95 ミノムシとレオナル
姪に通された部屋に、カルヴィナの姿は見えなかった。
「……。」
だがすぐに、不自然なふくらみのあるカーテンが目に入る。
必死で気配を押し殺しているのだろう。
カルヴィナの名を呼ぼうとしたが、踏み止まった。
騙されたフリをして背を向け、扉に向かって歩く。
どこか張り詰めていた膨らみが、緊張を解いたせいかゆるやかになった。
そっと後ろをうかがうと、あからさまにホッとした様子が伝わってくる。
少しからかってやろう。
そう思ったせいもある。
だが、コレは面白くないという思いもよぎった。
このまま、俺に会えずともいいのか。
会いたいと焦がれているのは、俺だけなのか。
呼吸を整えてから、踵を返した。
わざとらしく靴音を響かせながら、大股で近づく。
「大きなミノムシがいるな」
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まず、カーテンごと抱きしめて逃げられないようにしてから、ミノムシを暴きにかかった。
しっかりとカーテンをつかんでいるのだろう。
ミノムシは姿を見せまいと抵抗してくる。
それが俺を煽るだけだとも知らずに。
だが力では、圧倒的にこちらが勝っている。
やがて、姿を現したカルヴィナに息を呑んだ。
身長差から見下ろす俺の目線に飛び込んできたのは、白さの際立つ胸元だった。
髪は高く結い上げられており、項から胸元に掛けてを大きく見せつけてくる。
今すぐにでもこちらを向かせ、その胸元に死ぬほど口付けてしまおうか。
仕置きだ、と言い聞かせて、戸惑いながらも応えるより他はなくなる、カルヴィナの泣き声を楽しもうか。
そんな囁きに耳を貸してしまわないためにも、後ろから抱きしめたままでいた。
「何か言ってくれないか?」
あまりにも長く沈黙が続くせいで、不安になってきて尋ねた。
もしやまさか、俺とは二度と口をきかない事にしたのか、と。
らしくもなく、緊張している自分がおかしかった。
たった二日ばかり会わないでいた間に、カルヴィナに何が有ったのだろう。
彼女のまとう雰囲気がまるで違うように感じた。
顔を赤らめて耳までうっすら染めた様子も、恥ずかしがって身を隠す仕草も、俺を煽る意図に溢れかえっている。
「カルヴィナ。まだ、いじけているのか?」
そう尋ねたとたん、勢い良く首を横に振られた。
これはまだまだ、いじけているのだと一目でわかった。
機嫌を損ねたカルヴィナが愛しくて仕方がない。
頑なにカーテンに身を隠そうとするカルヴィナを押しとどめながら、おかしな雰囲気になってしまう。
無理やり窓際に追い詰めて、その身に付けた物を剥ぎ取る。
例えそれがカーテンであろうとも、身にまとわりつかせているのなら、衣服と変わりがない。
隅に追い詰めて、抱きしめて、暴いて行く。
妙な背徳感と興奮が入り交じる。
愛しさと共に加速して行くのは欲しいという想い。
どうしても背の方にある寝台を意識してしまう。
ここが自室でなくて本当に良かったと思う反面、そうではない事が残念でならない。
後ろから抱きすくめたカルヴィナの後頭部に唇を押し当て、香りを吸い込んだ。
逃れようとした身体を引き寄せる。
「カルヴィナ。あまり俺を困らせるな。男を焦らしすぎると、痛い目に合うぞ」
唸るように、そう告げる。
怖がらせないようにと振舞うのは、限度があるらしい。
心地よい日だまりの香りを再び吸い込み、首筋に口付けた。
「きゃ……あっ」
わななく唇から思わずのように漏れた悲鳴が、艶めかしい。
きつく吸い付いて痕を残してやりたい所だったが、ここは姉の屋敷だ。リディアンナもいる。
場所が場所なだけに自制するが、柔らかく食みながら食いつきたくてたまらない。
このままマントにくるんで連れ出して、街まで馬を走らせて、宿にでも篭ってやろうか。
頭の中では、そんな段取りをしだしてしまう。
柔らかな膨らみを後ろから、手のひらに収めて弄んだ。
薄い布地越しの感触だけでは我慢がならず、胸元のリボンを緩めて指先を侵入させる。
「あっ!」
鋭い悲鳴が上がった。
だが、容赦はしない。
というよりも手のひらに吸い付くような肌の感触と、えも言われぬ柔らかさの虜になった。
「カルヴィナ……。何て、やわらかいんだ。それに感度もいいようだな」
わざと卑猥な言葉を囁いて、彼女が身悶える様を楽しむ。
興奮したせいか、声が掠れてしまう。
「や、やっ、やぁ! こわいよ、地主さま、やぁ!」
いやいやと頭をうち振りながら、必死で俺の手を押し止めようとする指先を取った。
そのまま、もたれかかってきた体を受け止めて、寝台へと腰掛けさせた。
小さく乱れた呼吸を整えながら、カルヴィナに向き合う。
瞳の焦点はどこか定まっておらず潤み、唇は吐息がこぼれた形のままだ。
自分の身に何が起こったのか解らない、というよりも理解できていないらしい表情があどけなくもあり、色っぽくもあった。
左手でその頬を包むようにしながら、反対の手で項から首筋をゆっくりと撫でる。
澄んだ夜空が瞬いてから俺を見た。
「やっと、俺を見てくれたな」
そのとたん、涙がひとしずく、カルヴィナの頬を伝った。
『ミノムシに悶えるレオナルだぞっと。』
やりすぎた感が拭えませんよ、レオナル。
リディアンナは幼いながらも、男の目線っちゅうものを良くわかっている。
その上でのアドバイス。
リディアンナちゃん、効きすぎたみたいですよ。
彼女もまた、恋する女の子です。