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双龍は我が道を往く  作者: 神楽 弓楽
0章 「とある青年少女は神と対峙する」
3/6

とある青年のプロローグ

お気に入り登録してくださった方ありがとうございます。

「俺、何でこんなことになってんだ? 」


 そんな呟きを重いため息と一緒に零したのは、路地裏のゴミ箱に身を隠しているボロボロの制服姿の青年だった。


「クソッ!! 狭間の奴どこに隠れやがった!! 」


「手分けして探せっ! あいつのことだ。どんな手段で逃げるか分からないぞ! 下水道から屋上まで注意して探せ!! 今日こそあいつに引導を渡すぞ! 」


「おう! 今日と言う今日はあいつを血祭りに上げてやらないと気がすまねぇ! 」


「お姉様にあんな男はいらない! 」


「呪呪呪呪呪呪呪」


 青年のすぐ近くでは、血走った目をした青年と同じ制服姿の高校生達が、青年の名前を呪詛のように吐き出しながら探していた。青年は、息を殺して恐ろしい追手が過ぎ去るのを待つ。


 しばらくして多くの足音が遠くに消えていくと、青年は再び深いため息をついた。


「はぁぁ……マジでどうしてこうなったんだよ……」



 青年は、現実逃避をするように最近の出来事を思い返した。




◆◇◆◇◆◇◆




 青年こと狭間(ハザマ)刀哉(トウヤ)は、元々、自然が残る山にぽつんと建てられた一戸建ての家で、育ての親である叔父と一緒に住んでいた。


 しかし今からひと月前


 トウヤの叔父がいつものようにふらりと自称武者修行の旅に出た日の夕方、家に食べ物が一切ないことに気付いたトウヤは食べ物を買いに出かけていた。


 そして、食べ物を買って戻ってきたトウヤが目にした光景は、家が炎に包まれ、燃えていくようすだった。



 燃えている家が今の現代でも未だにコンクリートで舗装されてない細い山道の先にある場所の為、消防車ではなく消防ヘリコプターが出動し、空からの消火活動になった。



 幸い、周囲の木々に火が燃え移って山火事になるようなことはなかったが、ようやく鎮火した頃にはトウヤが住んでいた家は全焼。骨組みしか残っていなかった。



 こうして、トウヤは一月前に住む家を失くした。出火原因はわかっていない。



 家がなくなったトウヤが、仮の住まいとして住むことになったのは、道場を経営している幼馴染の神楽(カグラ)香奈枝(カナエ)の家だった。


 これが、トウヤが追いかけられることになるそもそもの原因だった。


 幼馴染のカナエは、トウヤの通う学校でファンクラブが創られるほど男女問わず絶大な人気を誇っていた。それはもう、そこらへんのアイドルよりも熱狂的なくらいに


 トウヤとしては何故できたのか全く理解できないファンクラブだが、規模で言えば学校だけに留まらず近隣の学校にまでファンがいたりするほど大規模である。



 そのカナエの幼馴染であるトウヤと言えば、カナエと親しくしている人間としてファンクラブの人から何かと目を付けられてた。トウヤ自身が、人前ではカナエをよく邪見にしていたのもそれに拍車をかけていた。



 そんな微妙な立場のトウヤが、カナエの家に居候しているという情報は、ファンクラブに震撼が走るものだった。


 中には、学校に不純異性交遊だと訴える生徒も出る程だった。もちろん、居候する時に学校に報告済みなため、その訴えは無視されたのだが


 しかし、それでファンである生徒達が納得するわけがなく、トウヤに話し合い(物理)を求める生徒が続出した。



 そんな騒動は、一か月も過ぎれば落ち着きを取り戻しそうなものなのだが


 トウヤがカナエに毎日起こしてもらっている。

 2人は同じ内容の手作り弁当を食べている。

 手を繋いで登校してきた。

 


 などの話題が学校を駆け巡る度に再燃焼


 一か月が経過しても話し合い(物理)を求める生徒の数は男女問わず減ることが無かった。中には、何度も話し合いを求める熱心な者まで出る始末だった。話し合いに持ち込む小道具も日に日に種類を増していた。



 そして今日、カナエが教室で友人に愚痴った話でトウヤの運命は決定的となった。



「昨日久しぶりにトウヤと一緒にお風呂に入ったんだけど、トウヤってばひどいんだよ! 洗いっこしようとしたらお風呂場で暴れ出した挙句に、滑ってわたしを巻き込んで転んでさ! それでわたしが悪いっていって謝らないんだよ! わたしを下敷きにして胸揉んだくせに! 」


 未だに思考が幼稚園児のカナエとしては、謝ってくれないトウヤに対する愚痴程度だったのだが、この言葉を盗み聞いたファンは般若と化した。


 


◆◇◆◇◆◇◆




「どうやってこの騒動治めればいいんだよ……明日から学校行けれねぇじゃないか」


 自分ではどうしようもないこの状況にトウヤは、頭を抱えてしまう。


 その拍子に肘がゴミ箱に当たった。


「あっ」


 大きな音を立てて倒れるゴミ箱に視線を向けたトウヤは、やってしまったと固まる。


「やばっ……」


 慌てて人が行き交う通りを見る。

 そして、学校帰りの知人と視線が合ってしまった。


「トウヤ……? 」


 大柄な青年は驚いたように目を見開いた。


「しーしー! 」


 トウヤは、指を口に当てて黙ってくれるように必死にジャスチャーする。それで理解した大柄な青年は、神妙な顔をして、トウヤの真似して指を口に当てこくこくと頷いた。


 その反応に敵ではないと、トウヤはホッと胸を撫で下ろして気を緩めた。



 しかし、大柄な青年はそんなトウヤに対して、表情を一変させて獰猛な笑みを向けると、路地裏を指差して大きく叫んだ。



「ここにトウヤがいたぞーー!! 」


「なっ!? お前友人を売るのか!? 」


 信じていた友人のまさかの裏切りにトウヤは絶句する。


「悪いな。トウヤ、俺にも事情ってもんがあってな。まぁせいぜい死なないように逃げ切ろよ」


「このっ――! 」


 平然とそう言った友人にトウヤは悪態をつこうとしたが、その背後から追手がわらわらと現れたことで顔色を変えた。


「いたぞ!! 狭間だ! 」


「誰か裏に回れっ! 挟み撃ちだ」


「狭間ーーーー!! 俺は貴様を殺さなければ気が済まん!! 俺のために死んでくれ! 」


「神楽さんの為に死ね! 」



「ちくしょーー!! お前、明日覚えてろよっ! 言われなくても逃げ切ってやるわぁーー! 俺は何も悪くねーー!! 」


ヤル気に満ちた追手に対して、トウヤは戦おうとはせず、瞬時に体を反転させ、捨て台詞と共に脱兎の如く逃げ出した。



「なっ!? 狭間の奴、壁を蹴って飛び越えやがった! 」


「ちっ! すぐに狭間が向かった方向にいる仲間に連絡しろ! 」


「クソッ! あいつ速すぎるだろっ! 」



 トウヤの鬼ごっこはまだ始まったばかりだった。




◆◇◆◇◆◇◆




 街中を逃げに逃げたトウヤは、最終的に自分の庭とも言える自宅があった山に逃げ込み追手を撒くことに成功した。


「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…やっと逃げ切れた……」


 トウヤは、重い足取りで全焼した自宅まで来ると荒い息を上げながら座り込んだ。




「ハァハァ……あいつら……街中に仲間を張り巡らせるとか、本気過ぎるだろ……」


 今回のトウヤ狩りにどれ程の生徒が動員されたのか、トウヤが逃げるとこ逃げるとこに追手が現れ、トウヤは3時間ほとんど休みなしで逃げ回った。

 トウヤが逃げ切れたのは、自分の庭とも言える山に逃げ込めたことと日が落ちたためにトウヤを視認することが難しくなったというだけでしかなかった。


 しかし、そのせいでトウヤは満足に喋れないほど疲労困憊していた。着ていた制服は、ほこりや土などでドロドロに汚れ、所々擦れて穴が開いていた。



「今日はいつにも増して疲れた……。カナエが十中八九、爆弾発言したせいなんだろうけど、いつになったらこんな騒動がなくなるんだ? もしかして居候する間ずっとか? はぁ……」


色々と疲れた様子のトウヤは、自宅の瓦礫を弄りながら深いため息をついた。


「こんな家じゃ、すぐには無理だろうし……何より親父が帰らないとそんな話すらできねぇ……。早く帰ってこいよクソ親父」


 そこまで愚痴を零したトウヤは、不意に笑い出した。


「ははははっ……親父がすぐに帰ってきてほしいなんて俺が思う日が来るなんてな。今日は隕石でも降ってきそうだな」


 いつもならば、帰ってくれば朝練という地獄が待っているので、いつまでも帰ってくるなと心底思っていた自分が、心の底から帰ってきてほしいと思ったことがおかしく感じ、トウヤは一人で笑った。





「あぁー……星が綺麗だな」


 面倒なことを忘れたいが為に夜空を見上げる。肌を刺すような秋の寒さが、火照った体を冷やす。汗を吸って冷たくなっていく制服を感じながらも、トウヤはその冷たさを心地いいと感じていた。



しばらく星を眺めていたトウヤは、ふと他と様子のおかしい小さな星を見つけた。


「うん……? 何だあの星、流れ星か? 」



 その小さな星は、輝きながら、後ろに光の筋を残しながら移動していた。その大きさと輝きは時間の経過と共にどんどん大きくなっているように見えた。


「少しずつ大きくなっているような……ってまさかあれ隕石かっ!? 」


 しばらく訝しげにそれを見ていたトウヤは、その光の塊が街を昼間のように明るく照らし出したことで、初めてそれが流れ星ではなく隕石だと気づいた。


「逃げっ…………」

 

 その隕石は真っ直ぐトウヤのいる山へと落下してきていた。

 飛び上がったトウヤは、逃げようとしたところで、その隕石の輝きと大きさを見て、トウヤの頭からは逃げるという選択肢を消失してしまった。


 隕石は、まっすぐにこちらに落ちてきていた。



 落下してくる隕石を呆然と眺めながらトウヤは悟った。



(ここで死ぬのか)



 


 見つめていたトウヤの視界はホワイトアウトした。






 隕石が発する熱によって、トウヤは一瞬で塵一つ残さず蒸発した。




◆◇◆◇◆◇◆



 その日、隕石落下という災害によってトウヤのいた山の大部分が消失。その周辺も落下の衝撃によって多大な被害を出したが、その隕石落下による死者は狭間トウヤただ一人だけだった。



感想待ってます。



14/10/15

改稿しました。

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