4 魔女のほくろ
「返済の意思はあるのだな」
「はい」
目線を合わせるように、片膝を折った地主様の目つきは鋭かった。
私の発した言葉に嘘が無いかどうかを、見極めようとしておられるのかもしれない。
深く濃い藍色の双眸に、私の夜闇色はどう映るのだろうかと正直とても怖かった。
それでも精一杯、誠意を表すためにも見つめ返す。
引き寄せた杖を両手で握り締めた。
「……。」
「……。」
気まずい沈黙が続いた。
不意に彼の手が伸び、私のあごを持ち上げる。
思わず顔を背けようとしたが、許されなかった。
彼の骨ばった親指が唇をぐいとなぞる様に動き、口元で止まる。
左の下唇の少し、下。
そこに大きいという訳ではないが黒子がある。
彼の親指が何度かそこを行き来した。
汚れか何かと思われたのだろうか?
そう思い当たったら恥ずかしくて仕方が無かった。
もう放してほしくて、彼の手首にそっと手を重ねた。
「あの、」
「カサついている」
「はい」
それだけではない。
唇は乾ききってひび割れている。
少し大きく口を開くと裂けて血が滲んでしまう。
恥ずかしくなって視線を落とした。
目に入る腕も同じようにカサ付いている。少し痒い。
ここ一月ほど泣いてばかりいた。
だから体中の水分が足りなくなったのかもしれない。
身体を捻って腕をさすった。
私がいつも頼りにしている木を削った杖。
これも少し乾いた感触なのだが、それとはまた違った。
同じようでいて違うその手触りを、何となく不快に感じた。
地主様も同じ事を感じて不快なのかもしれない。
眉頭は寄ったままで、表情には苦々しいものが浮かんで見える。
「まずは身支度を整えろ。そして食事を取れ。用意させる」
「お気使いいただきまして、ありがとうございます。ですが恐れ多いので、お気持ちだけいただきます。身支度を整えたらすぐに帰ります」
頭を下げる。
上げたとたんに、飛び込んできたのは一層顰められた眉だった。
「オマエは働いて返済する意思があると言っただろう」
「はい」
「おまえは人の話を聞いていたのか?」
「はい。働いてお金を返さねばならないのですね。ですから、森に帰ります」
「だから、何故そうなる?」
何故、なぜ等と尋ね返されるのか。
驚きと戸惑いから目を見張る。
「魔女だからです。魔女は森の恩恵に預かっております。森の恵みが無ければ、私はお金を用意する事ができないと思います」
そう。
大魔女の娘の私ができる事は、傷薬を作ったり効能のある薬草のお茶を作ったり。
それを商って、お金を作って行くしか無いと思う。
「……その前に一人で大丈夫な訳がなかろう」
「今までだって一人で大丈夫でしたが?」
ちっと鋭く舌打ちされた。
本気で何が言いたいのか分からない。
これなら、狼たちの気持ちの方がまだ理解できる。
『つんでれもほどほどにをこんせぷとに。』
何、この仮タイトル。
二人とも、ぎこちなくて先行き不安です。
そして言葉が足りない。