1 大地主
二人の物語の、はじまり、はじまり~
バタンっ!!
という荒々しい音で目が覚めた。
何の音か。
思い当たるよりも早く、身体が動いていた。
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扉を押し開いたらそのまま押しのけられたらしい、彼女が床に伏していた。
カランと乾いた音を立てて杖が転がった。
もう随分前から大魔女の娘が、杖無しでは歩けなくなっていたのは知っていた。
森の中で逃げ惑った挙句、崖から滑り落ちたのだと―――。
娘の右足は足首からふくらはぎまでに掛けて、大きく引き攣れていた。
それがまた、投げ出された足の白さを際立たせるのだ。
目のやり場にいささか困って目線を上げる。
「……。」
それはそれで、どうかという状況だった。
けしからん造りの部屋着の肩紐は外れ、浮き出た鎖骨にかろうじて引っかかっているという状態だった。
なぜか普段は貧弱だと評して物笑いの種にしていたはずの、少女の胸元から目が外せなかった。
確かに貧しいのは間違いが無い。
だがそれは貧しいのではなく、未だ幼いためなのだというのが正しい気がした。
きっとこれから膨らみ行く命の輝きを秘めており、そこは眩いばかりだった。
目も眩むとは正にこのこと。
少女は無防備すぎるほどに無防備で、まるで男の視線に晒される事に何の疑問も抱いていない様子なのは明らかだった。
きっと男が女の何に目が行くのか等とは、考えも及ばないのだろう。
(誘っているのか)
そう都合良く解釈したくなるほどのあどけなさだった。
踏みにじりたくなるのは男の性だろう。
わからないままにその不穏な眼差しに、隠すべきところも隠さないまま彼女は身をすくめた。
首をすくめるから鎖骨が浮立ち、余計に胸元が強調されている。
この少女は成長過程にある、少女なのか?
本当に?
今まで相手にしてきたどんな女よりも漂う色香に、戸惑いが隠せなかった。
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成長に回せるほど栄養が足りていないのだろうというのは、一目瞭然だった。
元よりか細すぎる手足に、頼りない胴回り。
眼下は落ち込み、頬だってこけ削がれている。
それがこのひと月の間での、彼女の心労具合を指し示す物差しだ。
この少女の祖母こと森の魔女が亡くなったという訃報は届いていた。
残された孫娘が泣き暮らしているという話とともにだ。
ただ泣きじゃくるだけで、食事はおろかろくに睡眠も取らずただ泣き暮らしているという。
そのうち溶けてしまうのは時間の問題だと。
嫌に大仰ぶって伝えてくる側仕え達に腹が立った。
あまりの鬱陶しさに根負けしたのと、売り言葉と買い言葉の果てに、件の家を訪れるはめになったというワケだ。
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そして知った。
何も大げさではない話だったと。
ただ寝台に身体を預けたまま、涙を流し続けている姿はただの精巧な人形が涙を流しているようにしか見えなかった。
従者が慣れた足取りで少女へと歩み寄る。
ただその後に黙って続いた。
『大地主』
今回のヒーローです。
よろしくお願いします。
短めでさくさく、日記(代わり?)のように、行きたいと思います!
※ 魔女っこの 足の描写を付け足しました。