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追憶

深い森の奥に、大きな音楽と機械音が響いている


JDは専用の研究所兼工房を森の中に持っていた


新兵器の開発は1人で集中したい


ここなら深夜だろうが早朝だろうが、どんなに大きな音をたてても迷惑がかからない


人付き合いも煩わしい


黒い肌と銀の髪、皆が見上げる大きな体と機械製の左腕


一目で異国の民とわかる姿はどうしても目立ってしまう


流石にこの城に来て10年も経てば、城で好奇の目にさらされることはなくなったが未だに街に出れば視線がうるさい


忙しさも手伝い、自然と研究所に籠りがちになった


機械を相手にしている方が楽でいい




「おーい、JDー!おーいってばー!」


爆音の合間に人の声が聞こえ、JDは手を止めて顔をあげた


目に飛び込んできたのは鮮やかな赤


魔獣の血を引く青年、紅虎(フォンフー)が入り口に立っていた


「なんだ?今日は呼んでないぞ」


魔獣の討伐のデータを採るために紅虎(フォンフー)に協力してもらうのが常ではあるが、今日は彼の力を必要とはしていない


紅虎(フォンフー)はへらへらと笑いながら中に足を進めると、爆音を鳴り響かせている音楽プレイヤーの音量を小さくした


「こんなデカイ音、耳悪くなんぞおっさん」


「騒音苦情でも出たのか」


振り返った彼の手にはバスケットがある


「どーせ昼飯まだっしょ?一緒に食おうと思って」


言いながら取り出したサンドイッチにかぶりついている


時計を見れば、昼時はとうに過ぎている


紅虎(フォンフー)が美味しそうに食べるのを見て、ようやく自分が空腹であることを思い出した


ありがたく一つつまみながら、コーヒーを淹れるためにヤカンを火にかける


「ここに来ればうまいコーヒーにありつける♪」


「リオンと同じ台詞だな」


JDはコーヒーにはこだわりがあり、豆を焙煎するところから自分でする


故郷は有名なコーヒーの産地であり、各々の家でその家の味を持っていた


故郷を捨てたが、コーヒーだけは捨てられなかった自分に苦く笑う


それでも、エリュシオンや紅虎(フォンフー)が気に入ってくれるなら悪くはないと思う


紅虎(フォンフー)は1人で機嫌良く他愛もない話をしている


誰とでもすぐに打ち解けて、明るく社交的な紅虎(フォンフー)はJDとはまるで反対の性質だが、こうして二人でいても気詰まりではない


年の離れた弟のような彼を、JDは気に入っている


コーヒーを淹れながら、ふと紅虎(フォンフー)が静かになったことに気づいた


見れば、窓の外を見ている


その表情は、いつもの彼とは違いどこか切ないような、嬉しいような、複雑なものだ


恋い焦がれる者の目だった


その視線の先にいるのが誰か、JDはわかる


長い絹のような漆黒の髪


遠目でもわかる美しさ


軟派で軽い紅虎(フォンフー)が、密かに、しかし強く思う女性(ひと)


JDは、彼の直向きな想いが羨ましく思う


もう、自分には生まれない感情


できることなら、応援してやりたいと思う


紅虎(フォンフー)は傍目には軟派で軽くてお調子者に見せているが、本当は芯が強くてぶれない


どんな女性に対しても優しくてすぐに口説きにかかるが、おそらくたった一人の女性(ひと)を見つければ変わるだろう


似た境遇の二人はきっとお互いを理解しあえると思う


しかし、シルクの心の中には大きな存在がある


そして、その相手もシルクを想っている


紅虎(フォンフー)は、それも知っているはずた


だからこそ、こんなにも切ない表情をしているのだ


JDは、淹れたてのコーヒーを紅虎(フォンフー)に差し出した


「あ、サンキュー♪」


取り繕うように明るく振る舞う紅虎(フォンフー)に、胸がいたんだ


それでも、ここで忠告するのは年長者の務めだった


「少し、昔話でもしてやろうか」


「え、なになに?珍しいじゃん」


「なに、只の独り言だとでも思ってくれりゃいい。小さい男の話だ」


JDはタバコに火を着け、ゆっくりと語り始めた

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