召還の儀
自己紹介をしよう。
俺の名前はシン・ヴェラード。
年齢は今年で16歳になった。
成績は総合的に見て中の下。
実家ことヴェラード家は両親、姉、俺と言う構図で4人暮らしだ。
今現在俺は母国であるリベリオンの国立魔導学園と言う全寮制の学園へ通っている。
魔法、剣術、体術、歴史、科学、古代文字等の分野に力を入れていて、12歳から入学を許されていて中高一貫教育だ。
基本的には金を積んで入るか国に認められるほどの秀才でなければ入れない。
余程の自信がなければ受けることすら叶わないような学園で、その倍率は例年異常な数値を叩き出しているそうだ。
因みに俺は、どちらかと言えば落ち零れだ。
自分で言うのも難だが、な。
では何故、自他共に落ちこぼれ認定な俺がこんな学園に入れたかと言うと、親父が国の第一防衛部隊副隊長を勤めているから、だ。
要はコネ。
まぁ後に語ることになるとは思うが、俺の実戦経験だけ見るならばこの学園でも群を抜くだろう。
「おぉーい、聞いてるかー?」
話を戻すか。無視する俺に呼び掛けて来ているのは親友、又は悪友のキース・フェンバッドだ。
こいつは闇と風のジェネラル級制御をこなす、将来有望なエリート君だ。
「キース、どうせソイツには無理よ」
「魔法がてんで使えないんですものねぇ」
「魔法が使えないなんて、今時赤ん坊ですら暴発できるのにねー! その暴発すらできないなんて笑わせてくれるわ!」
キースが俺に話し掛けた内容を聞いていたお嬢様グループが絡んでくる。
こいつらはしょっちゅう絡んでくるからもう慣れたが、キースがいつかキレるんじゃないかと肝が冷えている。
「お前も俺の相手なんかしてないであいつらと一緒に居たらどうだ? キース」
なげやりにキースに振ってみるが、お嬢様グループを一瞥して鼻で笑って返してきた。
「生憎と、性格の悪い奴らとツルむ程心が広くないんでね」
「そうか」
反応が面白くなかったのか、お嬢様グループはからかうのをやめて何処かへ行ってしまった。
まぁ相手にするだけ無駄だから、いつも無視してるんだが……。
「おっと、いけねぇ、召還の儀があるから早めに動こうぜ」
あぁ、召還の儀は校庭でやるんだっけか。通りでクラスの人間が教室を出て行っている訳だ。
俺はキースと共に、校庭へと向かった。
因みに召還の儀とは一生に一度しか発動させることが出来ない使い魔召還専用の魔法陣を使い、基本的に発動者の実力や得意属性に見合った使い魔候補者が召還される。
後は契約できれば、めでたく使い魔を行使できるようになる。
俺にできるかどうかは非常に怪しいが……。
なお、これとは別に召喚魔法というジャンルの魔法がある。
これは言わば科学と化学が違うような感覚ではあるが、同じものではない。
召還は、召し還る(めしかえる)。
召喚は、召し喚ぶ(めしよぶ)。
召し還ると言うのは、運命神によって宿命付けられた二つの魂が召され、あるべき関係に還ることを指す。
召し喚ぶと言うのは、偉大なる魂が矮小なる魂を召し、己のため一時的に喚ぶことを指す。
……
………
…………。
校庭は高等部第一学年の生徒でごった返していて、正直近寄りたくない風体だった。
とは思うが、そんなことは言っていられないので自分のクラスの一群へ混ざる。
「これより召還の儀を執り行う!! 静粛にせよ!!」
拡声魔法を使って、この学園の創設者であるフィムニル学園長が高等部第一学年へ呼び掛けていた。
「今日は一生に一度しか執り行えぬ大切な儀だ。皆、気を引き締めて取り掛かるように」
その後、学園長の有り難いお言葉を10分ほど聞かされ、召還の儀が開始された。
俺もキースも順番は後の方なので後ろの方でぼんやりしていた。
遠目にだがなんとなく、寮の方を見ると屋上に資材が積んであった。
因みに寮は学園から少し離れた位置にあり、緩い傾斜に存在する。
「なぁキース、あの資材なんだ?」
「あれか? そーいや今日明日で寮を増設するらしいぞ? 来年は今年の1,2倍くらいの生徒が入るらしいし」
「へぇ、初耳だな。しかしあの資材の置き方……危なくないか?」
何処からどう見ても強い風に当てられたら崩れてしまいそうなアンバランスさで、かろうじて屋上に木材や鉄骨なんかが積まれている。
ここの学園の生徒に怪我なんかさせたら建設業者はこぞって路頭に迷うな……。
「仕方ないんじゃないのか? 急ピッチで進めてる作業っぽいから」
「なんで急いでるんだ?」
「何でもどこぞのお偉いさんが息子の安眠の妨げになったらどうしてくれるーつって圧力掛けたらしい」
つまり昼間にちゃっちゃとやらないと文句を言われるわけか。
建設業者の方々、御愁傷様です……。
こんな感じの親バカが居るから世の中が良くならないんだ。
「呆れて物も言えんな……」
そんな話をしているとキースの召還する番が回ってきたようだ。
「んじゃちょっくら召還してくる」
「あぁ。気を付けろよ」
担当の先生から召還用の魔法陣が書かれた羊皮紙を受け取り、召還を執り行うキース。
「我が名はキース・フェンバッド。召還の儀により此を執り行う。全知全能の神の御名において、我が使い魔を此処に召還せよ!!」
キースが呪文を唱え、魔法陣を作動させるとボンッと言う音と共に煙が立つ。
そして煙が晴れると、そこには大型犬サイズの蝙蝠が佇んでいた。
「ギギィ」
「キングバットか。まぁ妥当っちゃ妥当だな」
「おお!! キングバットはバット種の中でもなかなかお目にかかれない珍しい種ですぞ!!」
担当の教師がはやし立て、周りの生徒も拍手を贈った。
キースは大人しくしているキングバッドに近付き、額と思しき部位に口付けをした。
召還した者を使い魔にするのに必要な事で、一般的に額が一番効果的だと言われている。
そして俺の番になる。
「おい、落ち零れのシンだぞ」
「ハハッ、あいつにはスライムがお似合いだ」
ひそひそと、ではない。
これ見よがしに陰口が飛んでくる。
酷い言われようだ……。
まぁ上手く召還出来るかどうかすら判らないから何とも言い返せないが……
キースが先程やったものと同じ手順で、召還の儀を執り行う。
「我が名はシン・ヴェラード。召還の儀により此を執り行う。全知全能の神の御名において、我が使い魔を此処に召還せよ」
…………。
………………。
……………………。
無反応。
なにも起こらない。
当然、周りは大爆笑で先生方は唖然。
「ははは……、こん畜生がぁ!!」
どうなってんだよ!
どんだけだよ!?
幾ら何でも召還出来ないって……
居ても立っても居られない俺は寮へ向かって駆け出した。召還の札をブレザーのポケットに突っ込んだまま………。