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12 地主と娘と客人と

 

「だってさ。ヒドイよねぇ、フルル?」


 やあ、まちくたびれたよ。


 咽喉が渇いたからお茶を早くね?


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*::・。・


 さっきから促がす、男の人の声もどこか遠い。


「は、い」


 それでも何とか返事をした。

 呼吸を整えて(つと)めて平静を装う。

 ここで震えでもしたら、もっとからかわれるだろう。

 私ではなく地主様の方が、だ。

 そうなったら彼はもっと気分を害するに違いない。


 扉のまん前で立ったまま動かない地主様の肩に手を掛けて、押しよけるようにすると、招き入れられた。

 立ったままの男の人二人に囲まれて見下ろされたまま、お茶を淹れる。

 いい香りがしたが、少し弱かった。

 せっかくの淹れたてのお茶も、ここに来るまでに冷めてしまったためだろう。


「ずいぶん遅かったんだね? まぁおかげ様なのか、ちょうど飲み頃だけどさ。でもちょっと飲み頃過ぎ?

 お茶は冷ましながら飲むのがいいんだよね」


 立ったままでごくごく飲み干した彼が、そう言いながらカップを差し出してきた。


「もうしわけあり、ありませんでした」

 謝りながら二杯目をついだ。

 手元が少しぶれた。

 立ったままで給仕をするから、右足にあまり体重を長く掛けていられないせいから、だと思う。

(不安定だから)

 手元が震える。


 それもまた飲み干される。


 地主様の分も淹れたのだが、彼は黙ってこちらを見下ろしたままで動かない。

 少しこぼれてしまったお茶がカップを濡らしてしまっていた。

 それを慎重に手布で拭いたが、地主様は手を伸ばされてこない。


「客人はしっかり御もてなしするのが礼儀だよ、フルル」

「……はい」


 小さな焼き菓子を小皿に取り分けて差し出した所で、がくんと右足が膝から折れた。

 大きく身体が後ろに崩れる。

 しまったと思ったがどうにも出来なかった。

 ただ目を閉じて、腰を打ち付ける瞬間に備える。


「おっと! フルルはまともに立ってもいられないんだね」

「あの、申しわけありません、ありがとうございます」


 後ろから抱き止められていた。

 慌てて謝って礼も述べた。

 早く解放されたくて、一息に言い放っていた。

 両手で客人を押しやったがビクともしない。

 むしろさり気なく、力を込められた事に言いようの無い恐れが、身体を駆け巡る。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*::・。・


「フルル、今日から僕の屋敷のコになるんだよ」

「嫌、放して!」


 ぞっとした。

 地主様に視線で縋った。


 そういう方向で話が決まっていたという事なのだろうか?


 あまり役に立たない、それどころか面倒な魔女の娘を遠ざけるための相談をしていたのか。


「スレン、いい加減にしろ。冗談が過ぎるぞ。放してやれ」


 地主様の押し殺したような低い声に、私の方が緊張する。

 スレンと呼ばれたこの客人は、何ひとつ堪えていないのは明らかだ。


「嫌だね。放したらこの子は転ぶ」

「聞こえないのか、スレン。放してやれ」


「フルルは可愛いなぁ。子供みたいな身体で、震えながら歩くんだもの。ずっとそのままでいなよね。フルルの良さが解らない誰かさんとは違って、僕が可愛がってあげるから」


「かわ、かわいがる?」


 犬みたいに?


 何の事なのか。

 気がつけば腰にがっしりとした腕が回され、頭のてっぺんに口付けを落とされていた。

 もがいたが逃れようが無い。


「うん、そう。うんと綺麗に着飾っておくとしよう。ちゃんと栄養のあるものを食べさせてあげるから、まるまると太るといい。そして夜は一緒に眠ろうか」


「……ぃ、や」


 嫌だ。

 怖い。

 気持ち悪い。


「いい加減にしろ、スレン!!」


 バタンッと扉が開け放たれていた。


 地主様が客人の横っ面を殴り飛ばしたからだ。

 当然の事ながら、抱えられていた私の身体ごと吹っ飛んだ。

 浮遊感に目を閉じかけたが、次の瞬間には驚きから目を見開いていた。


 地主様は客人の腕の緩んだ隙をついて、私の身体をもぎ取るようにして抱きかかえてくれていた。

 そしてすぐさま、椅子に腰掛けさせてくれたのだ。


 地主様は私に大きな背を向けて、怒りの声を客人に鋭くぶつける。


「スレン、外に出ろ」

「言われずともそうするよ。またね、フルル。ボクは諦めないからね」


(諦めない? 何を言っているの、この人)


 ざあっと体中の血が引き下がった感覚に、大きく身体が震え上がった。


「オマエはしばらく部屋から出るな。そして余計な事をするな」


 振り返らずにカラス風情がと吐き捨てられたのが、耳に届く。


 咄嗟に頭を下げて深く詫びる。


 視界の端で彼の表情が歪むのが見えた。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*::・。・


 普通だったら不興を買った召使いは、急いで退室するなりするのだろうが、いかんせん私の足では時間がかかる。


 だからか。

 彼のほうが出て行った。

 そういう事かもしれない。


 杖は――?


 杖は厨房に立て掛けたまま、忘れてきていた。


『お茶出し魔女っこ。』


だから何、この仮タイトル。


魔女っこ、色々とショックで思考も行動も麻痺しています。


いきなり、ド修羅場にますますショックを隠しきれません。


うん。


これからもどんどん、君はこういう場面に出くわすんだよ。


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