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その三

 その後、食事の席で何となく気があって、二回目のデートで僕のほうから付き合ってくれと切り出した。その時まで、彼女は戦隊物の話なんてまるでしなかった。映画の話は沢山したけど。

 付き合いだして、彼女の愛する特撮の真の意味を知り、ビックリしたものだ。

 今はもうすっかり慣れたし、別にそんなことで分かれようとは思わない。でも、今でも戦隊物は好きじゃないし、ちょっとは控えろよと思うときもある。あの時一言でも聞いていたら、どうだったろうか。ふと、そんなことを考えた。

 車は高速に入り、単調な道が続いていた。車も然程多くなく、運転は快適そのもの。CDも二週目に突入し、もう一度主題歌が流れている。

「……騙されたのかなぁ」

 ふと、そんな呟きが僕の口から飛び出した。

「何が?」

 てっきりトランス状態に入っているだろうと思っていた映美だが、呟いた声を聞いていたらしい。

「なんでもないよ。そんなことより、京都に着いたらどこに行きたい?」

 聞かれていると思わなかった俺は、慌てて話題をそらそうとした。しばらくは疑わしげにこちらを見ていた映美だったが、やがて諦めたのか小さく一つため息をついた。

「映画村」

 確かに人気スポットの一つだが、時代劇が好きだったとは知らなかった。てっきり湯豆腐が食べたいとか、嵐山で豆腐アイスが食べたいとか、そんなことを言ってくるかと思っていたが・・・。

「わかった。駐車場もあるし、丁度いいかもしれないな」

「うん、楽しみだね」

 映美はことのほか可愛い笑顔で俺に笑いかけてくれた。


「きゃー、アブラーム男爵、私をさらってー」

 ちびっ子に混じって叫び声をあげる映美。男爵役の俳優も戸惑っているようだったが、速やかにスルーしていった。そりゃそうだろう。

「ちぇ、さらわれなかった」

 お約束どおりちびっ子がさらわれ、憮然とした表情を浮かべる映美。本当にこいつは馬鹿だと思う。

「残念だな。さらわれりゃ隣が静かになったのに」

 ぼそりと呟く俺。すかさず映美の拳骨が飛んでくる。

「いてえな」

「きゃー、エレメント・ファイブ」

 俺の抗議を無視してちびっ子と一緒に叫ぶ三十手前の成人女性。再び騒然となった会場の中で、俺は何となく痛み出した頭を抱えて深いため息をついていた。


 会場を出る頃、俺はすっかり疲れ果てていた。隣を歩く映美はすっかりご満悦だ。

「かっこよかったね、生は」

「…ああ、そうだな」

 映美の満面の笑顔を見ると、ついそう言ってしまう。

「あたしも地球とか守ってみたいなー」

 頭の悪いことを言い出す映美。それに対して突っ込む気力もわいてこない。


 それから俺達二人は、俺の希望もあって桂川の袂を歩いていた。二人で手をつないで散歩をするのは本当に幸せなのだが、映美のほうは目的を果たして満足したらしく、興味無さそうにときどき水面に目をやったりしている。

「あ、もうこんな時間だよ。早く帰らなきゃ」

 せっかく幸せを満喫していたのに、突然映美がそんなことを言い出した。時計は三時半を指していた。

「なんだ、どうしたんだ?」

「今日は、『雨上がりの午後に』がある日だよ」

 『雨上がりの午後に』は、いわゆるトレンディドラマの類だ。イケメンの若手俳優が主役をやっているとかで、チョット話題になっていた。

「あれ、そんなの見てたっけ?」

 基本的に映美はそういう類の番組が嫌いだ。もともと、正義の名の下に悪をぶった切るような、分かりやすい番組ばかり見ているから、どろどろとした人間関係を見ていると、頭がこんがらがるらしい。まあ、映美らしい理由だ。

「んーん、見てないよ」

「じゃあ、何で?」

 ドラマを一話だけ見ることに何の意味があるのか。

「だから、こないだ言ったでしょ?」

「はあ…」

「パトイエローがゲストで出るから見るよって言ったよ?」

 ああ、頭からデリートされていました。どうでも良すぎて。怒ったように腕組みして僕を見上げる彼女はとても可愛いのだけど、これで普通の子だったらなぁ。

ちなみに、パトイエローとは、前年の戦隊物、パトレンジャーのイエローだ。中身は女の子で、ちょっと可愛らしかった。確か樹木希という女優が演じていた。水着のモデルで、雑誌のグラビアなどをやっていたそうだが、比較的演技は上手かったと思う。

「いい?パトイエローは、戦隊物じゃ珍しく、イエローの女の子が売れるかもしれないっていう貴重なパターンなんだからね。要チェックだよ?」

 お願いだから、公衆の面前でそんなことを力説しないでくれ。俺は「はいはい」と映美の言葉を適当に流し、とにかくその場から離脱することにした。デート終了。


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