学年別騎士選抜戦
「あいつ……魔盲じゃなかったのかよ?」
「それどころか混合魔法なんて使ってるし……」
またも周りからひそひそと声が聞こえる。
驚いてるのは何も周りの人間だけじゃない。
ただ単に知識として知っていただけのフレアレインと言うスペルが、実を持って発動したのだ。
驚かない方がおかしい。
「見事だったぞシン。何故魔法が使えるか不思議そうだな?」
「あ、あぁ……」
「シンの体内に私の血と魔力が入っているからだな。昨晩貧血を起こしたときに血をやったんだ。今はある程度魔法を使えるだろうがあくまでも私の魔力の残滓だ、使っているとそのうち魔力が底をつくだろう」
あぁ、てことは昨晩の最後に意識が跳んだときに走った激痛は……
「私は吸血鬼ではないが、吸血も血を分かつ事も出来る」
「なんていうか、なんでもありだな」
模擬戦終了後の待機時間中にリティアと話しているとデイル教諭から生徒に向け、声が掛かった。
「模擬戦で勝利した者はこっちへ集合しなさい」
模擬戦を終えた生徒たちがあちこちで反応し、デイル教諭の方へ歩いていく。
「今から王宮の舞踏祭で聖騎士を仰せつかる者を選出するための予選を開始する。恐れ多くも我が校から一名のみ選出と王宮から直々にご指名があった」
………………。
オオオオォォォ!!!!
それを聞いた途端、クラスメイト達の瞳に火が宿り、周りを牽制しようとギラギラとした目つきで睨む。
……のだが、何故か俺の姿を見た途端、肩をがっくりと落とし、うなだれる者が続出した。
「希望は潰えた」
「シンが居る限り光は無い……ちくしょう……」
口々にクラスメイト達は愚痴を零す。
いや、この魔法は付け焼刃みたいな物だからそこまで絶望することは無いんじゃ……
そんな中、リティアがまじめな顔をして小声で話しかけてきた。
(シン、お主意外と強かったのか?)
(まぁ今まで魔法使えなかったけど模擬戦じゃ魔法無しで互角に渡り合えたから……)
(魔法が加わって勝ち目が薄いと踏んだ輩か……)
「尚、予選では使い魔の使役を許可している。一年はまず三年に勝てないだろうが学年ごとに優秀者を選出し、魔具を贈呈している。使い魔との絆を深めつつ実力を身に付けるように!!」
あーあ、俺しーらね。
使い魔を使役できる=(イコール)魔王が戦力として味方してくれる
という図式が成り立つわけだ。
学生の身分で魔王に太刀打ちできる奴なんてまずいないだろう。
前言撤回、クラスメイト諸君……絶望してくれ。
(何だ、ならシンと私が優勝決定ではないか)
(あはは………冗談と取れないのが末恐ろしいよ)
リティアは負ける気がさらさらないようだ。
相手は人間の、それも未熟な魔法使い見習いばかりなのに……リティアは容赦する気がないようだ。
あぁ、因みに聖騎士って言うのは、国のお偉いさん方が祭りなんかを催したときなんかに引っ張られる者の事だ。
まず、国王の護衛を任される。
まぁ護衛と言っても体験みたいなもので、プロが傍に控えるが。
次に催し物の司会進行役。
これは国王やお偉いさん方に顔を覚えられ、自分の経験経歴として箔がつく。
ここでお偉いさんに気に入られれば、学院卒業後に近衛騎士や護衛としてスカウトされるかもしれない。
とまぁ、なかなかの大役を任せられて将来のためになるのだ。
当然、選抜戦には学院の中でも指折りの実力者が参加してくる。
「知っているだろうが、ひとクラスから10名までが聖騎士の選抜戦に参加出来る。今残っているのは18名だから出席番号が若い者からペアを組み、9名をこのクラスから選抜戦に参加させようと思う」
9人のみか……別に10人参加させてくれてもいいじゃないかと思うのだが、誰も口にしないので黙っておく。
出席番号の若い順で残っているメンツとなると俺の相手は……
「シン君が相手かぁ。勝ち目薄いなぁ」
「悲観することは有りません。私はリリス如きに遅れを取ることは有り得ませんので」
エマ・ゼンロイト。
氷魔法を得意武器に風、闇、土と幅広く属性魔法を使いこなす強敵だな。
傍に控えるのは体長2メートル程の直立歩行している黒い竜。
見たところ使い魔はデスドラゴンのようだ。
基本的にドラゴンは人語を理解する。
そして一部魔法を使え、更に精霊魔術まで使いこなす種もいるらしい。
使い魔としてドラゴン種は下位のデスドラゴンでも当たりだろう。
「確かに相手が『リリス』だったら勝ち目はあっただろうなぁ、シンよ」
「そうだな……まぁ気楽に行こうや、『リリス』さん?」
意味深にうなずき合う俺とリティアを見てデスドラゴンが僅かに苛立ったように見えた。
いや、人語が分かるからと言って表情が豊かになる訳じゃ無いんだよね。
そして模擬戦スペースへ移動するし、少し待つとデイル教諭の合図が出た。
「全員準備は整ったようだな? ではこれより選抜メンバーの決定試合を始める……試合開始!!」
試合開始の合図が聞こえて直ぐにエマは距離を詰め、両剣を袈裟斬りに振ってきた。
俺は切っ先を見切り、両剣を鼻先数ミリで躱す。
剣を振り切り、態勢の整っていないエマの隙を逃さず、鎖骨がある辺りめがけて刀を突き出す。
それを体を無理にそらすことでエマが直撃を避け、左肩にかする。
エマは痛みに顔をしかめながらも一度距離を置くために剣を横に薙ぎつつ後退する。
半歩後ろに下がることでその横薙ぎを躱し、出方をうかがう。
すると横合いからリティアが声を掛けてくる。
「やるではないかシン。ほんの少し見直したぞ」
「余所見する暇あんのかリティア?」
「何を言う? 此方はもう片付いたぞ?」
横目で見ると白目を剥いたデスドラゴンが横たわり、その上にリティアが座っていた。
いや、一体何をしたんですかね?
紛いなりにもドラゴンだから、少なくとも2~3分で片が付く相手ではない。
「加勢……させ……ないのっ!?」
「アイツが介入したらあのデスドラゴンみたいになるぞ?」
肩で息をしながら話すエマに対し、俺はあまり息が乱れていない。
今度はこっちから仕掛けるか。
周りに聞こえるか聞こえないかの声量で魔法を詠唱しつつ、エマに肉薄する。
右から剣の振りが来たのでバックラーでいなし、刀を振るう。
エマはそれを後ろに飛び退いて避けるが俺は着地点へ錬金を使い、泥のぬかるみに変化させる。
それに気付かず、エマはそこへ足を踏み入れて態勢を崩す。
「貰った!!」
「甘いわ!! アイシクルスピア!!」
接近する俺に対し、エマは5本の氷の槍を飛ばしてくる。
どうやら相手も小声で詠唱していたらしい。
その総てをバックラーで弾き、未だ態勢の整っていないエマの首まで刀を持って行き、すんでのところで止める。
「負け……たわ……」
エマは観念したように両手を上げる。
相手が魔法を使いつつ逃げているだけだと、追いつめる手段に乏しい俺は苦戦を強いられる。
今回はエマが魔法をあまり使わずに戦ってくれたため、楽な攻防ができた。
「ほほう? 使えるようになったばかりの魔法をそこまで早く実戦に投入出来るとは……」
「自分でも驚きだ。でも……なんか自分の手足のように使えるんだよなぁ」
「使い魔の効果だな」
「デスドラゴンを瞬殺するなんて……ただの『リリス』じゃないわよね?」
流石に疑問に思ったのかエマが泥を払いながら聞いてくる。
「ふふん、私の正体が知りたいなら私とシンに勝つか、シンを落として聞き出すとかだな」
「えっ!?」
「落とす……?」
何故か俺の発言を聞いて、リティアとエマが白い目を向けてくる。
「にぶちん」
「朴念仁かシンは」
その後、一番早くに戦闘が終了した上、全く疲れていないシンは他の生徒間の戦いを眺めていた。
「シン君、今回一年生の有望株は君みたいですよ。本戦、頑張って下さいね」
デイル教諭が俺の近くまで来てさらっとプレッシャーを掛けてきた。
それから10分ほどほかの生徒の試合を眺め、終了を告げる声がかかる。
「それでは勝敗が着いたようなので授業を終了します。皆さんお疲れ様でした」
授業終了後は更衣室に戻り、着替えを済ませ、教室へ戻った。
ホームルームにて。
「連絡事項は……明日、本来は休日だが今日の実技で予選を突破した者は通常通り登校すること。以上!! 起立、礼!」
「何だか面倒な事になってるなぁ」
復活したキースが話しかけてきた。
まぁ気を失っていたんだから聖騎士選抜戦の話は突然だろう。
「何だか選抜戦、嫌な予感がするんだよなぁ」
あくまでも勘だが、二年生か三年生に手酷くやられそうな気がする……。
「大丈夫だ、私が居るではないか。いざと言うときは守ってやるぞ?」
ニヤリと笑ったリティアが、たゆんと胸を揺らして拳を握る。
頼もしいんだけどなんかなぁ……。
「そういやリティアちゃん、だっけ? 今、学校中で噂が立ってるよ?」
ふと思い出したかのようにキースが話を持ちかける。
目線はリティアの胸に行っているが……
「ん? 何の噂だ? それとリティアちゃんではなくリティア様と呼べ」
目線には気付いていないようだ。
命拾いしたなキース。
「2年生の男子生徒にナンパされて、それを振ったのみならず複雑骨折させたとか。いけ好かないヤツらだったから皆大喜びだけど」
キースは含み笑いを吹き出さないように堪えている。
もしかしたら病室が同じだったのかもしれない。
「あぁ~、やっぱ噂になったか。てか複雑骨折て……本当に半殺し……」
しばらくキースと話した後、俺は寮へ戻った。