プロローグ
これは今から数千年前のお話。
この世界、リーディアンが誕生して間もない頃。
初代魔の王であるガメル・ヴァサールとその眷族達は人間界を我が物にしようと計画を立て、実行に移した。
それまで統率力の薄かった魔族達はガメルの指揮の元、圧倒的な制圧力をもって人間界を蹂躙していった。
これにより、見る見るうちに魔の眷族達に人間界は奪われていった。
しかし、それを阻止せんと立ち上がった者が居た。
彼の者は幾たびの死線をかい潜り、そしてついには魔界の王を倒した。
後にこの者は勇者とされ、その血を宿すものは英雄の血と呼ばれた。
彼の者の名を――――
※ここから先はあらゆる文献に記載されておらず、様々な憶測が飛び交っている。
古文書、勇者伝より抜粋。
この伝えを末代まで継ぎ、魔界の者達への牽制とせよ。
……
………
…………。
「えー、このお話は本当にあった古代の話です。今でこそ魔界は落ち着き、争いは激減しましたが、魔界の王は何百年かに1度、復活するそうです。ですので、人間一同は油断してはなりません」
円形の教室にはポカポカと陽気な日差しが差し込んでいて大変眠気を誘う。
段々になっている生徒の長机にはちらほらと船を漕いでいる生徒が見受けられる。
しかし、今授業をしているサイモン教諭は、先生の中でも比較的優しい方だ。
船を漕いでいる程度であればまぁ見逃してもらえる。
しかし流石に完全に突っ伏して眠り込んでいる生徒には容赦しない。
「シン・ヴェラード? 聞いているのですか?」
返事は……無い。
変わりに一瞬の静寂に包まれた教室内に響いたのは……
「くかーー……」
深い眠りを示すいびきだけだった。
そう、完全に突っ伏して眠り込んでいる生徒が一人だけいた。
「……ふぅ、全くこの子は……」
サイモン教諭は一時授業を止め、眠りこけるその生徒に近付いた。
そして手に持った分厚い教本を振り上げ……重量に任せて降り下ろした。
ゴンッ!!
「いっ!? な、何? ……あ……、すいません」
鈍い音と共に眠りこけていた生徒はガバッと顔を上げ、目の前に居るサイモン教諭に謝罪する。
一連の流れを見ていた生徒たちが堪えきれず、教室内に笑いが木霊する。
「ではシン君、周りのみんなにこの世界についての事を説明しなさい」
「え? は、はぁ……わかりました」
何故今さらそんなことを? と言いたげなシンと呼ばれた生徒は、寝ぼけ眼を擦りながら説明を始めた。
「えーっと、この世界『リーディアン』は3つの世界に分かれています。
天界、人間界、魔界が有る中、人間界が私達人間や動物、亜人等が暮らす世界です。
天界には龍や天使、精霊等が住み、魔界には魔物や悪魔、鬼などが住んでいます」
基礎中の基礎……と言うか常識の範疇の説明をさせられ、わけわからん顔のシン。
「ふむ、まぁ及第点と言った所でしょう。いいですか? 次に私の授業で寝ていたら減点ですからね?」
丸眼鏡をカチャッと指で押し上げ、位置取りを直しながらサイモン教諭は釘を刺す。
「はい……分かりました」
「では今日の授業はここまでです。各自復習を忘れないように。では」
サイモン教諭はこのクラスの担任兼、歴史や古代文字の担当で、土、風、水の三属性を上級制御できるかなり凄腕のメイジだ。
魔法にはクラス階級があり、アマチュア、ジェネラル、エキスパート、マスター、タブー、レジェンドがある。
アマチュア~マスターは魔法の威力や範囲、できる事等が含まれる。
タブーは消費するものが魔力ではなく、命だったり寿命だったりするような危険極まりない魔法だ。
レジェンドは現代において行使できる者の存在が確認されていない、まさに伝説のようなクラスだ。
「よっ、落ち零れのシン! 今日は召還の儀だが大丈夫かぁ~?」
授業が終わると、一人の生徒が先程のシンと呼ばれた生徒に話し掛けた……。