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聖騎士選抜戦 1

翌朝。


窓の隙間から差し込む朝日が直で顔面に照射され、目が覚める。


今日は聖騎士選抜戦だ。


時刻は7時前。

いつも通りなら8時半までは遅刻しないラインだ。


「………………」


「……ん……誰?」


「いや流石に覚えようよ!! シン・ヴェラード!!」


「あぁ、シンか。おはよ、はふぁ……ねむい」


本日で2度目の寝起きドッキリな訳だが、如何せん耐性が薄いのか心臓に悪い。


「そういや男の俺が気に掛けるのもあれだが、着替えは大丈夫なのか?」


フリフリしたゴスロリ服で寝ていたためか、服の所々にしわが目立つ。

寝覚めの悪い体質なのか、寝ぼけ眼のボケーっとした表情で見つめてくる。


不覚にも少しかわいいと思ってしまった……。

やはり寝起きのすぐそばに無防備な女性がいるのはなれそうにない……っていやいや! 慣れる必要もない気がするんだけどさ!


「あー、微弱ながらも浄化が使えるから問題無いぞ。城でもこのドレス以外は基本着替えなかったしな」


浄化とは

無属性9:光属性1の無属性寄りな属性魔法だ。

汚れを浄化したり、垢や汗なんかも浄化することができる。


エキスパート級の制御をすると呪いを浄化できたり敵の魔法を打ち消したり出来る。

闇魔法には滅法強い。


リティアは魔族の王だからなのか光魔法は苦手らしい。

一部の特異な魔族を除き、魔族で光魔法を使えるのはかなり希少なんだとか。


「そうか……俺は浄化なんて使えないからな……今日も学校だし、手早く朝飯を済まそう」


キッチンに向かい、魔動式冷蔵庫から卵とハムを2個ずつ取り出し、ハムエッグを手早く作る。


出来立てのハムエッグをパンに乗せ、テーブルへ運ぶ。

リティアはちまちまと食べ始めた。


その姿は、本人には悪いがとうてい魔王には見えない……


素早く食べ終え、時間の余った俺は毎朝寮に届いている新聞を読む。


「お、指名手配者が潜伏中?」


先日ギルド『アーク』を襲撃したシファと名乗るメイジがテスタニア共和国へ潜伏したとの情報が入った。

目下最優先事項として友好国のシュヴェイツからの伝信があった模様。


発見せし者には共通金貨10枚贈呈。捕縛せし者には……共通金貨500枚!


「金貨500枚……なかなかの額ではないか」


「あれ? 魔界の通貨も金銀銅貨なのか?」


「いや、人間界についてはある程度学んでいたのでな。しかし500枚か……捕まえてみるか?」


「う~む……金銭面で苦労することはあんまり無いし、わざわざ危険を冒す必要は無いよ」


「欲がないなぁ」


男足るもの常に余裕を持ち、謙虚で冷静にあれ!!


が、ウチの親父の家訓だ。


「っと、そろそろ行かないと。準備の方は……」


「私に端から準備など無い」


「それじゃ行きますか」


俺は制服に着替え、教室へと向かった。


……

………

…………。


教室には俺を含む9名の生徒とサイモン教諭の姿があった。


「とりあえず闘技場へ行くように。闘技場の伝板に対戦相手の名が書かれている筈だ。各自、準備運動、武装の確認を怠らないように」


選抜戦はトーナメント式で進行するようだ。

一応初戦、二戦目は三年組、二年組、一年組でやりあうらしいが、それ以降はランダムになるらしい。


「あぁそれと、知らせがあったかもしれんが今回の戦闘では使い魔及び真剣の使用を許可している」


使い魔は知っていたが真剣有りとは……いよいよ優勝だな。

アレ(・・)を使えるとなると、今から腕がうずく。


サイモン教諭の説明がひとしきり終わると一旦自室に戻った。


「なんだ、気持ち悪い笑みを浮かべて?」


「生まれつきだ。しかし……真剣使えるんだぞ!! 喜ばずにはいられない!」


俺は床下に隠すようにして収納してあった一振りの刀を取り出す。

厳重に刻印の布で封を施してあったが、しばらくびりに封を解く。


刻印の布は呪いの効果を鎮静化させ、悪影響が出ないようにするものだ。

いわゆる呪いのアイテムを扱う上で必須のものになる。

触れるだけで呪いの発動するタイプのものは特にな。


「世間一般では妖刀と謂われ、忌み嫌われる刀だ」


「随分と禍々しい気を纏った刀だな」


「こいつは妖刀『殊音』(ことね)、親父のツテを使って手に入れた極上の切れ味を誇る名刀だ。ただ宿命というべきか呪いがある」


この刀の触れるだけで発動する呪いは俺には全く影響がなかった。


「こいつを握ると魔法が一生使えなくなる。元々魔力0の俺には関係無かったがな」


「いや、それは違うな」


「は?」


リティアは目を細め、食い入るように殊音を見つめる。


だがこの呪いの効果は健在だ。

現に今は魔法を放てる気がしない。

おそらくリティアから貰った魔力は吸い出され、昨日のようなことはできないだろう。

体中の魔力を持って行かれる感じだ。


しかし、リティアは違うと首を振る。


「そいつは魔力を吸って奇跡を具現化する類の物だ。魔力の無いシンでなければ確かに魔法が使えなくなる。が、それを媒体に……例えば斬撃を飛ばしたり刀身を伸ばしたりできる筈だ」


「そんな能力があんのか……」


初めて知った……


武器商人の話だと魔法が使えなくなる代わりに鋭い切れ味を得られるタイプの妖刀と聞いたんだが……


「まぁ実戦で試した方が良かろう。早速闘技場へ行こう」


「そうだな」


何はともあれ実戦で慣れれば良いか……


……

………

…………。


場所は変わって闘技場。

そこはレンガ造りの古風な闘技場で、整備は行き届いているがなんだか古臭く感じる。

しかし造りはしっかりしているようで、まだまだ使えそうな印象だ。


「うわ~、初めて中に入ったけど正に戦いの場って感じだな」


対戦掲示板を見るとすでに対戦相手が表示されていた。


「対戦相手は……ゲルド、知らないな」





対戦相手はどうやら他クラスらしく、情報がない。

得意属性と武器が分かればある程度対応出来るんだが……


そんな事を考えていると拡張魔法を使ったアナウンスが流れる。


『えー、これより第1一回戦を開始したいと思います。A~Fのブロック毎に行いますので、呼ばれた者は対応ブロックに移動して下さい』


順々に名前が呼ばれ、戦闘が開始される。


俺の出番は第2一回戦らしい。

生徒が戦っているのを俺はよく観察する。


今回参加している人数は約150人。一クラス10人までの参加で1学年に5クラス有り、それが3学年ある。


つまり単純計算で150人と言うわけだ。

まぁうちのクラスのように参加人数が10人いないクラスもあるようだから実際の人数はこれより少ないだろう。




「お? もう決着したのか」





A~Fの内、早くも幾つか戦闘が終わる。



それを見た率直な所、どいつもこいつも魔法ばかりで近接戦をしたがらない。



それに何より経験が明らかに不足している。




幼少の頃親父と国の訓練所へ幾度となく出入り……正確には拉致されてしごかれた経験が蘇る。





「あんなヤツらに負ける気がしないな」





最も新しい記憶だと10歳の頃、無理やりフェンリルと言う名のギルドに強制登録され、いきなりワイバーンの討伐任務をやらされたのだな。



あれは死ぬかと思った……


妖刀を持っていたと言えど迫りくる火球には恐怖を覚えた。





「お? 出番のようだな」





今まで黙って戦いを眺めていたリティアが動く。





「今回の戦いではこのペンダントを着けて貰います。使い魔も同様にです」





係員(と言っても教師だが)から紫色のペンダントを2つ渡される。





「伸縮魔法に強制転移魔法陣が組まれた物です。生命の危機を感知すると自動で保健室へ転移します。思う存分戦って下さい」





係員の微細な注意事項を聞き、俺はDブロックへ向かった。





「よろしく」



「あぁ、よろしく」





向かい合って挨拶を済ます。





「それでは、双方共に準備はよろしいか?」



「はい」



「大丈夫だ」



「では戦闘開始!!」





先に動いたのはゲルドだった。使い魔の姿は……見当たらない。





「うち砕け、{ロックベル}!!」



「下だ。土中から接近している」



「ご忠告どうもっ!!」





俺はゲルドが放った土魔法の岩塊を交わす。


ロックベルは土属性の魔法で、標的へ岩塊を飛ばす打撃系の魔法だ。





「くっ!!」





ゲルドは慌てて弓を引き、同時に3本の矢を放つ。


が、そのどれも俺に当たることは無く、袈裟切りをする。



その時、土中から黒く硬い物が突き出し、刀の行く手を阻んだ。が――





「邪魔だ!!」





ざっくりと、黒い何かを切り裂き、勢いを殺さず刀を振り切る。





「ぐあっ!!」



「ちっ、浅いか!!」





追撃しようと狙いを定め、刀を振るおうとした瞬間、ゲルドと黒い物の姿が消える。





「……あれ?」



「試合終了!! 勝者、シンヴェラード!!」





歓声は無い。一応観客席からはちらほらと声援が有るが……





「で、リティアは何をしていたんだ?」



「眺めていただけだが?」



「はあぁ……まぁいいか、体力温存しとけよ……」



「無論、そのつもりだ。王者はあのような雑兵を相手に力を振るうことはせんのだ」



「さいですか……」





とりあえずDブロックから離れる。

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