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83 魔女の娘と大地主

 

 最近、地主様のお許しをいただいて、お庭の隅っこに場所をもらった。


 そこはそこそこ日当たりが良くて、水はけも良い。

 かと言って日が強く当たりすぎる事もないのは、近くに大きな木があるからだ。

 だから本当に加減の良い日当たりで、心地が良い。

 私が心地よく感じると言うことは、植物たちにもそうであるとも言える。

 きっとこの大地の生命力を感じて健やかに伸びるだろう。

 そんな薬草達は素晴らしい薬効が期待できる。

 最高だ。


 しかも井戸が近くにあり、作業がしやすい。


 まさに魔女の畑にうってつけの場所をいただけた。


 ここの所、日の出と共に起き出しては、一番に畑に向かってしまう。

 そこで摘んだ新鮮な薬草を厨房に届けて、お茶や料理に使ってもらう。

 それを地主様への朝食としてお出しするのが、ほぼ日課になりつつある。


 どうか地主様の活力になりますように。


 植物たちよ、力を貸して。


 そう願いながら畑を見渡して、一番光って見える葉っぱを摘む。


 少し前までは、おばあちゃんが元気でいられますようにと唱えていたのだから、不思議なものだとも思う。


 ささやかだが、魔女の力を発揮できて満足だった。


 お祭りから何度か森の家に帰らせてもらって、苗や種を取ってきたかいがあった――。


 戻りたいのだと訴えたところ、ものすごく何とも言えないお顔をされてしまった。

 眉根が寄り、不機嫌ともまた違う不穏さが漂い、非常に恐ろしかった。


 長い沈黙の後、地主様はゆっくりとこちらを見てくれた。


 そうして森の家には地主様が一緒でなければ、戻ってはならないと条件出されたのだ。

 そうでないと色々と大変らしい。

 そういえば菓子屋のおかみさんも、似たような事を言っていた。

 地主様の御そばにいると言うことで、私に目を付ける人も出てくるかもしれないのだ。

 

 地主様はお金持ちだ。

  

 もしも誘拐されたら、身代金を要求されたりする可能性も出てくる。

 そうなったら、地主様に迷惑をかけてしまうだろう。

 そんなのは嫌だ。


 だから、一緒に。


「……。」


 一人、畑仕事をしながら、ほてった頬を撫でてゆく風が嫌に心地よく感じてならない。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・


 森に帰ると必ず……。


 地主様の腕の中に閉じ込められてしまう。

 そのまま、ぎゅうっとされて苦しくなって、助けを求めて顔を上げる。

 そうなったら、罠にはめられたも同然だ。


 優しく、なだめられるようにこめかみや頬に、唇が押し当てられるのだ――。


「ん、あの、やぁ」

「可愛い」


 抵抗虚しく。


 もとより私の抵抗なんて、あっても無いようなものだろう。

 それに地主様にしてみたら、森に連れて来てやったのだからこれくらい寄こせと言っているような。

 私は地主様の所有物くらいに思われているような。

 何となく伝わってくるものに、恐れおののくしかない。


 そのことが私を悲しくさせる。


 どうやら男の人という生き物は、女の肌のぬくもりを求めるものらしい。


 うっすら聞き及んだ事が導き出した答えがそれだ。

 胸が痛くなる。


 そっと深くを探り当てようとする動きから逃れたくて、頭を振れば執拗に追い詰められてしまう。


「ん……やぁ」


 触れ合うだけでは物足りない。

 もっともっともっともっと――。


 そんな想いが伝わってくる。


 もっと?

 これ以上、どうしたらいいのだろう。


 苦しくて息が上がる。

 無意識の内に涙が溢れる。

 しゃくりあげると、優しいけれども怖い指にあやされる。

 どう怖いのかというと……。

 上手くは言い表せない。

 ただ確かなのは、私から一切の抵抗を封じてしまうという事だ。


 抗おうという気さえも。


 そうして耳元に囁き込まれるのだ。


「カルヴィナ。おまえは俺に赤い石の腕輪をくれたのではなかったのか?」


 覚えなどないと言い張れたら、どんなにいいか。

 何も言えなくなってしまう。

 ただ、胸だけが張り裂けそうになる。

 ぎゅうぎゅうに何か詰め込まれて、それが勢い良く内側から膨れ上がるかのような。

 圧迫感がたまらなく苦しい。


「森に行く」という言葉に頷けば、それはこういった事を許したと言っているも同然になるらしい。

 それに気がついてからは、怖くなって頷けなくなってしまった。


 そうなると地主様との接点はあんまり無い。


 せいぜい朝食の時とお見送り、たまの夕食の時くらいだ。


 そこで、ようやく思い知ったのだが、地主様と私とではまったく話しが合わない。


 今までだってずっとそうだと、当たり前のことだと認識していたはずなのに。

 最近はちょっと勝手が違っていた。

 私は必死で彼の話に興味を持とうと耳を傾けてみるのだが、まったくもってそんな兆しが見えてこないのだ。

 ただ、やっぱり地主様はお忙しいのだなあ、とか。お金持ちなのだなあといった自分との差だけを突きつけられる気がする。

 話せば話すほど離されて行く感じだった。

 どうしようもない。


 エルさんと地主様が打ち合わせているとき等、何を話されているのかまるで解らない。


 無知な小娘が無礼にも、馴れ馴れしくしすぎていたのだと改めて思い知る。


 急に胸にあった圧迫感がしぼんでゆく。


 おかしい。

 やっと深く呼吸が出来るようになったというのに、私がそれを寂しく感じているとは何事か。


 あたたかな土に触れながら、そのままぼんやりしてしまった。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・


「あら。可愛らしい子猫ちゃんがいるわ」


 人影がさしたと思ったら、綺麗な声も降ってきた。


 子猫?


 どこにいると言うのだろう。

 私も見たい。


 辺りを見渡してみたが、残念ながら小さな尻尾の先すら見当たらなかった。


 せいぜい木漏れ日が揺れているだけだ。


「あらあら! 本当に可愛らしいこと! 子猫を探しているの? 子猫ちゃん」


 すごくはっきりとした、凛とした声が響く。


『地主はね、君とね?』


魔女っこ、理解していない。


ここで書くとネタバレなので、また先々に~。


ではっ!

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