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勇者の血統

「貴様……魔力が全く無い状態でどうやって私を召還した? 」


目の前の少女? 魔王? がなにやら喚いているが、俺にとってはそれどころではない。

い、意味がわからん……魔王を召還……人間の使い魔??


頭を抱えて唸る俺を見て、更にヒートアップする少女。いや魔王? どっちだかわからない……


「貴様、私を無視するか!! 良かろう、語らないならばその儚き命、奪い去ってくれよう!!」


少女の話に耳を傾けず、一人でうんうん唸っていると癇癪を起した少女が今にも飛びかからん勢いで怒鳴る。


その時、一陣の突風が吹いた。

通り抜けるようにして吹き去った風に一瞬顔をしかめると、物理的に月明かりが隠れた。


何事かと思い、俺は反射的に上へ視線を向けた。


「な!?」


あれ? 巨大な鉄柱が降ってきている?

しかもこのまま動かなければ直撃コースだ。


一瞬驚くがとっさに体が動いた。


「危ねぇ!!」


「っ!?」


鉄柱の真下にいる自称魔王の少女を突き飛ばす。

突き飛ばされた少女は大きく目を見開き、驚いた顔をしている。

俺も回避行動を……と思うが間に合わなかった。


「がハッ!!」


自分でも理解できた。

自称魔王の子を突き飛ばした事により、前屈み状態の俺の背中に鉄柱が衝突した瞬間、ゴリッと言う嫌な音がしたのを。そして、当然俺の意識は考える暇も無く途絶えた。


……

………

…………。


痛い。

背中から首筋に掛けて激痛が走る。

頭と体が分断されたんじゃないかと思うほどに体が痛む。


そしてあまりの痛さに俺は半ば強制的に目を覚まされた。


「ぐぅっ……あぁ、いてぇ……」


「目を覚ましたか。驚いたぞ、まさか人間に助けられる日が来ようとは夢にも思わなかった」


重たい瞼を開くと、無傷の魔王リティア? が俺の双眸をのぞき込んでいた。


「あぁ、無事だったのか。そいつは良か……くっ!!」


「動くな、折角治療してやっているのに」


「え……治療?」


どうやら魔王リティア? が俺の首筋に手を当て、魔力を流しているようだ。


本来魔力を流す行為はあくまで怪我などの痛みを和らげ、治癒速度を少し上げる程度の応急処置なのだが……何故か異常に傷の治りが早い気がする。


「驚いているな? 先程は首筋から背中にかけて、ザックリと裂傷が出来ていたんだが、もう大丈夫そうだな」


「……裂傷? まったく感じないが……」


そう言われ、確認のため自分の手で首に触れるが特に違和感も無い、何時も通りの俺の首だ。


「魔王の魔力を甘く見るな。人間の為に使うのは些か気が引けるが」


改めて周囲の状況を確認する。


俺は赤黒く染まった地面に大の字を書いて倒れている。

その側にリティア、そして側に鉄柱が横たわっている。


あの鉄柱は昼間に見た改築用の資材か。つくづく運が悪いな俺は……。


「なんか……フラフラするな……」


「貧血のようだな。全く、コレだから軟弱な人間は……」


渋々と言った面持ちで、彼女は俺の首筋から手を離し、顔を寄せてくる。


目と鼻の先まで彼女の頭が迫り、ふわっと良い匂いが漂う。

そして何故か大きく口を開いた。


「痛いだろうが、まぁ少し我慢だ」


「いっ!?」


再度、首筋に激痛が走った。

一瞬で視界がぼやけて意識が刈り取られる。


「この感覚……まさか勇者の血筋か!? 何故私を助けたんだ!? 助ける義理など無かろうに……まぁ良い、どちらにせよこやつを殺せば魔界へ帰れるからな……」


その呟きを聞く者は居らず、ただただ満月が輝いていた。


……

………

…………。


それから数時間経ち、朝日が登ってきた頃、俺は目を覚ました。


「ここは……俺の部屋?」


なんだか頭がクラクラする。

体も全体的に気だるい……。


なんか変な夢を見たな……魔王の少女を召喚して……鉄骨が直撃して……

なんとも荒唐無稽な話だ。現実なわけがない。


とりあえず昨晩起きた事は夢だったと勝手に自己解決し、体を起こす。


「すぅ……すぅ……」


「        」


言葉が出なかった。


何故かって? そりゃ自分のベッドに見知らぬ女の子が寝てれば誰だって驚くだろう?


中には迷わず襲うなんていう不埒な輩が居るかも知れんが……俺はいたって紳士的に対応する。


「ふぁ? ……誰?」


寝ぼけ眼で目を合わせてくる少女。

いや、あの……こっちが聞きたいんですが……


と、そこまで考え、一端思考を停止した。


暗くて鮮明には覚えていないがこの娘……昨晩の夢に出てきた自称魔王の娘じゃないだろうか?


夢 じ ゃ な か っ た !


「あぁ、昨晩助けた人間か……。うぅ~ん! 寝覚めの良い朝だ」


少女はぐぐぐっと背筋を伸ばしながら、眠たそうな目でこちらを眺めている。


「えっと、魔王リティアさん?」


「そうだが……えっとお主、名は………」


「俺はシン。シン・ヴェラードだ」


一応自己紹介はしないとだが……魔王ってマジな話?

だとすると本当に意味が分からん……


「昨晩魔力を流したのを忘れたか?」


「あれ……そういえば……? ……傷も痛みもない?」


俺の体に異常は見られない。


ちょっとばかし気だるいけど……許容範囲だ。


「助けられた恩はこれで返したぞ? もっとも助けられる意味はあまり無かったが」


気の抜けた顔でこちらを見ているが、この少女には隙と言うものが無かった。


魔王……極悪非道な奴、という固定観念があったがそうではないらしい。


「男として、危機迫る女の子は命を掛けて守れ。そんな教訓をデキの良い親父に仕込まれたんでね」


これは本当だ。

俺の親父はかなーり面倒な親だが……。


「そうか。まぁそんな事はどうでもいい」


心底どうでも良さそうな顔でリティアが流す。


さらっと流すとか……酷い。


「私は魔界に帰りたいのだが?」


「人間界から魔界って……どうやって行くんだ?」


「知らん。と言うか知っていたら実行しているだろう?」


それもそうか。

ってあれ? つまり帰る方法探さないとならないんじゃないか?


「悔しいが、そのようだな。致し方ない、暫くの間使い魔になってやろう」


「魔王が使い魔て……どんな化け物だよ……」


「仕方無かろう? その方が人間界こっちでは動きやすいのだから」


そう言って前髪をかきあげ、俺に額を晒すリティア。

一瞬その美貌と仕草にクラっと来るが、平常心平常心……


そういや使い魔契約って額に口付けするんだっけ?


「えと、失礼する」


内心でかなり緊張しながらだったが、そっとリティアの額に口を付けた。

すると額に魔法陣が浮かび上がり、一瞬光を放ってから消滅した。


「ぬ? コレが使い魔契約なのか!? ぐぅ……」


「だっ、大丈夫か!?」


「ちょっと身体が熱いだけだ……心配に及ばない」


「そ、そうか……」


暫く苦悶の表情を浮かべていたリティアだが、やがて治まったらしい。


「時にシン、昨晩辺りの様子を見たのだが、ここは人間界で言う『がっこう』ではないのか?」


「え、そうだけど……マズい!! 9時回ってる!! しまった、遅刻だ!!」


慌てて制服を卸したての物に着替える。

因みに指定されたズボンにYシャツ、ブレザーと言った制服だ。

個人的にはもう少しポケットが多いほうが良いのだが、今はそんなことはどうでもいい。


「あっ、と……リティア……で良いか?」


「ふむ、特別に許可しよう。で、何だ?」


「付いてくるか? それともここで待ってるか?」


「人間界には少なからず興味がある。だからシンが嫌だと言ってもついて行く気だったが……よもや言う前に聞かれるとはな」


「んじゃ付いて来てくれ」


少々慌てながら、俺は200m走を完走し、教室へ向かった。


因みに俺の入っているクラスは魔導騎士養成プログラムの導入されたクラス9(ナイン)。

魔導騎士ってのは魔法と剣術の両方に長けた実戦からサバイバルまで何でもそつなくこなす、言わばエリート騎士だ。

なれるのは一握りの者だけだがな。


俺が目指しているのは、何も魔導騎士ではない。

魔法が使えないと言う時点で無理なものだが、剣術を鍛えられる上に、魔法の知識を少しでも多く得るにはこのクラスに入るしか無かった。

魔法の知識は当然、対魔法使い用で魔法を先読み出来るように勉強している訳だ。


お陰で魔法実技は駄目でも剣術実技と座学は成績が良く、卒業自体は難なく出来そうだ。

俺は息切れを起こすことなくクラス9までたどり着き、教室の扉を開く。


「すいません!! 寝坊しました!!」


静まり返る教室。

何時もだったら生徒に笑い飛ばされて、教師に叱られて席に着けるのだが、今日は勝手が違った。


「人間が沢山居る……っと、人間界こっちでは当たり前なのか」


注目を集めたのは俺ではなく、後から着いて来ていたリティアだった。


「えっと、後ろの女性は誰かね? 我が校は従者の出入りを禁じている筈だが?」


いぶかしげな表情を浮かべる教師。

あ、言い訳考えてなかったけどどう説明しようか……


「いや……あの、彼女は……」


「何を気にすることがある教師殿? 私はシンの使い魔のリリスだ」


ナイスフォローだリティア!

このまま黙っていたら変にこじれるところだった。


「ふむ? 昨日は何も召還出来なかったと聞いているが?」


「えぇーとそれなんですが……召還の札を持ったまま帰っちゃって……それで寮の中庭で夜中に召還したんです」


「わかりました、良いでしょう。今は授業中です。速やかに席に着き、ノートをとりなさい」


これ以上授業の時間を潰すのが嫌なのか、興味なさげに席に着くようにと促された。

そして俺は周りに聞こえない程度の小声でリティアに尋ねた。


(椅子一つしかないけどどうするんだ?)


(心配には及ばぬ。私は息をするのと同じ要領で宙に浮ける)


なんとも羨ましい能力だ。

宣言通りリティアはぷかぷかと宙に浮いていたので気にかけず席についた。

すると当然隣の席のキースが声を潜めて話し掛けてきた。


(ガチでリリスを使い魔にしたのか!?)


(あ、あぁ……そういうことになるな)


実際は魔王なんだけど普通は言っても信じないよなぁ……


(いいなぁリリス。超美人じゃないか!?)


(確かに美人だよな。そりゃあもうこの学園1の美女を凌ぐぐらいな)


(おい、聞こえているぞ。まぁ悪い気はしないが……)


結局周りの目が気になったり、キースとコソコソ話していたりしていると、科学の授業はあっと言う間に終わった。


「では授業はここまでです。次は模擬戦闘ですので各自動きやすい服に着替えてきなさい」


今まで授業を行っていたのはデイル教諭と言う科学、経済理論、戦闘実技、錬金学を担当している先生だ。


扱う魔法は火と土系統の錬金。

かなり優秀な魔法使いだ。


俺は次の授業が模擬戦闘と言うこともあり、着替えようと席を立った。


更衣室まではリティアも付いて来たが、流石に入るのはマズいので、外で待っていて貰うことにした。


それから数分後。

戦闘用の軽装に、刃引きされた刀を腰に差し、敵の攻撃を受け流す為の直径25cm程の腕に装着するタイプのバックラーを着け、更衣室から出る。


「良いからさぁ、俺らと遊ぼうぜ~? 悪いようにはしないからさぁ~」


「使い魔だかなんだか知らないけど、あんな野郎とツルんでるとロクな事ないよ~?」


リティアが何人かの男子生徒に言い寄られている。


所謂ナンパってやつだな。


「やっと戻ってきたかシン。所でこのウジ虫共は殺して良いのか?」


さも「今日のご飯なに~?」みたいな感じで殺して良いか聞いてくるリティアに戦慄しながら俺はこう答えた。


半殺しなら構わない、と。


「つまらんな。ダークホール」


リティアは闇属性の初歩の初歩の初歩、ダークホールを唱えた。


ダークホールは闇の球体を魔力で作り、それを飛ばすか敵陣にいきなり出現させる魔法だ。触れたものを動けなくしたり、周囲の物を引き込もうと引力を生んだりする。


「なっ!?」


「う゛ああぁぁ!! 折れる折れる折れる!!」


あー……先述の通り、ダークホールとは引力を生み出すだけだから実質ダメージはない。


だから本来、ダークホールは攻撃と言うよりは足留めや動きを封じるのに用いる、のだが……


「引力が強すぎて風ができてる……オマケにそれが4つ……」


「ふん!! 見る影も無い。魔法が使える? 私の慧眼からすれば、実際の戦闘に置いては貴様等よりシンの方が100倍強いな」


そう捨て台詞を吐くと、むんずと俺の手を掴み、歩き出すリティア。


(か、かっけえぇ!! 流石魔王と言うだけのことはある!!)


そして、リティアと校庭に出て、模擬戦闘前の準備運動兼、魔法の事前練習を開始した時に、ソレは起こった。


魔法の事前練習では一同が得意属性の一番簡単な物をとりあえず詠唱すれば良いと言ういい加減な物だ。


因みに俺は得意属性なぞ知らんから適当に火の初歩魔法、ファイアボールを唱えた。


「魔法が……使える?」


俺が火の下級魔法であるファイアーボールを発動させることができたのだ。


「魔法を全く使えない落ち零れの筈のシンが……」


「魔法を使えてる……」


「凄いじゃないかシン!! いつの間にマスターしたんだよ!? これでシンはこのクラス9の最強だな!!」


「最強は言い過ぎにしても……あいつ確かに剣の腕は凄いし……」


周りの生徒が様々な表情で俺を見てひそひそと囁いている。


周りから持ち上げられるのがここまで気分の良いものだとは思いもしなかった。


まぁ今の今まで散々バカにされてきたから知り得もしない感情なんだろうが……。


「静かにしなさい。使い魔契約したことにより魔力が高まったのでしょう。準備運動はこれで終わりです。各自、模擬戦闘を開始しなさい」


因みに俺はキースと模擬戦のようだ。

気心知れた仲だからある程度は手加減せずに済む。


「んじゃお手柔らかに頼むぜエリート君?」


「そっちこそ手加減しとくれよクラス最強君?」


お互い不敵に笑うと境界線の引かれたエリアに移動し、模擬戦を開始した。


「いくぜ? シャドウハンド!!」


「来い! フレアレイン!!」


キースが発動したシャドウハンドは、ジェネラル級の制御を必要とする闇の付加魔法。手にした武器に闇を纏わせ、引力により武器に魔法を防がせたり敵をより深く斬る為に用いる。


対する俺は納刀したまま刀の柄を持ち、居合いの体制で火と土の混合魔法、フレアレインを発動させた。


フレアレインは上空にある空気を錬金で油に換え、炎を纏わせる。そして重力に従って炎を纏った油は広範囲に降り注ぐ。


衣類に付着すれば瞬く間に燃え上がり、最悪死に至りすらする。


「マジかよ!?」


キースは闇を纏った剣を上空へ向け、闇の引力でフレアレインを防ぐ。が――


「胴体がお留守だぜ?」


「しまっ――」


胴体ががら空きなキースへ肉迫し脇腹へ、ある程度力を抜いた居合い切りを放つ。


「お前……魔法使えるとか鬼……」


フレアレインを途中でキャンセルし、キースの元へ向かう。


キースは気絶しており、デイル教諭が保健室へと運んでいった。

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