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蜜色の残光を  作者: melpwill
本編
3/6

3. 双碧の瞳


「――終わり、ですか」


巫女の唇から、絶望が吐息となって零れ落ちた。

目の前で収束する闇は、もはや人の身で抗える規模を超えている。濡羽色の瞳が、死を宣告する死神の鎌のように冷たく煌めいた。

だが、その破壊の奔流が巫女を飲み込もうとした瞬間。

天空から、一筋の烈火のごとき閃光が降り注いだ。


「遅くなってすまない! よく持ちこたえてくれた!」

轟音と共に、巫女の目前で闇が爆ぜる。

噴き上がる煙を切り裂き、そこに現れたのは、太陽の欠片を編み込んだような黄金色の髪をなびかせる青年だった。

碧瑠璃の瞳は、燃え盛る闇を射抜くように鋭く、その手に握られた大剣は聖なる光を纏っている。白銀の甲冑が、飛び散る闇の残滓を跳ね返した。


「……あ、なたは……っ」


「一人で戦わせてごめんなさい。でも、もう大丈夫よ」

青年の背後から、風を巻いてもう一つの影が舞い降りる。

銀白色の髪をなびかせ、白黒の装束に金の意匠が施された、凛々しくも可憐な少女。

その秘色の瞳には、深く澄んだ水底のように静謐な理知が宿っていた。


彼女の手元、意思を持つかのようにひとりでに捲れ上がる羊皮紙の束から、無数の文字が解き放たれ、空中に緻密な幾何学模様を編み上げていく。


「加勢するわ。……私の瞳が捉える限り、これ以上の蹂躙は許さない!」

言葉に応じるように秘色の瞳が輝きを増すと、巫女を護る薄く繊細な光を包み込むべく、琥珀色の層が重なり合った。

重なり合う光は強固な障壁となって亀裂を瞬時に塞ぎ、荒れ狂う瘴気を力強く押し返す。

街を包む空気は、清冽な理によって塗り替えられた。


「ふん……。またぞろ、厄介な羽虫が湧いて出たか」

濡羽色の瞳に、初めて明確な不快の色が混じる。

余裕を崩さなかった彼の表情が、二人の新参者の圧倒的な存在感に、わずかに歪んだ。


「羽虫で結構。だが、この街は君が思うほど安くはないぞ」

碧瑠璃の英雄が剣を正中に構える。

その傍らで、秘色の魔女見習いは猛烈な勢いで逆巻く頁に指先を添える。


「顔を上げなさい。あなたの祈りは、私たちが形にしてみせるから」

絶望の淵に立たされていた巫女の蜜色の瞳に、再び熱い光が宿る。

三人の視線が交差した瞬間、反撃の鐘が鳴り響いた。

闇に閉ざされかけていた街に、今、二彩の希望が舞い降り、戦局は拮抗へと塗り替えられていく。


しかし、怪物は口元を歪め、その濡羽色の瞳をさらに深く沈ませた。

「……いいだろう。ならば、その希望ごと握り潰してやる」

怪物の影が、夜そのものを引き摺り下ろすように拡大していく。


それに応えるように、英雄の剣は黄金の輝きを増し、魔女見習いが展開する幾何学模様が、さらに複雑な光を放ち始めた。

巫女は震える手で再び錫杖を握り直し、最後にして最大の祈りを捧げるべく、意識を集中させる。

三つの異なる色彩が一点へと収束し、押し寄せる闇の奔流を真っ向から迎え撃った。


空間が眩い白へと塗り潰され、世界から音が消えた。

英雄と魔女見習い


かつてこの地を訪れた際に巫女と深い親交を結んでおり、彼女の窮地に際して再び駆けつけた。


英雄


過去に巨悪を滅ぼした功績で知られる青年。

世に謳われる名声に甘んじることなく、不屈の意志を貫く。

彼が振るう大剣は、運命の呪縛さえも切り裂く。……が、お人好しゆえに厄介事に首を突っ込む悪癖があり、その度に隣の少女から飛んでくる容赦ない小言には、流石の英雄も形無しである。


魔女見習い


英雄の旅に長年付き従う少女。

既に並の術者を凌駕する実力を持つが、何らかの矜持からか頑なに「見習い」を自称し続けている。

意思に呼応して捲れる羊皮紙から幾何学模様を展開し、世界の理を書き換える。

その高い理知は、もっぱら英雄の後を追いかけることと、彼が引き起こすドタバタな旅路を差配することに費やされている。

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