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42 魔女と恋する村娘

 


 両方――。

 身も心も。

 あの人を手に入れたいの。


 お願い、わたしだけを見つめていて。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・


 その気持ちは尊いと思う。

 未だ魔女の娘は抱いた事の無い想いだ。


 私はゆっくりと頷いてから、答えた。


「それだけ真剣なら大丈夫。きっと伝わると思います」

「伝えたら彼もわたしのこと、そう思ってくれるの? こんな、何のとりえの無いわたしでも大丈夫って言えるの?」


 心配そうな、少し不満の感じられる言葉が返ってきた。


「あのね。魔女の魔法は人の心の自由を奪ったりしません。出来ないもの。例え出来たとしても、とても空しいわ」


 魔法で人の心をねじ伏せて、無理やり自分の思うようにする。

 それは暴力だ。

 おばあちゃんは常々そう言っていた。


「魔女が出来るのは想いを伝える勇気を与えるお手伝いをする事。あとは、ちょっぴりだけ、いつもよりも魅力的に見えるように手伝うだけ」


 人の心だけは自由にしようとは思ってはいけないよ。


 だけれども想いを伝える事は出来るはずだ。


 それだけで充分だ。


 風が吹きこんで、新しい流れがくる。


『それが大魔女の教えです。シュリ・ダイナーに祝福の風が吹き込みますように。あなたもまた、素晴らしいお花です』


 祈りの言葉を古語で捧げる。

「大魔女の、教え……。シュリ・ダイナーに祝福の、風を。あなたも、お花です。素晴らしい」

 その祈りの言葉を、ミルアがたどたどしくも訳して呟いてくれていた。


 もう一度、今度は皆にも解る言葉で祈る。

「それが大魔女の教えです。シュリ・ダイナーに祝福の風が吹き込みますように。あなたもまた、素晴らしいお花です」


 シュリは小さく頷いた。

 唇を噛み締めて、頬は真っ赤だった。


「わかったわ。でも、魅力的に見せるってどうやればいいの?」

「あのね、まずは月を写した水で髪を洗ってね、香油があるから。それで髪を艶やかにしたりね、後は」

「香油はどんなもの?」


 話の途中で、待ち切れないと言った様子のシュリが身を乗り出した。


「家にあるから分けてあげる。明日でもいいかな?」

「ありがとう!」


 ミルアを含めた四人の女の子が、私にも欲しいと騒ぎ出す。

 勢いに押されながら、慌てて頷いた。


「もちろん、みんなの分だけ用意するから、落ち着いて」

「ね、ね! 他には何があるの?」

「えっと、お肌が綺麗に滑らかになるように、薬草の雫を使います。仕上げはまた、香油で。髪用とは違うの」

「他には!?」

「シュリばっかり、ずるいんだから! 抜け駆け無しよ! ワタシにも教えてよ、エイメ」


 ミルアが私と皆の間に割って入る。


「あ~! もう、順番に! エイメが困るでしょう!」


「ミルアこそ、ずっるいんだ!」

「どこがよ。言ってみなさいよ」

「エイメに付きっ切りで腕輪の作り方習ってるじゃない。独り占めじゃない」

「なんですっ……!」


「ケンカするなら、もう教えないよ」


 ミルアの怒りの言葉を遮るように、きっぱりと宣言した。

 女の子たちは、はっと突かれた様な顔をそれぞれ見合せて、大人しくなった。

 それを見渡してから、順番におばあちゃん直伝の「魅力的な女性の作り方」を、話して聞かせていった。


 今度はみんな口を挟んだりせずに、真剣に聞き入ってくれた。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・


 そうこうするうちに、あっという間に日暮れを迎えていた。


 足元に伸びる影が長い。

 風が少しだけ冷たさを帯びて、肌寒さを感じる。

 それも女の子たちの熱気に押されて、あまり構う所では無かった。

 ふいに影が深まった気がした。


「お疲れ様でございます、地主様」


 違和感に振り返る前に、ミルアが立ちあがって挨拶をしていた。

 驚いて固まっていた皆もそれに倣う。


 皆、恐縮して畏まっていた。

 騒ぎはピタリとおさまっている。


 皆が地主様に注目している。

 今日もお勤めがあると仰っていたから、きっちりとした神殿の騎士様の格好だった。

 そんな彼はどこにも浮ついた所が無く、全くもって隙の無い厳しさを漂わせていた。

 そういう所がまた、彼はオトナなのだと思う。


 深い夜空を思わせる瞳が、まっすぐに私を見つめてくる。

 何となく、居たたまれない気持ちに襲われるから、逸らしてしまう。

 それでも彼は、私から視線を逸らす事は無かった。

 強い眼差しに引っ張られるように、何とかもう一度彼を見上げるのが常だ。


「迎えに来た」


 座り込んだままの私に、手が差し伸べられる。

 反射的に身を引いてしまった。

 地主様の動きが止まる。


「あの、えっと。その、今日も帰らねばなりませんか、地主様?」


 思い切って尋ねてみた。

 このまま魔女の家に泊まり込んで、色々と用意したいものが出来たから。

 でも、彼は無言のまま首を横に振ると、いつものように私の脇をすくい上げる。

 抱え上げられて、視界が高くなる。


 ミルア以外、瞳をまん丸にして驚いていた。

 当然だ。

 私だっていまだに驚く。

 ミルアが杖を地主様へと渡してくれる。

 手馴れたものだ。


 少しだけ離れた木に、馬が繋がれているのが見える。


 そちらへと、地主様が歩き出す手前、ミルアが声を張り上げた。

 皆もそれに続く。


「じゃあ、また明日ね! エイメ」

「今日はありがとう」

「さようなら、またね」

「明日も待っているからね」


「うん、ありがとう。また明日ね。さようなら」


 地主様に抱えられながら、皆に手を振った。

 視界の端で、やぐらの作業にあたっていた男の人達も、手を振ってくれているのが見えた。

 そちらにも手を振った。


(もうちょっと、皆と話していたかったなあ)


「……地主さ、」

「駄目だ」


 地主様の返事は、私が帰りたくないと、もう一度口にするよりも早かった。


『やぐらの広場に迎えに来た地主。』


すっごく浮いてるよ、レオナル。


そんな一場面が書きたかっただけです。


 ★ オマケ ★


は、拍手小話にてどうぞ~


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