13 召使いと料理人
厨房に現れた少女に誰もが注目した。
ここの所ずっと噂の中心人物なのだから、誰でも驚くというものだろう。
今先程までも、今日は何をこさえ、召し上がっていただこうかという話で厨房はわいていた。
女たちは嬉しさに驚いた声を上げ、男どもは気恥ずかしさからか、しかめっ面になった。
「あの、お忙しいところ申しわけありません」
意を決したような表情ではっきりそう述べると、頭を下げる。
何故か私が結い上げたはずの髪が、崩れ掛けているのが気にかかった。
それよりも顔を上げた彼女の、縋るような瞳の方が訴えてくるものがある。
(うん。いるよね、勇気。知らない人ばかりの中に来て、声を掛けるのって)
少女は杖をついて立っていた。
その様子があまりに健気で胸が締め付けられた。
「いいえ、いいえ、構いませんよ、お嬢さま。どうかされましたか?」
「あの、地主様のお客様にお茶とお菓子の用意をするように言いつかりました」
「お客様?」
今日、来客の予定があったとは聞いていない。
と、言う事は……。
皆の表情が「ああ、あの方か。またふらりと勝手にやってきて地主様にケンカでもふっかけにきたのだろう」と物語る。
「失礼ですがその、地主様に命じられたのですか?」
「いいえ。そのお客様という、背の高い金の髪の方にです」
「……。」
一同、顔を見合わせた。
「わかりました、お嬢さま。私たちがすぐに参りますから、お任せください」
笑顔で請け負うと、彼女は遠慮がちにゆるゆると首を横に振った。
「ありがとうございます。でも、私にやらせていただけませんか?」
「……わかりました」
一瞬ためらってしまったため、返事が遅れた。
彼女の足では負担が大きかろうと思ったからだ。
だが、それもどうだろう。
彼女に対して失礼ではないか?
このコが役に立とうと色々と必死であるのを、私は知っている。
「役に立て」と地主様に言われ連れて来られたのだそうだが、具体的にはまだ何も示されていない。
せいぜい「きちんと食事を取れ」くらいのものだった。
だからこそ、自分の立ち位置があやふやで少女は途惑っている。
言葉も配慮もいまひとつ足らない主がまた、余計な事を言うものだからなお更だ。
素直に「側にいてくれるだけで充分だ」と伝えればいいものを……。
そんな想いは胸に秘めて、お茶とお菓子の仕度を整える。
お茶菓子程度の重さだが、そこは夕食用などを載せる頑丈なワゴンを選ぶ。
少しばかりかさ張るが、この方が彼女の体重も支え易かろうという配慮からだ。
彼女に茶葉の説明をしてから送り出した。
その背を見守る。
少しばかり、足の運びがうまく行かない時もあるようだ。
その度に体勢を立て直しながら進んでいるようだ。
彼女が廊下を曲がって姿が見えなくなるまで、そっと見送り続けた。
振り返ると、何食わぬ顔で野菜の下ごしらえをしていた男と目が合った。
すぐさまふり払うように視線を引き剥がされたが、私は彼の様子をじっと見つめた。
いつも私たちが「お嬢さまに何をお出ししようか?」と相談していると、「魔女には適当にそこらの野草で充分じゃないのか?」等と憎まれ口を叩いて、無視されている料理人だ。
彼女が自分の作った料理を、受け付けられないでいる事も知っている。
きっと色々と、気になって仕方が無いに違いない。
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しばらく皆で他愛ない話をして、お茶を飲んだ。
誰も彼女の事を口に出さないでいるが、気になって仕方が無いのだと思う。
何となく気もそぞろで、そわそわと落ち着かない。
「ああ、いけない! お嬢様のワゴンに代えのお湯を準備するのを忘れていたわ!」
いそいそと立ち上がって、ティーポットにお湯をたっぷりと準備した。
もちろん、方便である。
「まあ、たいへん。早くお届けしなくっちゃね」
「頼んだわよ」
そんなわざとらしくもありがたい言葉を背に受けて、ワゴンを押し進める。
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「おい」
主人の部屋まであと少し、といった所で声を掛けられた。
振り返ると料理人の彼だった。
「魔女の娘の忘れ物だ」
何だと問い返す前に、勢い良く杖を目の前に差し出されていた。
こいつも素直じゃないと思う。
「ああ、たいへん! でも私は両手が塞がっているから、一緒に持ってきてくれないかしら?」
「……仕方が無いな」
「でもよく気がつきましたねぇ! 私はまったく気がつきませんでしたよ」
「厨房にこんな棒っきれを置かれたら通行の邪魔だから、端に寄せていた」
「え?」
それって、何? アンタだけが解るようにしていたって事じゃない?
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そんな疑問を口にするよりも早く、バンっと乱暴に扉が開け放たれる音がした。
急いで向かう途中で、主の怒鳴り声が聞こえてくる。
「スレン、外に出ろ!」
「オマエはしばらく部屋から出るな。そして余計な事をするな」
ああ、案の定である。
男二人の諍いの渦中で、彼女は怯えているに違いない。
主の部屋の前に駆けつけ、頭を下げて控える。
「カラス娘に余計な事をさせるな。面倒が増えるばかりだ」
お茶の準備をした事が余計な事だとでも言うのだろうか。
納得いかなかったが、黙って頭を深く下げるしかない。
「いいのかな~? そんなこと言って」
「スレン、おまえはいい加減黙れ!」
「フルルが可哀相で黙ってなんていられないよ」
言い合いながら遠ざかる二人に、もうおよし下さいと叫んでしまいそうだった。
「失礼いたします! お嬢さま、大丈夫でございますか?」
開けっ放しの扉の向こうに飛び込む。
「……。」
椅子に身を縮めるようにして、少女は静かに涙を溢れさせていた。
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主と客人には近く天罰が下るに違いない。
そう確信した。
『召使いの優しいお姉さんと厨房の無愛想なお兄さん。』
時折り、このように二人(地主と魔女っこ)以外の
周りの人たちの目線でお送りします~。
あんまり、話を中断しない程度で補足したい所は彼ら任せ。
※ ↑ そんな予定は拍手小話の方でUPする事に。すみません。
お付き合いありがとうございます!