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103 巫女王候補と世話係

 

『さあ、エイメ。怖がらなくたって大丈夫よ。ゆっくり、くつろいでちょうだい』


 優しい声音に凛とした響き。

 深く年月が刻まれているけれども、張りのある肌。

 薄い緑の瞳の宿す光は柔らかくって、でも鋭さもあった。

 真っ白い髪の毛はひとつにまとめてある。

 まとう衣装も真っ白だった。


 私がおばあちゃんだと思って抱きついた人は、巫女王様なのだという。


 おばあちゃんで無かったけど、本当にそっくりだと思った。


 だって、まとう気配までもが酷似しているのだ。

 それは森の中にある木々に包み込まれるかのような、あの静けさをたたえたあの空気だ。

 言葉ではとても言い表せない。

 あの森の静けさを醸し出せる人が、おばあちゃん以外にいたという事も驚きだ。

 私が間違うくらいなのだから、ほとんど一緒だと思う。

 そう私が告げると、巫女王様とおじいさんは顔を見合わせた。


「似ておるの。……の、娘の頃に」

「当然でしょうねえ。でも、改めて目にすると何やら感慨深いものね」


 おばあちゃんの娘の頃に似ている? 私が?

 二人ともおばあちゃんを知っているのだ!

 驚きと期待を込めて、二人を見つめた。


「おばあちゃんを知っているのですか?」

「知っているも何も……。」


 何故か言い淀む、その横顔をじっと見つめていると、頭を撫でられた。


「まあ、その話しはおいおいとな。ところでなあ、どうじゃった? あやつらの中で骨のありそうな輩はおったかの?」

「骨?」


 何を訊かれているのか解らずに、ただその言葉を真似て繰り返した。


「それよりも何、あの態度の悪さ。あれでも団員の中でも出世頭というから驚くよ。確かに能力値は高いかもしれないけど、あれじゃあねえ? とてもじゃないけど乙女に付き従う騎士には相応しくないよ」


 そんな私の様子にため息をつきながら、スレン様がぼやく。


「悪かった、悪かった。このじじいの躾がなっとらんかったから。まあ、許してやってくれまいか。あいつらはまだまだ若い」


 おじいさんは神官長さまと呼ばれていた。

 きっと、この方も偉い方なのだと思う。

 でも、威張った所が無いから、とっても親しみやすい。


「スレン様?」


「さあ、フルル。お着替えしようねえ」


 いつかのようにいたずらっぽく笑いかけられて、少しだけ安心した。


 パンパン! と大げさに両手を打ち鳴らすと、給仕をしてくれていた女の子が二人、前へと歩み出た。


 巫女王様が手招きすると、嬉しそうに頷きながら笑う。


「エイメ。この子達は私が信頼して色々と任せている、二人です。この子達からも大切なことを学んでちょうだいね。頼みますよ、二人とも」


「お任せ下さいませ、巫女王様」


 二人ともそれは優雅に礼をとって見せた。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・


 しずしずと歩み寄ってきた一人は、おしとやかな感じの女性だった。

 表情も落ち着いていて、私よりも少し年上のようだと思う。

 伏し目がちに見えるほど長いまつ毛の下の瞳は、青空そのまんまで美しい。

 彼女は、長い金髪をきっちりとまとめあげている。

 後れ毛はくるくると項で遊んで、光をはらんでいるようで見とれた。


「よろしくお願い致します。私はキーラと申します。こちらは」


 目線で促されると、控えていた女の子が歩み出た。


「フィオナです。よろしくお願いします」


 もう一人の子はやや赤みがかった金色の髪で、明るい雰囲気が伝わってくる。

 しっかりとこちらを見て、好奇心いっぱいの瞳を輝かせている。

 彼女のまた、綺麗な青空そのままの色合いを瞳をしていた。

 何の曇りもない。

 あんまりにも綺麗で、思わず恥ずかしくなって、瞳を伏せてしまった。


「よ、よろしくお願いします」


 私がおずおずと頭を下げたのを見届けると、スレン様は言った。


「この二人にお任せするから、僕らは退散するとしよう。では夕刻にね」


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・


 この二人から、大事なことを学ぶのだ。

 それはきっとこの神殿に仕える上での、しきたりや規則に違いない。

 そう思ったから、姿勢を正して身構えた。


「さてっと。まずは交流会よね。お茶、ワタシにもちょうだい」

「言えてる。はい。お代わりいるよね。お湯を足しちゃおう」

「お茶の葉も足しちゃえ。やったね、高級! いただきまーす」


 ……ええっと?


「シオンったら。何をいばちゃってんのかしらって思ったわ、私!」

「レメアーノ殿はさすがよねえ。嫌味のない所がまた、女泣かせよねぇ」

「ギル君も良かったわ。将来に期待出来るわね」

「やだ――! ギル君がかわいそう!」

「ちょっと、それどういう意味よ」


 きゃあきゃあとはやし立てる笑い声の中、どう反応したらいいのか分らないでいた。動けない。

 そんな私に構うことなく、彼女たちのおしゃべりは止まらなかった。


「ねえ、あなたはどう思った?」


 二人の青い眼差しが、遠慮なくぶつかってくる。

 その楽しそうな輝きに怯みながら、どうにか見返した。


「どう?」

「シオンの事。どう思った? 無礼だったじゃない。嫌な感じよね。高慢っていうの?」

「いえ、あの、そんな。でも正直、怖かったです」

「そうよね。でもあの人、ただの威張りたがり屋のだけだから。たいしたことないわよ」


 大人びた彼女は、手を追い払うようにしながら、そう言ってのける。


「全く、シオン副団長ときたら! 神官長さまに叱られていたわね。いい気味」


 ずい分と可愛らしい容姿の彼女の口調も、同じように容赦がなかった。


「そうそう! それよりも、レオナル様はどう? どう思った?」


 その名前にどきりとする。

 二人が身を乗り出して、私の様子を伺っている。

 どうにか微笑んで、曖昧に首を傾げるしかなかった。


「レオナル様……。ああ、最後にスレン様に質問していた方よ。茶色い髪の人ね。威厳があったでしょう? 彼、あなたにずっと礼をとっていたんだから!」

「……そんな、ことを私に?」


 搾り出すように尋ねてから、頭を振った。

 彼は私を睨みつけていた。

 あれは命じられたからこその、行動だ。

 怖かった。たまらなく、怖かった。

 また再び彼の前に立つなんて、予想もしていなかった。

 地主様が「初めて」目にした大魔女の娘を目にして、何を感じたか何て想像するのも恐ろしかった。


 ――また、みっともないって思われちゃったかな。


 そんな想いに囚われていても始まらない。

 必死で考えを追い払うべく、彼女たちに向き合った。


「どう、素敵な方だとは思わなかった?」

「あの、あんまり皆さんをよく見ておりませんでした」

「なあんだ。残念ね。団長殿はさすが迫力があったのよ」


 うっとりと頬を染めて地主様の事を話す、初対面の女の子達を前にして、どうしてか胸が痛んだ。


「本当に。シオンも見習うがいいわ」

「そうよそうよ」


 そんな調子で次々と言われて、私は口をはさむことが出来ないまま、黙って聞いていた。


「どうかした?」


 そう話しの流れのついでのように聞かれた。

 答えるよりも早く、その子は頷いた。


「ああ。さっきも言ったけど、なかなか覚えられないものよね、人の名前って。ワタシの名前はキーラよ。そっちはフィオナ。改めてよろしくね」

「よろしくお願いします。キーラ様にフィオナ様」

「様なんかいらないわ。あなたは何て呼んだらいい?」

「エイメ、です」

「エイメ……。どこかで聞いたなあ。エイメ・エイメ・エイメ? 古語で娘の意味よね、確か?」

「はい、そうです」

「わかったわ。よろしくね、エイメ」


 さらりと確認するとそのまま落ち着いてしまった。

 何も詮索されない事に驚く。


「ん? なあに、どうかした?」


 キーラがさばけた調子で気を遣ってくれる。


「あの、訊いてもいいですか?」

「うん、はい。なあに? 何でも訊いて」

「いいよ~!」


「あの……。二人とも皆さんの事が好きで、その中でも特にシオン様がお好きなのね?」


 キーラはお茶を吹き出して、フィオナはお菓子にむせてしまった。

 落ち着くまで、しばらくかかった。


 それから二人とも、何も答えてくれなかった。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・


 茶器を片すと、キーラは呟いた。


「いやはや。エイメには参った。さすが巫女王候補」


「さてと。じゃあ、そろそろお披露目会の準備に取り掛かろうか」


 フィオナが私の手を取ると、部屋の奥の衣装棚と思しき前へと、促された。


「ワタシ達は武器も持てない。頑丈な鎧を身に纏う事も、身を守る盾を持つことすらも出来ない」


「でもね」


「装う事は出来るの」


「だから訊いたの、私たち。あなたが誰を好み、想って装いたいか。それを参考にしてエイメを綺麗にしてやろうと思っていたから」


「色んな騎士の人がいるけど、中でも副団長殿にはイラっとさせられるのよ。威張るから。だからね、あの男の鼻をあかしてやりましょうよ。それだけじゃなくて、他の騎士達を屈服させてしまいましょうよ」


 そんなたいそれた事が出来るのだろうか。


 はなはだ疑問だ。


 そもそも何故、そんな必要があるというのだろうか?


「ねえ、あなたはどこのお嬢様だったの?」


 ふいの質問に、大きく瞬きすることしか出来なかった。

 耳を疑う。


「それとも」


 フィオナは声をひそめて続ける。


「やっぱり、どこかの高貴な方の隠し子だって言うのが本当?」

「え! やっぱり、お姫様なの?」


 どちらも違う。とんでもない。



「ふぅん。エイメがそう言うのなら、それでいいけど。でもね。これから先はあなたはお姫様であるべきよ。そう思わない? フィオナも」

「思うわ。すごく思う!」


「ええっと?」


「エイメだけじゃなくて私たちの誰もが、そうよね」

「そうそう。この国中の女の子は皆そうよ」


 二人は口を挟むスキを与えてくれない。

 仲良しの小鳥たちがさえずり交わしているかのような微笑ましさと、意味のわからなさに困惑する。


「ねえ、エイメ。あなたは誰を従えてやりたい?」


 そう告げるとフィオナは、にっこりと笑う。


 窓辺から陽の光の差し込む。

 それが女神様の像にも当たる。


 光の加減のせいなのか、女神様からもほほ笑みかけられているかのように見えた。



『ガールズ★トーク』


に、乗っかれない魔女っこ。


そこは笑うところだから!


キーラ。文句なしのべっぴんなのに、中味はややオトコマエ。


フィオナ。文句なしの美少女なのに、中味はやや腹黒。


二人とも、優秀で素直なので巫女王様からも可愛がられています。


その分、やっかみもスゴイけどな! 


そんな二人です。


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