表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/130

62 祝福さずける森の神と女神

 

 皆の歓声がひとしきりおさまる頃、頭を下げる。


 村長さんが進行を促すように、声を張り上げた。


『さあ、今年も無事に森の神と女神を迎えることが出来た! お二人ともから祝福をさずけていただくとしよう!』


 それから地主様に付き添われるようにして、慎重にやぐらに登った。


 確かに階段になっていて助かった。

 これがはしごだったら、目も当てられない。


 慎重に慎重に。

 杖は階段の登り口に立てかけて、手すりに掴まりながら足を運んだ。

 地主様が横に立ち、腕を回して肩を支えてくれている。


 一人で登れると言い張ったが、相手にされなかった。


 確かに強がりであったことを認めるしかない。

 階段は全部で十段以上あった。

 思っていたよりもずい分高い。

 それからは怖くなって数えるのを止めてしまった。

 足を運ぶ方だけに集中するに限る。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・


『ありがとうございます』


 どうにか登りきり、地主様を見上げたが頷いただけで、体が離れる気配はなかった。


 そのまま、やぐらの真ん中まで付き添われて行った。

 結構、広い。

 私の部屋より、少し狭いくらいだ。


 そこには、大きな籠がふたつ用意されていた。

 ひとつは乾燥させたリィユーダの花。

 五つの花弁が可愛らしく、花ごと散るので形が壊れにくいし、何よりその効能が素晴らしい。

 この香りをまとえば安眠をもたらし、病も遠ざけると言われている。


 それともうひとつは、クルミを焼き込んだお菓子。

 きれいにひとつひとつ、布でくるんである。

 布はみんなで持ち寄ったもので、色とりどりそれぞれ味のある出来栄えだ。


 壊れてしまってもいいように、お菓子は大きめの塊りで焼かれてあるのだそうだ。

 おかみさん達がそう、教えてくれた。

 崩れてもちょうど一口分になるように、だそうだ。抜かりがない。


 本当はクルミだけをまいていたそうだが、いつのまにかお菓子に変化したらしい。


 おばあちゃんの頃はすでにお菓子だったそうだから、ずいぶん前にそうなったのだと思う。


 私はお菓子の方が嬉しい。クルミだって嬉しかろう。


 側には手篭が用意されていた。

 そこに私はお菓子を、地主様はお花をつめる。

 籠は結構大きくて、樽一つ分くらいはある。

 これは頑張らないといけない。

 地主様と顔を見合わせ、無言のまま頷きあった。

 せっせと詰める。


 やぐらから顔を出すと、既にみんな待っていた。


 まずは小さい子達から、やぐらのすぐ近くで待っている。


「魔女っこ、魔女っこ、お菓子を早く、ちょうだいな!」


 リュレイとキャレイが大きな声で、歌うように催促している。

 それにつられて、他の子達も同じように言い出した。

 小さな体からあんなにも大きな声が出るなんて、すごい。

 感心してしまう。


「違うだろう、森の神様と女神様だろう!」


 そう言い直しているのは、少しお兄さんの子だ。


「そうだったね」

「今日、魔女っ子は森の女神様。地主様は、森の神様なのだったね」


「だったら」

「せぇの!」


『森の神様、女神様。お菓子とお花をください、ください、くださいな!!』


 その子供たちの掛け声を合図に、思い切ってお菓子を降らせた。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・


 雲の上から雨を降らせるのって、きっとこんな気持ちなのかもしれない。


 木々や草花たちが喜んで恵みの雨を受ける。

 その様子に微笑み、満足を覚えながら雨を。


 それはとても素敵だ。


 小さい子たちから順番に前に並び、行き渡ったら、大人たちが前に出る。


 スレン様とリディアンナ様にも、えいっとお菓子を降らせた。

 お二人共も、良い笑顔を見せてくれた。

 それから。

 何故か隣同士で恵みを受けるミルアとエルさんにも、お菓子とお花を降らせた。


 そういえばミルアが誰に腕輪をあげるのか、聞いていなかった。


 そういうことなのかもしれない、と思った。


 後でミルアに聞くことにする。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・


 何故だか呼ばれたような気がして、そちらに視線を落とすとジェスと目があった。


 ジェスは両手をこちらに伸ばし、大きく広げている。

 何だか泣き出しそうな笑顔に見える。

 そちらにもお菓子を、と思ったら籠を取り上げられた。

 代わりに花が入った籠を押し付けられていた。

 ――地主様に。


 なんだろうと思って訝しんで見上げた。

 仮面の横顔は何を考えているのか、いつも以上に解らなかった。


 ともかく、ジェスにはお花を振らせてみた。

 くるくると風に吹かれて、お花は頭上をかすめて行ってしまうようだ。


 うふふ、と思う。

 何度見てもいい。

 お花が風に舞う様を見守る。


 地主様は無言でただ、立っている。


 どうしたのだろうかと見上げた。


 それからおもむろに、籠の中のお菓子をわっしと一掴みした。


 何と!


 地主様ときたらそれを、ものすごい勢いで振りかぶって、ジェスにお菓子を投げつけたのだ!


 ええ!?


 驚く。

 だがジェスもジェスだった。

 しっかりと受け止めて、地主様を睨んでいる。


 周りの人たちも遠巻きにして、何やらニヤニヤしているように見える。


 何だろう、二人とも。

 男の人同士、なにやら仲がいいような気がした。

『やぐらの上で。』


魔女っこ目線だと、なかなか話が……。


変な方向に進む気がしますが、お祭りは滞りなく進んでおります。


地主、心が狭い。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ