表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/130

117 騎士団長と幼女

 

「これより巫女王様のための、剣術大会を開催する!」


 神官長の宣言の後、巫女たちの歌声で場が清められた。


 まぶたを閉じ、なるべく厳かな気持ちで歌声に耳を澄ませる。


 空は高く澄み切っている。爽やかな空気だ。

 だが心はそうとは行かない。残念な事ながら。

 歌声が止み、歩み出た一人の少女の姿にその想いは強まる。

 皆そうだ。

 この場に臨む誰もが、身のうちの野心に手綱を取られぬよう、気を引き締めてかかっている。

 手綱を操るのは己で、引きずられる訳にはいかない。

 手放すとしたら戦いの、その時だけだ。

 強く拳を握り締める。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・


 開会の儀式を終え、順番が来るまでなるべく集中するために、控え室から出た。

 ただ目的もなく歩き周り、気が付けば会場を取り囲む回廊に出た。

 そこには年若い巫女や、幼い子供たちがそろって観戦していた。


 今日ばかりは少々羽目を外して、事の成り行きを見守ることが許されているのだ。


 ぶつかり合う剣の音におののきながらも、幼い子供らも好奇心いっぱいの眼差しを注いでいる。


 見るともなしに眺めている俺にも気がつかない様子で、皆熱心に繰り広げられる戦いを見守っている。


 年長の巫女達に付き添われている子らは確か、訓練の剣の音に怯えていたのでは無かったのだろうか?

 ふとそんな心配をしてしまう。


『もう、だいじょうぶ。正体がわかっているからへっちゃらよ』


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・


 突然の声に驚いて目をやれば、思いの外ずっと下の方だった。

 小さな背丈は俺の腰にも届かない。

 訝しむ俺に臆することもなく、幼女はにっこりと笑った。

 そして当たり前のように手をつないできた。


『あなたは勝つでしょう?』


 金色の髪が光に輝いていた。俺を真っ直ぐに見上げてくる緑の眼差しも、同じく。


『ザカリア・レオナル・ロウニア騎士団長殿。あなたは勝つわよね?』


 幼い容姿に見合わない大人びた物言いは、どこか肌がざわめく。その仕草にも。

 無邪気さを全く感じさせない笑みを浮かべて、幼女は俺の指先を持ち上げるようにして引いた。


 促されるままに視線を向けると、エイメ様の姿が目に飛び込んできた。


 遠目からでもはっきりと、存在を主張してくるその姿から目が離せない。

 巫女王様とその側使え、神官長に囲まれて観客席で祈るような眼差しを注いでいる。

 両手を胸元で祈るように組み、時折、俯く。

 まるで見ていられない、とでもいうように。

 その度に神官長に何やら囁かれ、持ち直しているようだった。


 恐らくは「これはあなた様のための戦いなのだから応援してやってください」だのと促しているのだろうと推測する。


 あなた様のために戦う姿を見守って欲しい。皆が皆、それを望んでいる。

 だから目をそらされたらキツイ。


 じいさんも元は騎士だった。

 だからだろう。

 戦う者たちの心を知っている。


 わぁああああ! 


 歓声と悲鳴が混じった声が上がる。


 見ると一人の剣士がその場に崩れ落ちていた。勝負はついたのだ。

 崩れ落ちた者にはいくばくかの同情を寄せると同時に、けして倣うまいと誓う。

 そうだ。けっして。

 決意を込めた眼差しで、勝利をおさめた者を見据えた。


 シオン――。


 やはりアイツは勝ち進んだ。


 優雅に剣を払うと、誇らしげに礼をとって膝折る。

 そんな奴の様子に、闘志が身のうちで暴れだす。


『ああ。俺は勝つ』

『そうしてちょうだい。是が非でも』


 うっすらと微笑んで見せると、幼女は視線を先へと送った。


 勝利した者が巫女王様とその候補嬢に礼を取る。打ち負かされた者も、どうにか同じく。

 埃っぽい風に目を細めてその様を眺めた。

 勝利をおさめた者が、次の勝負へと進む権利を得たと神官長から宣言されている。

 負けた者は巫女王様から直々に労いの言葉を掛けられて、勝負は一区切り付いていた。


 だが勝った者も負けた者も、視線を向ける先は同じくひとつ。


 熱心に視線を注ぐその先に、儚い少女の姿がある。


 儚く美しく、その何者にも犯しがたい雰囲気に皆が競って跪く。我先にと。

 その足元にひれ伏して、彼女の関心を乞うのだ。


 戦う前から男共は気がついている。


 この儚い存在に誰もが敵わない、と。

 真の勝利者の頂点に立つのは、この娘であると。


 そうだ。そんな事は解りきっている。

 これはそれを知らしめるための催しでもある。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・


 思わず強く拳を握り締めたが、幼女は何も言わなかった。


「ああ、レオナル様! お探ししましたよ」


 呼び掛けられ、そちらに注意を向けた。

 振り返ると、息を切らした少年神官が書類を片手に立っている。 


「思った以上に進行が早くて。もうじき出番になりますので、控え室で待機願います」

「ああ、わかった。今すぐ戻るから、この子を……。」


 頼む、という言葉は続かなかった。

 見やった傍らにその姿が無かったからだ。

 いない? いつの間に?

 息を呑む。


 辺りを見渡してみても、小さな姿はどこにも見えなかった。


「レオナル様?」

「いや、何でもない。すぐに戻ろう」


 しびれを切らしたような声に我にかえる。


「お願いします!」

「ああ」


 少年の後に続く。歩きながら、夢でも見ていたのかと頭を振った。

 手のひらにはまだ、あの小さくも温かかった感触がありありと残っている。


 思わず目の前に拳を持ち上げてみた。


 そっと指をゆるめるとそこには、オークの木の実がひとつ転がり出てきた。


『そこには誰もおりませんでした。』


狐につままれた感覚ってきっとこんな感じ。


こんな感じ?


幼い頃、祖母がきつねに化かされた事がる! と悔しがっていた話しを


今でもよく思い出します。


その正体をあばいてやろうと山に入ったのも、いい思い出です。


あれ? なんの話? 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ