23 魔女と地主とその身内
正門が見えた所で人影も見えた。
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「お帰りなさい!」
いち早く、リディアンナの大きな声に迎えられた。
「姪のリディアンナだ」
抱えていたカルヴィナに説明するように話し掛けると、小さく頷いたようだった。
「リディはおまえに会うのを楽しみに待っていた」
「え?」
カルヴィナが驚いたように声を上げ、俺を見上げた。
それは本当なのかと問いたげに見つめられる。
もしくは何故、自分に会いたいのかと尋ねたそうにも見えた。
どちらにせよ、少しだけ尻込みしているのが伝わる。
恥ずかしさもあるのかもしれないし、スレンや姉の様子から何かを予想しての事かもしれない。
「ああ。リディアンナは優しい子だ。きっとおまえとも話が合う」
「リディアンナさま」
安心させるように言ってやると、カルヴィナはその名を丁寧に呼ばわった。
その声は近くでなければ、聞こえる大きさでは無かった。
だが、リディには伝わったらしい。
手を大きく振って、嬉しそうに笑顔を見せている。
馬を近づけると腕組する姉から睨まれたが、無視してやり過ごし馬から下りた。
すぐにカルヴィナも下ろしてやる。
馬からは下ろしてやったが、地面には下ろしてやらない。
そのまま再び彼女を抱き上げる。
「お帰りなさいませ、レオナル様」
「ああ。世話を掛けたな。馬を頼む」
命じられるよりも早く、リヒャエルは既に馬の手綱を持っていた。
そのまま軽く一礼して見せ、馬屋へと歩き出した。
カルヴィナを抱え直し、駆け寄ってくるリディ達へと向った。
「一人で歩きます」
「杖が無いだろう」
小さく抵抗したカルヴィナに、すかさずそう返す。
そこでやっと、自分を支える杖がない事に気がついたらしい。
慌てて辺りを見渡し始めたが、もう遅い。
杖は渡し忘れたふりをして、他の荷と一緒のまま馬の背だ。
馬は既にリヒャエルに預け済みだ。
カルヴィナの困惑が伝わってくる。
「一人で……。」
言い掛けて、カルヴィナは口を噤んだ。
杖が無ければ、彼女は長くは立っていられないのだ。
いくら口で「歩く」等と訴えても、それは虚勢にしかならないだろう。
「動かれると危ないから、ちゃんと摑まっていろ」
そうたたみ掛ける。
このまま大人しく運ばれているしかないと諦めたのか、おずおずと肩に手を置かれた。
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「やあ、やっとのお姫様の到着だ。待ちくたびれたよ」
スレンがぼやく。
「おまえはまだ居たのか」
ぼやき返しながら、スレンに背を見せるようにする。
「じゃあ、レオナルが王子? というよりもいかにも攫ってきましたという風情は拭いきれないわね」
「お母様ったら」
嫌味を言いながらも、姉は安心した様子で笑みを浮べている。
「お帰りなさい、カルヴィナ」
「お帰りなさい、叔父様。はじめまして、カルヴィナ。リディアンナよ!」
「……ジルナ様。リディアンナ様。カルヴィナでございます」
両方から両手を開いて囲まれ、カルヴィナは恐縮しきった様子で頭を下げた。
その拍子にショールが滑り落ちてしまった。
カルヴィナの両手は俺の肩にあるのだから当然だ。
「カルヴィナ、その髪っ!?」
姉が悲鳴を上げた。そうして、その場でわっと泣き出した。
リディアンナは再び母の取り乱した様子に慌てて宥めだす。
「お母様、どうなさったの?」
「ジルナ様。ええと、あの。申しわけありません」
カルヴィナも姉の嘆きぶりに困惑している。
まさかここまで泣かれるとは思いもしなかったろう。
出来ていたら、切らずにいてくれただろうか。
だが、何もかも遅かった。
カルヴィナの髪は今や肩に届くか、届かないかといった辺りで揺れている。
「レオナル! 早くカルヴィナを部屋に案内しなさい! それから表に出なさい!」
予想通りの展開だ。心構えはしていた。
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姉に命じられた通りに、カルヴィナを客間へと落ち着けた。
「カルヴィナ、レオナルにはもう一発お見舞いしておきましょうか?」
「め、滅相もございません!」
尋ねるよりも早く拳を構えて見せた姉に、カルヴィナが首を横に振った。
いきり立つ姉をリディとカルヴィナが取り成し、俺もどうにか腰を落ち着ける事が許された。
ただし、カルヴィナからは遥かに離された、隅にいるようにと命じられたが。
大人しく従う。
「出て行っちゃ、嫌よ」
「……はい」
「すごく心配したんだから」
「申しわけありませんでした」
「カルヴィナは行動力があるのね。叔父様も驚いたと思うわ!」
「リディアンナ様」
「でも二度としないでね。危ないから」
「申しわけありません」
「約束よ」
かしましく、しきりに二人からどれだけ皆が心配したかと延々と告げられ、カルヴィナはただただ恐縮しきっている。
時折り、こちらを気使ってか見てくる。
「レオナルが悪い」
「レオナルの言葉が足りなかった」
「レオナルの言葉が余計だった」
「叔父様がイジワルだった」
「叔父様が説明不足だった」
「叔父様が勝手だった」
―――等など、俺に唇という鉾先が向う度にカルヴィナがそっとこちらを窺う。
それに加えて、この状況をどうしたものか答えをくれ、と懇願されているようにも見えた。
残念ながら、それは彼女らの気が済むまで解放ならないと答えるしかない。
実際声に出して尋ねられたワケではないから、答えようがないが。
恐らくどんな怒りの説教よりも堪える事だろう。
少なくとも俺はそう感じている。
目が合うたび黙ったまま頷いて見せると、カルヴィナも微かに頷くように見える。
その様子を眺めながら、カルヴィナの部屋を二階に移そうと考えていた。
杖も取上げたままにしておこうかとも考える。
「毎度の事ながら、女のハナシってのは長いねぇ」
「おまえも長居しすぎだろう、スレン」
ぼやくスレンには確かに同感だが、そこは黙っていた。
『前回の前書きの次回に~。は、どこ行った!?』
長くなったので、切り上げました。
今度こそ次回に~!
連続レオナル目線にぐったりきている作者です。
華やかさプリーズ。& カモーン。
お付き合いありがとうございます。
次 回 も レ オ ナ ル タ ー ン に な り そ う で す 。