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2 魔女の娘

魔女っこ目線


 

 戸口を塞いでしまうほどの大きな影が、今日はいつもより一つ多いようだ。


 一人はいつものオトコノヒト。

 おばあちゃんが亡くなってから、今日までずっと毎日訪れる人。


「大魔女の娘よ。食事はとりましたか?」


 いつも同じことを同じ調子で繰り返してくる。

 その間ももう一つの見慣れない大きな影は戸口に突っ立ったまま、動かないでいる。

 戸口から差し込む光を遮ってしまうから、室内が暗く、また肌寒く感じられた。

 彼は背に光を浴びたままなので、逆光でその表情は窺えないが何かしらあまりよい感情ではないのだけは伝わってくる。

 それが室内を冷やすのだ。


 コワイ。


 恐怖を覚えて目を見張っていると、いつもと違うその人は、ぐいと私の手首を引っ掴んで引き上げた。


「立て。大魔女の娘。泣いている暇があるくらいなら、足りない税金の分しっかり働け」


 そう早口に一息に告げると、私が返事をする間も待たずに担ぎ上げてしまった。


 そのまま、荷の様に馬に乗せられて連れて来られた。


 そうして放り込まれた部屋で一夜を明かした。

 いつの間にか眠り込んでしまっていたようだ。

 しかし、荒々しく開かれた扉の音に驚いて逃げ出そうとし、向こうから押し開けられた扉に跳ね飛ばされていた。


「痛……っ」


 うずくまって見上げた先に、大きく覆いかぶさるような人影に言葉が出てこなかった。


 久方ぶりに間近で見た。

 大地主様だ。


 とても身体が大きくてがっしりとしており、いつも上等と解る服を着ておられる。

 今日だって朝からとてもきっちりとした物を御召しになっている。

 下着一枚の私とは雲泥の差だ。

 おそるおそる、その濃紺の瞳を窺うように見上げる。

 そこにあるのはただ侮蔑の色。

 険しい表情をしておられる。


 髪とお揃いの薄茶色い、整えられたお髭のあるお顔。

 それは、とっても偉そうに見えて、私はただただ平伏すしかない。


 この方には気に入られていない。

 それどころかむしろ盛大に嫌われている。


「お、おばあちゃんに心配をかけるといけないので、お(いとま)します」


 転がった杖をこちらに寄せようとして、それから(とど)まった。

 言ってから思い出した。

 おばあちゃんはもういないのだった。どこにも。

 この世のドコにも。


 守りたい、ずっと守ってくれていたヒトはドコにももういない――。


 そう思い当たったら視界がぼやけた。


 おばあちゃん。


 この人、怖いよう……。


 せっかく、止まったと思っていた涙が溢れた。


 怖いのは何故だろう。


 この方はワタシの事を百万回だってすり潰せるであろう、財力をお持ちだ。

 それに抗う財など、生まれてからこの十七年間の間に一度だって持ち合わせた事の無いワタシ。

 誰に軍配が上がるかなんて、あえて言葉にするまでも無い。

 今だって庭先にたくさんの犬たちが見えた。

 皆、訓練されたであろう狩猟犬であった。

 どんな犬が狩に向いているかの知識があることを呪う。

 嫌でも現況が絶望的と知れるではないか。


 首輪は威嚇的なとんがりを首周りに持たせた造りであった。

 しかも投げられた肉らしき塊を、互いに引き千切りあうという過酷さだった。

 こんなのがうようよしている庭に出たら最後、どうなるかなんて考えたくも無い。


 だからと言って抗う術も無い。


 悔しい。屈辱以外の何物でもない。


(でも、もういいや。構うもんか)


 どうせ家も土地もこの人に取られるだろうから。

 そうしたらこの地を出て行くだけの話だ。

 悔しいけどそうするより他は無い。


 だからせめて泣き顔は晒すまいと顔を俯けた。


「このまま村に戻っても生きてはいけまい。持参金が無くては、嫁の貰い手だってなかろう」

「あの、お嫁さんに行けない?」

「そうだ」


 それもそうに違いない。

 だって。

 こんな大きな家にたてつき続けたのだ。

 しかもついにご不興を買ってこうやって連行されてしまった。

 噂はもうくまなく広がっているだろう。

 何せ小さな村だもの。

 誰だって厄介ごとは避けたいに決まっている。

 それどころか明日からは村八分とやら決定だろう。

 ヘタしたら野菜も売ってもらえないかもしれない。

 それくらいならまだ可愛い方だ。

 やはり、この土地を離れて遠くで生きていかねばあるまい。

 おばあちゃんのお墓を放置したくは無かったが、致し方あるまい。

 その事でまた新たな痛みを覚える。


 ・。:*:・。・。:*:・。・:*:・。:*:・。・:*:・。・


「あの、私はお嫁に行くのですか?」

「いつか行くだろう」

「いいえ」

「何故だ?」

「魔女ですから」


 何をおかしなことを言い出すのだろうかと首を捻った。

 そうだ。魔女は魔女らしく、森の中で一生を慎ましく過ごすのだ。

 一生着飾ることもなくひっそりと、ただ静寂に包まれて過ごす。

 一生を喪に服しているようだと言われても、それが通例だ。


 もう一度首を捻ったら、物凄く睨まれた。


 このヒトすごく煩わしそうで、私ごとき何か相手にするのもばからしいって態度に滲み出ていて、やるせなくなるから辛い。

 何もかも持っているヒトから、そういう目で見られるのは辛い。

 自分の惨めさが浮き彫りになるから。


 早く解放してくれないかな。


 それだけを願った。



『大魔女の娘』


今回のヒロインです。


ちょっと


どころか かなり 後ろ暗くて すみません!


まだ、ショックから立ち直れていないんだもの。


※ 魔女っこ アイテム(←?) 『杖』の描写追加しました。 


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