聖騎士選抜戦 2
その後は2、3学年の戦闘を観察し、しばらくの間の後、再び俺の番となった。
「よろしく」
「……」
対戦相手はリーナと言う無口な少女だ。
一応挨拶をしてみたが帰ってきたのは無表情にコクリと頷かれるだけだった。
「試合開始!!」
またもや先手を撃って来たのは相手。
まぁ攻撃のクセとか見極めるためにワザと先制攻撃させてるだけだが……
「貫け、{シャドーナイフ}」
シャドーナイフとは闇属性の中級魔法で、自分の影からナイフを作り出し、対象へ飛ばすだけなのだが……
「くっ!? 何だこの量!?」
何十と言うナイフが軌道もバラバラに飛んでくる。
「今だ。その刀の能力を使え。刀身に意識を集中してから振り抜け!!」
やらないよりはマシ、そんな感覚で刀身へ意識を向ける。
ドクンッ!! ドクンッ!!
僅かながらに鼓動のような物が聞こえた。
それと同時に刀を振り抜く。
「……はぁ?」
「っ!? バフォメット!!」
すると直後、刀から紫に染まった三日月型のの斬撃波が飛び出す。
その衝撃は凄まじく、迫っていたナイフを総て吹き飛ばし、リーナへ一直線に向かう。
流石に女子を好き好んで傷付ける趣味は無いので一瞬、あっ!! と思ったのだが……どうやら使い魔が庇い、無傷で済んだようだ。
「……」
リーナは無言でこちらを一瞥したあと、小さく「棄権する」と呟いて立ち去った。使い魔の姿は斬撃波が当たった瞬間消えた。
「なかなかの威力だな……これなら下級天使くらいなら楽に潰せるんじゃないか?」
「すげ……こいつにこんな力が有ったなんて……」
未だに信じられず、ただ俺の困惑は増すばかりだった。
そして次からは2学年が相手になる。
因みにこの時点で俺が1学年トップになったらしい。サイモン教諭が現れ、教えてくれた。
「一応この時点1学年であるシンは棄権してもトップ扱いだがどうする?」
「次も戦います。所詮は歳が1年違うだけ……どうにでもなりますよ」
「そうか……まぁ精々父に恥じぬよう良い成績を残すんだな」
「あれ? 親父の事知ってるんですか?」
「その話はまた今度な。お呼びだぞ?」
サイモン教諭は優しく笑うと、行けと促す。
見た目がちょっとゴツい先生だからなんとも怖いのだが根は優しい人だ。
お次はCブロックでやるらしく、対戦相手の2年生のカイラスは既に待っていた。
「えと、よろしくお願いします」
「そんなにかしこまらんでもええのに。よろしく頼む!」
うわぁ、会話して直ぐ判ったよ。この人、熱い人だ……
そのくせ使い魔は力の象徴であるミノタウロスだよ……暑い。
「試合開始!!」
開始の合図がされるが、どちらも動く気配が無い。
意外に冷静だな。
「来ないならこっちから行かせて貰うぜ!! 纏え、火属性付加!!」
痺れを切らしたのか、斧に炎を纏わせ、距離を詰めてくるカイラスとミノタウロス。
「仕方ない、ミノタウロスは任せろ。その代わりあの暑苦しいのをどうにかしてくれ」
そこでようやくリティアは動く気になったのか、ミノタウロスへ向け、魔法の詠唱を開始する。
「うらぁ!!」
ブォンッ!!
リーチの短い斧だが、炎により範囲が広くなってる……
ギリギリの範囲でよけるのだが鼻先が焦げる。
「くっ!! 纏え、闇属性付加!!」
俺は刀に闇属性を付加させ、応戦する。
徐々に相手の炎を闇で奪い、持久戦へ持ち込む。
しばらく斧を刀でいなし、反撃したり、切り込んだりして応戦していると、横で凄まじい爆音が轟き、チラ見で確認すると抉れた土にリティアが立っていて、ミノタウロスの姿が無い。
「ミノタウロスがやられたか!! これはいよいよ危ないな」
リティアは新たな魔法を詠唱し始めた。
「そこだっ!!」
「ぐぅ!!」
一瞬の隙を突き、突きを放つが斧の平で受け止められた。
しかし――
パキィィン!!
「斧が真っ二つに!?」
「今だ!!」
「わかっておる、せめぎ合え!! {ダークネスブロウ}!!」
リティアは闇の上級魔法を放つ。ダークネスブロウは対象の足下から闇属性の衝撃波を多量生み出す。
威力によっては圧死しかねない強力な魔法だ。
「ぐああぁぁ!! くっ、焼き尽くせ! {フレア……」
「させるかっ!!」
衝撃を食らいつつもかろうじて意識はあるらしいカイラスへ向け、峰で頭をぶっ叩く。
そこでカイラスの意識は途絶え、試合終了となった。
「シン、気付いているか?」
「ん? 何が?」
「最初から闇属性など付加できてない。その刀が魔力で出来た炎を吸っていたのには気付いたか?」
「なっ!? マジかよ……」
付加魔法ならとっくに消えているはずなのに刀身からは未だに闇が溢れている。
「気を付けろ、使いすぎると妖刀に精神を侵されるぞ……」
「あ、あぁ。わかった」
刀身に意識を集中させ、闇を消すイメージをする。
上手くいったのか刀身から溢れる闇が消える。
兎にも角にも使いすぎると段々斬るのが楽しくなってくる、と言うのは今までにも度々あった。
まさか精神を侵されるってあの狂気じみた感覚に支配されるとかじゃないだろうな……
「簡潔に言えば麻薬なんかと同義だな。私には毒など利かんが……」
「少し休もう。次の試合まで昼休みがあるからな」
俺とリティアは自室に戻り、軽く昼食を済ませた。
「妖刀か……魔剣と何が違うんだ?」
珍しくリティアから物を尋ねてきた。
「どっちもハイリスクハイリターンの類だろ? 強いて言うなら両剣か刀かって差じゃないか?」
「ううむ、なら私の魔剣を握ってみるか?」
「あ~、流石魔王……やっぱ持ってるよなぁ」
何故かシンはキラキラと瞳を輝かせ、リティアを羨望の眼差しで見る。
シンのソレは所謂厨二である。
「魔剣は容易に触らない方が良い。障らぬ神に祟り無しと言うだろう?」
「まぁコイツも触れたら最期、魔法を使えなくなるからな」
魔剣も妖刀も同じ類だとするとやはり魔剣にも呪いが掛かっているのだろうか…
基本的に妖刀は刀鍛冶が打った最期の一振りにその刀鍛冶の怨念や未練が染み付いて出来る。
或いは幾千もの命を吸い、死者の血を浴びていく内に出来上がる物も有るという。
「あぁ、人間はこうも美味い物を何時も食べているのか?」
そんな事を考えていると、リティアが真面目な顔をして問いかけてくる。
リティア曰わく、
「魔界の食事は豪勢だったが、何か足りなかった」
だそうだ。
「食材云々もそうだが何よりシンの腕は宮廷のシェフ並みだな」
「あはは、おだてたってこれ以上の物は出てこないぞ?」
宮廷にはロクなシェフが居ないのか、とは言わずに心の中でだけ言っておく。
俺の料理はどちらかというとサバイバルの方に長けている為、なんだかシェフの方々に申し訳ない。
「サバイバル? 屋外で食べたり作ったりするのが好きなのか?」
「ああ。自給自足しないと死ぬような極限状態を再現する~とか言って親父が俺を魔物のうろつく山に放置していきやがった事が幾度となくあってね」
「抵抗しなかったのか?」
「まず、親父には勝ち目が無い。いまだにな。それに飯の中に睡眠促進剤を混ぜて俺が寝ているところを連れ去るなんてよくあったもんだ」
今思えば親父は俺を殺したかったのだろうか……
「でもお陰で強くなれたんだろう? なら少しくらい感謝しても良いと思うぞ? 私は腕の有る家臣に幼い頃から戦闘の何たるかを叩き込まれた。最初は随分と苦労した魔法を今はスイスイ使える」
「まぁ魔王が戦えなかったら魔界の住民が困るだろうしな」
「あぁ。それに魔界は力が全てだ。自分より強いものには服従し、自分より弱いものを率いる、そんな世界だ」
力こそ全て……か。
あまり納得出来ない話だな。
「不服そうだな?」
微妙な表情の変化に気付いたのか、リティアは不敵に笑いながら尋ねてきた。
「仮に魔界で最強の者が頂点になったとしよう。でもソイツに必ずしも王者の資質があるとは考えにくい。腕っ節だけ良くても頭が悪いんじゃ話にならないだろう?」
「ほぅ、やはり力だけでは王者は務まらないと言うか。ますます気に入ったぞシン!」
何故か嬉しそうに笑うリティア。魔王に気に入られる人間って少ないと思う訳だが……
「お? もうこんな時間か。そろそろ移動しないと次の試合に間に合わなくなる」
少々慌てて食器を片付け、自室を出、闘技場へ向かった。