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59 森の神様と巫女の娘

お祭りは 地主&魔女っこ目線でお送りいたします。

 

 大魔女の娘は人よりも少し離れた所で、静かに佇む娘である。


 無関心なのではない。


 誰かや何かに助けを求められた時には、そっとその知識と知恵を差し出す。

 その様子はまるで、憩う小鳥のためにそっと枝葉を伸ばす若い樹のようだ。

 ただ静かに風にそよぎながら、遠慮がちに周りのもの全てを見守っている。


 寄り添うものを拒まない、その大らかさはあたたかい。


 言葉で表現する者は戸惑いを覚え、苛立つ。


 それは言葉では説明が付かないがため。


 良くも悪くも浮世離れした雰囲気を醸し出し、おいそれと近付く事すら憚られる。


 当の本人はそれを、自身の生まれ持った色のせいだと思い込んでいる。

 それが魔女の娘に憂いを持たせる。

 その憂いが余計に、娘の持つ雰囲気を妖艶に魅せるのだ。


 けして自分からは主張しない。


 見過ごす者は見過ごせばよい。


 それに気が付く者など少数でいい。


 ・。・:*:・。・:*:・。:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・


 いつもと違う雰囲気に苛立つ。


 カルヴィナがあまりにも可憐だからだ。


 巫女役の純白の衣装を身に着けた娘に、穢れなど見当たらない。


 大魔女が森の奥深くで(いつく)しんできた訳がわかる。


 ひとたび人の輪に引っ張り出されたら最後、人の目を集めてしまう。


 好奇、賞賛、羨望、嫉妬といったものから、男の要らぬ感心までと幅広く。


 無意識に存在を主張して止まない娘は、様々な思惑を人々に抱かせてしまう。

 無自覚なのだから余計にタチが悪い。


 早速まとわり付いていた男達。

 カルヴィナにしきりに酒を勧めていた。

 無理に飲み干そうとして、咳き込むカルヴィナから取上げれば、それは恐ろしく濃い酒だった。


 怒りが頂点に達する。


 追い払い、荒々しい心のままカルヴィナに向き合う。

 自分でも宥めようの無い怒りを抱えたまま。

 ところがカルヴィナときたら、俺を横暴だとなじってきた。


 その割に語尾は震え、視線は惑っていた。

 それは、強がりなだけだというのは言われずとも解る。

 照れているだけだとも。


 言葉を交わし、その頬に触れる。

 気がつけば、怒りはすっかり収まっていた。


 獣の欲求を満たすのならば、そんな指先程度の触れ合いで鎮まるはずも無いと思われた。


 必死で指先までで留めた想い。

 滑らかな感触が、昨晩抱き寄せた曲線をありありと蘇らせる。


 だからこそ、慌てて触れるのを止めたのだ。


 それでも、心を荒ませていた嵐はあっさりと凪いでいた。


 たちまち鎮まってしまった獣は、娘の清純さに平伏したに他ならない。


『お慕いしております』


 という台詞を聞きたくて幾度も言わせた。

 耳にも心にも心地良い。


 祭りの間、巫女役の娘の心は森の神にのみ捧げられるのだ。


 その間は永遠のひと時。


 ああ。

 まただ、と思う。


 これは俺の感情だけではない。

 この仮面の意思が持つ、記憶もあるのだ。


 この仮面を代々付けてきた者達の記憶も含めて。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:*:・。:*:・。・:*:・。・



 おばあちゃん。


 おばあちゃんも巫女役をやった事があるんだって教えてくれた。

 こっそりと。


 おばあちゃんが、娘だった時。


 誰が神様役だったの?


 そう尋ねたら、森の彼だと教えてくれた。

 こっそりと耳打ちして。


 どんなヒトだったのか尋ねたら、黒い髪に黒い瞳の背の高いヒトだったと教えてくれた。

 私と一緒だ!

 そんな風に言われたら、期待だって一気に高まる。

 早く続きをとねだる私に、しぃっと言いながら声を落とすように言われる。


 どんな小さな声だって、風にさらわれてしまうものだ。


 だから、森の人たちに聞こえてしまう事が無いように用心しなければならない。


 そう言っておばあちゃんは、香草を燃やしながら煙を焚いて呪文を唱えた。


『この場に吹く風はこの場に留まる風』


 そう唱え終わったら、おばあちゃんのお話の始まりだ。


 儀式がまた特別な感じがして、否が応でも期待感が高まる。わくわくした。


 いつもおばあちゃんにねだって聞いた。

 お祭りの晩に。


 蝋燭の明かりに灯されながら、お酒を少しだけ許される。

 そうやって、ちみちみ飲みながら聞く物語は特別だった。


 おばあちゃんが巫女の役をやり、私が神様の役をやった。

 そんな時のおばあちゃんは、とても楽しそうで可愛らしく見えた。


 何べんも繰り返した物語。


 これからも繰り返される物語。


 それを地主様とやる事になるなんて、人生何が起こるかわからないものだ。

 おばあちゃんはよくそう言っていた。本当にその通りだ。


 地主様が神様役をやり、大魔女の娘が巫女役だなんて。

 誰が想像しただろう。



 私と目線を合わせてしゃがんだままの地主様は、よく打ち合わせておこうと仰った。

 そこは素直に頷く。

 何としても成功させなければならない。

 意地なんか張っている場合ではないのだ。


 地主様はよく聞き取れない、発音の僅かな差にまで耳を澄ましていて、何べんも言うよう促がされる。

 だから何回も繰り返した。


 不備があってはいけない。


 急な割にはどうにかお互いサマになっていると思えた。

 だが地主様は慎重だ。

 本番直前まで、出来る限り練習する気のようだ。


 何回か繰り返した後に「気持ちがこもっている様に聞こえない」と文句をつけ出した。

 どうしろと言うのだろう。


 気持ち――。

 言葉に託す想い。


 演技力を私に求められても、と思う。

 その旨を伝えると、地主様はむっすりとしてしまった。

 気難しい。


 それに地主様こそ棒読みだ。

 そう言ってやったら、ますます機嫌を損ねたみたいだった。


『おまえが気持ちを込めて言わないから、こちらだってやりにくい』


 あくまで私のせいだと主張される。


 そんな事を言われたってどうにもならない。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:*:・。:*:・。・:*:・。・


 それでもお互いに譲歩しあって、お役目をまっとうしようと誓い合った。


 楽しみにしてくれている村の人のためにも、心を込めて行う。


 何より村の代表として、森に感謝を捧げる役には違いないのだから。



 気が付けば大きな手と手を取り合って、二人で祈りを捧げていた。


『この森の恵みに感謝いたします。どうか女神よ、お力をお貸し下さい』



 敬虔な気持ちで臨まなければ、感謝の気持ちもきっと伝わらない。


 言い争いはお祭りが終わってからでいい。




 太鼓の音が一際おおきく高く、ふたつ、鳴り響いた。


 全ての準備が滞りなく済んだのだと、それは告げているかのように聞こえる。


 お祭りが始まる。


 さあ、位置につこう。



『こりゃ同時進行しないとこんがらがるし、くどいわ。』


そんな理由で二人の目線交互でお送り致します~。


解りにくくなりませんように。


(↑ 努力します……。)


さあ、お祭りの始まりです。


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