代償
身体中が痛む
骨が、いくらか折れているようだ
湿った石の床から、寒さが身体に這い上がってくる
口の中が切れているせいで、鉄の味が気持ち悪い
起き上がろうとしたが、身体中がきしんで痛みに声がもれた
一体、今は何時なんだろう
もう、とっくに夜は明けたはずだが光なささない地下牢の中では時間をはかることができない
こんなところで、寝ている場合ではないのに・・・
「クソッ・・・出せよ、ここから出せ!」
鉄格子に痛む身体をぶつける
「出せってんだ!!」
冷たい床に足音が響き、ライトの光が向けられた
眩しさに目が眩む
「JD・・・大人しくしとけ」
現れた兵士は、JDをよく知る人間だった
「もう、間に合わないよ。そこでせめて彼女の冥福を祈るんだ」
「冥福だと・・・!?あんな少女を殺しといて自分達を正当化する気か!」
「彼女だけじゃない。今更どうしようもないんだよ」
兵士は疲れたように言う
「なんで、あんなことしたんだよ。余計に可哀想だったじゃないか」
JDは、サンドラを連れて逃げようとした
死を覚悟して、それでも笑ってみせた彼女を放っておけなかったのだ
しかし、逃げ切ることが出来なかった
あっさりと捕らえられ、JDは酷い暴行を受けて地下牢に放り込まれたのだ
「ヘタに期待をさせればその分恐怖心が倍増する。だから彼女は・・・」
言い淀む言葉に想像はつく
「薬で心を壊したんだろう」
JDは食いしばった歯の間から絞り出すように言う
巫女に選ばれるのはまだ年若い少女
どれだけ説き伏せられていても、土壇場で魔獣に恐れをなして逃げ出すこともある
恐怖心をなくすため、少女達は直前の儀式で薬を飲まされる
甘く口当たりの良いそれは、この世の苦しみから解放する薬
口にすれば、もう二度と少女がこの世に関心を持つこともない
生きながらにして屍にする、悪魔の薬
サンドラは、最期になにを見ただろう
痛め付けられるJDに、必死に声をかけていた
優しい少女から、穏やかな最期を奪ったのは自分
逃がしてやれなかった
彼女を殺してしまった
自分の無力さに吐きそうだ
冷たい床に手をつくと、首にかけたクロスが目に入った
サンドラが、くれたクロスのペンダント
彼女から託された、生きる事への希望
血に濡れ、汚れてしまったそれを握りしめ、JDは声を上げて泣いた
それから数日の尋問を受け、JDはようやく解放された
町の中はいつもと何一つ変わらない
何時もと同じように、人々は平和な顔で毎日を過ごす
その平和な日常は、少女の命によって与えられている
誰も、そんなことは考えもしない
吐き気がする
JDは、巫女を逃がそうとした罪で軍から除隊させられた
国を脅かすほどの大罪でありながら、除隊ですんだのはJDが今まで軍に貢献してきたことと、仲間達からの懇願があったからだと聞いた
職を失ったJDは、その足で国をあとにした
それから2年後、JDは戻った
今年もまた、祭りの日がやってきた
深い森の中に設えられた祭壇に、白い衣の少女が座らされている
神官達は松明をたき、神への祈りを唱える
少女に、金の杯が差し出される
中は悪魔の水
JDは一気に躍り出るとそのまま杯を払った
突然現れたJDに、その場は蜂の巣をつついたかのような混乱をきたした
「何をする!神の怒りを買うぞ!」
「捕らえろ!」
神官達が、JDを捕らえようと動いた瞬間、森が揺れた
JDの背に大きな影ができ、少女の目がこぼれそうなほどに見開かれる
「か、神が・・・」
鎌首をもたげる大蛇が、現れた
不気味な音に、ちらちらと揺れる赤い舌
【古き盟約を違えるつもりか】
ニヤリと大きな口が歪められる
「は、早く生け贄を差し出せ!!」
「神よ!我々は決してあなた様を裏切るような真似など・・・」
神官達は少女をつき出そうと詰め寄る
JDは、それらをなぎはらった
「う、うわあぁぁー!!」
大蛇は近くにきた神官を1人、飲み込んだ
【そうか・・・ならば、望み通り喰うてやろう】
大蛇は、手当たり次第に襲い掛かってきた
神官達は一斉に逃げ出した
JDは、恐怖に凍り付いたように動かない少女に向き直った
「今の内に逃げろ」
「で、でも・・・」
「もう、生け贄なんて意味はない。早く逃げるんだ」
もつれる足で逃げる少女を背に、JDは大蛇の前に立ちはだかった
今まで、これ程に大きな蛇は見たことがない
もう既に何人もの神官を飲み込んでいると言うのに、動きに鈍りは見られない
何十年、何百年も生きてきた蛇
大蛇は、JDを前にニヤリと笑う
【若造よ、貴様のしたことは国を滅ぼす。我は神ぞ?】
「・・・蛇が偉そうに口きいてんじゃねえよ」
JDは、この日のために兵器を開発していた
分厚い皮に覆われた蛇は、かなり手強い
長い死闘の末、JDは勝利を納めた
そして、JDは左腕を失った
JDは王宮へ赴き王の目の前に、大蛇の魔獣の首を転がした
その大蛇はこの国を支配していた魔獣
その魔獣を倒したことにより、長年の支配からの解放を得た
国中が、歓喜に沸き立った
JDは、皆から称えられたがその目は暗く沈んでいた
魔獣が死に、生け贄を捧げる必要はなくなった
魔獣の支配に怯える生活からの解放
しかし、同時に魔獣からの庇護を失うことを意味する
今後、この国は他の魔獣から襲われることになる
支配に慣れ、闘うことを放棄していた人々
これからは、戦って生き抜いていかなければならない
滅びるか、また支配を許すか・・・
もう、JDには興味のないこと
人知れず国を出た
流れながら、手当たり次第に魔獣を狩る
失った左腕に、新な武器を付け魔獣を狩り続ける日々
そんな生活をして10数年が過ぎ、いつの間にか凄腕のハンターとして名を上げていた




