。最初は俺も返り討ちにすれば問題ないくらい思っていたが、ここにいる人間は予想よりもはるかに力を持った人間が多いと感じた。だが、この状態では犯人もどうする事もできないとも思っている。それと同じように、俺にもどうする事もできない。お前が犯人を見つけてくれるのであれば、この上ない事なんだが……」

「手がかりがなさすぎてそれが難しいのは俺もシドルツさんも一緒っすから……。そこで一つ『手』を思いついたんですけれども、聞いてもらえますか?凄く良い手という訳でもないし、シドルツさんの協力が不可欠なんですけれども……」

「話してみろ」

 雑談から入り、ようやく本題にこぎつけた。

 シドルツさんは読んでいた本から目を離し、俺の方へと顔を向けてくれた。さすがに脱出に繋がる手段の話なので、本腰を入れて聞いてくれるのだろう。

「シドルツさん、嘘は得意ですか?」

「嘘……?得意ではないな。俺に嘘をつかせたいと思っているならば、考えなおしたほうがいいかもしれん」

「まじすか……」

 シドルツさんはいつもクールだからポーカーフェイスとか凄く得意そうなんだが、そうでもないのか……。俺の案もいきなりつまずいたかもしれない。

「バレてはいけない嘘なのだろう?」

「まぁ……」

「嘘には論理の破綻が必ず出る。それを埋めなければならないと考えると、俺には荷が重い」

「そ、そんな難しい事考えなくてもいいような気はしますが……」

 完璧主義なんだろうか。研究者らしいと言えば研究者らしいかな。

 バレてはいけない嘘というのは間違いないけれども、そこまで大仰に考えなくてもいい気はする。

「まぁ、ダメ元で言ってみますね。シドルツさんがフェンスの解除方法を発見したと嘘を付いて、犯人をおびき出す作戦です。例えば、偽の魔核結晶を作って、これを今発動させているラストフェンスの発動者が元の位置に戻せば、ラストフェンスが解除される……とか」

「……。でも、犯人が名乗りでてそれを実行しても、フェンスは解除されない……と」

「もちろんです。でも、それで犯人が分かります。騙し討ちみたいで少し卑怯ですけれども」

「犯人は警戒して名乗り出ないかもしれないな。お前がもし犯人だったら、そう言われて名乗り出るか?」

「……」

 名乗り出ないかもしれない。確かに、少し考えれば罠かもしれないという考えには至りそうだ。

「じゃあ、犯人が例の魔核結晶が置いてあった台座に手を触れれば解除できるみたいな嘘をついて、犯人をおびき出すというのはどうすか?これなら、犯人は周りの人にバレずにこっそり台座に向かうんじゃ……?」

「誰かがずっと監視しておく必要がありそうだな」

「俺かシドルツさんしかいないっすね……」

「チーム行動を強制している今では、俺もお前も犯人も、行動に移すのは難しいだろう」

「だからと言ってチーム内の人にも協力を頼むというのも、その人が犯人でないという確証に近いものがないとダメ……か。もっといい嘘ないっすかね……。犯人が食いつきそうな嘘……」

「お前、俺が嘘をつく事を前提で話しているな……」

「すんません!いやでも、嘘の内容によってはうまく犯人おびき出せそうじゃないですか?」

「……どうだろうな。俺が最初にそのことに気がついていたら違っていたかもしれないが、今の段階ではもう遅いだろう。今犯人だと名乗り出るのはかなりのリスクがある。結構な時間閉じ込められて、痺れを切らせている奴も多い。名乗りでた瞬間有無をいわさず殺されるという事だって考えられる状況にまで来ている。新しい解除方法が嘘であれ本当であれ、犯人は自ら名乗り出る可能性は低いだろう。また、その方法だと一回しか試す事ができない上に、失敗したら俺の信用は一気に落ちる。二回目になれば犯人は当然警戒してくるだろうし、俺を危険な人物としてマークする。二度目は通用しないと思っていい。嘘をつく事自体俺には気は重いが、内容次第では一肌脱いでも構わない。ただ、もう少し慎重に案を練っていく必要はありそうだな」

「ですよね……」

 俺の考えが甘かったか。

 確かにこの方法が失敗してしまうと、シドルツさんに大きなリスクを背負わせてしまう事になるんだよな。発案した俺が嘘ですなんて言っても、それに乗っかったシドルツさんの評価は落ちてしまうだろう。

 やるなら俺一人の責任でやりたいんだけれども、俺が違う脱出方法を発見したなんて言っても誰も信じない。シドルツさんは一肌脱いでくれるとは言ったけれども、相当慎重にやらないといけない。

 この案もダメかな……。

「確実に成功できる方法があるか、俺も検討してみる。お前も何か思いついたら知らせてくれると有り難い。実行するのは俺なんだから、最終的な判断ももちろん俺がする。もし失敗してもお前を巻き込むような事はしないので、思いついたら気軽に相談して欲しい」

「とは言いますけど……」

 俺は苦笑いして返した。


 俺にはシドルツさんを巻き込んでやるだけの勇気が今のところはない。確実に成功すると思った案でも、相当な覚悟をしてから伝えてみるくらいに思っておかないとダメだ。

 今この状況は『事件』の影響を非常に受けやすいと言っても過言ではないだろう。昨日『事件』を起こしたサバトさんは、トルネのフォローがあったにも関わらず周りの評価は一気に悪い方へ変わっただろうな。

 元々の顔見知りとか、信頼関係のある者同士ではないんだ。少しの失敗で仲間内から孤立したりする事も十分に考えられるし、発言も行動も慎重を重ね無くてはならない。気軽にシドルツさんに嘘をつかせて、それがバレてシドルツさんの信用がガタ落ちした時に、その責任を俺は負いきれそうにないからな……。

 そう思い返して、『嘘をついておびき出す作戦』を再び模索していった。



― 3日目 2回目食事後、外出禁止時間 ―



 チームを再編成してから最初の食事を終え、このシェルターに入ってから3度目の外出禁止&睡眠時間に入った。今回からはトイレに行く時はチーム行動に原則という言葉が加わり、一人で行くことも一応許容されてる。


 この睡眠時間、最初はリエルと意地の張り合いみたいな感じで結局全然眠る事ができなかったな。二回目の時はさすがの俺も爆睡した。

 グレハードさんは両日共に爆睡していたし、リエルは両日共に見張り睡眠をしていた様子だ。

 俺が寝る時には既にグレハードさんは爆睡、リエルは見張り睡眠モード。起きる時も同じ光景だった。


 今回からは人が代わって、スレバラさんとサバトさんと同室になっている。

 ベッドは前の部屋と同じくして2つで、サバトさんは遠慮したのかどうなのか、勝手に使えと言ってたが、スレバラさんがグレハードさんと全く同じこと、即ち平等にローテーションしよう、という事を言っていたので、今回は俺とスレバラさんが使っている。

 スレバラさんはいびきを立てて熟睡、意外にもサバトさんの方も座りながら恐らく眠っているようだ。最初は俺を警戒してか、狸寝入りをしていたんだが、今は恐らく普通に眠っていると思う。

 サバトさんは睡眠時間に一人でトイレに何度も行く人だという話だったので、ある程度の事は覚悟していたんだが、今の状況からはそんな事が起こる様子は見られない。 

 俺は俺で、リエルのような見張り睡眠をこの機会にマスターしてみようかななんて思ってしまった。

 これから一日おきにでも訓練していこうと思い、今日は見張り睡眠で通すつもりでいるので、深い眠りにはついていない。


 完全に意識を失わないように、今日シドルツさんに話した『嘘でおびき出す方法』について色々考えていた所、ドアの外から人が走っているような足音が聞こえてきたので、ハッとなって脳を覚ました。

 今までこんなことはなかった。

 昨日は俺も熟睡していたので分からないが、少なくとも一昨日は足音が外から聞こえてくるような事はなかった。この部屋は外の音も割りと聞こえるくらいの壁の厚さなんだが、足音を立てないように移動すれば部屋の中には聞こえてこない。

 部屋を襲撃するのであればこんな足音は立ててこないはずなので、恐らくはトイレに駆け込もうとしているかなんかだろうとは思うのだが、俺は念の為警戒して自分の剣を手にとった。

 今の俺の物音で目を覚ましたのか、サバトさんも俺と同じようにドアの方を見て構えている。スレバラさんはまだ眠っているけれども、大丈夫なのかこの王宮戦士は。

 足音が近くなるに連れて、緊張が高まる。

 ついにその足音は俺達の部屋の前で止まった。そして、ドンドンドンと大きな音を立ててドアをノックしてくる。

 それで一瞬抜きかけた剣を一旦鞘に納めた。

「大変だ!!起きてくれ!!大変だ!!グレハードさんが!!」

 外からそんな声が聞こえてくる。

 さすがにその音でスレバラさんも目を覚ましたようだ。サバトさんは剣を鞘から抜いて、ドアを内側から思い切り蹴って開ける。

「いてぇ!!」

 その衝撃で外にいた人は扉に吹っ飛ばされたようだ。とりあえず敵意はなさそうなので、誰なのかを確認しに行った。

「グレハードさんが、グレハードさんが!!!」

 クルフが床に転がりながら、真っ青な顔して俺達にそう言ってくる。

「落ち着け。何があった?グレハードさんがどうした?」

「グレハードさんが殺された!!」

「!!!」

 その一言で、その場にいる三人に衝撃が走る。

 それにいち早く反応したのはスレバラさんで、今グレハードさんが何処にいるかクルフから聞き出すと、俺たちを無視して一直線に通路を走り去ってしまった。

 この時ばかりは俺も冷静さを欠いていて、スレバラさんの後を追うように通路を走り始める。

 クルフは自室で眠っている所を殺られたと言っていたが、そんな馬鹿な事があるか!?グレハードさんと同じチームなのは、確かクルフとコーラスさんだったよな。その二人はどうした!?クルフは普通に生きて俺達の所へ来たぞ!?コーラスさんはどうなっている!?もう、何がなんだか全くわからない。


 急いで現場に到着したんだが、既に扉に何人か人が集まっていた。

 俺はスレバラさんに続いてその人達をかき分け、中に入っていく。

 すると、そこには大きな体の遺体がベッドに横たわっていた。遺体には顔の方と首から下の方と、計2枚の血に染まった布が大きな遺体に掛けられている。

 スレバラさんは一呼吸置いて顔側の布をめくると、そこにはグレハードさんの顔が。酷いことに、首が切断され、胴体と切り離されていた。

「グレハードォーーーーー!!!!」

 スレバラさんの悲鳴のような叫び声が部屋の中に響き渡る。

 ついに起きてしまったんだ。このシェルター内で殺人が。

 そう思った瞬間、シドルツさんとの会話が一瞬脳裏をよぎった。

 『誰かが死んだら負け』

 俺達は犯人に殺人を許してしまったんだ。どこの誰かの仕業なのか全くわからない。

 同室のクルフは何をやっていたんだ!?コーラスさんは……顔を青くして震えている姿が確認できる。殺されたのはグレハードさんだけのようだ。

 何でだ?犯人はどうしてグレハードさんだけを殺した!?クルフとコーラスさんは何で殺されなかったんだ!?外から中の様子は伺えないというのに、中には起きている人がいるかもしれないというのに、犯人はどうやってこの部屋に侵入したんだ!?悲鳴はなかったのか!?返り血は!?

 俺は何が起こったのか理解が全くおいつかず、頭の中が真っ白のまま、ガクガクと震えながらしばらくそこに突っ立っていることしかできないのだった。

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